婚約破棄?結構ですが、その前に殿下の隣を片付けても?

夏乃みのり

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「……というわけで、セバスチャン。今日のお茶会のメインテーマは『慈愛』よ。慈愛。どこからどう見ても、私がミーナ様を可愛がっているようにしか見えない演出をお願いね」


私は公爵邸の広大な庭園に設えられたガゼボで、優雅に扇子を畳みました。


目の前のテーブルには、最高級の茶葉の香りと、色とりどりのマカロンが並んでいます。


「承知いたしました。では、衛兵たちには『感動のあまり涙を流す準備』をさせておきましょうか」


「そこまでしなくていいわよ。不自然すぎるでしょう。……来たわね」


庭園の向こうから、戸惑ったようなエドワード様と、その腕にしがみついて怯えた振りをしているミーナ様が歩いてくるのが見えました。


私は椅子から立ち上がり、これ以上ないほど輝かしい笑顔で彼らを迎えました。


「エドワード様、ミーナ様! ようこそお越しくださいましたわ。昨日の今日でお疲れでしょうに、私の急なお誘いに応じてくださって感謝いたしますわ」


「あ、ああ。カタリナ。君が本当に『仲直りのお茶会』を開くなんて、正直驚いたよ。ミーナも、最初は怖がっていたけれど……」


「そうなんですぅ……カタリナ様に呼び出されるなんて、私、何をされるのかと……ひっ!」


ミーナ様は私の顔を見た瞬間、大げさに肩を震わせました。


以前の私なら、この「か弱き乙女」の演技にブチギレて、「その汚らしい手を殿下から離しなさい!」と怒鳴っていたことでしょう。


しかし、今の私はレベルアップしておりますの。


「まあ、ミーナ様! そんなに震えて……さては、風邪かしら? いけませんわ、この時期の風は体に障りますものね」


私は一気に距離を詰めると、ミーナ様の両手をガシッと、それはもう力強く握りしめました。


「ひ、ひいっ!? ち、近いですわ!」


「遠慮なさらないで。ミーナ様は、エドワード様が大切になさっている方。つまり、私にとっても守るべき『宝物』のようなものですもの。ねえ、セバスチャン?」


「左様でございます。お嬢様は昨晩、『どうすればミーナ様を効率よく……失礼、安全に保護できるか』で頭を悩ませていらっしゃいました」


「セバスチャン、言葉にトゲがあるわよ。さあ、ミーナ様、座って。このマカロン、とっても美味しいの。特にこの赤いのは、ボルジア産の特別なスパイスを使っているんですって。貴女なら、懐かしい味がするんじゃないかしら?」


私はミーナ様を半ば強引に椅子に座らせ、顔を至近距離で覗き込みました。


ボルジア産、という言葉を聞いた瞬間、彼女の瞳がわずかに見開かれたのを私は見逃しません。


「……ぼ、ボルジア? 何のことでしょうかぁ。私はしがない男爵令嬢で、外国のことなんて……」


「あら、そうでしたわね。おーっほっほ! 失礼いたしましたわ。でも、貴女のその立ち居振る舞い、とても洗練されていて、まるで専門の『教育』を受けたかのようですもの。感心しちゃいますわ」


私は王子の隣に座ると、今度はエドワード様に熱い視線を送りました。


「エドワード様。私、決めましたの。私たちが幸せなハッピーエンドを迎えるためには、まず、殿下の周りの『不純物』を綺麗に掃除しなければならないと」


「ふ、不純物? カタリナ、言葉が物騒だよ」


「あら、不適切な人間関係という意味ですわよ? 殿下は心がお優しいから、どこの誰とも知れない……いえ、身元の怪しい人間でも信じてしまわれるでしょう? 私がそれを防いで差し上げますわ」


私はテーブルの下で、セバスチャンから受け取った「あるもの」を隠し持っていました。


それは、昨日のハンカチの刺繍パターンを完璧に解析し、逆の意味を込めて作り直した特製の「偽装暗号ハンカチ」です。


「ミーナ様。これ、昨日のお礼にお返ししますわ。洗濯したら、少し『柄』が変わってしまったようですけれど……気にしないでくださいな」


私は、そのハンカチをミーナ様の前に差し出しました。


彼女がそれを手に取り、刺繍を一目見た瞬間――彼女の顔から、みるみるうちに血の気が引いていくのが分かりました。


そこに刻んだ暗号の意味はこうです。
『貴女の正体はバレている。今夜、すべての連絡路を遮断する』


「……っ、これ……!?」


「お気に召したかしら? 私、これからはミーナ様を徹底的にプロデュースさせていただきますわ。王宮での振る舞い、手紙の書き方、そして……『余計な場所へ行かない方法』まで」


「カタリナ、君は本当に変わったね。こんなにミーナのことを考えてくれるなんて……僕、感動したよ!」


エドワード様が、脳天気にパチパチと拍手をしています。


(この王子、本当にチョロすぎますわ……。でも、そこが利用しがいがあるというものですわね)


「当然ですわ、エドワード様。だって、私たちが結婚した後に、隣国からスパイ容疑で国を滅ぼされたりしたら、私の贅沢三昧な隠居生活が台無しになってしまいますもの」


「……え? 今、何て言った?」


「いいえ、殿下と共に素晴らしい王国を築きたいと言いましたのよ。……おーっほっほっほ!」


ミーナ様は、ガタガタと震える手でハンカチを握りしめ、私を殺気を含んだ瞳で睨みつけました。


いいわ、その目。ようやく本性を出してきたかしら。


「さあ、ミーナ様。お茶が冷めてしまいますわ。たっぷり召し上がって。これから貴女には、二十四時間体制の『カタリナ流・おもてなし』が待っているんですもの。体力をつけておかないと、持ちませんわよ?」


私は優雅に紅茶を啜りながら、心の中で「作戦名:ハッピーエンド」の進行表にチェックを入れました。


第1段階、敵の通信手段の攪乱と、精神的圧迫。……完了ですわ。


次は、殿下の脳みそにこびりついた「聖女信仰」という名のカビを、現実という名の洗剤でゴシゴシと洗い流して差し上げましょう。
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