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建国記念舞踏会、当日。
王宮の鏡の間は、着飾った貴族たちの熱気と、何千本ものキャンドルの光で溢れかえっておりました。
私は、例の「小国の予算一回分」が詰め込まれた夜空色のドレスを纏い、馬車のステップを慎重に降りました。
一歩踏み出すたびに、足首に心地よい(?)数キログラムの負荷がかかります。これ、ダンスを踊り切る頃には、私のふくらはぎは鋼鉄のように鍛えられているに違いありませんわ。
「……お嬢様。お顔が少々、戦場に赴く将軍のようになっております。もう少し、慈愛に満ちた微笑みを」
エスコートのために控えていたセバスチャンが、小声で指摘してきました。
「あら、失礼。重すぎて、表情筋にまで魔力が回らないのよ。……それで、殿下は?」
「あちらで、今にも胃薬を飲み干さんばかりの顔で待機しております」
視線の先には、純白の礼装に身を包んだエドワード様が立っていました。
彼は私を一目見るなり、驚きで言葉を失ったようです。
「……カタリナ。君、今日のドレスは……その、いつにも増して、威圧感……いや、神々しいね。立っているだけで周囲の空気が重く感じるよ」
「ええ、物理的に重いですからね。……さあ、殿下。入場の前に、こちらを」
私は、重い扇子の隙間に隠し持っていた一通の小さな書面を、彼に差し出しました。
「……これは?」
「ミーナ様が隣国の工作員へ宛てた、最終的な『暗殺リスト』ですわ。一番上に誰の名前があるか、ご覧になって?」
エドワード様が書面に目を落とした瞬間、その指先が微かに震えました。
「……僕の名前だ。そして、君と……国王陛下の名前も」
「ええ。彼女が貴方に囁いた『愛の言葉』の正体は、これですわ。……殿下。私は貴方に『私を信じて』なんて、安っぽいことは言いませんわ」
私は一歩近づき、彼のネクタイの歪みを、グイと力強く直して差し上げました。
「信じるか信じないかは、貴方の勝手。でも、目の前の『事実』から目を逸らすことだけは、私が許しませんの」
「……事実。そうだね。君はいつだって、僕に真実だけを突きつけてくれた」
エドワード様は、ふっと自嘲気味に笑い、それから深く息を吐きました。
「カタリナ。僕は、君が怖いよ。でも、君がいない未来は、もっと恐ろしい。……僕を、経営してくれ。この国ごと、君の望むように」
「……あら。合格点のセリフですわね。おーっほっほっほ!」
私は、彼の差し出した腕に、重厚な金属音(衣擦れですわよ?)を響かせながら手を添えました。
「いいですこと、殿下。今夜、ミーナ様は貴方に『婚約破棄』を迫るはずです。貴方はそれを、最高の笑顔で受け入れる振りをなさい。……牙を剥くのは、彼女が勝利を確信したその瞬間ですわ」
「受け入れる振りを……? 演技ができるかな、僕に」
「できないとは言わせませんわ。貴方の後ろには、三十名の精鋭騎士と、最新武装を施したこの私が控えているのですから。……さあ、行きましょう」
大広間の重厚な扉が、左右にゆっくりと開かれました。
「カタリナ・フォン・公爵令嬢、ならびにエドワード・ルナ・ベルフェルド第一王子殿下、ご入場!」
廷臣の声が響き渡り、何百という視線が私たちに注がれました。
その群衆の最前列で、勝ち誇ったような笑みを浮かべ、薄桃色のドレスを纏ったミーナ様がこちらを見つめているのを、私は見逃しませんでした。
(……さあ、スパイさん。貴女の描いたシナリオを、私が真っ赤なペンで添削して差し上げますわよ)
私は、扇子を優雅に広げ、会場全体を威圧するような最高の微笑みを浮かべました。
今夜、歴史が変わりますの。……もちろん、私の思い通りに!
王宮の鏡の間は、着飾った貴族たちの熱気と、何千本ものキャンドルの光で溢れかえっておりました。
私は、例の「小国の予算一回分」が詰め込まれた夜空色のドレスを纏い、馬車のステップを慎重に降りました。
一歩踏み出すたびに、足首に心地よい(?)数キログラムの負荷がかかります。これ、ダンスを踊り切る頃には、私のふくらはぎは鋼鉄のように鍛えられているに違いありませんわ。
「……お嬢様。お顔が少々、戦場に赴く将軍のようになっております。もう少し、慈愛に満ちた微笑みを」
エスコートのために控えていたセバスチャンが、小声で指摘してきました。
「あら、失礼。重すぎて、表情筋にまで魔力が回らないのよ。……それで、殿下は?」
「あちらで、今にも胃薬を飲み干さんばかりの顔で待機しております」
視線の先には、純白の礼装に身を包んだエドワード様が立っていました。
彼は私を一目見るなり、驚きで言葉を失ったようです。
「……カタリナ。君、今日のドレスは……その、いつにも増して、威圧感……いや、神々しいね。立っているだけで周囲の空気が重く感じるよ」
「ええ、物理的に重いですからね。……さあ、殿下。入場の前に、こちらを」
私は、重い扇子の隙間に隠し持っていた一通の小さな書面を、彼に差し出しました。
「……これは?」
「ミーナ様が隣国の工作員へ宛てた、最終的な『暗殺リスト』ですわ。一番上に誰の名前があるか、ご覧になって?」
エドワード様が書面に目を落とした瞬間、その指先が微かに震えました。
「……僕の名前だ。そして、君と……国王陛下の名前も」
「ええ。彼女が貴方に囁いた『愛の言葉』の正体は、これですわ。……殿下。私は貴方に『私を信じて』なんて、安っぽいことは言いませんわ」
私は一歩近づき、彼のネクタイの歪みを、グイと力強く直して差し上げました。
「信じるか信じないかは、貴方の勝手。でも、目の前の『事実』から目を逸らすことだけは、私が許しませんの」
「……事実。そうだね。君はいつだって、僕に真実だけを突きつけてくれた」
エドワード様は、ふっと自嘲気味に笑い、それから深く息を吐きました。
「カタリナ。僕は、君が怖いよ。でも、君がいない未来は、もっと恐ろしい。……僕を、経営してくれ。この国ごと、君の望むように」
「……あら。合格点のセリフですわね。おーっほっほっほ!」
私は、彼の差し出した腕に、重厚な金属音(衣擦れですわよ?)を響かせながら手を添えました。
「いいですこと、殿下。今夜、ミーナ様は貴方に『婚約破棄』を迫るはずです。貴方はそれを、最高の笑顔で受け入れる振りをなさい。……牙を剥くのは、彼女が勝利を確信したその瞬間ですわ」
「受け入れる振りを……? 演技ができるかな、僕に」
「できないとは言わせませんわ。貴方の後ろには、三十名の精鋭騎士と、最新武装を施したこの私が控えているのですから。……さあ、行きましょう」
大広間の重厚な扉が、左右にゆっくりと開かれました。
「カタリナ・フォン・公爵令嬢、ならびにエドワード・ルナ・ベルフェルド第一王子殿下、ご入場!」
廷臣の声が響き渡り、何百という視線が私たちに注がれました。
その群衆の最前列で、勝ち誇ったような笑みを浮かべ、薄桃色のドレスを纏ったミーナ様がこちらを見つめているのを、私は見逃しませんでした。
(……さあ、スパイさん。貴女の描いたシナリオを、私が真っ赤なペンで添削して差し上げますわよ)
私は、扇子を優雅に広げ、会場全体を威圧するような最高の微笑みを浮かべました。
今夜、歴史が変わりますの。……もちろん、私の思い通りに!
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