18 / 28
18
華やかなバイオリンの調べが、王宮の大広間に響き渡っております。
煌びやかなシャンデリアの下、着飾った貴族たちが蝶のように舞い踊る中、私はエドワード様の腕に添えた手に、ぐっと力を込めました。
正確には、ドレスの重みで勝手に腕が沈み込みそうになるのを、気合で支えていると言った方が正しいかもしれませんわね。
「……カタリナ、大丈夫かい? 顔色が少し、彫刻のように硬直しているけれど」
エドワード様が、心配そうに私の顔を覗き込んできました。
「……お気になさらないで。これは、この国の平和を肩に乗せている重みですわ。殿下こそ、足元がお留守になっていましてよ。……あちらをご覧なさいな」
私の視線の先、人混みを割って進んでくるのは、今日の「主役」……自称聖女のミーナ様ですわ。
彼女は、周囲の目を引くほどに儚げな、淡いピンクのドレスを纏っております。
けれど、私の鋭い観察眼(とセバスチャンの事前情報)によれば、そのコルセットの隙間には小型の毒針が仕込まれているはず。
「エドワード様ぁ……! ようやくお会いできましたわ」
ミーナ様は、エドワード様のもう片方の腕に、これ見よがしに抱きつきました。
「カタリナ様……。今日はとってもお綺麗ですわね。まるで……夜の女王様みたいで、少し怖いくらいですわ」
「あら、お褒めに預かり光栄ですわ、ミーナ様。貴女の方こそ、今日は随分と『身軽』な格好ですこと。そんなに薄着で、隣国の冷たい風に耐えられますの?」
私が優雅に(ドレスの重みで重厚に)微笑むと、ミーナ様は一瞬だけ表情を強張らせ、すぐに潤んだ瞳で王子を見上げました。
「エドワード様、お外の風に当たりたいですわ……。二人きりで、大切なお話があるのです。……カタリナ様には、聞かれたくないお話が」
「……大切なお話、か。分かったよ、ミーナ」
エドワード様は、私と一度視線を交わしました。
その瞳には、かつてのマシュマロのような甘さはなく、「作戦開始」を告げる鋼の意思が宿っております。
「カタリナ、少し席を外してもいいかな? 彼女がどうしてもと言うんだ」
「ええ、構いませんわよ。……どうぞ、存分に語り合ってらして? 私も後から、特製のお茶を持って伺いますから。おーっほっほっほ!」
二人がバルコニーへと向かう背中を見送りながら、私は背後に控えていたセバスチャンに合図を送りました。
「セバスチャン、準備は?」
「完了しております。バルコニー周囲のジャミング魔導具を起動。騎士団の精鋭も、影に潜んでおります。……お嬢様、そろそろ『鈍器』の出番かと」
「ええ。重くて肩が凝っていたところよ。……行きましょうか」
私は、一歩一歩、床を鳴らしながらバルコニーへと向かいました。
バルコニーでは、月明かりの下、ミーナ様がエドワード様の手を握りしめ、芝居がかった台詞を吐き散らしていました。
「エドワード様! もう耐えられませんわ! カタリナ様は、私をスパイだと罵り、毎日恐ろしい嫌がらせをなさるのです……。このままでは、私は……!」
「……それで、僕にどうしてほしいんだい?」
「今ここで、あの方との婚約を破棄すると宣言してください! そして、私を貴方の真の伴侶として認めてくだされば……隣国の……いいえ、天からの祝福が、この国に降り注ぐはずですわ!」
ミーナ様が、勝利を確信したように顔を上げました。
その瞬間、私は暗幕を切り裂くように、バルコニーの扉を勢いよく開け放ちました!
「おーっほっほっほ! 素晴らしい演技ですわ、ミーナ様! 王立劇場でもこれほど滑稽な喜劇は観られませんわよ!」
「……カタリナ!」
ミーナ様が、驚愕と憎悪の混じった表情で私を睨みつけました。
「なぜここに!? これは私と殿下の神聖な場所ですわよ!」
「神聖? あら、物騒な間違いですわね。ここは、貴女の『葬送会場』ですわ。……ねえ、エドワード様?」
エドワード様は、ミーナ様の手を静かに振り払うと、私の隣へと歩み寄りました。
「……ミーナ。君の言う『天の祝福』とは、今国境付近で待機しているボルジアの略奪部隊のことかい? それとも、君が僕に盛ろうとしていた、あの放屁……いや、衰弱毒のことかな?」
「……なっ、何を……!」
ミーナ様の顔から、みるみるうちに血の気が引いていきました。
「作戦通りですわね、殿下。……さあ、ミーナ様。貴女が待っている『婚約破棄』は、残念ながら永久に休業中ですの。代わりに、貴女の『人生の破棄』を受け付けて差し上げますわ!」
私は、重い扇子をガチリと鳴らし、戦闘態勢に入りました。
夜会の華やかな音楽の裏で、いよいよ真の「断罪」が幕を開けたのですわ。
煌びやかなシャンデリアの下、着飾った貴族たちが蝶のように舞い踊る中、私はエドワード様の腕に添えた手に、ぐっと力を込めました。
正確には、ドレスの重みで勝手に腕が沈み込みそうになるのを、気合で支えていると言った方が正しいかもしれませんわね。
「……カタリナ、大丈夫かい? 顔色が少し、彫刻のように硬直しているけれど」
エドワード様が、心配そうに私の顔を覗き込んできました。
「……お気になさらないで。これは、この国の平和を肩に乗せている重みですわ。殿下こそ、足元がお留守になっていましてよ。……あちらをご覧なさいな」
私の視線の先、人混みを割って進んでくるのは、今日の「主役」……自称聖女のミーナ様ですわ。
彼女は、周囲の目を引くほどに儚げな、淡いピンクのドレスを纏っております。
けれど、私の鋭い観察眼(とセバスチャンの事前情報)によれば、そのコルセットの隙間には小型の毒針が仕込まれているはず。
「エドワード様ぁ……! ようやくお会いできましたわ」
ミーナ様は、エドワード様のもう片方の腕に、これ見よがしに抱きつきました。
「カタリナ様……。今日はとってもお綺麗ですわね。まるで……夜の女王様みたいで、少し怖いくらいですわ」
「あら、お褒めに預かり光栄ですわ、ミーナ様。貴女の方こそ、今日は随分と『身軽』な格好ですこと。そんなに薄着で、隣国の冷たい風に耐えられますの?」
私が優雅に(ドレスの重みで重厚に)微笑むと、ミーナ様は一瞬だけ表情を強張らせ、すぐに潤んだ瞳で王子を見上げました。
「エドワード様、お外の風に当たりたいですわ……。二人きりで、大切なお話があるのです。……カタリナ様には、聞かれたくないお話が」
「……大切なお話、か。分かったよ、ミーナ」
エドワード様は、私と一度視線を交わしました。
その瞳には、かつてのマシュマロのような甘さはなく、「作戦開始」を告げる鋼の意思が宿っております。
「カタリナ、少し席を外してもいいかな? 彼女がどうしてもと言うんだ」
「ええ、構いませんわよ。……どうぞ、存分に語り合ってらして? 私も後から、特製のお茶を持って伺いますから。おーっほっほっほ!」
二人がバルコニーへと向かう背中を見送りながら、私は背後に控えていたセバスチャンに合図を送りました。
「セバスチャン、準備は?」
「完了しております。バルコニー周囲のジャミング魔導具を起動。騎士団の精鋭も、影に潜んでおります。……お嬢様、そろそろ『鈍器』の出番かと」
「ええ。重くて肩が凝っていたところよ。……行きましょうか」
私は、一歩一歩、床を鳴らしながらバルコニーへと向かいました。
バルコニーでは、月明かりの下、ミーナ様がエドワード様の手を握りしめ、芝居がかった台詞を吐き散らしていました。
「エドワード様! もう耐えられませんわ! カタリナ様は、私をスパイだと罵り、毎日恐ろしい嫌がらせをなさるのです……。このままでは、私は……!」
「……それで、僕にどうしてほしいんだい?」
「今ここで、あの方との婚約を破棄すると宣言してください! そして、私を貴方の真の伴侶として認めてくだされば……隣国の……いいえ、天からの祝福が、この国に降り注ぐはずですわ!」
ミーナ様が、勝利を確信したように顔を上げました。
その瞬間、私は暗幕を切り裂くように、バルコニーの扉を勢いよく開け放ちました!
「おーっほっほっほ! 素晴らしい演技ですわ、ミーナ様! 王立劇場でもこれほど滑稽な喜劇は観られませんわよ!」
「……カタリナ!」
ミーナ様が、驚愕と憎悪の混じった表情で私を睨みつけました。
「なぜここに!? これは私と殿下の神聖な場所ですわよ!」
「神聖? あら、物騒な間違いですわね。ここは、貴女の『葬送会場』ですわ。……ねえ、エドワード様?」
エドワード様は、ミーナ様の手を静かに振り払うと、私の隣へと歩み寄りました。
「……ミーナ。君の言う『天の祝福』とは、今国境付近で待機しているボルジアの略奪部隊のことかい? それとも、君が僕に盛ろうとしていた、あの放屁……いや、衰弱毒のことかな?」
「……なっ、何を……!」
ミーナ様の顔から、みるみるうちに血の気が引いていきました。
「作戦通りですわね、殿下。……さあ、ミーナ様。貴女が待っている『婚約破棄』は、残念ながら永久に休業中ですの。代わりに、貴女の『人生の破棄』を受け付けて差し上げますわ!」
私は、重い扇子をガチリと鳴らし、戦闘態勢に入りました。
夜会の華やかな音楽の裏で、いよいよ真の「断罪」が幕を開けたのですわ。
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢にされたので婚約破棄を受け入れたら、なぜか全員困っています
かきんとう
恋愛
王城の大広間は、いつも以上に華やいでいた。
磨き上げられた床は燭台の光を反射し、色とりどりのドレスが揺れるたびに、まるで花畑が動いているかのように見える。貴族たちの笑い声、楽団の優雅な旋律、そして、ひそやかな噂話が、空気を満たしていた。
その中心に、私は立っていた。
――今日、この瞬間のために。
「エレノア・フォン・リーベルト嬢」
高らかに呼ばれた私の名に、ざわめきがぴたりと止む。
次こそあなたと幸せになると決めたのに…中々うまくいきません
Karamimi
恋愛
公爵令嬢のシャレルは、第二王子のジョーンによって無実の罪で投獄されてしまう。絶望の中彼女を救ってくれたのは、ずっと嫌われていると思っていた相手、婚約者で王太子のダーウィンだった。
逃亡生活を送る中、お互い思い合っていたのにすれ違っていた事に気が付く2人。すれ違った時間を取り戻すかのように、一気に距離を縮めていく。
全てを失い絶望の淵にいたシャレルだったが、ダーウィンとの逃避行の時間は、今まで感じた事のないほど、幸せな時間だった。
新天地マーラル王国で、ダーウィンとの幸せな未来を思い描きながら、逃避行は続く。
そしていよいよ、あと少しでマーラル国というところまで来たある日、彼らの前にジョーンが現れたのだ。
天国から地獄に叩き落されたシャレルは、絶望の中生涯の幕を下ろしたはずだったが…
ひょんなことから、ダーウィンと婚約を結んだ8歳の時に、戻っていた。
2度目の人生は、絶対にダーウィンと幸せになってみせる、そう決意したシャレルだったが、そううまくはいかず、次第に追い詰められていくのだった。
※シャレルとダーウィンが幸せを掴むかでのお話しです。
ご都合主義全開ですが、どうぞよろしくお願いします。
カクヨムでも同時投稿しています。
なんでも奪っていく妹に、婚約者まで奪われました
ねむ太朗
恋愛
伯爵令嬢のリリアーナは、小さい頃から、妹のエルーシアにネックレスや髪飾りなどのお気に入りの物を奪われてきた。
とうとう、婚約者のルシアンまでも妹に奪われてしまい……
【完結】どうやら時戻りをしました。
まるねこ
恋愛
ウルダード伯爵家は借金地獄に陥り、借金返済のため泣く泣く嫁いだ先は王家の闇を担う家。
辛い日々に耐えきれずモアは自らの命を断つ。
時戻りをした彼女は同じ轍を踏まないと心に誓う。
※前半激重です。ご注意下さい
Copyright©︎2023-まるねこ
婚約破棄されました。
まるねこ
恋愛
私、ルナ・ブラウン。歳は本日14歳となったところですわ。家族は父ラスク・ブラウン公爵と母オリヴィエ、そして3つ上の兄、アーロの4人家族。
本日、私の14歳の誕生日のお祝いと、婚約者のお披露目会を兼ねたパーティーの場でそれは起こりました。
ド定番的な婚約破棄からの恋愛物です。
習作なので短めの話となります。
恋愛大賞に応募してみました。内容は変わっていませんが、少し文を整えています。
ふんわり設定で気軽に読んでいただければ幸いです。
Copyright©︎2020-まるねこ
報われなかった姫君に、弔いの白い薔薇の花束を
さくたろう
恋愛
その国の王妃を決める舞踏会に招かれたロザリー・ベルトレードは、自分が当時の王子、そうして現王アルフォンスの婚約者であり、不遇の死を遂げた姫オフィーリアであったという前世を思い出す。
少しずつ蘇るオフィーリアの記憶に翻弄されながらも、17年前から今世まで続く因縁に、ロザリーは絡め取られていく。一方でアルフォンスもロザリーの存在から目が離せなくなり、やがて二人は再び惹かれ合うようになるが――。
20話です。小説家になろう様でも公開中です。
偽聖女として私を処刑したこの世界を救おうと思うはずがなくて
奏千歌
恋愛
【とある大陸の話①:月と星の大陸】
※ヒロインがアンハッピーエンドです。
痛めつけられた足がもつれて、前には進まない。
爪を剥がされた足に、力など入るはずもなく、その足取りは重い。
執行官は、苛立たしげに私の首に繋がれた縄を引いた。
だから前のめりに倒れても、後ろ手に拘束されているから、手で庇うこともできずに、処刑台の床板に顔を打ち付けるだけだ。
ドッと、群衆が笑い声を上げ、それが地鳴りのように響いていた。
広場を埋め尽くす、人。
ギラギラとした視線をこちらに向けて、惨たらしく殺される私を待ち望んでいる。
この中には、誰も、私の死を嘆く者はいない。
そして、高みの見物を決め込むかのような、貴族達。
わずかに視線を上に向けると、城のテラスから私を見下ろす王太子。
国王夫妻もいるけど、王太子の隣には、王太子妃となったあの人はいない。
今日は、二人の婚姻の日だったはず。
婚姻の禍を祓う為に、私の処刑が今日になったと聞かされた。
王太子と彼女の最も幸せな日が、私が死ぬ日であり、この大陸に破滅が決定づけられる日だ。
『ごめんなさい』
歓声をあげたはずの群衆の声が掻き消え、誰かの声が聞こえた気がした。
無機質で無感情な斧が無慈悲に振り下ろされ、私の首が落とされた時、大きく地面が揺れた。
辺境伯へ嫁ぎます。
アズやっこ
恋愛
私の父、国王陛下から、辺境伯へ嫁げと言われました。
隣国の王子の次は辺境伯ですか… 分かりました。
私は第二王女。所詮国の為の駒でしかないのです。 例え父であっても国王陛下には逆らえません。
辺境伯様… 若くして家督を継がれ、辺境の地を護っています。
本来ならば第一王女のお姉様が嫁ぐはずでした。
辺境伯様も10歳も年下の私を妻として娶らなければいけないなんて可哀想です。
辺境伯様、大丈夫です。私はご迷惑はおかけしません。
それでも、もし、私でも良いのなら…こんな小娘でも良いのなら…貴方を愛しても良いですか?貴方も私を愛してくれますか?
そんな望みを抱いてしまいます。
❈ 作者独自の世界観です。
❈ 設定はゆるいです。
(言葉使いなど、優しい目で読んで頂けると幸いです)
❈ 誤字脱字等教えて頂けると幸いです。
(出来れば望ましいと思う字、文章を教えて頂けると嬉しいです)