婚約破棄?結構ですが、その前に殿下の隣を片付けても?

夏乃みのり

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半年後、公爵邸の正門前。


そこには、かつての「自称聖女」の面影など微塵もない、一人の「完璧すぎる淑女」が立っておりました。


背筋は定規を当てたように真っ直ぐで、指先の角度は黄金比を保ち、その瞳には一切の無駄な感情が宿っておりません。


ミーナ様……いいえ、今や我が公爵家の「最高傑作」となった彼女は、迎えに来たボルジアの馬車を前に、深々とカーテシーを披露しました。


「……カタリナ様。半年間に及ぶご指導、骨の髄まで、魂の深淵まで刻み込まれましたわ」


「あら、随分と殊勝なご挨拶ですこと。おーっほっほっほ! その様子なら、隣国へ戻っても『マシュマロ』な貴族たちに舐められることはありませんわね」


私は扇子をパチンと鳴らしました。


その音を聞いた瞬間、ミーナ様の肩が「ビクッ!」と跳ね、条件反射で周囲の警備状況を確認する鋭い目つきになりましたが、すぐに優雅な微笑みに戻りました。


……ふふ、調教……いえ、教育の成果はバッチリですわね。


「エドワード様も、お元気で。……貴方様が、以前より少しだけ『人間らしく』なられたようで、安心いたしましたわ」


「……ああ。君も、その……元気で。ボルジアに戻っても、カタリナの教えを守っていれば、きっと……死ぬことはないと思うよ」


エドワード様が、遠い目でミーナ様にエールを送りました。


彼はこの半年で、経済学と帝王学の詰め込み教育により、すっかり「鋭い知性を持つ仕事中毒」へと変貌しておりました。……たまに夜中、計算機の夢を見てうなされていますけれど、些細なことですわ。


「さて、ミーナ様。お別れのプレゼントですわ。……セバスチャン」


「はっ。こちら、お嬢様からの『友情の印』でございます」


セバスチャンが差し出したのは、小さな、けれど豪華な装飾が施された宝石箱でした。


「……これは? また、中から拘束網や毒ガスが飛び出す仕掛けではありませんわよね?」


「失礼ね。それは我が公爵家が隣国の鉱山で採掘を始めた、最高級の魔導石を使った『超高性能・相互通信機』よ」


私は、彼女の耳元に顔を寄せ、囁きました。


「……いいですこと? 貴女がボルジアの宮廷で困った時、あるいは『退屈』した時、いつでも私に相談なさいな。……その代わり、貴国の王室がまた変な野心を抱いたら、すぐに私に報告すること。……分かっていますわね?」


「……呪いの通信機、ですわね。一生貴女の監視下から逃げられないという」


「あら、人聞きが悪い。私は貴女という『経営資源』が、他人に壊されるのが嫌なだけですわ」


私は、彼女の胸元にそっと手を置きました。


「貴女は、私の初めての『卒業生』ですもの。隣国で、私の代わりに暴れてきなさい。……誰よりも優雅に、誰よりも冷酷にね」


ミーナ様は、一瞬だけ以前のような「勝ち気なスパイ」の瞳を見せ、不敵に笑いました。


「……ええ、承知いたしましたわ、カタリナ・フォン・公爵令嬢。……貴女に負けないくらいの『悪役』になって、いつか貴女を買い叩きに来て差し上げますわ!」


「おーっほっほっほ! 楽しみにしておりますわよ!」


馬車が動き出し、彼女は一度も振り返ることなく去っていきました。


隣国ボルジアは、これから彼女という名の「劇薬」に、かき乱されることになるでしょう。……もちろん、私の利益になる方向で、ですけれど。


「……さて、エドワード様。見送りは終わりですわ。……お仕事に戻りましょうか?」


「えっ、あ、あと五分だけ休ませてくれないかい? ミーナが去って、少し寂しさに浸りたいというか……」


「寂しさ? あら、そんな暇があるなら、この『隣国との新通商条約・修正案』に目を通しなさいな。……セバスチャン、殿下を執務室へ強制送還してちょうだい」


「畏まりました。殿下、背中に氷水を入れられるのと、自ら歩くの、どちらがよろしいですか?」


「……歩くよ! 歩けばいいんだろう!」


王子の悲鳴が響く中、私は青空を見上げました。


ゴミは片付き、敵は手下に変わり、婚約者は有能な僕(しもべ)になった。


「……ふふ。私のハッピーエンド、いよいよ完成間近ですわね」


私は、新しい扇子を優雅に広げ、誰よりも高く、不敵に笑いました。


おーっほっほっほっほ!!
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