婚約破棄?結構ですが、その前に殿下の隣を片付けても?

夏乃みのり

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王立学院の卒業式当日。


学び舎の正面玄関には、色鮮やかな花々が飾られ、旅立ちを祝う鐘の音が軽やかに響いております。


私は、校庭の隅にあるベンチに腰を下ろし、手元の「ハッピーエンド・チェックリスト」を眺めておりました。


「……セバスチャン。項目の確認をしましょう。まず第一、隣国のスパイ・ミーナ様の完全排除および外交資源化」


「完了しております。現在、彼女はボルジア宮廷で『カタリナ様ならこう仰るはず……』と震えながら、我が国に有利な法案を通し続けているとの報告が入っておりますな」


「よろしいわ。第二、エドワード殿下の知性向上およびマシュマロ脳の洗浄」


「こちらも順調です。殿下は現在、式典の挨拶文を自ら五回書き直し、さらにその裏で来年度の予算修正案を同時並行でチェックしていらっしゃいます。集中しすぎて鼻血を出しておられましたが、医療班が即座に対応いたしました」


セバスチャンが、手帳に淀みなくチェックを入れていきます。


「第三、国内外の利権確保による私の老後の安泰」


「完璧でございます。黒鉄鉱山の採掘は軌道に乗り、公爵家の資産は前年比で三倍に膨れ上がっております。お嬢様が何百回、扇子で殿下を叩き折っても、修繕費で困ることはございません」


私は、満足げに扇子を広げました。


(おーっほっほっほ! 完璧ですわ。私の描いた二十八話完結のシナリオ、いよいよ最後の一項目を残すのみとなりましたわね)


「……さて、最後の一項目は?」


「『卒業式における、残党による最後のあがきの粉砕』でございます。……お嬢様、あちらをご覧ください」


セバスチャンの視線の先、式典会場の裏口へとこっそり侵入しようとする、マント姿の怪しい男たちが数名。


彼らはミーナ様がかつて使っていた連絡員……の、さらに下っ端の生き残りのようですわね。


「あら。まだそんな小粒なネズミが残っていたの? 保健所の仕事が遅いですわね、セバスチャン」


「申し訳ございません。お嬢様の『卒業制作』として残しておいた次第でして」


「……貴方、本当に気が利くわね。よろしいわ、私の最後の華麗な一仕事、とくとご覧に入れましょう!」


私は、今日のために新調した「卒業式用・超軽量(当社比)・高出力」の武装ドレスの裾を翻し、男たちの前へ音もなく立ちはだかりました。


「おーっほっほっほ! 皆様、卒業式の招待状は持っていらして? あいにく、不法侵入者への学位授与は行っておりませんのよ!」


「な、なんだ!? カタリナ・フォン・公爵令嬢! ミーナ様を奪った貴様だけは許さない……っ!」


男たちが一斉に隠し持っていたナイフを抜きました。


「あら、物騒ですわね。セバスチャン、式典の静寂を乱してはいけませんから、『消音モード』でお願いね」


「畏まりました」


私が扇子をパチンと鳴らすと、セバスチャンが展開した魔導フィールドにより、周囲の音が完全に遮断されました。


「さあ、かかってきなさいな。淑女の最後の『課外授業』ですわよ!」


男たちが飛びかかってきましたが、私はドレスの裾に仕込まれた「自動防御結界」を一瞬で展開。


カカカカッ! という火花を散らす音と共に、ナイフが面白いように弾き飛ばされていきます。


「な、なんだこのドレスは! 魔法が効かないのか!?」


「ええ、特注品ですもの。……仕上げは、こちらですわ」


私は扇子を閉じ、その先端から極小の麻痺針を、まるで雨のように降らせました。


「淑女の連射(ラピッドファイア)を舐めてはいけませんわよ?」


「ぐはっ!?」「からだ、が……動かない……」


わずか数秒。残党の男たちは、ピクリとも動けずに地面に転がりました。


私は乱れた髪を整え、何事もなかったかのように微笑みました。


「セバスチャン、回収を。彼らもミーナ様と同じ施設へ送ってあげて。……ああ、食事は一日一食、隣国の経済学を百ページ暗読できたら差し上げるように」


「承知いたしました。……実に見事な手際でございました、お嬢様」


そこへ、式典を終えたエドワード様が、息を切らせて駆け寄ってきました。


「カタリナ! こんなところで何を……って、足元に転がっているこの人たちは?」


「あら、殿下。卒業式の記念撮影用の『背景』ですわよ。お気になさらないで」


「背景!? いや、どう見ても縛り上げられているけれど……。……はは、まあいいや。君が元気なら、それで十分だ」


エドワード様は、私の手を取り、感慨深げに校庭を見渡しました。


「カタリナ。僕は、君と出会い直せて本当に良かった。……君のいない人生なんて、もう考えられない」


「あら、当然ですわ。私の『経営』から逃げられると思ったら大間違いですもの」


私は彼の腕に、しっかりと自分の腕を絡めました。


「さあ、殿下。次はいよいよ、私の人生における『最大の大仕事』……結婚式が待っておりますのよ」


「……ああ。全力で君に尽くすと誓うよ」


私は、青空に向かって高らかに笑い声を上げました。


ハッピーエンド、最終チェック完了ですわ。


あとは、世界で一番贅沢で、世界で一番幸せなフィナーレを迎えるだけ!


「おーっほっほっほっほ!!」
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