午後四時の境界

うみ

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午後四時の境界

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放課後の教室には、斜めに差し込む西日の光が、机の上に格子模様の影を落としていた。
 人気のない窓際で、彼女は窓を半ばまで開け、頬杖をついたまま風に頬をさらしている。

「帰らないの?」
「もう少し。風が気持ちいいから」

 眠たげな声だった。けれど、その奥にはどこか楽しげな響きが混じっている。
 ぼくは机に鞄を置き、隣の席に腰を下ろした。

 取り立てて話すことがあるわけではない。
 テストの愚痴だとか、担任の口癖の真似だとか。
 そんな取るに足らない会話を重ねるだけなのに、なぜかその時間が心地よく思える。

「ねえ」
「ん?」
「もし、わたしが転校することになったら、どうする?」

 あまりに唐突な問いで、言葉が喉の奥でつかえる。
 どうする、なんて。そんなの簡単に答えられるはずがない。

「……まあ、連絡くらいは取るだろ」
「そっか。思ったより淡白なんだね」

 彼女は口元だけで笑ってみせた。
 その笑顔の裏に、言葉にされない思いが隠れていることを、ぼくはなんとなく察していた。

「じゃあさ」
「うん」
「わたしがいなくなったら、寂しい?」

 窓から吹き込んだ風が、彼女の髪をさらりと揺らす。
 意味を吟味する前に、胸の奥が不意にざわめいた。

「……さあな」

 答えを濁すと、彼女は「そっか」と小さく呟き、視線を窓の外へ逸らした。
 それきり、言葉は途切れた。

 沈黙が落ちても、不思議と気まずさはなかった。
 午後四時を告げるチャイムが鳴り、教室に柔らかな余韻を残す。
 彼女はその音に背を押されるように立ち上がり、鞄を肩にかけた。

「じゃあ、今日はここまで」
「また明日」

 振り返ることなく歩き去る背中を、ぼくはしばらく目で追った。
 「また明日」と言えることが、どうしてこんなにも胸を軽くするのだろう。

 恋だと断言するには近すぎて、友達だと割り切るには遠すぎる。
 そのあわいに漂いながら、ぼくらはただ、境界の上に立っていた。
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