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楂古聿
楂古聿5
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ーーー紛らわしいっ!!
わたしは恥ずかしさを誤魔化すように怒っていた。
映画のシーンとつい重ねてしまい、きっ…キスされると思ったじゃないか!耳打ちするならはじめからそう言ってくれ。タイミングを考えろって言うんだ
心の中の叫びは動揺の為、支離滅裂だ。
勘違いした心臓はそう簡単には元には戻らず、バクバクとしたままだった。わたしは膝で寛いでいた狐仙の尻尾をむぎゅっと掴んでしまう。
『ぎゃふん!』
寝ていた狐仙が、悲鳴をあげて飛び上がった。
『何をするんだっ』
(ご、ごめんっ)
わたしは声を出すわけにいかず、目を左右にキョロキョロとさせながら手を立てて謝った。磨百瑠はそのままわたしの肩に額を埋めてしまう。
(ぎゃーーーー!)
顔が近いんだって!
どかそうと思って押してみたが、以外と頭は重くしかも磨百瑠は離れるのを抵抗しているように、ぐいぐいと頭を押し付けてきた。
握る手も力が強い。抱きついているみたいになっている。
朝井君も磨百瑠の様子がおかしい事に気がついたようで、こちらに顔を向けて首を傾げた。
『何やってんだこの馬鹿は』
狐仙が呆れた声を出した。
「か、カサカサ……、虫……!!」
さっきから何を言っているのだ。
顔の周りで虫でも飛んでいたのだろうか。
磨百瑠の椅子付近を探ってみても虫は見つけられない。っていうか暗くて見えない。
『虫…?』
ピクリと髭を動かし、狐仙は周囲を探る。夜目がきくから、何か見えるかもしれない。
『空気がおかしいな……』
(ーーーえ?)
『淀みか?僅かだが、空気の流れが変だぞ。わからないか』
わたしは何も感じなかった。
映画館という場所のせいもあるかもしれない。音と映像で色々な現象がかき消されてしまう。呼吸を整え感覚を研ぎ澄まし、神通力を全身に漲らせる。集中して、周囲に神経を張り巡らせた。
映画を盛り上げる音楽と、主役達の会話に混ざり、微かに異音が紛れ込んでいる。
ーーーカサカサ……カサカサ……
「!!」
(ーーー音!どこから)
なるほど、虫が這うような音だ。磨百瑠はこれの事を言っていたのか。
耳で聞こえる音じゃない。力に作用して聞こえる音だ。
だから磨百瑠に先に聞こえたのか。
わたしでは集中しないとわからないくらいの負の人外の気配を、磨百瑠は普通にしてても察知出来るということだ。
いったい磨百瑠の力はどれ程のものなのか。
ちょっとだけ悔しかったりする。
普通に"見る"んじゃなくて、力を使って見るようにすると、同じ列の端に座る人あたりに、ぼんやりと淀みが集まっているのが見えた。
男の人かな。
一人だ。
あの人に人外が呼び寄せられている……?
しっかりしろと磨百瑠の腕を叩いた。別に虫に集られてる訳でもないのに、なにをそんなに怖がっているのだ。
今はまだ、音が聞こえるだけだ。
(剥がれろ!)
肩を押し返すと必死の形相で訴えてきた。
そんなに一生懸命首を振られても、何が言いたいのかわからないぞ。
(狐仙)
狐仙の背中を叩き、同じ席の列の端を指差す。
『あそこだ。吹き溜まりにいた負の人外が、美味しそうなカモを見つけて寄ってきたってところだな』
直ぐに駆除にとりかかりたいが、映画館というのもありどうしたものか。
『まだ憑き始めで弱そうだ。映画が終わるのを待つくらいの余裕はある。下手に今手をだして刺激するより、人が捌けてから仕掛けた方がいい』
狐仙の案に頷くと、時計を確かめた。あと5分程で上映が終わる。
それまで、何事もありませんように……
ごくりと唾をのみ、緊張しながら時が過ぎるのを待った。
エンディングもおわり、明るくなった館内に残るのは、人外に捕まっているおじさんと、わたしたち四人だけだった。
明るくなったということは、磨百瑠とわたしがよく見えるということだ。
わたしたちの体勢に、夜子ちゃんと朝井君は微妙な視線を向けてきた。
磨百瑠はわたしにしがみついたままだ。手も握りっぱなしだし、ハタからみたら抱きついているようにしか見えないだろう。
「何してるの…?」
「あ、あの、なんかお腹が痛くて動けないんだって……」
「速水はお腹が痛いと女子に抱きつくのか…」
「ええと、この体勢が楽だとかどうとか……」
言い訳が苦し過ぎて、二人の目を真っ直ぐ見れない。そんなわけ無いだろうと自分で突っ込みたくなった。
周囲が静まると、カサカサの音は大きく聞こえるようになった。まるで頭の中でそれが這っているかのように響いている。
磨百瑠の顔は真っ青だった。そして目が死んでいる。汗もだらだらとかいているし、そのうち泡でも吹いて卒倒するんじゃないだろうか。
狐仙は『なんて残念なやつなんだ……』と呟いた。
情けないが、お陰で"お腹が痛い"に信憑性がでる。
「食べ過ぎじゃないの」
磨百瑠は特大サイズのポップコーンまで完食していた。
「顔色がめちゃくちゃ悪いな」と、朝井君も心配そうにした。
『虫の形態が出る度にこれじゃあ困るんだがな。おい、起きろ小僧』
狐仙の猫パンチ…もとい狐パンチも、抵抗もせずに殴られっぱなしである。
(だめだこりゃ…)
確かにこれは気持ちのよい音ではない。羽音と同じくらいに背筋がぞわぞわっとして、虫嫌いじゃなくても辛いものがあった。
少し休んでから帰ると、なんとか理由をつけて、夜子ちゃんと朝井君には先に帰ってもらい、劇場内に残るのは三人と神使様二人になった。
夜子ちゃんはいやらしい目をして、「ふーん、ほおお、へええ」と変な声をしきりにあげていたが、絶対に何か勘違いしている。
また後でゆっくり釈明をしなくてはならない。
『さて……』
狐仙が舌舐りをする。
「磨百瑠!そろそろ離れてよ!動けないじゃん」
「無理!何この音、何がいんの?!キモイ!」
『大した力の奴じゃない。練習だお前が施しをしてみろ。おい、鯉を叩き起こせ!ったく、じいさんは昼寝ばかりして、気配にも気がつかないのか!』
狐仙だって気がつかなかったくせに、と思いながら磨百瑠を「ねぇ」と揺さぶる。
動こうとしないので、ポケットに手を突っ込み鯉を取り出すと、鼻ちょうちんを出して寝ていた。
熟睡じゃないか。それだけ磨百瑠の力が心地よいのだろう。
ちょっと可愛くて起こすのが申し訳ないが、親指で鯉のお腹をプニプニと押して起こした。
「鯉様、起きてください。人外が現れましたよ!」
『んん…?なんじゃ…』
「人外です。お食事ですよ!」
『なにぃっ』
はっと目を覚ました鯉は、ぼふんと人の頭の3つ分くらいの大きさになり、尾びれを一生懸命動かした。
『ん?こやつは何をやっておるのじゃ』
背中に着地した鯉は、磨百瑠を見下ろしヒレで叩いた。
「今日は磨百瑠が施しをしますから」
「勝手に決めるなって!」
『おいチチクリ合うのは後にしろ。わしは腹が減ったぞ!』
「ちちくりあってません!ほら磨百瑠、とにかく一旦離れてよ!」
思い切り力を入れ、強引にべりっと剥がすと磨百瑠は涙目だった。なんならちょっと鼻水も出ている。
『早くしろ小僧』
「ねぇ、これ絶対虫の音だよね?!俺、虫は嫌だって言ってるじゃん!兎杜がやればいいじゃん」
「せっかく弱めの人外なんだから練習しなよ!ほら早く!早くやっつけないと、どんどん成長しちゃうでしょ」
「嫌だってば!」
『これしきで泣くな!』
「あ、あのう…」
ワイワイやっていると、椅子から動けないおじさんが苦しそうな声をだした。
「す、すみません。楽しそうなところ大変恐縮ですが助けていただけませんか。体が動かないんです」
ーーー紛らわしいっ!!
わたしは恥ずかしさを誤魔化すように怒っていた。
映画のシーンとつい重ねてしまい、きっ…キスされると思ったじゃないか!耳打ちするならはじめからそう言ってくれ。タイミングを考えろって言うんだ
心の中の叫びは動揺の為、支離滅裂だ。
勘違いした心臓はそう簡単には元には戻らず、バクバクとしたままだった。わたしは膝で寛いでいた狐仙の尻尾をむぎゅっと掴んでしまう。
『ぎゃふん!』
寝ていた狐仙が、悲鳴をあげて飛び上がった。
『何をするんだっ』
(ご、ごめんっ)
わたしは声を出すわけにいかず、目を左右にキョロキョロとさせながら手を立てて謝った。磨百瑠はそのままわたしの肩に額を埋めてしまう。
(ぎゃーーーー!)
顔が近いんだって!
どかそうと思って押してみたが、以外と頭は重くしかも磨百瑠は離れるのを抵抗しているように、ぐいぐいと頭を押し付けてきた。
握る手も力が強い。抱きついているみたいになっている。
朝井君も磨百瑠の様子がおかしい事に気がついたようで、こちらに顔を向けて首を傾げた。
『何やってんだこの馬鹿は』
狐仙が呆れた声を出した。
「か、カサカサ……、虫……!!」
さっきから何を言っているのだ。
顔の周りで虫でも飛んでいたのだろうか。
磨百瑠の椅子付近を探ってみても虫は見つけられない。っていうか暗くて見えない。
『虫…?』
ピクリと髭を動かし、狐仙は周囲を探る。夜目がきくから、何か見えるかもしれない。
『空気がおかしいな……』
(ーーーえ?)
『淀みか?僅かだが、空気の流れが変だぞ。わからないか』
わたしは何も感じなかった。
映画館という場所のせいもあるかもしれない。音と映像で色々な現象がかき消されてしまう。呼吸を整え感覚を研ぎ澄まし、神通力を全身に漲らせる。集中して、周囲に神経を張り巡らせた。
映画を盛り上げる音楽と、主役達の会話に混ざり、微かに異音が紛れ込んでいる。
ーーーカサカサ……カサカサ……
「!!」
(ーーー音!どこから)
なるほど、虫が這うような音だ。磨百瑠はこれの事を言っていたのか。
耳で聞こえる音じゃない。力に作用して聞こえる音だ。
だから磨百瑠に先に聞こえたのか。
わたしでは集中しないとわからないくらいの負の人外の気配を、磨百瑠は普通にしてても察知出来るということだ。
いったい磨百瑠の力はどれ程のものなのか。
ちょっとだけ悔しかったりする。
普通に"見る"んじゃなくて、力を使って見るようにすると、同じ列の端に座る人あたりに、ぼんやりと淀みが集まっているのが見えた。
男の人かな。
一人だ。
あの人に人外が呼び寄せられている……?
しっかりしろと磨百瑠の腕を叩いた。別に虫に集られてる訳でもないのに、なにをそんなに怖がっているのだ。
今はまだ、音が聞こえるだけだ。
(剥がれろ!)
肩を押し返すと必死の形相で訴えてきた。
そんなに一生懸命首を振られても、何が言いたいのかわからないぞ。
(狐仙)
狐仙の背中を叩き、同じ席の列の端を指差す。
『あそこだ。吹き溜まりにいた負の人外が、美味しそうなカモを見つけて寄ってきたってところだな』
直ぐに駆除にとりかかりたいが、映画館というのもありどうしたものか。
『まだ憑き始めで弱そうだ。映画が終わるのを待つくらいの余裕はある。下手に今手をだして刺激するより、人が捌けてから仕掛けた方がいい』
狐仙の案に頷くと、時計を確かめた。あと5分程で上映が終わる。
それまで、何事もありませんように……
ごくりと唾をのみ、緊張しながら時が過ぎるのを待った。
エンディングもおわり、明るくなった館内に残るのは、人外に捕まっているおじさんと、わたしたち四人だけだった。
明るくなったということは、磨百瑠とわたしがよく見えるということだ。
わたしたちの体勢に、夜子ちゃんと朝井君は微妙な視線を向けてきた。
磨百瑠はわたしにしがみついたままだ。手も握りっぱなしだし、ハタからみたら抱きついているようにしか見えないだろう。
「何してるの…?」
「あ、あの、なんかお腹が痛くて動けないんだって……」
「速水はお腹が痛いと女子に抱きつくのか…」
「ええと、この体勢が楽だとかどうとか……」
言い訳が苦し過ぎて、二人の目を真っ直ぐ見れない。そんなわけ無いだろうと自分で突っ込みたくなった。
周囲が静まると、カサカサの音は大きく聞こえるようになった。まるで頭の中でそれが這っているかのように響いている。
磨百瑠の顔は真っ青だった。そして目が死んでいる。汗もだらだらとかいているし、そのうち泡でも吹いて卒倒するんじゃないだろうか。
狐仙は『なんて残念なやつなんだ……』と呟いた。
情けないが、お陰で"お腹が痛い"に信憑性がでる。
「食べ過ぎじゃないの」
磨百瑠は特大サイズのポップコーンまで完食していた。
「顔色がめちゃくちゃ悪いな」と、朝井君も心配そうにした。
『虫の形態が出る度にこれじゃあ困るんだがな。おい、起きろ小僧』
狐仙の猫パンチ…もとい狐パンチも、抵抗もせずに殴られっぱなしである。
(だめだこりゃ…)
確かにこれは気持ちのよい音ではない。羽音と同じくらいに背筋がぞわぞわっとして、虫嫌いじゃなくても辛いものがあった。
少し休んでから帰ると、なんとか理由をつけて、夜子ちゃんと朝井君には先に帰ってもらい、劇場内に残るのは三人と神使様二人になった。
夜子ちゃんはいやらしい目をして、「ふーん、ほおお、へええ」と変な声をしきりにあげていたが、絶対に何か勘違いしている。
また後でゆっくり釈明をしなくてはならない。
『さて……』
狐仙が舌舐りをする。
「磨百瑠!そろそろ離れてよ!動けないじゃん」
「無理!何この音、何がいんの?!キモイ!」
『大した力の奴じゃない。練習だお前が施しをしてみろ。おい、鯉を叩き起こせ!ったく、じいさんは昼寝ばかりして、気配にも気がつかないのか!』
狐仙だって気がつかなかったくせに、と思いながら磨百瑠を「ねぇ」と揺さぶる。
動こうとしないので、ポケットに手を突っ込み鯉を取り出すと、鼻ちょうちんを出して寝ていた。
熟睡じゃないか。それだけ磨百瑠の力が心地よいのだろう。
ちょっと可愛くて起こすのが申し訳ないが、親指で鯉のお腹をプニプニと押して起こした。
「鯉様、起きてください。人外が現れましたよ!」
『んん…?なんじゃ…』
「人外です。お食事ですよ!」
『なにぃっ』
はっと目を覚ました鯉は、ぼふんと人の頭の3つ分くらいの大きさになり、尾びれを一生懸命動かした。
『ん?こやつは何をやっておるのじゃ』
背中に着地した鯉は、磨百瑠を見下ろしヒレで叩いた。
「今日は磨百瑠が施しをしますから」
「勝手に決めるなって!」
『おいチチクリ合うのは後にしろ。わしは腹が減ったぞ!』
「ちちくりあってません!ほら磨百瑠、とにかく一旦離れてよ!」
思い切り力を入れ、強引にべりっと剥がすと磨百瑠は涙目だった。なんならちょっと鼻水も出ている。
『早くしろ小僧』
「ねぇ、これ絶対虫の音だよね?!俺、虫は嫌だって言ってるじゃん!兎杜がやればいいじゃん」
「せっかく弱めの人外なんだから練習しなよ!ほら早く!早くやっつけないと、どんどん成長しちゃうでしょ」
「嫌だってば!」
『これしきで泣くな!』
「あ、あのう…」
ワイワイやっていると、椅子から動けないおじさんが苦しそうな声をだした。
「す、すみません。楽しそうなところ大変恐縮ですが助けていただけませんか。体が動かないんです」
応援ありがとうございます!
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