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25.蜜酒
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sideレティシア
辺境伯家が治める地域で、珍しい特産品「蜜酒」の交易が突然滞るという問題が起きた。
取引相手が「品質が落ちた」と言い出したことが原因らしい。
「最近、辺境からの蜜酒が王都に届かないようですが、どうかされたのでしょうか?」
何気なく話題を振ると、スヴェイン様は、少し考え込むように顎に手を当てた。
「辺境の名産である蜜酒のことか? 特に相談はないが、……確かに最近見かけないから何かあったのかもしれない。心配だ」
スヴェイン様は隊長としての任務に追われ、詳しい事情を知る余裕はなさそうだった。
しかし、これは婚約者の実家に関わる一大事。なんとかせねばと胸の内で決意する。
調べを進めると、問題の原因が浮かび上がってきた。
蜜酒の品質低下は、蜜源である花の品種が、昨年の嵐で失われたことによるものだった。現地では代用品として別の花を使っているが、香りが違うために取引相手が納得していないという。
「それなら話は簡単ね」
以前から品種改良している新種の花がある。それは「エアルフラワー」と名付けたもので、辺境伯領の過酷な自然環境を考慮して特別に開発している品種だった。
エアルフラワーは、寒さに強く、厳しい冬を越えるための耐寒性を備えている。従来の蜜源となる花が嵐や霜害に弱く、毎年のように減産を余儀なくされていたため、その弱点を補う目的で開発した。
さらに、この花は成長が早く、種をまいてから花が咲くまでの期間が通常の花の半分程度で済むため、緊急時にも迅速に対応できる特性を持つ。
ただ寒さに強いだけではない。エアルフラワーの最大の特徴は、その香りだ。通常の蜜源の花に比べ、甘さに深みがありながらも爽やかなフルーティな香りを放つ。
この香りは蜜酒に独特の風味を与え、飲み手の記憶に残る上質な仕上がりを約束する。王都の貴族の好みや市場の流行を考慮したうえで、力を尽くして完成させたのだ。
エアルフラワーはまた、環境への適応力にも優れていた。やせた土地や日照時間が少ない地域でも元気に育ち、土壌の栄養を活性化させる働きがあるため、農地としても土地の回復を助ける効果がある。
このため、蜜酒生産だけでなく、辺境伯領の農業全体にも恩恵をもたらす可能性を秘めていた。
まだ改良の余地は残っているけど、きっと役に立つ。
すぐに手配を始めた。
試験栽培用の種子と既存の花を急いで集め、可能な限り迅速に領地へ届ける計画を立てた。
その際、スヴェイン様のご両親に慎重に手紙を添え、蜜酒職人たちには、エアルフラワーを使った新たな蜜酒の製造方法を記した手紙を送った。
同時に取引相手へ説得の手紙を送った。その内容は、蜜酒の魅力を再認識させ、新たな供給を楽しみにしてもらうものであった。
「早くて2か月くらいかしら。きっとこれで大丈夫」
*****
スヴェイン様とのお茶会の日。紅茶の香りが漂う中、何気ない会話を楽しんでいると、スヴェイン様がふと微笑みながら言った。
「そういえば、最近父から手紙が来たんだ。蜜酒の取引がまた順調になったらしい」
「それはよかったですわ。やはり蜜酒は、辺境伯家の誇りですものね」
「ああ、心配していたがよかった。何でも新種の花を使い、新しく開発した蜜酒が、以前の物より好評だそうだ。あと、母が、レティに会いに来るとも書いてあった。すまないが相手をしてもらってもよいだろうか?」
「お義母様が? ええ、もちろんですわ。楽しみです」
数日後、お義母様とお茶を楽しむこととなった。鮮やかに咲き誇る花々は陽光を受けて輝き、柔らかな風がその香りを運んでくる。テーブルには、繊細な装飾が施されたティーセットと、甘い香りの焼き菓子が並び、優雅な雰囲気が漂っていた。
「レティちゃんのおかげで、新酒の供給も少しずつ安定してきたわ」
お義母様はカップを手に取りながら、柔らかな笑みを浮かべてそう言った。その穏やかな声に込められた感謝の念が、胸に染み渡る。
「少しはお役に立てたようで嬉しいですわ」
控えめに微笑みながら答えると、お義母様はカップをそっと置き、やや真剣な表情に変わった。
「少しだなんて……でもいいの? スヴェインに何も伝えなくて。あの子も辺境伯家の人間として、あなたに感謝しなきゃいけないのに」
その言葉に、ふっと目を伏せ、静かに首を振った。
「お力になりたいだけですの。気を遣われると悲しいので、内緒にしてください」
お義母様はしばらく私を見つめ、やがて小さくクスッと笑った。
その笑みはどこか優しくも含みを持ったものだった。
「きっと、レティちゃん、他にもスヴェインのためにいろいろと動いてくれているのでしょう? 本当、鈍感な息子でごめんなさいね」
その言葉に、内心でドキリとした。お義母様の洞察力は鋭い。彼女の動きがすべて見透かされているような気がしたが、表情には出さず、急いで否定した。
「いいえ! 私が勝手にやっていることですので……」
「ふふ。でも、代わりにお礼を言わせて。いつもありがとう。まあ、うちの男どもは基本鈍感なのだけど……息子が何も気づいていないのは見ていて腹が立つわ。でもね、かわいい未来の娘であるあなたが無理するのも気がかりだから、時々お話をしましょう?」
「嬉しいですわ」
お義母様の言葉には、深い信頼と優しさが感じられた。心が、その温かさに包まれるようだった。
「息子は幸せ者ね。きっといい結婚生活になるわ」
ええ、もちろん幸せにします!!
お義母様との間に柔らかな笑みが交わされる。
庭園を吹き抜ける風が、花々を軽やかに揺らし、蜜蜂がその間を忙しなく飛び回る。時が緩やかに流れる中、二人で穏やかなひとときを共有した。
辺境伯家が治める地域で、珍しい特産品「蜜酒」の交易が突然滞るという問題が起きた。
取引相手が「品質が落ちた」と言い出したことが原因らしい。
「最近、辺境からの蜜酒が王都に届かないようですが、どうかされたのでしょうか?」
何気なく話題を振ると、スヴェイン様は、少し考え込むように顎に手を当てた。
「辺境の名産である蜜酒のことか? 特に相談はないが、……確かに最近見かけないから何かあったのかもしれない。心配だ」
スヴェイン様は隊長としての任務に追われ、詳しい事情を知る余裕はなさそうだった。
しかし、これは婚約者の実家に関わる一大事。なんとかせねばと胸の内で決意する。
調べを進めると、問題の原因が浮かび上がってきた。
蜜酒の品質低下は、蜜源である花の品種が、昨年の嵐で失われたことによるものだった。現地では代用品として別の花を使っているが、香りが違うために取引相手が納得していないという。
「それなら話は簡単ね」
以前から品種改良している新種の花がある。それは「エアルフラワー」と名付けたもので、辺境伯領の過酷な自然環境を考慮して特別に開発している品種だった。
エアルフラワーは、寒さに強く、厳しい冬を越えるための耐寒性を備えている。従来の蜜源となる花が嵐や霜害に弱く、毎年のように減産を余儀なくされていたため、その弱点を補う目的で開発した。
さらに、この花は成長が早く、種をまいてから花が咲くまでの期間が通常の花の半分程度で済むため、緊急時にも迅速に対応できる特性を持つ。
ただ寒さに強いだけではない。エアルフラワーの最大の特徴は、その香りだ。通常の蜜源の花に比べ、甘さに深みがありながらも爽やかなフルーティな香りを放つ。
この香りは蜜酒に独特の風味を与え、飲み手の記憶に残る上質な仕上がりを約束する。王都の貴族の好みや市場の流行を考慮したうえで、力を尽くして完成させたのだ。
エアルフラワーはまた、環境への適応力にも優れていた。やせた土地や日照時間が少ない地域でも元気に育ち、土壌の栄養を活性化させる働きがあるため、農地としても土地の回復を助ける効果がある。
このため、蜜酒生産だけでなく、辺境伯領の農業全体にも恩恵をもたらす可能性を秘めていた。
まだ改良の余地は残っているけど、きっと役に立つ。
すぐに手配を始めた。
試験栽培用の種子と既存の花を急いで集め、可能な限り迅速に領地へ届ける計画を立てた。
その際、スヴェイン様のご両親に慎重に手紙を添え、蜜酒職人たちには、エアルフラワーを使った新たな蜜酒の製造方法を記した手紙を送った。
同時に取引相手へ説得の手紙を送った。その内容は、蜜酒の魅力を再認識させ、新たな供給を楽しみにしてもらうものであった。
「早くて2か月くらいかしら。きっとこれで大丈夫」
*****
スヴェイン様とのお茶会の日。紅茶の香りが漂う中、何気ない会話を楽しんでいると、スヴェイン様がふと微笑みながら言った。
「そういえば、最近父から手紙が来たんだ。蜜酒の取引がまた順調になったらしい」
「それはよかったですわ。やはり蜜酒は、辺境伯家の誇りですものね」
「ああ、心配していたがよかった。何でも新種の花を使い、新しく開発した蜜酒が、以前の物より好評だそうだ。あと、母が、レティに会いに来るとも書いてあった。すまないが相手をしてもらってもよいだろうか?」
「お義母様が? ええ、もちろんですわ。楽しみです」
数日後、お義母様とお茶を楽しむこととなった。鮮やかに咲き誇る花々は陽光を受けて輝き、柔らかな風がその香りを運んでくる。テーブルには、繊細な装飾が施されたティーセットと、甘い香りの焼き菓子が並び、優雅な雰囲気が漂っていた。
「レティちゃんのおかげで、新酒の供給も少しずつ安定してきたわ」
お義母様はカップを手に取りながら、柔らかな笑みを浮かべてそう言った。その穏やかな声に込められた感謝の念が、胸に染み渡る。
「少しはお役に立てたようで嬉しいですわ」
控えめに微笑みながら答えると、お義母様はカップをそっと置き、やや真剣な表情に変わった。
「少しだなんて……でもいいの? スヴェインに何も伝えなくて。あの子も辺境伯家の人間として、あなたに感謝しなきゃいけないのに」
その言葉に、ふっと目を伏せ、静かに首を振った。
「お力になりたいだけですの。気を遣われると悲しいので、内緒にしてください」
お義母様はしばらく私を見つめ、やがて小さくクスッと笑った。
その笑みはどこか優しくも含みを持ったものだった。
「きっと、レティちゃん、他にもスヴェインのためにいろいろと動いてくれているのでしょう? 本当、鈍感な息子でごめんなさいね」
その言葉に、内心でドキリとした。お義母様の洞察力は鋭い。彼女の動きがすべて見透かされているような気がしたが、表情には出さず、急いで否定した。
「いいえ! 私が勝手にやっていることですので……」
「ふふ。でも、代わりにお礼を言わせて。いつもありがとう。まあ、うちの男どもは基本鈍感なのだけど……息子が何も気づいていないのは見ていて腹が立つわ。でもね、かわいい未来の娘であるあなたが無理するのも気がかりだから、時々お話をしましょう?」
「嬉しいですわ」
お義母様の言葉には、深い信頼と優しさが感じられた。心が、その温かさに包まれるようだった。
「息子は幸せ者ね。きっといい結婚生活になるわ」
ええ、もちろん幸せにします!!
お義母様との間に柔らかな笑みが交わされる。
庭園を吹き抜ける風が、花々を軽やかに揺らし、蜜蜂がその間を忙しなく飛び回る。時が緩やかに流れる中、二人で穏やかなひとときを共有した。
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