【完結】これをもちまして、終了とさせていただきます

楽歩

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31.支配の宣告

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 side ルシアーナ



「に、偽物よ!」



 サラ様が一歩、こちらへ踏み出した。震える指先がまっすぐアンヌを指し、必死に自分を保とうとしているのが痛いほど伝わる。


 その瞳には怯えと怒りが入り混じり――追い詰められた獣のようにぎらつく光が宿っていた。



「サラ様は知らないでしょうが――」

 私はゆっくりと扇を閉じた。ぱちん、と軽やかな音がやけに響く。視線を逸らさず、静かに言葉を重ねた。



「女神の使徒二人の紋章は、大きさも色も同じなのです。私とアンヌは赤。それに対し、あなたの紋章は小さすぎますし……色も黒。明らかに異なりますわ」


 ざわ、と空気が揺れる。

 家臣たちの間から、押し殺したような息が漏れた。



「じゃ、じゃあ……二人とも偽物よ!」

 裏返った声。その焦りと必死さが、かえって哀れみを誘う。


「それに、私は本当に異世界から来たの! この国で私のことを知っている人なんて、誰もいないんだから!」


 “この国で私のことを知っている人なんて、誰もいない” その叫びに、一瞬だけ胸がちくりとした。


 ――けれど。


「“悪しき声が聞こえる”でしたわね」


 穏やかに言葉を落とす。サラ様の肩が、びくりと跳ねたのが見えた。


「……な、何のことよ」

 掠れた声。視線がさまよう。


「ふふ、嫌ですわ。あなたの力のことです。範囲は不明ですが、この部屋ほどの広さなら問題ないでしょう。そうですね、私が言っても、ごまかしされた思われるだけ。ですから国王陛下と王太子殿下にお願いいたしましょう」

「は?」


 サラ様の目が大きく開く。

 私はゆるやかに一礼し、玉座のほうへ向き直った。



「では、お二方。誰にも聞こえぬように、私の悪口をおっしゃってくださいませ」


 広間に、音のない静寂が落ちた。


「なぜ、そのようなことを……」

 王太子が眉を寄せ、不審そうに声を落とす。


『偽りの女神の使徒を探し出すために、力を貸しなさい』

「くっ……!」


 私が言葉を発すると、二人の目が怯えで揺れ、唇を噛んで後ずさった。王と王太子が互いに顔を寄せ、唇を隠しながら短く囁く。


 音は聞こえない。

 しかし何かが交わされたのは、誰の目にも明らかだった。



「さあ、サラ様。なんと聞こえましたか?」


 私の声が静寂を切り裂く。

 サラ様の唇が開いては閉じ、視線が泳ぐ。喉がかすかに鳴った。



「た、民を誘拐したことはあるまじき行為、そう言いましたわ」

 震える声。助けを求めるような瞳。



「さて、お二人はなんとおっしゃいましたか?」

 数秒の沈黙。そして王太子が低く呟いた。



「……何も言っていない。声が出なかった」

 その言葉が落ちた瞬間、広間が爆ぜたようなどよめきに包まれた。ざわめきが波紋のように押し寄せ、徐々に大きくなる。


「な、何も言っていない……? そんな、そんなはず……!」

 サラ様は信じられないとばかりに首を振る。乱れた髪が頬に貼りつき、紅い唇がわななく。玉座の上の王が、ついに怒りに燃える瞳を見開いた。


「サラ、貴様、偽物だったか!!」


 怒号が、空気を震わせた。

 サラ様の顔から血の気が引き、唇が小刻みに震えた。



「ちがう! 心の声が聞こえ――! 私は女神に選ばれたのよ! あの日、泉に――!」

「ええい、うるさい!」

 もはや何を言っているのか分からないサラ様と怒りのままに声を上げる王。


 私は静かに一歩前へ出た。


「あなたが“異世界の使徒”を名乗ったのは、きっと誰かの囁きに導かれたのでしょう。でも、その声は女神ではない。あなたを選んだのは、“別の存在”ですわ」

「やめて……やめてよ!」


 サラ様が叫んだ。悲鳴に近い声。瞳の奥では、恐怖と絶望が渦を巻き、足がふらつきながら後ずさった。

 絨毯を擦る足音が、響く。



「私は……私は本当に、選ばれたの……!」

 涙に濡れた声が崩れ落ちた瞬間、王が立ち上がり、拳を振り下ろすように命じた。


「王を欺いたサラを、牢へ連れて行け!」

「お待ちください、陛下! 冷静に――!」

 宰相の制止も虚しく、怒りの炎は燃え上がるばかりだった。



「宰相、貴様も知っていたな!」

 王の一言に、広間の温度が一気に凍りつく。



「紋章の偽造など、サラ一人でできるはずもない。“別の存在”、貴様か!! 誰か、宰相も共に連れて行け!」

「なっ――! 陛下、どうか、それだけは――!」


 宰相の哀れな叫びは、すぐに兵士たちの影に飲まれた。重たい扉が閉まると同時に、鉄の鎖の音が遠くで響く。


 残された家臣たちは、宰相と懇意にしていた者たち。先ほどの宰相の姿と自分を重ね合わせたのであろうか、全く微動だにせず王の様子をうかがっていた。








 
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