特別特務訓練生の憂鬱

Naru

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1.朝からうるさい

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睡眠時はよく夢を見る
うなされることは無いらしいが、
あまり見たくもない子供時代の夢

そんな夢から逃げるように目を覚ます

アラームが無くても決まった時間に起きれるのが、俺の数少ない特技の一つ
起きた時間は早朝6:00あくびをしながらゆっくり起き上がる

部屋には何も無い
あるのは寝る際に使っていた寝袋だけ
寝袋を綺麗に丸めて大の字に寝転ぶ
2度寝ではない、
意識をクリアにして精神を落ち着ける。

一時間程ぼーっと過ごしてから家を出る
無駄な時間ではなく、
必要な時間だと自分に言い聞かせ、鍵をかけたあと、鍵をポストの中にいれ、マンションの一室を後にする。

マンションに向かって
「お世話になりました」
と頭を下げて180度振り返り歩みを進める


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

道路を歩いていると
近くのコンビニエンスストアからガラスの割れる音と女性の悲鳴が上がる

今時なにも珍しい事ではない
どちらかと言うとコンビニエンスストア
が建っていることの方が今のご時世珍しい
ちなみに俺はマンションから唯一近場にあるこのコンビニエンスストアをよく利用させてもらっていた。

目的地に行くまでに少し距離があるのて、
お茶でも買おうかとした矢先にこれだ
ため息しかでない。

しかもあろうことか男が現金を握りしめながらなんとこっちに向かってくる
ここで男を返り討ちにしても
ヒーローなんてなれるわけもない
これは日常なんだ、、、、、

「どけぇ!クソガキ!!」
男は現金を握りしめた逆の右手でナイフを振り回しながらこっちにむかってくる

その後ろで女の子が
「お願い、そいつを捕まえて!!」
と俺に向かってか声をあげながら向かってくる

そこで自問自答
朝に意識はクリアにしている。
何故俺が捕まえないといけないんだ?
捕まえた場合のメリットは?
ましてや刃物を持っている相手に怪我するリスクと天秤にかけた場合、、、

当然道をあけるに決まってる
君子危うきに近寄らずと
昔の偉い人も言っているしな。

半歩横にずれ、どうぞご自由に逃げて下さいと言わんばかりのジェスチャーを相手に促す。

走ってくる男も理解したのか
ニヤリと笑みを浮かべ横を通りすぎる

その気を抜いた一瞬がまさに足元をすくわれたと格言をあらわす
俺の横を通りすぎる際に
縁石に躓いて男は転ぶ
ただただ躓いた事を認識して、
即座に起きようとするも、
起き上がれず男自身もパニックとなり、後ろから追ってきた女の子が
身長と同寸法の棒を男の頭の横に置いて
男は観念したようだ。


「あ~ぁ、お金をばらまいちゃってバチが当たるぞ」
俺はそう呟きながらその場を後にする

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「ちょっと待ちなさいよ」
後ろからそう声が聞こえる
まぁ俺に向けられた声ではないだろうと判断し、歩みを進める
「待ちなさいってば!!」
今度は至近距離で声をかけられ
肩をつかまれる
振り向いてみると先ほどの女の子だった
髪はポニーテール
キリッとした顔立ちに
体つきは程よい筋肉
これも男の性(さが)なのか、
ついつい外見から女の子を見てしまう

「何かようだろうか?」
ひょっとして一目惚れでもしてくれたのかと内面密かに期待してしまったのも男の性
そんな期待とは裏腹に浴びせられたのは
次々とくる罵声

「さっきはたまたま男が転んだからいいものの、貴方はへらへらと道を譲り、私の捕まえてという声に反応しながらも全く捕まえる気もなく、それでも男なの!?犯罪行為を見逃すのはそれ事態が犯罪なのよ!!」

都合のいい男女差別発言や
自己都合の正義感を押し付けてくるこの女の子
容姿は悪くないのだが、よくとおる声量や高さなだけにああ、、、、朝からうるさい、、、

「あそこで例え犯罪者の捕獲に動いたとしても、今のご時世珍しくもないし、きりがない
相手も刃物を持っていたし、貧弱な俺としては道を譲るしかなかったんだよ、何より捕まえても何のメリットもない」

その言葉を聞いて女の子は更に顔を赤くして続く罵声が現在進行形で続いているので、
罵声を後ろに歩みを進める

最後に大きな声で
「あんたそんな考えじゃ人生つまんないわよーーーー!!」

初対面で人生の否定とは失礼にも程がある
俺は俺の生きたいようにこの時代を生きていくだけだ


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「おら、さっさと立って歩け!!」
強面の警官に引きずられながら男は立ち上がり、左足を引きずるように歩く

「縁石に躓くなんてバカなやつだ、
おまけに足を怪我するなんてとんだマヌケだな」

先ほどコンビニエンスストアから現金を盗もうとした男は怒り心中だった
相手は罵声を浴びせる警官にではない


くそっ、くそっ、あのクソガキが!!
引きずっている左足は縁石に躓いての怪我ではない。
縁石に躓いたのは確かだが、
それだけなら男はすぐに起き上がり逃げ切れていたはずだった。

縁石から視界をそらすように誘導された事
縁石に躓く際に脛(すね)を蹴られ
すぐに立ち上がれなかったこと、
あのクソガキ、次会ったら今度はナイフで切り刻んでやる、、、
そう心に誓いながらも、男は警官に引きずられていく。





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