六華 snow crystal 3

なごみ

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海におちる雪

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*有紀*

『海におちる雪』           谷  修平


ペンネームは名前が修二から修平に変えられただけ。


タイトルが北海道らしくてなんとなくステキ。


帰宅して夕食の準備もせずに、谷さんがくれた本を読みふける。


報われぬ恋に悩む女の子に片思いしてしまった主人公の恋愛小説。


かなり設定は違うものの、どうしても佐野さんへの想いに悩む私と、その相談役をしている谷さんのように思えてしまう。


谷さんから、とてつもなく長いラブレターをもらったような気分になり、胸が熱くなる。


” どんなに、どんなに想い続けても、君の心には少しも届かないんだね ,,


感情移入をしすぎたせいか、主人公が女の子に寄せる熱い想いに涙が止まらなかった。


ボロボロに泣いていたら、九時半を過ぎていた。もうすぐ遼介が帰ってくる。


慌てて涙を拭いて鼻をかみ、味噌漬けにしておいた豚肉を焼いた。


今朝作って余っていたお味噌汁をカップに入れ、作りおきのピーマンのマリネ、イカと大根の煮物などを出しておいた。


なんとなくまだ遼介とは顔を合わせたくなくて、帰宅前に寝室へこもるようになった。


遼介の説得には応じたくないのと、自分でもどうしていいのかまだ決められずにいることもあって、話し合いは持ちたくなかった。


話し合うにはまだ早すぎるから。







谷さんに、本の感想をどう伝えよう。


黙っているのも失礼だし、内容が自分のことだと思うと、感動したなんて言うのも気恥ずかしい。


正直にボロボロに泣きましたと言ったら、なんて思うのかな?


今さら恥ずかしがるようなことでもない。私とのことは過去のことで、谷さんはもう麗奈さんに夢中なんだから。


夜勤者への申し送りも済み、残業になりそうな日勤者もいないので、タイムカードを押して一階へ降りた。


薬局の中をチラリと覗く。


谷さんいないのかな?


中へ入ろうかどうか迷っていたら、


「有紀ちゃん、何してるんだい?」


突然、後ろから谷さんに声をかけられた。


「わーーーっ!!、、、びっくりした~」


思わず、のけぞって驚く。


「ぷっ、あはははっ!!  有紀ちゃんって、どうしてそんなに面白いんだい?」


私のリアクションに谷さんが馬鹿ウケしている。


「なにが面白いのよっ!  突然後ろから声かけられたら誰だって驚くでしょ」


「クククッ、でも、なんかちがうんだよなぁ、他の人とは。有紀ちゃんって、いつも想像もつかないような反応してくるから楽しくて。薬局に寄ってくれたのかい?  僕のこと探してた?」



「あ、うん、、本のお礼を言おうと思って。すごく面白かった。昨日帰ってから一気に読んじゃった。谷さんってやっぱり才能があるのね」


「僕には才能ないよ。あれって、ほぼノンフィクションだからさ。だから書けたんだよ。有紀ちゃんにもわかっただろう?」


谷さんに見つめられてドキドキする。


” え~っ?   わかんない ” なんて可愛らしくとぼけられたら良かった。


「……や、やっぱりそうなの。じゃあ、出演料をもらわないとね。印税の半分ちょうだいよ!」


どうしてもっと可愛らしいことが言えないんだろ。


「アハハハッ、あ~   楽しい。じゃあ、晩ご飯食べに行こうよ。毎日、印税分を奢るよ」


「結構です!  冗談だってば。じゃあ、またね」



「え~っ、もう帰っちゃうのかい?  」


谷さんからほのかにコロンの香りがただよった。そういえば、いつもこんなステキな香りがしていた。今まで気づかなかったけれど。


「共働きの主婦は忙しいんです!  これからスーパーに寄って夕飯を作んなきゃいけないんだから」


所帯染みたことを言ってしまって、ちょっと後悔した。


「そうかぁ。毎日有紀ちゃんの手料理を食べられる佐野が羨ましいなぁ」


「もうすぐ麗奈さんの手料理が食べられるじゃないの。とってもおしゃれで、レストランで食べるようなお料理が出てくるはずよ。食べ過ぎてメタボにならないようにね」


二人の素敵な夕食の風景を想像して、なんとも言えない寂しさを感じた。


「有紀ちゃんの焼いた塩サバの方がいいな」


以前の食堂での会話を思い出したかのように言った。


「失礼ね、塩サバしか焼けないと思ってるでしょ!」


「思ってないよ、そんなこと。塩鮭だって焼けるんだろ?  ハハハッ!」


「わ~~  下手なジョーク。じゃあね」


ムスッと嫌味を言って、手を振った。


「アハハハッ、有紀ちゃん、明日も帰りに寄って」


笑ってそう言った谷さんに、振り返ってベェーと舌を出した。


クスクス笑っている谷さんを残して、ロッカールームへ向かった。


なにがノンフィクションよ。現実のふたりの会話にロマンチックなことなんて、少しもなかったじゃないの。



ーー小説の方がずっと素敵だった。









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