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俺たちやりなおそう
しおりを挟む*遼介*
有紀はまたLINEを見せろと言うだろうか。
彩矢ちゃんと松田先生のことが心配でいても立ってもいられず、昼休みに電話した。
呼び出し音が二度鳴った後、「はい……」と言う、彩矢ちゃんの小さな声が聞こえた。
「あ、彩矢ちゃん、さっきはごめん。俺のせいであんなことになってしまって……」
「……ううん、佐野さんだけのせいじゃない。私が甘えすぎていたから」
沈んだ彩矢ちゃんの声に心が痛む。
「松田先生はなんて? 俺たちのこと誤解していると思うけど、納得してもらえたのかい?」
「今はまだ冷静に話を聞けないんだと思うの。時間がたてば理解してくれるかも知れないけど。プライドの高い人だから……」
当然だろう。
あの状況では、どんな言葉で弁解したところで、納得など出来るはずもない。
「本当にごめん。俺でなにか出来ることがあったら言って」
「ありがとう。佐野さん」
「うん、じゃあ」
大丈夫とは言えないけれど、彩矢ちゃんは冷静で落ち着いているようだったので、取りあえず安心する。
離婚なんてことに、ならなければいいけれど。
俺と有紀はどうなるのかな。有紀は本当に離婚なんて考えているのかな。
最近はいつでも家に帰ると先に寝てる。眠ってはいないのかもしれないけれど、俺とは顔を合わせたくないという感じだ。
彩矢ちゃんとのことがまだ許せないのだろうか。もしかして、谷さんがもうすぐ結婚するということがショックなのか。
とにかく、そんな事で離婚なんて。
俺と彩矢ちゃんは別に、深い関係になっているわけでもないんだから。
有紀も松田先生も俺たちの関係を誤解している。だけどそれを証明なんて出来るわけもない。
いつもより少し早めに帰宅したら、有紀はソファに座ってリビングにいた。
「ただいま」
「おかえり」
表情は暗いけれど、リビングで待っていてくれたということは、少しは気持ちも落ち着いたということか。
有紀は味噌汁をあっためて、ご飯をレンジに入れた。
とんかつにミックスサラダや煮物など、ちょこまかと色々なお惣菜がテーブルに並んでいたが、出来合いのものばかりだった。
仕事で疲れて食事を作る気力なないのか。疲れてなくても、もう手料理など振る舞うつもりがないのかも知れない。
有紀は食事を用意すると、またソファに腰をおろして読みかけの本を読みだした。
手を洗って、一人寂しく食事をとる。
衣の厚い惣菜のとんかつはあまり美味しくなかった。だからといって文句も言えず、最近太って来たような気がして衣を剥がし、薄い豚肉だけを食べる。
食べ終えた食器をシンクに下げ、残ったおかずを冷蔵庫へしまう。
有紀がシンクの食器を洗い始めたので、風呂に入ろうと思ったけれど、先に寝てしまわれそうな気がして、ソファに腰掛けた。
有紀が読んでいた単行本をなにげなく見る。
谷 修平?
聞いたことのない作家だけれど、谷さんの名前に似ている。まさか谷さんじゃないよな?
有紀の目を盗んで、裏に書かれている作家のプロフィールを見た。
慶應大学薬学部卒。第27回○○○小説新人賞受賞、、
有紀が食器を洗い終えたようなので、慌てて閉じ、置いてあった場所へ戻した。間違いなく、谷さんが書いた本に違いない。
多才なんだな、谷さんは。
有紀が好きになるのも無理もないと思った。
だけど、谷さんは秋には結婚すると言っていた。それなら俺と別れる必要はないように思う。
有紀がなにを考えているのか、さっぱりわからなかった。
歯磨きを終えて、寝室へ行こうとしていた有紀を呼び止めた。
「有紀! ちょっと、話できないかな? 頼むから話を聞かせて欲しいんだ。俺はどうすればいいんだよ。どうして欲しいんだよ。もう手遅れなのか?」
有紀が立ち止まって無表情に振り向き、ソファに座っている俺の横に腰をおろした。
ジッとただ俯いているだけの有紀。いつも、言いたいことを言って、ケラケラ笑っている明るい有紀しか知らなかったのに。
「有紀の気持を聞かせてくれよ。俺たちまだやりなおせるだろう? 直して欲しいところ言って欲しいんだ。できる限りの努力はするから、頼むよ、有紀」
「……だって私たち、最初から間違ってたんだもん。結婚なんてすべきじゃなかったの。私が余計な事して彩矢と子供から遼介を奪っちゃったの」
「俺は後悔なんてしてないよ。有紀と夫婦になれて良かったってずっと思って来たよ。子供のことや失業とか有紀には本当に嫌な思いをさせたけど、だけどそんなことで離婚って、そんなものだったのか、俺たち?」
「…………」
有紀はなにも答えずにうつむいたままだった。
「あんなに幸せだったじゃないか。これからだって幸せになれるよ。前よりももっと」
「前よりも幸せなんて無理」
有紀が小声で力なく呟く。
「俺たちは俺たちで幸せになろう。有紀には関係のないことで悲しい思いをさせてた。謝るよ。俺も変わるから」
「……遼介は彩矢と子供のところに行きたかったんだって思ってたの。私に遠慮して行けないんだって。そう思うと悲しくて苦しかった」
「子供はいつか親から離れて行くだろう。俺が一緒に暮らしていたいのはおまえだから、有紀、信じてくれ」
「遼介……」
やっぱり、ずっと言えない不安があったんだな。無理もないけど、ごめん、有紀。
俺たち本当に幸せになろう。
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