六華 snow crystal 3

なごみ

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俺たちやりなおそう

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*遼介*


有紀はまたLINEを見せろと言うだろうか。


彩矢ちゃんと松田先生のことが心配でいても立ってもいられず、昼休みに電話した。


呼び出し音が二度鳴った後、「はい……」と言う、彩矢ちゃんの小さな声が聞こえた。


「あ、彩矢ちゃん、さっきはごめん。俺のせいであんなことになってしまって……」


「……ううん、佐野さんだけのせいじゃない。私が甘えすぎていたから」


沈んだ彩矢ちゃんの声に心が痛む。


「松田先生はなんて?  俺たちのこと誤解していると思うけど、納得してもらえたのかい?」


「今はまだ冷静に話を聞けないんだと思うの。時間がたてば理解してくれるかも知れないけど。プライドの高い人だから……」


当然だろう。


あの状況では、どんな言葉で弁解したところで、納得など出来るはずもない。


「本当にごめん。俺でなにか出来ることがあったら言って」


「ありがとう。佐野さん」


「うん、じゃあ」


大丈夫とは言えないけれど、彩矢ちゃんは冷静で落ち着いているようだったので、取りあえず安心する。


離婚なんてことに、ならなければいいけれど。






俺と有紀はどうなるのかな。有紀は本当に離婚なんて考えているのかな。


最近はいつでも家に帰ると先に寝てる。眠ってはいないのかもしれないけれど、俺とは顔を合わせたくないという感じだ。


彩矢ちゃんとのことがまだ許せないのだろうか。もしかして、谷さんがもうすぐ結婚するということがショックなのか。


とにかく、そんな事で離婚なんて。


俺と彩矢ちゃんは別に、深い関係になっているわけでもないんだから。


有紀も松田先生も俺たちの関係を誤解している。だけどそれを証明なんて出来るわけもない。


いつもより少し早めに帰宅したら、有紀はソファに座ってリビングにいた。


「ただいま」


「おかえり」


表情は暗いけれど、リビングで待っていてくれたということは、少しは気持ちも落ち着いたということか。


有紀は味噌汁をあっためて、ご飯をレンジに入れた。


とんかつにミックスサラダや煮物など、ちょこまかと色々なお惣菜がテーブルに並んでいたが、出来合いのものばかりだった。


仕事で疲れて食事を作る気力なないのか。疲れてなくても、もう手料理など振る舞うつもりがないのかも知れない。


有紀は食事を用意すると、またソファに腰をおろして読みかけの本を読みだした。


手を洗って、一人寂しく食事をとる。




衣の厚い惣菜のとんかつはあまり美味しくなかった。だからといって文句も言えず、最近太って来たような気がして衣を剥がし、薄い豚肉だけを食べる。


食べ終えた食器をシンクに下げ、残ったおかずを冷蔵庫へしまう。


有紀がシンクの食器を洗い始めたので、風呂に入ろうと思ったけれど、先に寝てしまわれそうな気がして、ソファに腰掛けた。


有紀が読んでいた単行本をなにげなく見る。


谷  修平?


聞いたことのない作家だけれど、谷さんの名前に似ている。まさか谷さんじゃないよな?


有紀の目を盗んで、裏に書かれている作家のプロフィールを見た。


慶應大学薬学部卒。第27回○○○小説新人賞受賞、、


有紀が食器を洗い終えたようなので、慌てて閉じ、置いてあった場所へ戻した。間違いなく、谷さんが書いた本に違いない。


多才なんだな、谷さんは。


有紀が好きになるのも無理もないと思った。


だけど、谷さんは秋には結婚すると言っていた。それなら俺と別れる必要はないように思う。


有紀がなにを考えているのか、さっぱりわからなかった。





歯磨きを終えて、寝室へ行こうとしていた有紀を呼び止めた。


「有紀! ちょっと、話できないかな?  頼むから話を聞かせて欲しいんだ。俺はどうすればいいんだよ。どうして欲しいんだよ。もう手遅れなのか?」


有紀が立ち止まって無表情に振り向き、ソファに座っている俺の横に腰をおろした。


ジッとただ俯いているだけの有紀。いつも、言いたいことを言って、ケラケラ笑っている明るい有紀しか知らなかったのに。


「有紀の気持を聞かせてくれよ。俺たちまだやりなおせるだろう?  直して欲しいところ言って欲しいんだ。できる限りの努力はするから、頼むよ、有紀」


「……だって私たち、最初から間違ってたんだもん。結婚なんてすべきじゃなかったの。私が余計な事して彩矢と子供から遼介を奪っちゃったの」


「俺は後悔なんてしてないよ。有紀と夫婦になれて良かったってずっと思って来たよ。子供のことや失業とか有紀には本当に嫌な思いをさせたけど、だけどそんなことで離婚って、そんなものだったのか、俺たち?」


「…………」


有紀はなにも答えずにうつむいたままだった。


「あんなに幸せだったじゃないか。これからだって幸せになれるよ。前よりももっと」



「前よりも幸せなんて無理」


有紀が小声で力なく呟く。


「俺たちは俺たちで幸せになろう。有紀には関係のないことで悲しい思いをさせてた。謝るよ。俺も変わるから」


「……遼介は彩矢と子供のところに行きたかったんだって思ってたの。私に遠慮して行けないんだって。そう思うと悲しくて苦しかった」


「子供はいつか親から離れて行くだろう。俺が一緒に暮らしていたいのはおまえだから、有紀、信じてくれ」



「遼介……」


やっぱり、ずっと言えない不安があったんだな。無理もないけど、ごめん、有紀。


俺たち本当に幸せになろう。











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