六華 snow crystal 3

なごみ

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谷さんと食堂で

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*有紀*

午前中の仕事を終え、階段を登って食堂へ向かっていたら、一階から駆け上がって来た谷さんに肩を叩かれた。


「有紀ちゃん、これからランチかい?」


「わっ、谷さん! 」


もう忘れようと思っても、胸がドキドキした。やっぱり、まだ谷さんが好きなんだな、私。


「なんか、久しぶりだなぁ、この頃は帰りに寄ってくれないし、」


「帰りは麗奈さんが迎えに来てくれるでしょ。私の出る幕じゃないもん」


そう、結婚の邪魔してるなんて思われたくないし。


「一日一回は有紀ちゃんと話がしたいんだよ。最近はお昼だって病棟のナース達と食べてるだろう。僕、小心者だから看護師さんが沢山いるテーブルには怖くて近づけないからさ」


「よく言うよね、プレイボーイのくせに女が怖いわけ?」


「プレイボーイはないだろう。それって、有紀ちゃんの思い込みだよ。僕は誰とだって、真面目な気持ちで付き合ってたつもりなんだけどな」


「確かにプレイボーイではないかもね~  女の子の方が放っておかなかったんでしょう?   追いかけまわすってタイプではないもんね」


食堂のドアを開け、自販機でメニューを選ぶ。日替わりランチAはお肉で、Bはお魚のメニュー。Aのとんかつ定食に決めて、食券を購入する。


「じゃあ、僕もAセットにしようかな」


配膳されたAセットのトレイを持って、谷さんと空いているテーブルに座った。


病院でランチを一緒に食べるくらいなら、麗奈さん許してくれるよね。



「結婚の準備は進んでる?  新居はもう決まったんでしょう。どこに住むの?」


「……うん、麗奈ちゃんのお父さんが円山にマンションを買ってくれてね。なんか肩身が狭くてさ、僕の収入で暮らせるところが良かったんだけどな」


本当に憂鬱そうな顔をして谷さんは言った。
男の人の気持ちって、よくわからないけれど。


「だってお金持ちなんでしょう。可愛い娘が結婚するんだもの、親はマンションくらい買ってあげたいじゃない。遠慮なんてすることないわよ。でも円山かぁ~  さすがねぇ」


豚カツの横についているレモンを絞って、ソースをたっぷりとかけた。


「うん、美味しい~  豚カツって最高!」


最近家で揚げものをしなくなったので、久しぶりのサクサク豚カツは美味しかった。


「有紀ちゃんはいつでも美味しそうにご飯食べるよね。有紀ちゃんの食べてるとこ見ているだけで、なんか幸せな気分なるんだよなぁ」


谷さんはそう笑ってお味噌汁をひと口飲んだ。


「またぁ。麗奈さんと食事してるときは、どんなにのぼせた顔してるのか一度見てみたいな。今が一番幸せなときよね。新婚旅行はどこに行くの?」


「麗奈ちゃんがロシアに行ってみたいってさ、僕は着いてくだけ」


「ロシア!  いいなぁ」


夢見るようにうっとりしていたら、静かに見つめる谷さんと目があってドキッとする。


「た、谷さんは行きたくないの? ロシアに」


「えっ、いや、エルミタージュ美術館はちょっと楽しみだな。ど、どうしてだい?」


めずらしく、谷さんが動揺して焦っているように見えたので驚いた。


「どうしてって、浮かない顔ばかりしてるからよ。どうしたの?  体調でも悪いの?」


谷さんは食欲もないのか、豚カツさえもあまり食べたくなさそうに、口に運んだ。


「……そうか、浮かない顔なんてしてたんだな。気づかなかったよ」


「谷さん、疲れてる?  結婚式の準備大変なんじゃない?」


私たちのような庶民の結婚式とは規模が違うのだ。著名な方々まで招待するのだから、なにかと大変そう。


そういえば、最近少し痩せたような気もする。


大金持ちより、小金持ちくらいが一番幸せと聞いたことがあるけれど、気苦労が絶えないのだろうな、きっと。


「ありがとう、心配してくれて。有紀ちゃんと食事してたら、少し元気になって来たな」


「でしょう。私がご飯をモリモリ食べてたら、食欲がわくって言われるもの」


「そうだなぁ、なんか今日はいつもよりも食べられそうだ」


笑ってそう言った谷さんだったけれど、結局、豚カツを半分も残していた。


谷さん本当に大丈夫かな?


いつも冗談ばかり言って明るいけれど、谷さんは敏感で繊細だから。










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