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無事に戻って
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*彩矢*
雪花の行方が依然として不明なまま、夜の九時半を過ぎてから、慌てて実家に駆け込んで来た潤一に、悠李だけが目を輝かせた。
「あ、パパーー!! ママ、パパが、パパが来てくれたよ!!」
大人たちの緊迫した動揺に悠李も事の重大さを感じていたのだろう。
突如あらわれた潤一が、難題を解決しに来たスーパーマンのようにでも見えたのだろうか。
「パパ、雪花がね、雪花がいなくなったんだよっ!」
悠李は潤一にまとわりつき、切迫した窮状を訴えた。
「悠李、まだ起きてたのか。おまえはもう寝てろ!」
潤一は久しぶりに会った悠李に、なんの気遣いも見せずにイライラした感情をぶちまけた。
シュンとした悠李が可哀想ではあったけれど、私も雪花の心配でそれどころではなかった。
潤一は終始落ち着かない様子で、待機していた警察官に事情を説明していた。
美穂先生は同居していた父親との関係が悪くなり、最近になって別居していたとのこと。
無職でアル中だった父親が突然亡くなったことに、美穂先生は責任を感じていたに違いないと言った。
精神的にかなり不安定だったはずだと。
だからといって、なぜ雪花が犠牲にならなければいけないのか。
美穂先生と父親との軋轢が、雪花となんの関係があるというのか。
雪花が連れ去られた原因は、潤一に問題があったからでしょう。
二人の間に何かしらの問題が生じて、潤一を困らせたいがために、美穂先生はこんな行動をとってしまったに違いない。
だから潤一は美穂先生の仕業だと気づいたのだ。
多分、潤一が違う女に心変わりでもしたのだろう。
もしくはジェニファーがロサンゼルスからやって来て、可愛い息子に夢中になっていたとか。
いずれにしても、飽きっぽい潤一なんかと付き合ってしまったら、女は必ず泣くハメに会う。
うちの父と母からの非難も、美穂先生以上に潤一に向けられた。
「君はなんど同じ失敗を繰り返せば気がすむんだ ⁉︎ 雪花になにかあってみろ! タダではすまされないぞっ!!」
父は普段から温厚なタイプとは言えないけれど、潤一にこれほどの怒りをあらわにしたのは初めてだ。
雪花はじいじのお気に入りだったから。
「そうよ、美穂先生はこんなことをする人ではなかったわ。あなたが追い詰めてこんなことになったのよっ!」
今までの恨みも全部ぶちまけるかのように、母は涙ながらに訴えた。
私も潤一に対しては、怒りの気持ちで一杯だったけれど、あまりの不安と悲しみで、罵倒する気力さえ湧いて来なかった。
「すみません。美穂のことは俺に責任があると思ってます。だけど、まさかこんなことをするとは思ってもみなくて……」
「君はこれまでも妻子のある身で、そんな遊びを繰り返しては家庭を壊して来たんだろう! もう、いい加減にしたらどうだ。自分の身勝手がまわりの人間を不幸にしているってことに、いつになったら気づけるんだ !!」
「うぇーーん!」
見たこともないじいじの激怒に、悠李がおびえて泣きだした。
久しぶりに会ったパパが、じいじに怒鳴られていることが、悠李には悲しかったのかも知れない。
いつもは強気の潤一も、返す言葉も見つからないのか、暗い顔をしてうなだれていた。
「悠李はもう寝ようね。雪花ちゃんは必ず帰ってくるから」
自分にも言い聞かせるようにそう告げて、泣いている悠李の肩に手をおいた。
大人たちのいがみ合いをこれ以上悠李には見せないほうがいい気がして、手を引いて二階の寝室へ向かった。
パジャマに着替えさせて、一緒のお布団で添い寝した。
さすがの悠李もこんな日はすぐには寝つけないようで、好きな絵本を読んであげてもうわの空だった
「ママ、パパはどうしてみんなに嫌われているの?」
目に涙をためてそう言った悠李に、なんと答えてよいのか分からなかった。
「……嫌われてるわけじゃないよ。ただ今は雪花の心配でじいじもばあばもイライラしてたから、、」
潤一を庇うというよりも、悠李を傷つけたくなくてそう言った。
「パパがせっかく帰って来たのにみんな意地悪だ!」
「悠李………」
クスンクスンと泣き止まない悠李が可哀想ではあったけれど、それ以上に雪花をこんな目に合わせた潤一が憎くてたまらなかった。
雪花は今頃どうしているのだろうと思うと、怖ろしさで胸がつぶれそうになる。
考えたくなくても最悪の状況が脳裏をかすめ、全身がふるえた。
悠李の背中をトントンと撫でてあげていたら、子供ながらにも精神的に張りつめていたのだろう。悠李は目尻の涙も乾かぬうちに、寝息をたて始めた。
添い寝して四十分も過ぎた頃、母が部屋に駆け込んで来た。
「彩矢! 雪花ちゃんが見つかって無事に保護されたって」
「本当! 雪花、何処にいたの!!」
朗報なのに夢のようで、何故だか信じられない気持ちで起きあがった。
***
子供たちが保育園から無事に帰ってくる。そんなことは慌ただしい日常の中では当たり前のことだった。
当たり前なことが当たり前でなくなった時、日常の当たり前はなんとありがたく、感謝すべきことなのだろう。
悠李の隣でスヤスヤと、寝息を立てて眠っている雪花の寝顔を見つめて、また涙が滲んだ。
雪花、無事に帰ってきてくれた。
怪我をすることもなく、なんの被害も受けずに帰ってきてくれたことが、只々ありがたく嬉しかった。
美穂先生に対する恨みがましい感情は湧いてこなかった。
同じ過ちを犯した人間として、美穂先生の切ない女心は理解できたから。
悠李たちが公園でドローンを飛ばしていたあの日、美穂先生にもっと忠告しておくべきことがあっただろうか。
潤一のいい加減さと飽きっぽさを、もっと強く伝えるべきだったのか。
どんなに詳しく伝えたところで、美穂先生の想いを封じ込むことは出来なかったように思う。
私自身も潤一がどんな人なのか、十分に知っていながら突っ走ってしまったから。
遼くんの忠告さえも無視して………
どこまでも悪いのは潤一だ。
美穂先生が遊びに向いてないことは理解できたはずなのに。
美穂先生は保育士の仕事を失って、これからどうして生きていくのだろう。
美穂先生には助けてくれる身内もいないらしい。
先日亡くなった父親がたった一人の身内とか。
潤一はなんの責任も取れないくせに、美穂先生から大切な仕事を奪ってしまって……。
だけど、あんなに動揺している潤一を見たのは初めてだ。
花蓮さんと航太くんのことを思い出したのかも知れない。
スマホを取り、見送りもせずに帰してしまった遼くんに電話した。
「あ、遼くん。今日はひどい事件に巻き込んでしまって、お見送りもしないでごめんなさい」
『ああ、彩矢ちゃん。雪花ちゃん、無事に帰って来られて良かったよ。一時はどうなるのかって本当に焦ったな』
「悠李も雪花もぐっすり眠ってるわ。探しまわってくれて本当にありがとう」
『映画になんか誘ってごめん。もっと、早く迎えに行ってあげてたら、こんな目に会わずに済んだのにな』
「悪いのは遼くんじゃないもの。とにかく無事だったから、それが本当にありがたいわ。明日また実家に来てくれるでしょう?」
『うん、悠李がこの間、おじちゃんと人生ゲームがしたいって言ってたから行くよ』
「ふふふっ、遼くんがクリスマスにプレゼントしてくれた人生ゲーム、悠李の一番のお気に入りよ」
「俺も子供のとき好きで、よく遊んでもらってたから」
「ありがとう。じゃあ、明日待ってるね」
「うん、彩矢ちゃんも疲れただろう。ゆっくり休んで。おやすみ」
「おやすみなさい」
悠李………。
眠っている悠李の目尻に、涙の乾いた跡がみえた。
悠李も今日は大変だっただろうなと、今頃になって思う。
みんなが雪花のことで大騒ぎになって、途方に暮れたような顔をしていた。
悠李のせいではないのに、色んな人から雪花を見なかったかどうか尋問されたりもして。
あの時は私も余裕がなくて、悠李の気持ちまで配慮してあげられなかった………。
ごめんね、悠李。
明日はきっと楽しいこと一杯だから、みんなでたくさん遊ぼうね。
翌日、約束どおり遼くんがやって来て、みんなでお昼ご飯を食べたあと、リビングの隣の和室で人生ゲームを始めた。
「もうお金の計算ができるなんて悠李は頭がいいんだなぁ」
熱心にお金を数えて、銀行の役目をしている悠李を遼くんが褒めた。
「次は雪花の番だよ。早くルーレットを回して!」
雪花が小さな手で、ルーレットのつまみを思いっきりまわした。
「あ、5だよ」
雪花を手伝って、コマを五つ進めてあげた。
「あらら、株が大暴落!! 30,000ドル払えだって……」
株価の暴落など分からない雪花でも、お金を損することには強い拒絶反応を示す。
「雪花、30,000ドル支払うんだよ!」
血も涙もない取り立て屋のように、悠李は情け容赦なく、雪花の前に並べられた一万ドル札を三枚つかんだ。
「ダメッ! それ雪花のっ!!」
「払わなきゃダメなんだよっ! 決まりなんだから!!」
「ダメ! 雪花のっ、雪花のっ!! 悠李のバカー!!」
癇癪を起こした雪花は、並べられているみんなのお札をグシャグシャにかき混ぜてしまった。
あーあ、まただ。
負けず嫌いの雪花は、トランプにしても何にしても、負けそうになるといつもこんな風にゲームを台無しにしてしまう。
「雪花ちゃん、ダメでしょう。最後までちゃんと楽しくゲームができるようになろうね」
「ゆうり、きらい! ゆうり、いじわる!うわーーん!!」
雪花はどんなになだめても言うことを聞いてくれないから、悠李が怒るのも無理はないけれど。
「もういいよ、雪花なんて、一緒に遊ばないから。誘拐されて、いなくなればいい!!」
いくらなんでも、言っていいことと悪いことがある。
「悠李!! そんなこと絶対に言っちゃダメ!!」
悠李は雪花を睨んで立ちあがると、プイッとリビングを出て行ってしまった。
「ごめんね、遼くん。うちはいつもこんななの。育て方が悪いからなのかな? 自信がなくなるわ」
「子供なんだから仕方ないだろう。それが雪花ちゃんの個性なんだし」
「悠李、せっかく楽しみにしていたのに……」
「あのアパート即入居可だから、俺、早めに引っ越そうかと思うんだ。そんなに荷物も多くないし、来週にでも引っ越すよ」
「じゃあ、新しい家具とか家電も早めに見に行かないとね」
「それより、そろそろ婚姻届を出さないか?なるべく早く四人で暮らしたいから」
「そうね、それが先だったわね。結婚式はまだ先だけど、入籍は早いほうがいいわね」
「悠李と雪花ちゃん、俺に懐いてくれるかな。それが一番の悩みだな」
「大丈夫よ、もう懐いてるじゃない。悠李も雪花も遼くんのことが大好きなんだもの」
「そうかな。一緒に住んだり、父親ってことになるとまたちょっと複雑な心境かもな。特に悠李は……」
雪花はわがままだけれど単純だ。
やはり感受性の強い悠李のほうが、うまく適応できないかもしれない……。
雪花の行方が依然として不明なまま、夜の九時半を過ぎてから、慌てて実家に駆け込んで来た潤一に、悠李だけが目を輝かせた。
「あ、パパーー!! ママ、パパが、パパが来てくれたよ!!」
大人たちの緊迫した動揺に悠李も事の重大さを感じていたのだろう。
突如あらわれた潤一が、難題を解決しに来たスーパーマンのようにでも見えたのだろうか。
「パパ、雪花がね、雪花がいなくなったんだよっ!」
悠李は潤一にまとわりつき、切迫した窮状を訴えた。
「悠李、まだ起きてたのか。おまえはもう寝てろ!」
潤一は久しぶりに会った悠李に、なんの気遣いも見せずにイライラした感情をぶちまけた。
シュンとした悠李が可哀想ではあったけれど、私も雪花の心配でそれどころではなかった。
潤一は終始落ち着かない様子で、待機していた警察官に事情を説明していた。
美穂先生は同居していた父親との関係が悪くなり、最近になって別居していたとのこと。
無職でアル中だった父親が突然亡くなったことに、美穂先生は責任を感じていたに違いないと言った。
精神的にかなり不安定だったはずだと。
だからといって、なぜ雪花が犠牲にならなければいけないのか。
美穂先生と父親との軋轢が、雪花となんの関係があるというのか。
雪花が連れ去られた原因は、潤一に問題があったからでしょう。
二人の間に何かしらの問題が生じて、潤一を困らせたいがために、美穂先生はこんな行動をとってしまったに違いない。
だから潤一は美穂先生の仕業だと気づいたのだ。
多分、潤一が違う女に心変わりでもしたのだろう。
もしくはジェニファーがロサンゼルスからやって来て、可愛い息子に夢中になっていたとか。
いずれにしても、飽きっぽい潤一なんかと付き合ってしまったら、女は必ず泣くハメに会う。
うちの父と母からの非難も、美穂先生以上に潤一に向けられた。
「君はなんど同じ失敗を繰り返せば気がすむんだ ⁉︎ 雪花になにかあってみろ! タダではすまされないぞっ!!」
父は普段から温厚なタイプとは言えないけれど、潤一にこれほどの怒りをあらわにしたのは初めてだ。
雪花はじいじのお気に入りだったから。
「そうよ、美穂先生はこんなことをする人ではなかったわ。あなたが追い詰めてこんなことになったのよっ!」
今までの恨みも全部ぶちまけるかのように、母は涙ながらに訴えた。
私も潤一に対しては、怒りの気持ちで一杯だったけれど、あまりの不安と悲しみで、罵倒する気力さえ湧いて来なかった。
「すみません。美穂のことは俺に責任があると思ってます。だけど、まさかこんなことをするとは思ってもみなくて……」
「君はこれまでも妻子のある身で、そんな遊びを繰り返しては家庭を壊して来たんだろう! もう、いい加減にしたらどうだ。自分の身勝手がまわりの人間を不幸にしているってことに、いつになったら気づけるんだ !!」
「うぇーーん!」
見たこともないじいじの激怒に、悠李がおびえて泣きだした。
久しぶりに会ったパパが、じいじに怒鳴られていることが、悠李には悲しかったのかも知れない。
いつもは強気の潤一も、返す言葉も見つからないのか、暗い顔をしてうなだれていた。
「悠李はもう寝ようね。雪花ちゃんは必ず帰ってくるから」
自分にも言い聞かせるようにそう告げて、泣いている悠李の肩に手をおいた。
大人たちのいがみ合いをこれ以上悠李には見せないほうがいい気がして、手を引いて二階の寝室へ向かった。
パジャマに着替えさせて、一緒のお布団で添い寝した。
さすがの悠李もこんな日はすぐには寝つけないようで、好きな絵本を読んであげてもうわの空だった
「ママ、パパはどうしてみんなに嫌われているの?」
目に涙をためてそう言った悠李に、なんと答えてよいのか分からなかった。
「……嫌われてるわけじゃないよ。ただ今は雪花の心配でじいじもばあばもイライラしてたから、、」
潤一を庇うというよりも、悠李を傷つけたくなくてそう言った。
「パパがせっかく帰って来たのにみんな意地悪だ!」
「悠李………」
クスンクスンと泣き止まない悠李が可哀想ではあったけれど、それ以上に雪花をこんな目に合わせた潤一が憎くてたまらなかった。
雪花は今頃どうしているのだろうと思うと、怖ろしさで胸がつぶれそうになる。
考えたくなくても最悪の状況が脳裏をかすめ、全身がふるえた。
悠李の背中をトントンと撫でてあげていたら、子供ながらにも精神的に張りつめていたのだろう。悠李は目尻の涙も乾かぬうちに、寝息をたて始めた。
添い寝して四十分も過ぎた頃、母が部屋に駆け込んで来た。
「彩矢! 雪花ちゃんが見つかって無事に保護されたって」
「本当! 雪花、何処にいたの!!」
朗報なのに夢のようで、何故だか信じられない気持ちで起きあがった。
***
子供たちが保育園から無事に帰ってくる。そんなことは慌ただしい日常の中では当たり前のことだった。
当たり前なことが当たり前でなくなった時、日常の当たり前はなんとありがたく、感謝すべきことなのだろう。
悠李の隣でスヤスヤと、寝息を立てて眠っている雪花の寝顔を見つめて、また涙が滲んだ。
雪花、無事に帰ってきてくれた。
怪我をすることもなく、なんの被害も受けずに帰ってきてくれたことが、只々ありがたく嬉しかった。
美穂先生に対する恨みがましい感情は湧いてこなかった。
同じ過ちを犯した人間として、美穂先生の切ない女心は理解できたから。
悠李たちが公園でドローンを飛ばしていたあの日、美穂先生にもっと忠告しておくべきことがあっただろうか。
潤一のいい加減さと飽きっぽさを、もっと強く伝えるべきだったのか。
どんなに詳しく伝えたところで、美穂先生の想いを封じ込むことは出来なかったように思う。
私自身も潤一がどんな人なのか、十分に知っていながら突っ走ってしまったから。
遼くんの忠告さえも無視して………
どこまでも悪いのは潤一だ。
美穂先生が遊びに向いてないことは理解できたはずなのに。
美穂先生は保育士の仕事を失って、これからどうして生きていくのだろう。
美穂先生には助けてくれる身内もいないらしい。
先日亡くなった父親がたった一人の身内とか。
潤一はなんの責任も取れないくせに、美穂先生から大切な仕事を奪ってしまって……。
だけど、あんなに動揺している潤一を見たのは初めてだ。
花蓮さんと航太くんのことを思い出したのかも知れない。
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「あ、遼くん。今日はひどい事件に巻き込んでしまって、お見送りもしないでごめんなさい」
『ああ、彩矢ちゃん。雪花ちゃん、無事に帰って来られて良かったよ。一時はどうなるのかって本当に焦ったな』
「悠李も雪花もぐっすり眠ってるわ。探しまわってくれて本当にありがとう」
『映画になんか誘ってごめん。もっと、早く迎えに行ってあげてたら、こんな目に会わずに済んだのにな』
「悪いのは遼くんじゃないもの。とにかく無事だったから、それが本当にありがたいわ。明日また実家に来てくれるでしょう?」
『うん、悠李がこの間、おじちゃんと人生ゲームがしたいって言ってたから行くよ』
「ふふふっ、遼くんがクリスマスにプレゼントしてくれた人生ゲーム、悠李の一番のお気に入りよ」
「俺も子供のとき好きで、よく遊んでもらってたから」
「ありがとう。じゃあ、明日待ってるね」
「うん、彩矢ちゃんも疲れただろう。ゆっくり休んで。おやすみ」
「おやすみなさい」
悠李………。
眠っている悠李の目尻に、涙の乾いた跡がみえた。
悠李も今日は大変だっただろうなと、今頃になって思う。
みんなが雪花のことで大騒ぎになって、途方に暮れたような顔をしていた。
悠李のせいではないのに、色んな人から雪花を見なかったかどうか尋問されたりもして。
あの時は私も余裕がなくて、悠李の気持ちまで配慮してあげられなかった………。
ごめんね、悠李。
明日はきっと楽しいこと一杯だから、みんなでたくさん遊ぼうね。
翌日、約束どおり遼くんがやって来て、みんなでお昼ご飯を食べたあと、リビングの隣の和室で人生ゲームを始めた。
「もうお金の計算ができるなんて悠李は頭がいいんだなぁ」
熱心にお金を数えて、銀行の役目をしている悠李を遼くんが褒めた。
「次は雪花の番だよ。早くルーレットを回して!」
雪花が小さな手で、ルーレットのつまみを思いっきりまわした。
「あ、5だよ」
雪花を手伝って、コマを五つ進めてあげた。
「あらら、株が大暴落!! 30,000ドル払えだって……」
株価の暴落など分からない雪花でも、お金を損することには強い拒絶反応を示す。
「雪花、30,000ドル支払うんだよ!」
血も涙もない取り立て屋のように、悠李は情け容赦なく、雪花の前に並べられた一万ドル札を三枚つかんだ。
「ダメッ! それ雪花のっ!!」
「払わなきゃダメなんだよっ! 決まりなんだから!!」
「ダメ! 雪花のっ、雪花のっ!! 悠李のバカー!!」
癇癪を起こした雪花は、並べられているみんなのお札をグシャグシャにかき混ぜてしまった。
あーあ、まただ。
負けず嫌いの雪花は、トランプにしても何にしても、負けそうになるといつもこんな風にゲームを台無しにしてしまう。
「雪花ちゃん、ダメでしょう。最後までちゃんと楽しくゲームができるようになろうね」
「ゆうり、きらい! ゆうり、いじわる!うわーーん!!」
雪花はどんなになだめても言うことを聞いてくれないから、悠李が怒るのも無理はないけれど。
「もういいよ、雪花なんて、一緒に遊ばないから。誘拐されて、いなくなればいい!!」
いくらなんでも、言っていいことと悪いことがある。
「悠李!! そんなこと絶対に言っちゃダメ!!」
悠李は雪花を睨んで立ちあがると、プイッとリビングを出て行ってしまった。
「ごめんね、遼くん。うちはいつもこんななの。育て方が悪いからなのかな? 自信がなくなるわ」
「子供なんだから仕方ないだろう。それが雪花ちゃんの個性なんだし」
「悠李、せっかく楽しみにしていたのに……」
「あのアパート即入居可だから、俺、早めに引っ越そうかと思うんだ。そんなに荷物も多くないし、来週にでも引っ越すよ」
「じゃあ、新しい家具とか家電も早めに見に行かないとね」
「それより、そろそろ婚姻届を出さないか?なるべく早く四人で暮らしたいから」
「そうね、それが先だったわね。結婚式はまだ先だけど、入籍は早いほうがいいわね」
「悠李と雪花ちゃん、俺に懐いてくれるかな。それが一番の悩みだな」
「大丈夫よ、もう懐いてるじゃない。悠李も雪花も遼くんのことが大好きなんだもの」
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