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彩矢のお見舞い
しおりを挟む有紀
12月2日 曇り
先週、彩矢が里沙ちゃんと優花ちゃんのお見舞いに来ていたとのことだ。
私はちょうど夜勤明けの日だったから、会うことはできなかったけど、外出できるほど元気になったのかな?
松田先生とは今はもう会っていないのかな?
さすがに松田先生もあれ以来、笑顔もあまり見られず、すっかり大人しくなってしまった。当然といえば、当然だけれど。
黙々と仕事をしているといった感じで、松田先生が静かだとやっぱりらしくなくて、とっても可哀想に思えてしまう。
彩矢が少し回復したのなら、またLINEでもしてみようかな。 かなり痩せてしまって、頰がこけてしまったらしい。
12月16日 晴
今日は佐野さんが晩ご飯に誘ってくれた。
久しぶりに会えてすごく嬉しがったけれど、話の中心は彩矢のことだった。
佐野さんは、少しも彩矢のことを忘れられていなかった。
忘れたくても、そう出来ないようだった。
別に相談役でいいんだけれど、どうにもしてあげられなくて困ってしまう。 彩矢も少し元気になったのなら、佐野さんの車でドライブでも誘ってみようかな?
気分転換にならないかな?
帰宅してから早速LINEしてみた。
『彩矢、具合の方はどう? よかったら今度会いませんか? 少しでもいいんだけど、まだ無理ですか?』
『いつも心配してくれてありがとう。この間から風邪をひいて熱だしてたの。有紀も気をつけてね』
『そうだったんだ。お気の毒~。インフルエンザも流行って来てるしね。お大事にね』
風邪かぁ、ひきこもりしていても感染するんだな。
免疫力なさそうだしね。
そうだ、明日、薬局で谷さんに風邪薬を出してもらおう。
佐野さんを誘って彩矢に届けてあげよう。
佐野さん、きっと会いたいだろうから。
12月17日 晴
「彩矢に風邪薬を届けてあげたいから、いっしょに行かない?」
と佐野さんを誘った。
うん、わかった、って言ったから、いっしょに家まで行くものと思っていたら、
「いいよ、俺は車で待ってるから」と弱気な顔でうつむいた。
「 もう、 なに怖気付いてんだよっ、行くぞ、オラー!」
と凄みを効かせて言ったけれど、
「いいから、ひとりで行ってくれよ」と困った顔をした。
せっかく佐野さんのために来たのに、会わないで帰っちゃうわけ?
プンプンしながら玄関ブザーを鳴らすと、彩矢のお母さんが出て来た。
ひきこもっている娘に、友達が心配して会いに来てくれたことがなによりも嬉しいようで、終始笑顔で感謝された。
彩矢は暗い表情をして二階から降りて来たけれど、もう熱はなくて治ったようだった。
治ったのなら、佐野さんに一目でも会わせてあげたくて、「ちょっとだけ、外に出られない?」と聞いてみた。
生気のない土気色の顔ですかさず、「ごめん、無理」と言われた。
精神的なダメージがまだ続いてるんだな、可哀想に……。
バスで来たの? と聞かれたから、佐野さんの車でと言ったら、私と佐野さんが付き合っていると誤解して、「デートの途中にごめんね」と言った。
デートなわけないじゃん。
佐野さんはまだ彩矢のことが好きみたいよって言ったら、驚いた顔をしていた。
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