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思いがけないプロポーズ
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*茉理*
「茉理、頼む。俺と結婚してくれ」
これは本当のこと?
抱きしめられ、先生の胸に顔をうずめていても現実感がなかった。
ーー夢ならさめないで。
最初のうちは先生のお世話が出来るだけでも嬉しかった。
だけどずっと逢えないのはあまりに悲しすぎて、茉理には本当に興味がないんだと思った。
どんなに忙しくたって、どんなに未成年者と付き合うのが危険だって、茉理のことを少しでも想う気持ちがあったら、あんな扱いするわけないもの。
だから、もうドイツに帰ってワインの仕事を手伝うのがいいかもと、そんな弱気な心境をレオンに打ち明けた。
落ち込んでいた私に、レオンはこんな戦略を与えてくれた。
『彼のような闘争心に溢れた男を追いかけ続けるのは得策じゃない。時には引くことが大切です。ライバルの存在も必要でしょう。男というものは誰も欲しがらない女に、気持が掻き立てられる事はないのです』
そうか、確かに押しの一手は良くないかもと、レオンのアドバイスに素直に従った。
効果はてきめんで、スイスへ帰ると言っただけでこの変わりよう。サイゼで浩輝くんと会ってたこともライバル意識を刺激したみたい。
いきなりプロポーズされるなんて思ってもみなかった。
レオンの言ったとおりだった。
レオンはいつでも私の幸せを一番に考えてくれる。本当はドイツに帰って来て欲しかったはずなのに。
本物のお兄さんでも、こんなに深く愛してくれないような気がする。
なのに、なぜ私はレオンじゃダメなのかな……。
それにしても先生って、どこまでも分かりやすくて単純なんだ。
プッ、クスクスッ。
強く抱きしめられながら、つい可笑しくて吹きだす。
「なに笑ってんだよ」
先生は抱きしめていた手をゆるめ、不機嫌な顔をした。
「なんでもない。うれし笑い。ウハハッ」
「そういう時はうれし泣きだろ。なんで笑いだすんだよ。ムード壊すなよ、まったく」
「じゃあさ、もう一回キスして」
そう言って上を向き、目を閉じた。
「イヤだね。俺は求めてくる女は好きじゃない」
しらけたようにつぶやくと抱きしめていた腕をほどいた。
「なによ、ケチ! もう茉理には指一本さわらせないからね!!」
イラッとして帰ろうとしたら、腕をつかまれた。
「そう言われるとやりたくなる」
ニタニタしながらそう言って、無理やりキスしようとしたので突き飛ばしてやった。
「なんだよ、怒るなよ。まぁ、怒った顔も可愛いけどな」
そう言って腕をつかんだ。
「離してよ、さわらないでったら」
「だから、そう言われると燃えるんだよ」
「やめてよ、警察に言うよ! 何よりも怖いんでしょ、逮捕されるのが」
軽蔑したようにしかめっ面で返した。
「このヤロウ、ベッドに押し倒されたいのか。こっちに来い!」
強く腕をつかまれ、寝室へ連れ込まれそうになる。
「キャァー! やめてよっ!!」
怖気付き、必死で抵抗すると先生はつかんでいた手をゆるめた。
「フハハッ、俺を挑発したおまえが悪いんだぞ」
小馬鹿にしたように微笑んでいる先生の顔を見て少しホッとする。
びっくりした。本気かと思った。
「……キスしてって言っただけでしょ」
うつむいてボソッとつぶやくと、今度はちゃんとキスしてくれた。
さっきのフレンチキスと違って、今度はながーいキス。思いっきり唇を吸われて気が遠くなる。
「ヤベェ、マジで襲いたくなった。送るから今日はもう帰れ」
久しぶりに会ったのに、先生は仏頂面をしてつれないことを言う。
「えーっ、まだ八時だよ」
「だから、これ以上おまえといると危険なんだよ。襲われたくないんだろ。もう帰れ」
「せっかく久しぶりに会えたのに。もっとおしゃべりしようよ~」
「おしゃべり? そんなバカバカしいことしてるヒマはないよ。俺は開業の準備で忙しいんだ。寝るヒマもないんだぞ。おまえは昨日も遊び歩いてたんだろ。早く帰って勉強でもしろ」
そんな説教じみたこと、聞きたくないよーだ。
「いいよ、じゃあ、また浩輝くんに電話するから。浩輝くんならいつまでも茉理のおしゃべり聞いてくれるもんね!」
「お、おまえ、、俺をおどすのか? 俺と結婚するんじゃないのか? 結婚前から浮気かっ!!」
マジ切れして怒鳴ったので、少しビビる。
「な、、なによ、浩輝くんは友達だって言ってるのに」
「そいつとはもう会うな。バンドのボーカルなんて絶対に許さないからな」
本気で言ってるのか、凄んだような目でにらまれた。
「そんなの、困るよ。もうするって言っちゃったもん。それに茉理、日本には浩輝くんしか友達いないんだよ」
「女の友達を作れ。バンドの仲間は信用できない」
「みんな優しくていい人だよ。女の子のほうがずっと意地悪だもん」
「たまたまだろう。高校へ行っていい友人を作れ。おまえは男のことがなんにも分かってないんだよ。バンド仲間に輪姦されるかもしれないんだぞ」
「そんな人達じゃないってば。ゲスの勘ぐりはやめてよね」
ヤキモチ妬かれるのは嬉しいけど、束縛は困る。浩輝くんは大切な友達なんだから。
「とにかく高校には行けよ。中卒のままでいいのか?」
「高校なんて行かないよ。大検の資格を取ればいいでしょ。大学ならもしかしたら行くかもしれない」
先生は中卒の嫁だと恥ずかしいのかな?
「じゃあ、予備校に行け。早く志望校を決めてな」
予備校なら行ってもいいかも。確かに浩輝くん以外の友達も欲しいし。
「じゃあ、考えとく。あ、そうだ、お腹すいてるでしょう? 晩ごはん食べようよ」
「作ってあるのか? 家事代行がいないと思ったから、レトルトカレーを買ってきたんだ」
「レトルト? わー、茉理がいなくなった途端に侘しいね。今日はね、手巻き寿司なんだよ。これってメチャ美味しいでしょ」
ウキウキしながら冷蔵庫からお刺身を盛り合わせた皿を出し、テーブルに運んだ。
ご飯をつぶさないように酢飯も上手に作ったんだからね。
器に盛った酢飯と、巻くための海苔もテーブルに並べる。
「ほら、美味しそうでしょ。早く食べよう」
「それを早く言えよ。さすがに手巻き寿司を一人で食べるのは寂しいからな」
先生は寝室へ行ってスエットの上下に着替えて来た。
グレーのダサいルームウエア。
結婚したらこれもなんとかしてやらないとね。
マグロにホタテに鯛、イクラとヒラメにウニ。大抵の生魚は食べられるんだけど、タコは見た目がグロテスクだから苦手。
アボカドや卵焼き、ツナマヨなどの安価なトッピングも大好き。
「わー、美味しそう! これって家族がたくさんいると楽しいね」
海苔とご飯の上に大葉とマグロ、細切りしたキュウリと卵焼きを乗せた。
「茉理は子どもは好きじゃないんだろ?」
「えー、茉理、子どもは大好きだよ。ひとりっ子だったから兄弟がいるお友達が羨ましかったもん」
「だよな。俺もそうだった」
先生と私の子供ってどんなかな。そんなことを思って夢心地になる。
早く会いたいな。私たちの子どもに。
「大葉ってお刺身にメッチャ合うよね~~」
「おまえ、本当に帰国子女か? 向こうの人間は生魚を食べないだろう」
「だって茉理、七歳まで札幌に住んでたもん。お刺身は大好きだったよ。お婆ちゃんがお誕生日に手巻き寿司作ってくれた」
お婆ちゃんは本当に優しい人だったな。
「そうか、婆さんには可愛がられてたんだな」
「そう。父方の祖母だったけど、ママが夜の仕事していたから、近くに引っ越してくれたの」
「父親と会うことはないのか?」
「去年、一度だけ会ったよ」
……パパ、きれいな女の人と一緒だった。
「親父《おやじ》は今なにをしてるんだ?」
「さあね。一応、ジャーナリストって言ってるけど、世界中をただ放浪しているだけかも。パパくらい結婚に向かない人っていないの。ママはそんな人とわかって結婚したのに悪口ばっかよ」
私もママに似たのかな。家庭的とはいえない人を好きになっちゃった。
「俺より結婚に向いてないな。そんな奴もいるんだな」
「そう、年に数回しか帰ってこないの。それに平気で浮気もするしね。それを隠そうともしないんだから、パパは」
「どこまでも自由だな。おまえの親父が羨ましいよ」
「自由と引き換えにしているものだってあるでしょう? 羨ましいことなんてないよ。嘘ついて上手いことやってる人のほうが、ずっとラクな暮らしをしているよ。パパは不器用なだけ」
「確かにな。俺も不器用だからよくわかるよ」
大口を開けてお寿司をもぐもぐ食べている先生を見て嬉しくなる。茉理はその豪快な食べっぷりも好きなんだ。
「茉理はパパのことが好きよ。好きなことして機嫌よくしている方がいいと思う。ママみたいに自分の不幸を人のせいにする生き方ってつまらないもの」
「おまえ、ファザコンか? 女手ひとつで育ててくれたのは母親だろう。亭主が家にも帰らずに好き勝手ばかりしてたら、愚痴りたくなるのは当たり前だ」
意外にも先生は自分に似ているパパではなく、ママに同情を示した。
「ママはそんな人だと知っててパパと結婚したのよ。家庭的はなれないってパパはちゃんと伝えてたのに」
「まぁ、カネに目がくらんで、娘をロリコンの変態と結婚させようとした母親もどうかと思うけどな。無責任なのは父親の方だろ。俺より数倍悪い奴だな、ハハハッ」
先生の言ったことに間違いはなくても、身内の悪口ばかりだと、さすがに少しイラっとした。
「なに優越感に浸ってるの? バカみたい」
「バカだと? お、、おまえ、口の利き方に気をつけろと言ったろう!」
カチンときたようで、お寿司を頬張ったまま怒鳴られた。
「わーっ! ご飯粒が飛んできたよ。もう、食べながら怒鳴らないでよっ。それより鬼ババのところへはいつ挨拶に行くの? 茉理、怖~い。絶対に反対されそうなんだけど」
「そんな口の利き方じゃ反対されるに決まってんだろ。少しは敬語の勉強でもしろ。ていうか、おまえには年長者を敬う謙虚さが足りない」
そんなこと、誰よりも傲慢なひとに言われたくないんだけど。
「ねぇ、デキ婚にしない? それなら鬼ババも許してくれるかも」
「これから大学に行くっていうのに、子供なんか作ってどうするんだよ! 」
「生まれたらなんとかなるでしょ。それに鬼ババがいるじゃない。ヒマを持て余してるんだし、うちのママだって初孫だから、もしかしたら手伝ってくれるかもよ~」
「バカ、年寄りをアテにするな! まったく、短絡的で無責任なところは遺伝だな」
ひどい!!
自分の家系はどんな素晴らしい遺伝子を持ってるっていうのよ。
「なによ、偉そうに。うちのパパやママにだって良いところは沢山あるんですからね! あんな鬼ババよりずっとマシだから」
「今度鬼ババって言ってみろ。タダじゃおかないぞ!」
「先に悪口を言ったのは先生でしょ!」
「悪口じゃない! 事実を言ったまでだ」
「鬼ババだって事実じゃない!」
「テメェ、もう許さん!」
先生が椅子から立ち上がり、鬼ババと同じ形相で迫って来たので素早く逃げた。
「キャアーーッ、もう言わないから許してよ~~!!」
プロポーズされた日に大喧嘩なんかして、私たち本当に上手くやっていけるんだろうか。
「茉理、頼む。俺と結婚してくれ」
これは本当のこと?
抱きしめられ、先生の胸に顔をうずめていても現実感がなかった。
ーー夢ならさめないで。
最初のうちは先生のお世話が出来るだけでも嬉しかった。
だけどずっと逢えないのはあまりに悲しすぎて、茉理には本当に興味がないんだと思った。
どんなに忙しくたって、どんなに未成年者と付き合うのが危険だって、茉理のことを少しでも想う気持ちがあったら、あんな扱いするわけないもの。
だから、もうドイツに帰ってワインの仕事を手伝うのがいいかもと、そんな弱気な心境をレオンに打ち明けた。
落ち込んでいた私に、レオンはこんな戦略を与えてくれた。
『彼のような闘争心に溢れた男を追いかけ続けるのは得策じゃない。時には引くことが大切です。ライバルの存在も必要でしょう。男というものは誰も欲しがらない女に、気持が掻き立てられる事はないのです』
そうか、確かに押しの一手は良くないかもと、レオンのアドバイスに素直に従った。
効果はてきめんで、スイスへ帰ると言っただけでこの変わりよう。サイゼで浩輝くんと会ってたこともライバル意識を刺激したみたい。
いきなりプロポーズされるなんて思ってもみなかった。
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レオンはいつでも私の幸せを一番に考えてくれる。本当はドイツに帰って来て欲しかったはずなのに。
本物のお兄さんでも、こんなに深く愛してくれないような気がする。
なのに、なぜ私はレオンじゃダメなのかな……。
それにしても先生って、どこまでも分かりやすくて単純なんだ。
プッ、クスクスッ。
強く抱きしめられながら、つい可笑しくて吹きだす。
「なに笑ってんだよ」
先生は抱きしめていた手をゆるめ、不機嫌な顔をした。
「なんでもない。うれし笑い。ウハハッ」
「そういう時はうれし泣きだろ。なんで笑いだすんだよ。ムード壊すなよ、まったく」
「じゃあさ、もう一回キスして」
そう言って上を向き、目を閉じた。
「イヤだね。俺は求めてくる女は好きじゃない」
しらけたようにつぶやくと抱きしめていた腕をほどいた。
「なによ、ケチ! もう茉理には指一本さわらせないからね!!」
イラッとして帰ろうとしたら、腕をつかまれた。
「そう言われるとやりたくなる」
ニタニタしながらそう言って、無理やりキスしようとしたので突き飛ばしてやった。
「なんだよ、怒るなよ。まぁ、怒った顔も可愛いけどな」
そう言って腕をつかんだ。
「離してよ、さわらないでったら」
「だから、そう言われると燃えるんだよ」
「やめてよ、警察に言うよ! 何よりも怖いんでしょ、逮捕されるのが」
軽蔑したようにしかめっ面で返した。
「このヤロウ、ベッドに押し倒されたいのか。こっちに来い!」
強く腕をつかまれ、寝室へ連れ込まれそうになる。
「キャァー! やめてよっ!!」
怖気付き、必死で抵抗すると先生はつかんでいた手をゆるめた。
「フハハッ、俺を挑発したおまえが悪いんだぞ」
小馬鹿にしたように微笑んでいる先生の顔を見て少しホッとする。
びっくりした。本気かと思った。
「……キスしてって言っただけでしょ」
うつむいてボソッとつぶやくと、今度はちゃんとキスしてくれた。
さっきのフレンチキスと違って、今度はながーいキス。思いっきり唇を吸われて気が遠くなる。
「ヤベェ、マジで襲いたくなった。送るから今日はもう帰れ」
久しぶりに会ったのに、先生は仏頂面をしてつれないことを言う。
「えーっ、まだ八時だよ」
「だから、これ以上おまえといると危険なんだよ。襲われたくないんだろ。もう帰れ」
「せっかく久しぶりに会えたのに。もっとおしゃべりしようよ~」
「おしゃべり? そんなバカバカしいことしてるヒマはないよ。俺は開業の準備で忙しいんだ。寝るヒマもないんだぞ。おまえは昨日も遊び歩いてたんだろ。早く帰って勉強でもしろ」
そんな説教じみたこと、聞きたくないよーだ。
「いいよ、じゃあ、また浩輝くんに電話するから。浩輝くんならいつまでも茉理のおしゃべり聞いてくれるもんね!」
「お、おまえ、、俺をおどすのか? 俺と結婚するんじゃないのか? 結婚前から浮気かっ!!」
マジ切れして怒鳴ったので、少しビビる。
「な、、なによ、浩輝くんは友達だって言ってるのに」
「そいつとはもう会うな。バンドのボーカルなんて絶対に許さないからな」
本気で言ってるのか、凄んだような目でにらまれた。
「そんなの、困るよ。もうするって言っちゃったもん。それに茉理、日本には浩輝くんしか友達いないんだよ」
「女の友達を作れ。バンドの仲間は信用できない」
「みんな優しくていい人だよ。女の子のほうがずっと意地悪だもん」
「たまたまだろう。高校へ行っていい友人を作れ。おまえは男のことがなんにも分かってないんだよ。バンド仲間に輪姦されるかもしれないんだぞ」
「そんな人達じゃないってば。ゲスの勘ぐりはやめてよね」
ヤキモチ妬かれるのは嬉しいけど、束縛は困る。浩輝くんは大切な友達なんだから。
「とにかく高校には行けよ。中卒のままでいいのか?」
「高校なんて行かないよ。大検の資格を取ればいいでしょ。大学ならもしかしたら行くかもしれない」
先生は中卒の嫁だと恥ずかしいのかな?
「じゃあ、予備校に行け。早く志望校を決めてな」
予備校なら行ってもいいかも。確かに浩輝くん以外の友達も欲しいし。
「じゃあ、考えとく。あ、そうだ、お腹すいてるでしょう? 晩ごはん食べようよ」
「作ってあるのか? 家事代行がいないと思ったから、レトルトカレーを買ってきたんだ」
「レトルト? わー、茉理がいなくなった途端に侘しいね。今日はね、手巻き寿司なんだよ。これってメチャ美味しいでしょ」
ウキウキしながら冷蔵庫からお刺身を盛り合わせた皿を出し、テーブルに運んだ。
ご飯をつぶさないように酢飯も上手に作ったんだからね。
器に盛った酢飯と、巻くための海苔もテーブルに並べる。
「ほら、美味しそうでしょ。早く食べよう」
「それを早く言えよ。さすがに手巻き寿司を一人で食べるのは寂しいからな」
先生は寝室へ行ってスエットの上下に着替えて来た。
グレーのダサいルームウエア。
結婚したらこれもなんとかしてやらないとね。
マグロにホタテに鯛、イクラとヒラメにウニ。大抵の生魚は食べられるんだけど、タコは見た目がグロテスクだから苦手。
アボカドや卵焼き、ツナマヨなどの安価なトッピングも大好き。
「わー、美味しそう! これって家族がたくさんいると楽しいね」
海苔とご飯の上に大葉とマグロ、細切りしたキュウリと卵焼きを乗せた。
「茉理は子どもは好きじゃないんだろ?」
「えー、茉理、子どもは大好きだよ。ひとりっ子だったから兄弟がいるお友達が羨ましかったもん」
「だよな。俺もそうだった」
先生と私の子供ってどんなかな。そんなことを思って夢心地になる。
早く会いたいな。私たちの子どもに。
「大葉ってお刺身にメッチャ合うよね~~」
「おまえ、本当に帰国子女か? 向こうの人間は生魚を食べないだろう」
「だって茉理、七歳まで札幌に住んでたもん。お刺身は大好きだったよ。お婆ちゃんがお誕生日に手巻き寿司作ってくれた」
お婆ちゃんは本当に優しい人だったな。
「そうか、婆さんには可愛がられてたんだな」
「そう。父方の祖母だったけど、ママが夜の仕事していたから、近くに引っ越してくれたの」
「父親と会うことはないのか?」
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……パパ、きれいな女の人と一緒だった。
「親父《おやじ》は今なにをしてるんだ?」
「さあね。一応、ジャーナリストって言ってるけど、世界中をただ放浪しているだけかも。パパくらい結婚に向かない人っていないの。ママはそんな人とわかって結婚したのに悪口ばっかよ」
私もママに似たのかな。家庭的とはいえない人を好きになっちゃった。
「俺より結婚に向いてないな。そんな奴もいるんだな」
「そう、年に数回しか帰ってこないの。それに平気で浮気もするしね。それを隠そうともしないんだから、パパは」
「どこまでも自由だな。おまえの親父が羨ましいよ」
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「茉理はパパのことが好きよ。好きなことして機嫌よくしている方がいいと思う。ママみたいに自分の不幸を人のせいにする生き方ってつまらないもの」
「おまえ、ファザコンか? 女手ひとつで育ててくれたのは母親だろう。亭主が家にも帰らずに好き勝手ばかりしてたら、愚痴りたくなるのは当たり前だ」
意外にも先生は自分に似ているパパではなく、ママに同情を示した。
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「まぁ、カネに目がくらんで、娘をロリコンの変態と結婚させようとした母親もどうかと思うけどな。無責任なのは父親の方だろ。俺より数倍悪い奴だな、ハハハッ」
先生の言ったことに間違いはなくても、身内の悪口ばかりだと、さすがに少しイラっとした。
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「バカだと? お、、おまえ、口の利き方に気をつけろと言ったろう!」
カチンときたようで、お寿司を頬張ったまま怒鳴られた。
「わーっ! ご飯粒が飛んできたよ。もう、食べながら怒鳴らないでよっ。それより鬼ババのところへはいつ挨拶に行くの? 茉理、怖~い。絶対に反対されそうなんだけど」
「そんな口の利き方じゃ反対されるに決まってんだろ。少しは敬語の勉強でもしろ。ていうか、おまえには年長者を敬う謙虚さが足りない」
そんなこと、誰よりも傲慢なひとに言われたくないんだけど。
「ねぇ、デキ婚にしない? それなら鬼ババも許してくれるかも」
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自分の家系はどんな素晴らしい遺伝子を持ってるっていうのよ。
「なによ、偉そうに。うちのパパやママにだって良いところは沢山あるんですからね! あんな鬼ババよりずっとマシだから」
「今度鬼ババって言ってみろ。タダじゃおかないぞ!」
「先に悪口を言ったのは先生でしょ!」
「悪口じゃない! 事実を言ったまでだ」
「鬼ババだって事実じゃない!」
「テメェ、もう許さん!」
先生が椅子から立ち上がり、鬼ババと同じ形相で迫って来たので素早く逃げた。
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