異世界転生 内気な青年に与えられた能力は死に戻り

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三章

31話 圧倒

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31話
ソレが木々の間をブチブチと音を立て突き進む

 まもなくして、姿を現した
 ソレは体長が6メートルにもなるオーガであった
 筋骨隆々で赤鬼のような真っ赤な体に、恐竜のものかと思うほど、厚い毛皮を腰に巻いている
 瞳はサメのように真っ黒で、表情はピクリとも動かない
 ただ、こちらをじっと見つめている

 一同、恐怖した

 ギルの握られているダガーに汗がしたたる
「なんでこんなところにっっ!!?
 ドォォンンン!!!
 爆風が空間をふき飛ばす
 オーガによる一撃によって周辺が更地とかした

 砂埃がはれると左手を失ったギルが荒い呼吸でオーガを睨みつけている
 その後ろには腰が抜けたタイト、剣を構えるラルトがいた

 (す、すごく怖い!でも!!)
 ラルトがスッと息を吸う、と同時に目にも止まらぬ速さでオーガに向かっていった

「ラルト!いくな!!」

 ガシッ!!
 ラルトの腕が掴まれる
「え、」
 ギュジュ!!
「っぁあああ゛!!!」
 右腕が握りつぶされ、節々から骨が出る

「っそが!!風魔法!風足!!」
 ギルの足に風がまとい、勢いよく飛び出す
 そのままオーガの指を切り裂いた

 ズルっ、ドサ

 ギルがラルトを抱え、瞬時に移動する
「いだい、いだいよ..」
 涙を流して意識を失いかけるラルト

「こいつを頼んだ」
 そう言ってタイトにラルトを渡す

「なんだよ、なんだよこれ、どうなってんだよ!」
 苦しむラルトを抱き、パニック状態のタイト

「俺が時間を稼ぐ!とにかく遠くに逃げろ!!」
 ズサっ…
「あ、足が」
 (あの時と同じだ、俺はまた逃げようとしている)

 
 10年前
「ギルって言うんだっけ!?よければ俺たちとパーティ組まないか!」
 当時20代のギルはブロンズランクであった
 魔法の才があり、ダイヤランクも夢ではないと楽観していた
 しかし、シルバーランクの昇格戦にて
「この俺が、負けた…」
 初めての挫折を味わう
 ギルの心は人一倍弱かった
 その為、決闘は諦めてクエストでシルバーランクを目指すことに
「クエストってことはパーティ必須だよな、誰か組んでくれねーかな」
 そんな時だ
 彼が声をかけてくれた
 名前をロット・ディーバ、笑顔が似合う好青年だ
 そして、その後ろにはお姉さん系魔法使いと、可愛らしい僧侶がいる
 ギルはシルバーになるために彼らを利用しようと思った
 だが、旅をするうちに、クエストをするうちに、ギルの中で友情が芽生える
 ある日のギルド――
「俺、ランクアップクエストを受けたいんだ」
「マジか!」
「目標だったもんね」
「危険だよね、でも私もシルバーなりたい」
 一同はすんなりと同意した、それほどまでにギルに信頼を寄せていた
 ランクアップクエストを受け、ダンジョンの奥地を目指す
 4人はボロボロになりながらも、クエスト条件であるケンタウロスの討伐に成功する
「ケンタウロスの角おもた!!」
 ロットが担ぐ
「みんなありがとう、」
 ギルの目頭が熱くなった
「何あつくなってんのよ」
「ギル泣いてる~」
「な、ないてねーよ!」
 幸せな時間が流れていた
 それが、一瞬にして砕け散る
 突如、ダンジョンの床から魔法陣が出てきた
 そこからケンタウロスが4体出現
 困惑している皆を奮い立たせるかのように、ロットが剣を構える
「俺たちなら、俺たちなら勝てる!!」
 しかしギルの心は絶望に満ちていた
 ロットが立ち向かい、2人がバフや遠距離攻撃で気を逸らしている時に、わずかな隙をみてギルは逃げ出した
 涙を流し、ぐちゃぐちゃの感情で逃げ出したのだ
「ギル!!」
「ギルなんで!!!」
「まって!」
 3人はケンタウロに囲まれた
 そして断末魔が重なり、静寂が訪れる
 ギルは光を目指してがむしゃらに走った
 ケンタウロスの角を持って、
 シルバーランクになったギルは、罪悪感にさいなまれ続けた
 酒に明け暮れる日々、そんな時にラルト達の姿を見た
 リザードマンに挑む無謀さが、あの日の記憶を思い出させる
 一日中悩んだ、取り戻せるわけない自分の人生が、もしかしたら変わるかもしれないと、そう思い立ち、彼らを助けることに決めた


 (逃げんな!!!!)
 出血多量でもうろうとする意識を地面に叩きつけ、鉛のように重たく疲弊している体をオーガに向ける
 (ここで逃げたら、俺はもう!)
 ギルは駆け出した
 剣を持ち、メッキのような闘志だけに頼って
「やってやんよ!!風足!!!!」
 ビュッゥン!
 ドゴォォォォ!!!!
 ノーモーションで繰り出される攻撃をスレスレで回避
 魔力を足のみに集中させ、ひたすら回避に徹した
 オーガの攻撃を回避するその姿は、突風のように鋭く、微風のような軽やかさがある
「大丈夫、見える!見えっ!
 オーガが前のめりになる
 途端、先ほどの攻撃が2倍になって流星のごとく降り注いだ!
 オーガは両腕を解禁!連打連打連打!!腕力任せの攻撃で当たれば即死!
「くそガァぁ!!」
 武器を投げ捨て攻撃を諦める
 打開策などない!これが精一杯なのだ
「これでも体力には自信あんだらあああ!!!」

 爆撃音が森をガクガクと揺らす!!

 一方その頃
「大丈夫!?って、」
 駆けつけてきたロアとリュロは苦しむラルトの姿を見て絶句する
「リュロ、ロア、無事で良かった」
 震える唇で笑顔をつくるラルト

「あいつが!ラルトを!!!」
 リュロの形相が代わり、ロアに最大限バフをかけろとせかす
「でも、リュロの体がっ
「そんなのいいから!!早くしてよ!!!」
「うぅ、わかった」
「魔力上限値解放、」
 ロアがつぶやき杖をふるうと、リュロの体が赤く輝く
「解放値10%20%30%」
「ゔっぅう!!ぁぁ!!!!」
 地面にへばりつくリュロ
「リュロ、これ以上は体がもっ
「いいから!!!どうなってもいいから!!!」
「よ、40%50%60%」
 輝きは赤黒くモヤのようによどむ
 リュロの目から血が吹きだした
 刹那、リュロが視界から消える
 甲高く鋭い風切り音が、ロアの真横をぶち抜く
「攻撃力向上、素早さ向上、素早さ向上!素早さ向上!!!!」
 血反吐を吐きながら重力に引っ張られる首を引き留めてさらに加速する!
 音を置き去りにして、オーガの顔面に一撃をくらわした!
 ドォォン!!!!ドドドドドトドドド!!
 衝撃で祝福の森が揺らぐ
 オーガは森が割れるほど、遥か先に消し飛んでいった

 それを見た皆は唖然、リュロ本人が一番驚いていた
 しかし、破壊力の代償により右手首の骨が粉砕、プラプラと手のひらが動く
 肩まで骨が折れており、ちぎられるような激痛に襲われた
 声を押し殺してラルトの元に近寄る
 
「ラルト!ラルト!!」
「り、リュロすごかったよ、でも腕が、僕がしっかりしていれば」
「私のことはいいのよ!そんなことより死んだら許さないんだからね!」
 リュロがボロボロと涙を流す

「嬢ちゃんすごか!ゴホン!今、信号魔法で助けを呼んだからな!お前らもう少しの辛抱だ」
 失った左腕の止血を済ませ、苦しそうな表情を浮かべるギル、しかしその瞳はどこか輝いていた

「おれは、おれは何もできなかった、おれは…」
 タイトがブツブツと何かを言っている

 ロアはポロポロと涙をこぼしてリュロに抱きつく
 「キツく当たってごめんね、それと、ありがとう…、あと痛い」
 リュロが笑みを浮かべながら言うと、ロアは「ごめんなさい!」と言って勢いよく離れた

 森に静寂が戻った、かと思いきや
 パチ、パチ、パチ
 拍手の音が聞こえる
「素晴らしいです、転生者の力を借りたと言え、加護を受けたハイオーガにダメージを与えるとは」
 低く落ち着きに満ちた声が聞こえる
 カツカツと音を立て、木々の間から男性が現れた

 その姿は正にビジネスマン
 凛と佇む彼の背丈は高く、黒いスーツに白く折られたシャツ、藍色の輝きを放つネクタイがぴたりと結ばれている
 年齢は30代前半のように見える
 髪は丁寧に整えられ、全てを見透かすような笑みを向けている
 端正な顔立ちで、目尻が垂れており優しそうな印象を与えた
 異世界にあるまじき格好、しかし、その異様さを消し去るような魔力量

「な、なにこの魔力っ」
 ロアが苦しそうに息を吸う
 
「これはこれは申し訳ありません」
 彼の魔力が消えた

「なにもんだ!まさか、転生者か!?」
「おっと申し遅れました、わたくし、田中 一成と申します、魔王軍の幹部を勤めております」
「魔王軍幹部!!!???」
 驚く一同に、空いた口が塞がらないギル
 律儀にお辞儀をする田中、の横顔にリュロが膝蹴りを入れた
 バァァン!!!!
 微動だにしない田中、笑顔は崩さず髪型を整え直した
 (嬢ちゃん!!??)
 すかさずギルがリュロを抑える
 離せと抵抗するが、ロアも押さえ込んでだんだんと落ち着きを取り戻す

「その目を見るに相当恨まれているようですね、残念ですが今の貴方では擦り傷を負わせることもできないでしょう」
「何が望みだ!!」
 ギルの体は震えていた
「あなた方達と取引をしたいと思いまして、」
「とりひき、だと?」
「えぇ、どなたか1人でいいです、魔王軍の配下に加わって頂きたいのです」
「断ったらどうする?皆殺しにするか?それに、お前ほどの力があれば強制することも容易だろう」
「強制はしません、断るのであれば他を当たることにしましょう」
「な、ななら断らせてもらう」
「残念です、私が提供するものはオーガの殺害であったのですが、仕方ありませんね」
「オーガの殺害!?さっきのオーガか!!??生きているのか!!」

 ウオォォォォオオオ!!!!!!!!
 森が震える、鼓膜が破れるかのような声量が、森の奥深くから聞こえてきた
 ドォォォオゴゴゴゴゴ!!!!!
 先ほどのオーガが鬼の形相で四つん這いで走っている
 地面を這うように、殺意に身を任せている

「さて、最終確認です、取引しますか?しませんか?」
 ギルが黙り込む
 そんな時、タイトの息が荒くなった
 (皆んなボロボロで俺だけ何もしないなんて情けない、情けない!!やれ!俺がなるっていえ!!!)
「なる!俺が、俺が配下になる!!!だから皆んなを守ってくれ!!」
 タイトがその場で頭を地面に擦って頼み込んだ
 
「取引成立ですね」
 微笑む田中
 瞬間、音速で迫るオーガ
 すぐ目の前に接近した時、シルクで包むかのようなカウンターの投げが炸裂
 それはまさに、合気道であった
 
 


 
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