神様のサウナ ~神様修業がてらサウナ満喫生活始めました~

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ラファエル・バーンズその3

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警護の兵士に誘われるが儘に、ラファエルとザックおじさんは歩を進めた。
そして王の間に入場することになる。
王様の脇には大臣が数名と、警護の兵士達が背後と両脇を固めていた。
その姿にラファエルは苦笑する。

(豪華なことだな)
その苦笑が気にいらなかったのか、数名の護衛と大臣が鼻白む。
これは不味いと思うザックおじさんだったが、王の御前であると、口を挟むことが憚られた。

(ラファエル、おめえなにやってんだ?帰ったら説教だで)
ザックおじさんは誓う。

ラファエルから見た国王は凡庸な印象だった。
この国王はその名をバハムート・メール・イヤーズという。
その実力はラファエルの印象通りの凡庸な王様である。
だがそんな王であっても特徴があった。
それは刺激的なことや、新しい物が大好きなのであった。
要は流行好きという事だ。
この娯楽の少ない世界にあって、その性格は可哀そうとも言える。
でもその性格は治すことは出来ない
国王の立場に立ってからというもの、誰もバハムートに意見を言えない状況にあったのだから。

王の御前にてラファエルは跪かない。
ザックおじさんは当然の如く跪いている。
ラファエルは両手を組んで顎を上げている。

その態度に大臣の一人が言い放つ、
「おい!お前失礼にもほどがあるぞ、跪け‼」
本気で怒鳴っていた。
大臣としても王の威厳を貶める訳にはいかないのだ。
それを平然とラファエルは回答する。

「お前アホか?呼びつけたのはそっちだろうが?俺はこんな所に来たくはなかったんだがな、別に俺はそこの王様に忠誠を誓った覚えは無いぞ。ああ、言っておく。これは俺の考えであって。俺とザックおじさんは別の価値観だから、ザックおじさんを巻き込まないでくれ」
大臣達がいきり立つ。

「何を言っている!無礼者!ええい!不敬罪にせよ!この様な礼儀知らずな者など今直ぐ牢獄に閉じ込めてしまえ‼」

「そうだ!摘まみだしてしまえ‼」
ラファエルは気だるそうに首を振っている。

「だからさあ・・・言っただろ?俺は別にここに来たくて来たわけではないんだっての、一方的に呼びつけておいて、無害な一般人を牢獄に入れようってか?それが本気ならこの国は腐っているぞ」

「なっ!・・・」
ラファエルの反論に大臣は言葉を飲み込む。

「まあ、よいではないか。その者が言う事も一理ある。確かに呼びつけたのはこちらである。ここはまずは来てくれた礼を言うのが礼儀というものではないのか?」
バハムート国王は寛容に言葉を掛けた。

ラファエルは思う、
(ほう、話の分かる王様じゃねえか。これは面白い)
ラファエルは心の中でニヤリと笑っていた。
高圧的は態度を崩さない。

「それで俺達を呼びつけた理由を聞こうか?」
何処までも怠慢な態度に護衛の者達と大臣達は苛立っている。
だがバハムート国王からのお達しにより、声を挙げることは出来なくなってしまった。

「お主はラファエルというらしいではないか、そして異世界人であるとな?実であるか?」

「ああ、間違いない」
ラファエルは頷く。

「ほう、その異世界の知識でたくさんの魔道具を開発したと聞いておる、違いないか?」

「違わないな」
ここでラファエルはピンとくる。
なるほど、ここに俺達を呼びつけた理由があるんだな。
目的は俺の異世界の知識だろうとラファエルは当てを付けていた。

「ホホホ、素晴らしいではないか。この国にも異世界人が来ようとはな、創造神様に感謝であるな」

「創造神だと?」
知らない言葉にラファエルは訝しむ。

「ほう、お主。創造神様を知らんと見受けられるが?」

「知らねえな、俺は無信仰者なんでね」

「そうか、それはまた・・・剛毅な者よ・・・」
バハムート国王はたじろいでいた。
ラファエルはこの反応に違和感を感じていた。

(何がおかしいってんだ?無宗教論者なんて珍しくもないだろうに)
この時ラファエルはまだ知らなかった、この世界は神様が顕現している世界だということを。
この発言に場内がざわつく。
ザックおじさんとしては、いても経っても居られなかった。
だが、口を挟むことは出来ないジレンマに苛まれていた。
王の御前にして口を挟む訳にはいかないからだ。

「なんだってんだよ、無信仰者がそんなに珍しいのかよ?」

「お主、この世界に来てどれぐらいになるのだ?」
バハムート国王は不思議そうに尋ねていた。

「だいたい三ヶ月ぐらいだな」
その回答にバハムート国王はゆっくりと頷く。

「そうか・・・まあ知らぬこともしょうがないではないか。この世界は神様が顕現しておるのだよ。詳細はそこのザックにでも教えて貰うと良い。異世界人のお主には不思議であろう?」

「はあ?神様が顕現しているだって?嘘だろ!」
ラファエルは驚きを隠せない。

「ラファエル、詳細は返ってからだで」
ここでやっとザックおじさんは口を開いた。

「ああ・・・」
ラファエルは狐に摘ままれた気分になっていた。
でもここは直ぐに気分を入れ替える。
こういった所はラファエルは優秀である。
ラファエルの切り替えの潔さは天晴であった。

「まあいいさ、それで?話が逸れているな。で?俺とザックおじさんを呼びつけた理由を聞こうか?」

「そうであったな、これはすまん。お主が造った魔道具によって、この国には優秀な魔道具師がおると話題になっておってな、それで一度会いたいと思ったのだよ、それに聞くと異世界人というじゃないか、これは先ずもって会わねばと考えたのだよ」
やはりな、そこになるんだな。とラファエルは心の中で頷く。
どうやらこの世界での異世界人は価値が高いみたいだな、とラファエルはほくそ笑む。

「へえー?そうなのか。そんなに異世界人は珍しいのかよ、過去に何人も居たと聞いたんだがな」

「そうなのだよ、異世界人は豊富な知識と知恵を持っており、国を繁栄させると言われておるのだよ。知らなんだか?」

「知らねえな、なんだ?俺は貴重価値が高いってことかよ。これは笑えるぜ、ガハハハハハ‼」
この態度に再び大臣達が色めき立つ。
でもその反応とは違い、バハムート国王はその豪胆な態度に興味を抱いていた。
それはそうだろう、バハムート国王はそんな大胆不敵な人物が大好物なのだから。

「ホホホ、そうであるな。お主は貴重な人物だよ。して、その豊富な知識を披露しては貰えんだろうか?」
ラファエルは確信を得ていた。
まず、この国王は刺激に飢えていると。
そしてこの国にとって有益な知識を欲していると。
ラファエルは逡巡する。
その優秀な頭脳で、自分の価値を最大限披露するにはこの場は打って付けであるのではなかろうかと。

(これはチャンスだ!ここの立ち振る舞い次第では、俺は地球での俺を簡単に凌駕出来そうだ)
ここに来てラファエルの本心がムクムクと顔を出して来ていた。

タイミングが良くなかった。
今のザックおじさんにはラファエル止めることが出来ない状態にあったからだ。
これが王の御前でなければ、とっくにザックおじさんはラファエルを咎めている。
下手をすると拳骨を頭に落としていたかもしれない。
それぐらい横柄な態度と、上から眼線にザックおじさんは苛々していたのだ。
ザックおじさんにとっては、王様とは平伏して当たり前という存在なのである。
間違っても同じ目線で会話をしていい相手ではない。
それなのにラファエルは同じ処か上から話している。
最早ザックおじさんにしてみれば、常識を飛び越え過ぎて訳が分からなくなっていたのだった。

「そうか、異世界の知識をお披露目して欲しいのかよ。いいぜ」

「なんと!よいのか?」
バハムート国王は興奮を隠さない。

「ああ、そうだなあ。まずは水資源だな。この国にはクマル川がある、その川から水を引き込んで、上下水道を引き込むことができる。水道は大事だぞ。様々な病気は汚れた水から起こると言ってもいいからな。水道は水の安全だけじゃないぜ、とても暮らしが便利になるし、何よりも清潔になるからな。これは外せない」

「水道とな?どうすればそれを造れるのだ?」
バハムート国王は前のめりだ。

「そりゃあ金は掛かるぜ、まず欠かせないのは土魔法を使える者共が沢山いる。それに水道管を造る鍛冶師がいるな」
教えることにラファエルの上から目線は更に上からになっていく。

「どれぐらいいるのだ?」

「それはどれぐらいの工期にするのかによって変わってくるさ、数日中にどうにかできるほど安易な工事じゃねえからな」

「そうか・・・工期か・・・」
バハムート国王は考えを巡らせる。

「それにただ水道を引き込むだけでは意味がない、それを各家庭に配備してこそ意味があるんだ」

「各家庭にとな?」
バハムート国王は驚愕しつつも、水道を理解しようと努めている。

「ああ、そうだ」
ラファエルは満足げに頷いている。

「なんと・・・」

「何を気にしているんだ?確かに金と時間はかかるさ、でもこれを完備できれば、国民の満足度は格段に上がるんぜ。それにその噂を聞きつけて何人もの人々がこの国に暮らしたいと言ってくることになるんだぞ」
この言葉がバハムート国王の決心を固めることになった。

「そうか、ではやろうではないか!その水道工事とやらを‼」
バハムート国王は高らかに宣言した。
こうなってしまうと大臣達も口を挟むことは出来なくなってしまった。
勿論ザックおじさんもだ。
中には頭を抱える大臣もいた。
でもそんなことはラファエルにはどうでもいいことだ。
頭さえ押さえてしまえば、後はどうとでもなる。
言質を取ったと、腹の中ではほくそ笑んでいたのだった。
もうこうなるとラファエルは止められない。
地球時代のラファエルに戻ったかの如く、その表情は有頂天になっている。
現にその口元にはしたたかな笑みが浮かんでいた。

ここからはラファエルの独壇場だった。
更にラファエルは畳み駆ける。
興が乗ってきていた。
ラファエルは更に水道の有効性を説き、関心を集めた。
ここまでくると大臣達もその話術に見入っている。
中には心を掴まれている者もいた。
こいつは天才ではなかろうかと。
ザックおじさんは後悔の念に苛まされていた。
モンスターを王様に会わせてしまったと。
でも口を挟むことは出来ない。
意を決して、とも考えたのだが、もうその機はとっくに逃している。
諦めの境地で見守ることしか出来なかった。

ラファエルは止まらない。
具体的な話に及ぶとやはり主張したのは権利だった。
ラファエルが求めたのは水道の利用料の二割を寄越せというものだった。
流石にこれには待ったが掛かる。
暴利が過ぎたのだ。

「ラファエル殿、それはあまりにも莫大ではないだろうか?」

「そうである、一割でも多大な金額になるのではないのか?」

「これは欲張り過ぎであろう」
大臣達は頭を働かせて計算を行っている。
それはそうだろう。
考えてみて欲しい。
この世界で水道メーターなどという物は存在しない。
だが固定費として利用料を国に支払うとした場合に、現在の日本の二ヶ月に一度払う利用料で考えた際に、その二割の金額がラファエルに集まって来ると考えたら恐ろしい金額になってしまう。
『イヤーズ』の国民の総数は約七万人である。
仮に日本円で計算すると、およそ二ヶ月に一度の利用料が五千円であった場合に、毎月三千五百万円ほどの金額が得られる。
年収四億二千万にもなるのだ。

これは異常なことである、この世界においてこの収入はもはや王族以上に成りえるのだ。
国を興せる金額であるという事になる。
でもラファエルは決して譲らない。
これを飲まなければこの話は無しだという姿勢を崩さない。
譲る気はないとその視線が語っていた。
そしてあろうことか、バハムート国王はそれを認めてしまった。

「いいではないか、ここで大事なのはラファエルの収入ではなかろう?この国が今よりも豊かで住みたいと思える国になることではないのか?」
こう言われてしまってはもう逆らえない。
同意せざるを得ない。

「そうですな」

「であろうか」

「そうで御座います」
ラファエルはガッツポーズをしたい気分だった。
誰と競っている訳でも無いのに、心の中で勝った‼と叫んでいた。
これは大事だとザックおじさんは青ざめていた。
こうなるとラファエルは留まることを知らない。
もう誰にも止められない。
言質を取ったと、口元に下卑た笑いを浮かべている。
最早ラファエルは世界をその手に収めたと感じ始めていた。

「さて、詳細を詰めようか?」
既成事実が出来上がってしまった。
もうこれを覆すことは出来ない。
完全にラファエルは過去の自分に戻ってしまっていた。
これまでのザックおじさんの努力は水の泡に消えてしまった。
もうラファエルの目線の中にはザックおじさんはいない。
ここにきてラファエルは恩を仇で返すことになっているのだが、そうとは気づけない。
完全に調子に乗っていた。
本人にその気は全くないのだが、結果的にはそうなっている。
そうと気づけないほどラファエルは本能に忠実になってしまっていたのだ。
その後ラファエルは大枠の話を行い、後日打ち合わせを行うことに纏めた。
『イヤーズ』にとっての災厄の始まりであった。



お店に帰ってくると、ザックおじさんは御冠だった。
否、そんな生易しいものでは無い。
烈火のごとく怒り出したのだ。
だがラファエルはそんな暴風もどこふく風と取り合わない。

「ザックおじさんよ、何がいけねえってんだ?大金が入るってのによ。俺はこれであんたに恩を返せると思ったんだがな」

「何が恩返しだ!国王にあんな態度を取っておいて、恩返しどころか、恩を仇で返された気分だで!」

「何だと?そこまで言うかよ!だいたいなんでそんなに国王に跪く必要があるってんだよ!言ったじゃねえか!国王もただの人間だろ?違うか?」

「な!・・・おめえ・・・」
ザックおじさんは言い返せない。

「まあいいじゃねえか、それよりも教えてくれよ。この世界には神が顕現しているって話だ。本当なのか?」
何とか怒りを納めようとザックおじさんは懸命に堪えている。
どうにかして怒りを納めた後には、今度はうんざりとした気分になっていた。
首を振って、ため息を吐いている。

「ふう・・・そうだで・・・本当だで。この世界には神様が顕現してるだで。この北半球にも何人もの神様がいるだ。そして北半球にはエンシェントドラゴンもいるだよ」

「何?ドラゴンだと?」

「そうだ、ドラゴン様だ。ドラゴンはその数が少なく、その存在は中級神以上だで、エンシェントドラゴンに関しては上級神だでよ。この世界を滅ぼすことができる存在だと言われているだよ」
これは現実なのかとラファエルは耳を疑った。

「何だそれ?ゲームの世界かよ?」

「ゲームが何だか知らんだで、でも嘘じゃねえだ、それに人間から神に至ることもあるだでよ」
更にラファエルは混乱する。

「人が神に成るってことか?」

「ああ、そうだで。隣国の魔道王国『エスペランザ』には陶磁器の神ポタリー様がいるだでよ。あの方は元は人間だって話だでよ」
ここに来てラファエルは興味が沸いてきた。
俺も神に成れるのかと・・・

「ちょっと待て、どうやって神になるんだ?」

「うーん、よく言われているのは、実績を積んでそれを天界にいる神々がそれを認めれば成れるということらしいだで、でも本当の所はよく分かっておらんだでよ」
ラファエルは考えを巡らせる。

(神か・・・オモしれえ、成ってみるか俺もその神とやらによ!)
どうやらラファエルには目標が出来てしまったみたいだ。
その考えを敏感にザックおじさんは感じ取る。

「おめえ、まさか神様に成ろうとでも思ってねえだか?」

「ん?駄目だってのか?」

「いや・・・そうではねえだが・・・」
ザックおじさんは言葉を飲み込んだ。

(おめえの様な欲深い者がなれるとは思えねえだが・・・でもその過程でラファエルも成長するかもしれねえだ、ここは見守るしかねえだで)
何処までも慈悲深いザックおじさんだった。
本当は神の素質があるのはザックおじさんだと考えられた。
だが当の本人には大逸れたことと、実績を積もうとは考えてはいなかった。
残念な話である。
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