【完結】ゆるキャラ好きの悪役令嬢はオネエ公爵に拾われる

柊ハセル

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……オネエ?

「え……?」

 そこに立っていたのは、サラサラの金髪にエメラルドの瞳をした、美しい男性だった。

「よく見るとそのお目目はサファイアなのね。可愛いわ~! ねぇ、このクマちゃんはどこの商会が取り扱っている物かしら?」

 長身の男性から放たれたファンシーな言葉に、思わず彼を凝視したまま固まってしまう。
 私の反応を見て我に返ったのか、美しい男性は、見開いていた目を瞬かせ「マズいっ!」と小さく呟くと、真っ青な顔になった。

「あ、いや、その、これは……違うんだ! 聞かなかったことにしてくれ!」

 必死に取り繕う彼を見て、ポカンと固まっていた私の頭の中に、ふと前世のある単語が浮かぶ。

「あなた……オネエなのね! 素敵!」

 前世で見たテレビ番組で、ズバズバ自分の意見を述べるオネエタレントに憧れを抱いていた私は、興奮のあまり、明らかに年上の身分ある男性に、勢いよくこの世界にはない言葉を口走っていた。

「……オネエ?」

 青い顔で慌てていた男性は、不思議そうにその単語を復唱する。

「あ、いえ、ごめんなさい。気にしないでください。それよりも……これ、気になりますか?」

 そう言いながら咄嗟に『くま吉』を手のひらに載せ、彼に向かって差し出した。
 目の前に差し出された『くま吉』に、再び彼の瞳が見開かれる。

「ああ……クマちゃん!」

 思わず溢れ出た声に慌てて口を手で塞いだが、さすがにもう遅い。
 軽蔑されると思ったのか、男性は青くなりながら、とても気まずそうに目を伏せた。
 そんなに気にすることはないのに……と思いつつも、この世界ではやはりかなり異質なことはわかっている。

(私に偏見がないということがどうやったら伝わるだろう? とにかく素直に行くしかない!)

 そう決めて、なるべく笑顔で彼に向き合う。

「可愛いですよね! 私この『くま吉』が大好きで。実はこれ、私が幼い頃に侍女と作ったものなんです。褒めていただいてありがとうございます」

 すると、私の言葉に男性は驚くように顔を上げ、一瞬唖然とした表情になると、声を上げて笑い出した。

「あははは。このクマちゃんは『くま吉』というのですね。しかもあなたの手作りとは! 失礼。どうも可愛いものを見ると我を忘れてしまいがちで……言葉遣いも……その、普段は気をつけているのですが、『くま吉』のあまりの可愛さに理性が保てませんでした」

 真剣にそう言われ、思わず目尻が下がる。
 裁縫の上手い侍女と一緒に作ったものとはいえ、褒めてもらえるのは純粋に嬉しい。
 私の反応を見た男性はゆっくりと回り込んで四阿内に入ってくる。
 そして、私の目をまっすぐに見ると、そっと手を取り、恭しく頭を垂れた。

「私はランズベルト・ハーティス。ハーティス公爵家当主です」
「公爵様!? 失礼いたしました! 私はアラベスク侯爵家の長女ロベリアと申します」

(まさか公爵様だったなんて……!)

 思わず立ち上がり、名乗りながら小さくカーテシーをした。
 ところが、挨拶のことよりも、公爵様はなぜか私の名前に引っ掛かりを覚えたようで、不思議そうに私を見る。
 どうやら今まさに催されている舞踏会のことをご存じらしい。
 一瞬会場のある方角を眺め、再び私に視線を戻して問いかけた。

「アラベスク侯爵家のロベリア嬢……というと、王太子殿下の婚約者の?」
「はい……まあでも、今しがた婚約破棄を言い渡されましたけれど……」

 『婚約破棄』という言葉に驚いた公爵様は、私から少し間を空けて隣に腰を下ろし、心配そうな表情を向けると、そのまま私にも座るよう促した。

「婚約破棄とは穏やかではありませんね。何があったのですか?」

 公爵様の優しい眼差しに、先ほどまで膨らんでいた不安が再熱して、思わず涙が溢れ出す。
 すると彼は黙ってそっとフリルが少しだけ入ったハンカチを差し出した。

「可愛いハンカチ……」

 そう小さく呟くと、公爵様は柔らかい笑みを落とす。

「良ければ、私に事情をお話しいただけませんか? 何か力になれるかもしれません」
「いえ、そんな……」
「それに口は硬い方です。なんなら、私が喋った場合は、先ほどの私の秘密を吹聴していただいて構いません。いかがですか?」

 普段であれば、絶対に乗ることのない取引だけれど、この時の私はよほど弱っていたのか、それとも公爵様と波長が合っていたのか……。
 出会ったばかりの公爵様に乙女ゲームの話は伏せつつも、前世の記憶があること、王太子が男爵令嬢に夢中になり、無実の罪で断罪され、婚約破棄を迫られたことなど、全て話してしまった。
 そして、気がつくと、前世でも今世でも心の支えになっているゆるキャラ『くま吉』のことや、他の大好きなゆるキャラについても、うっかり熱弁してしまっていた。
 突拍子もない話にもかかわらず、公爵様は何度も頷いたり、質問をしたりしながら、疑うどころか、とても親身になって、時おり目をキラキラさせながら、私の話を聞いてくれたのだった。
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