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ハーティス公爵邸
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馬車内で行われたぬいぐるみ品評会によってテンションが上がり切った状態のまま、気づけばハーティス公爵邸に辿り着いてしまっていた。
門の前で一旦馬車が止まる。
そこに見えるのは、まさにお城!
前世でいうところの、ヨーロッパの古城のような美しい真っ白なお城がそびえ建っていた。
(お城なのはまあ、公爵家なのだし、良しとしよう……だけど。王宮とほとんど変わらないサイズのお城ってどういうことなの!?)
という訳で、若干引き気味な状態でそのお城を見上げる。
そうして圧倒されながらも屋敷に入ると、家令と思しき壮年の男性がランズベルト様を出迎えた。
「お帰りなさいませ、旦那様」
すると、その家令の後ろには、煌びやかなドレスを身に纏った美しい中年の女性が、満面の笑みを浮かべて立っていた。
(この方は一体……? なぜか私ものすごく睨まれてるんですけど!?)
「お帰りなさい、ランス」
一歩前に出て声を掛ける女性に、ランズベルト様は私を守るようにそっと手をかざす。
「ただいま戻りました。母上」
(は、母上!? この方がランズベルト様のお母様!? ということは、前公爵夫人!? どうしよう……こんな夜更けにいきなり訪れて、きっと非常識だと怒ってらっしゃるわよね……)
「ええ、待っていたわ……」
そう言うと、庇われている私を覗き込むように、ランズベルト様に迫ってくる。
「あの、母上……?」
夫人の不穏な様子に、懸命に庇おうとしてくださるランズベルト様の大きな背中がとっても心強い。
けれど、そんなランズベルト様を押し除けるような圧の強い笑顔が私に迫る。
「ええ、待ち構えていましたとも!!」
「ちょっ、母上!?」
「その後ろの可愛らしい女性は一体どこのどなたなのかしら!? まさかあなたが自分から屋敷に女性を連れてくる日が来るなんて!!! しかもこんな夜更けに!! もう母は待ちきれなくて玄関先でセバスと一緒にウキウキ待機してしまったじゃありませんか! さあ、早く紹介なさい!!!! さあ!!」
前公爵夫人の凄まじい剣幕とやたら上がり切ったテンションに、私は「あ、これ紛れもなく親子だわ……」となぜか安心してしまう。
そんな母親を見たランズベルト様は、呆気に取られた後、大きなため息をついた。
「こちらは、アラベスク侯爵家のロベリア嬢です。訳あって、しばらく我が家でお預かりすることになりました。突然のことでご相談もせず決めてしまい、申し訳ありません」
「ロベリアと申します。突然の訪問となり、大変申し訳ありません」
ランズベルト様から少しズレて、カーテシーをすると、夫人はさらにぐいっと迫ってきた。
「まあまあまあまあ、あの、ロベリア様ですわね! わたくし、ランスの母のルイーゼです。王太子殿下の横暴にも困ったものですわ」
「……ご存知でいらっしゃいましたか…………」
「ええ、もちろんですわ。わたくしあの場におりましたもの……本当に酷いことをなさると、ほとほと呆れ果てておりましたの。でもまさか、ランスが……」
「母上、これには事情がありまして――」
「言わなくてもわかっておりましてよ! あなたが失意のどん底からロベリア嬢をお救いしたのでしょう!? 母はあなたがそのような淑女に優しい紳士に育ってくれてとっっっても嬉しいわ!!! そんな二人の距離が一気に縮まって……! そういうことですわね!!」
「あの母上っ」
「婚約破棄したばかりだからなんて、気にする必要はありませんわよ!! わたくしはこう見えて恋愛に関しては寛容なのです! それにロベリア嬢といえば、不甲斐ない殿下に代わって常に冷静に、優雅に、社交や公務をこなしてきた淑女の中の淑女! これ以上の良縁はありませんわ!! まさかランスがこんな良縁を自分から掴み取ってくるだなんて……!」
(え!? それは一体どこのロベリアさんのお話ですか!? 確かに殿下の代わりに色々やってはいたけど。でもさすがに淑女の中の淑女なんて、言われたことなかったと思うのだけど……それは一体どこ情報なの!?)
「いえ、その、母上……」
あまりの夫人の勢いにランズベルト様はタジタジになりながらも、誤解を解こうと声を掛けるが、全く聞いちゃいない。
夫人は、そのままの勢いで満面の笑みで高らかに宣言する。
「とにかく! 母は大、賛、成です!!!!」
あまりの宣言に、二人で唖然としてしまう。
夫人の後ろに控えている家令や侍女たちは、ハンカチを片手に涙を流している。
なんなら口々に「あの坊っちゃまについにお相手が……!」とか言いながら、ハイタッチなどしているではないか。
これは一体どういうことなのか……とランズベルト様をじっと見る。
「……私にはあの秘密があるので、今までの見合いは全て断り続けてきたのです」
気まずそうな顔をしながらそう小声で言うランズベルト様の後ろで、夫人がニヤリと笑うのが見えた。
「聞きましたよ、ランス! ロベリア様はあなたのあれをご存知なのね!?」
一瞬しまった、という顔をしたが、もう遅い。
目をキラキラ輝かせた夫人は、私の手をギュッと掴み、満面の笑みを向ける。
「んふふ。これからよろしくお願いしますわね、ロベリア様! わたくしのことは『お義母様』と呼んでくださいませ」
「は、はい……よろしくお願いいたします」
あまりの笑顔の圧に、「違います」なんて言う選択は、私には残されていなかった。
門の前で一旦馬車が止まる。
そこに見えるのは、まさにお城!
前世でいうところの、ヨーロッパの古城のような美しい真っ白なお城がそびえ建っていた。
(お城なのはまあ、公爵家なのだし、良しとしよう……だけど。王宮とほとんど変わらないサイズのお城ってどういうことなの!?)
という訳で、若干引き気味な状態でそのお城を見上げる。
そうして圧倒されながらも屋敷に入ると、家令と思しき壮年の男性がランズベルト様を出迎えた。
「お帰りなさいませ、旦那様」
すると、その家令の後ろには、煌びやかなドレスを身に纏った美しい中年の女性が、満面の笑みを浮かべて立っていた。
(この方は一体……? なぜか私ものすごく睨まれてるんですけど!?)
「お帰りなさい、ランス」
一歩前に出て声を掛ける女性に、ランズベルト様は私を守るようにそっと手をかざす。
「ただいま戻りました。母上」
(は、母上!? この方がランズベルト様のお母様!? ということは、前公爵夫人!? どうしよう……こんな夜更けにいきなり訪れて、きっと非常識だと怒ってらっしゃるわよね……)
「ええ、待っていたわ……」
そう言うと、庇われている私を覗き込むように、ランズベルト様に迫ってくる。
「あの、母上……?」
夫人の不穏な様子に、懸命に庇おうとしてくださるランズベルト様の大きな背中がとっても心強い。
けれど、そんなランズベルト様を押し除けるような圧の強い笑顔が私に迫る。
「ええ、待ち構えていましたとも!!」
「ちょっ、母上!?」
「その後ろの可愛らしい女性は一体どこのどなたなのかしら!? まさかあなたが自分から屋敷に女性を連れてくる日が来るなんて!!! しかもこんな夜更けに!! もう母は待ちきれなくて玄関先でセバスと一緒にウキウキ待機してしまったじゃありませんか! さあ、早く紹介なさい!!!! さあ!!」
前公爵夫人の凄まじい剣幕とやたら上がり切ったテンションに、私は「あ、これ紛れもなく親子だわ……」となぜか安心してしまう。
そんな母親を見たランズベルト様は、呆気に取られた後、大きなため息をついた。
「こちらは、アラベスク侯爵家のロベリア嬢です。訳あって、しばらく我が家でお預かりすることになりました。突然のことでご相談もせず決めてしまい、申し訳ありません」
「ロベリアと申します。突然の訪問となり、大変申し訳ありません」
ランズベルト様から少しズレて、カーテシーをすると、夫人はさらにぐいっと迫ってきた。
「まあまあまあまあ、あの、ロベリア様ですわね! わたくし、ランスの母のルイーゼです。王太子殿下の横暴にも困ったものですわ」
「……ご存知でいらっしゃいましたか…………」
「ええ、もちろんですわ。わたくしあの場におりましたもの……本当に酷いことをなさると、ほとほと呆れ果てておりましたの。でもまさか、ランスが……」
「母上、これには事情がありまして――」
「言わなくてもわかっておりましてよ! あなたが失意のどん底からロベリア嬢をお救いしたのでしょう!? 母はあなたがそのような淑女に優しい紳士に育ってくれてとっっっても嬉しいわ!!! そんな二人の距離が一気に縮まって……! そういうことですわね!!」
「あの母上っ」
「婚約破棄したばかりだからなんて、気にする必要はありませんわよ!! わたくしはこう見えて恋愛に関しては寛容なのです! それにロベリア嬢といえば、不甲斐ない殿下に代わって常に冷静に、優雅に、社交や公務をこなしてきた淑女の中の淑女! これ以上の良縁はありませんわ!! まさかランスがこんな良縁を自分から掴み取ってくるだなんて……!」
(え!? それは一体どこのロベリアさんのお話ですか!? 確かに殿下の代わりに色々やってはいたけど。でもさすがに淑女の中の淑女なんて、言われたことなかったと思うのだけど……それは一体どこ情報なの!?)
「いえ、その、母上……」
あまりの夫人の勢いにランズベルト様はタジタジになりながらも、誤解を解こうと声を掛けるが、全く聞いちゃいない。
夫人は、そのままの勢いで満面の笑みで高らかに宣言する。
「とにかく! 母は大、賛、成です!!!!」
あまりの宣言に、二人で唖然としてしまう。
夫人の後ろに控えている家令や侍女たちは、ハンカチを片手に涙を流している。
なんなら口々に「あの坊っちゃまについにお相手が……!」とか言いながら、ハイタッチなどしているではないか。
これは一体どういうことなのか……とランズベルト様をじっと見る。
「……私にはあの秘密があるので、今までの見合いは全て断り続けてきたのです」
気まずそうな顔をしながらそう小声で言うランズベルト様の後ろで、夫人がニヤリと笑うのが見えた。
「聞きましたよ、ランス! ロベリア様はあなたのあれをご存知なのね!?」
一瞬しまった、という顔をしたが、もう遅い。
目をキラキラ輝かせた夫人は、私の手をギュッと掴み、満面の笑みを向ける。
「んふふ。これからよろしくお願いしますわね、ロベリア様! わたくしのことは『お義母様』と呼んでくださいませ」
「は、はい……よろしくお願いいたします」
あまりの笑顔の圧に、「違います」なんて言う選択は、私には残されていなかった。
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