【完結】ゆるキャラ好きの悪役令嬢はオネエ公爵に拾われる

柊ハセル

文字の大きさ
16 / 55

元凶

 リリアーナ様が退室され、ルイーゼ様と二人、ソファーで向かい合う。
 目の前のルイーゼ様は、なぜかずっと満面の笑みである。

(あ~~もう、なんて言ったらわかってもらえるの?? 初っ端から誤解されてたのに、さっきのでさらに根深くなっちゃったよね!? だけど、こんなに喜ばれているところに実は誤解でした~なんて話すの、心苦しすぎる! でも引き延ばしても傷が深くなるだけだし……ああもう、なんて切り出せば……)

 私の頭の中は、これまでの誤解をどう解くかでいっぱいになっていた。
 とにかく、ちゃんと話してわかってもらおう! そう意気込んだところ――

「あの、ルイーゼ様……」
「ロベリア様……先ほどはリリアーナが申し訳ありませんでした」

 話しかけるタイミングがほぼ同じなうえに、唐突にリリアーナ様のことについて謝られ、頭を下げ始めるルイーゼ様に戸惑ってしまう。

「そんなっ、ルイーゼ様が頭を下げる必要はございませんわ! 頭を上げてください!」
「いえ。あの子にきちんと話してこなかった、わたくしたちが悪いの。それにちょうど良い機会だわ。少し昔話を聞いてくださるかしら?」

(昔話……一体何のお話が始まるの? とはいえ、断れる雰囲気じゃないわね)

 いつもの、あのテンションの高い状態とは違う、落ち着いた雰囲気を漂わせるルイーゼ様に驚きつつも、目を見てしっかりと頷く。

「もちろんです。伺いますわ」

 頷く私に、そっと微笑んだルイーゼ様は、ゆっくりと話し始めた。

「……うちとサハウェイ公爵家は、親戚なのもあって、昔から親交が深いの。それで、ランスとリリアーナ、それに、彼女の兄にあたるオズワルドの三人は幼馴染で、幼い頃からいつもよく一緒に遊んでいたわ。あの頃からランスはわたくしに似て、可愛いものが大好きでしたの」

 嬉しそうに話をするルイーゼ様に思わず私もその頃のランズベルト様を想像する。

「やっぱり! きっとぬいぐるみを抱いたらなかなか放さなかったのでしょうね」
「そうなのよ! いっつも可愛いものを握りしめて放さなかったわ。…………けれど、それがある日突然、可愛いものを要らないと遠ざけるようになったの……」
「え……? あのランズベルト様がですか?」
「ええ。理由を訊いても『可愛いものなんか要らない!』って今にも泣きそうな顔をしながら言うだけで……困ってしまって」

 息子を思って悩む若かりし頃のルイーゼ様と、小さな少年が必死に強がっている姿が思い浮かぶ。

「黙って見ていることもできなくて、メイドにこっそり様子を見させたの。そうしたら……リリアーナがランスに向かって言っていたの……」

「……何をですか?」

「『変』だと。男の子が可愛いものばかりに興味を向けることは『変』で『おかしい』と。だからランスは『おかしな子』『変な子』なのだと。しかも、それを他の令嬢たちにも言い回って、その子たちからも同じような言葉を浴びせられていたのです」
「それは……」

 思わず、先ほどのリリアーナ様を思い浮かべる。
 確かに心で思ったことを深く考えもせずに、口からすぐに出してしまいそうなタイプではある。
 当時も、深く何も考えず、ランズベルト様を傷つけるなんてこと思いもしないまま、言ってしまったのだろう。
 そして、あの様子だと、当時からランズベルト様に好意を抱いていてもおかしくない。

(きっと他の令嬢たちを近づかせないために、わざと言い回っていたのでしょうね……なんて自分勝手な)

「幼い子どもの言ったことだということはわかっています。けれど、その相手も子どもです。ランスがどれほどその言葉で傷ついたかと思うと……」

 当時を思い返しているのか、ルイーゼ様は涙を堪えているような辛い表情になり、言葉に詰まる。

「だから、リリアーナ様だけはありえないとおっしゃったのですね」
「……ええ。ランスのアレは幼少期の我慢の反動なのですわ。抑圧された思いがどんどん膨らみ、抑えきれなくなって、ああなってしまったの」
「つまり、リリアーナ様は例の、元凶なのですね……」

 「元凶」という言葉にルイーゼ様は大きく頷く。

「その通りよ。ですのに、当の本人はランスが傷ついていたことに全く気づいていないどころか、好意を寄せているだなんて。鈍感にも程がありますわ。ランスも親族の集まり以外はずっとリリアーナを避けていたのだけれど、爵位を継いだ頃から急にまた積極的に接近してくるようになったらしくて、困っていましたの」

(ああ……行動が露骨ね……。まあでも、爵位を継いでも婚約者も妻も居ない、だと他の令嬢が群がってくるわよね……だから我慢ができなくなっちゃったのかしら)

 親戚なだけに完全に拒否することもできないだけでなく、自分が婚約者だと周りに牽制し続ける宰相の娘の公爵令嬢とか、厄介過ぎる。
 私を連れたランズベルト様が夜更けに帰宅して、そのうえ、彼の秘密を知って受け入れているとなれば、確かにルイーゼ様や使用人たちが大騒ぎするのも頷ける。
 こんな話を聞いてしまっては、誤解を解くなんてことがさらに難しくなってしまい、私はさらに頭を抱えることになった。

 そんな私の心の状態を知ってか知らずか、ルイーゼ様は清々しい笑顔を私に向ける。

「ロベリア様のような、あの子の心に寄り添ってくださるご令嬢が現れてくださるだなんて、本当にどれほど嬉しいことか……」

 そう言った後、少し間を置くと、ジョアンナの淹れたお茶を一口飲んでから、改まった真剣な表情で私を見据える。

「ねぇ、ロベリア様。ランズベルトのこと、本当に真剣に考えていただくことはできませんか?」

 今までのルイーゼ様は全く違う、本心からだとわかる言葉に、私も真剣に向き合うことを決め、口を開いた。

「ルイーゼ様。ランズベルト様はとても素敵な方です。ですから、私のような人間が釣り合うとは思っておりません。私が側に居れば、きっと彼まで非難されてしまいますわ……」

「そんなこと気にしなくて良いのです! それにハーティス公爵家を相手に、非難を言える人間など知れています!」
「いえ、私は、あんな素敵な方をそんな目に遭わせたくないのです」

「……ロベリア様」

「それに、私とランズベルト様はまだ出会って一日。今日でようやく二日目ですわ。私にとってはまたとない良縁ですが、ランズベルト様がどう思われるか……」

 二日目と聞いて「あら」と言いながら、口元に手を添えると、ルイーゼ様はなぜかより嬉しそうに顔を綻ばせた。
「よく考えるとまだそんなに日が浅かったのですね。ですが、あまりそれは関係ないように思いますが……」

「それは一体どう――」
「それにきっとランスも……」
「え?」

 私の言葉に被せるように意味深な言葉をそっと呟くと、もう一口お茶を飲む。
 そうしてホッと一息ついたルイーゼ様は、満足げな笑みを浮かべた。

「それよりも、ロベリア様。今朝ランスのお見送りをなさったのですって? まるで新婚夫婦のようだったと、使用人たちが大騒ぎしてましたの! もう、なぜわたくしはその場にいなかったのかしら! 悔やまれてなりませんわ!!!」

 いつもの笑顔に切り替わったルイーゼ様の、いつもの猛攻に、思わず目を瞬かせる。

「そうですわ! もう少ししたらランスも帰って参りますわよね!! お見送りは叶いませんでしたが、お迎えは是非是非拝見させていただきたいわ!!! でもきっとわたくしが一緒だと、ランスが嫌そうな顔になってしまいますから、見つからないようにそっと、そっと見守っておりますわね!!」

 そして、その勢いのまま、「そんな素敵な場面はなんとしても映像に残さねばなりませんわ!」と魔道具を探しに退出していかれてしまった。

(ほんと、嵐のような方だわ……)

 呆れながらも思わず退出された扉を見つめ、「くま吉」を急いで仕上げなくては、と作業に戻ることにした。
感想 5

あなたにおすすめの小説

【完結】悪役令嬢はおねぇ執事の溺愛に気付かない

As-me.com
恋愛
完結しました。 自分が乙女ゲームの悪役令嬢に転生したと気付いたセリィナは悪役令嬢の悲惨なエンディングを思い出し、絶望して人間不信に陥った。 そんな中で、家族すらも信じられなくなっていたセリィナが唯一信じられるのは専属執事のライルだけだった。 ゲームには存在しないはずのライルは“おねぇ”だけど優しくて強くて……いつしかセリィナの特別な人になるのだった。 そしてセリィナは、いつしかライルに振り向いて欲しいと想いを募らせるようになるのだが……。 周りから見れば一目瞭然でも、セリィナだけが気付かないのである。 ※こちらは「悪役令嬢とおねぇ執事」のリメイク版になります。基本の話はほとんど同じですが、所々変える予定です。 こちらが完結したら前の作品は消すかもしれませんのでご注意下さい。 ゆっくり亀更新です。

すみっこ婚約破棄同盟〜王子様による婚約破棄のすみっこで〜

まりー
恋愛
   ある夜会で王子とその側近達の婚約破棄が行われた。腕に恋人をぶら下げて。所謂、王道断罪劇である。  でもこのお話の主役は麗しのヒロインでも、キラキラ王子でも、学園一の秀才や騎士団期待のホープでもない。これは王道のすみっこで行われた、弱小貴族と商人の子息たちの婚約破棄のお話である。 _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ 「もう俺ら、恋なんてしない!」と言う小学生の息子の話を参考に書きました。登場人物の男子たちの頭は小学生レベルだと思って読んでください。    

ヒロインしか愛さないはずの公爵様が、なぜか悪女の私を手放さない

魚谷
恋愛
伯爵令嬢イザベラは多くの男性と浮名を流す悪女。 そんな彼女に公爵家当主のジークベルトとの縁談が持ち上がった。 ジークベルトと対面した瞬間、前世の記憶がよみがえり、この世界が乙女ゲームであることを自覚する。 イザベラは、主要攻略キャラのジークベルトの裏の顔を知ってしまったがために、冒頭で殺されてしまうモブキャラ。 ゲーム知識を頼りに、どうにか冒頭死を回避したイザベラは最弱魔法と言われる付与魔法と前世の知識を頼りに便利グッズを発明し、離婚にそなえて資金を確保する。 いよいよジークベルトが、乙女ゲームのヒロインと出会う。 離婚を切り出されることを待っていたイザベラだったが、ジークベルトは平然としていて。 「どうして俺がお前以外の女を愛さなければならないんだ?」 予想外の溺愛が始まってしまう! (世界の平和のためにも)ヒロインに惚れてください、公爵様!!

悪役令嬢ですが、当て馬なんて奉仕活動はいたしませんので、どうぞあしからず!

たぬきち25番
恋愛
 気が付くと私は、ゲームの中の悪役令嬢フォルトナに転生していた。自分は、婚約者のルジェク王子殿下と、ヒロインのクレアを邪魔する悪役令嬢。そして、ふと気が付いた。私は今、強大な権力と、惚れ惚れするほどの美貌と身体、そして、かなり出来の良い頭を持っていた。王子も確かにカッコイイけど、この世界には他にもカッコイイ男性はいる、王子はヒロインにお任せします。え? 当て馬がいないと物語が進まない? ごめんなさい、王子殿下、私、自分のことを優先させて頂きまぁ~す♡ ※マルチエンディングです!! コルネリウス(兄)&ルジェク(王子)好きなエンディングをお迎えください m(_ _)m 2024.11.14アイク(誰?)ルートをスタートいたしました。 楽しんで頂けると幸いです。 ※他サイト様にも掲載中です

最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である

megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。

リリィ=ブランシュはスローライフを満喫したい!~追放された悪役令嬢ですが、なぜか皇太子の胃袋をつかんでしまったようです~

汐埼ゆたか
恋愛
伯爵令嬢に転生したリリィ=ブランシュは第四王子の許嫁だったが、悪女の汚名を着せられて辺境へ追放された。 ――というのは表向きの話。 婚約破棄大成功! 追放万歳!!  辺境の地で、前世からの夢だったスローライフに胸躍らせるリリィに、新たな出会いが待っていた。 ▹◃┄▸◂┄▹◃┄▸◂┄▹◃┄▸◂┄▹◃ リリィ=ブランシュ・ル・ベルナール(19) 第四王子の元許嫁で転生者。 悪女のうわさを流されて、王都から去る   × アル(24) 街でリリィを助けてくれたなぞの剣士 三食おやつ付きで臨時護衛を引き受ける ▹◃┄▸◂┄▹◃┄▸◂┄▹◃┄▸◂┄▹◃ 「さすが稀代の悪女様だな」 「手玉に取ってもらおうか」 「お手並み拝見だな」 「あのうわさが本物だとしたら、アルはどうしますか?」 ********** ※他サイトからの転載。 ※表紙はイラストAC様からお借りした画像を加工しております。

悪役令嬢はモブ化した

F.conoe
ファンタジー
乙女ゲーム? なにそれ食べ物? な悪役令嬢、普通にシナリオ負けして退場しました。 しかし貴族令嬢としてダメの烙印をおされた卒業パーティーで、彼女は本当の自分を取り戻す! 領地改革にいそしむ充実した日々のその裏で、乙女ゲームは着々と進行していくのである。 「……なんなのこれは。意味がわからないわ」 乙女ゲームのシナリオはこわい。 *注*誰にも前世の記憶はありません。 ざまぁが地味だと思っていましたが、オーバーキルだという意見もあるので、優しい結末を期待してる人は読まない方が良さげ。 性格悪いけど自覚がなくて自分を優しいと思っている乙女ゲームヒロインの心理描写と因果応報がメインテーマ(番外編で登場)なので、叩かれようがざまぁ改変して救う気はない。 作者の趣味100%でダンジョンが出ました。

悪役令嬢のはずですが、年上王子が幼い頃から私を甘やかす気でいました

ria_alphapolis
恋愛
私は、悪役令嬢なのかもしれない。 王子の婚約者としては少し我儘で、周囲からは気が強いと思われている―― そんな自分に気づいた日から、私は“断罪される未来”を恐れるようになった。 婚約者である年上の王子は、今日も変わらず優しい。 けれどその優しさが、義務なのか、同情なのか、私にはわからない。 距離を取ろうとする私と、何も言わずに見守る王子。 両思いなのに、想いはすれ違っていく。 けれど彼は知っている。 五歳下の婚約者が「我儘だ」と言われていた幼い頃から、 そのすべてが可愛くて仕方なかったことを。 ――我儘でいい。 そう決めたのは、ずっと昔のことだった。 悪役令嬢だと勘違いしている少女と、 溺愛を隠し続ける年上王子の、すれ違い恋愛ファンタジー。 ※溺愛保証/王子視点あり/幼少期エピソードあり