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第5章 不穏の幕開け
第3話 失われた技術の発掘人
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ぬかるむ山道はやがて平坦な道となり、不意に迷彩色の天布が目の前に横たわる。目立たないように低く作られたテント。サモネア王国軍のキャンプ地であった。未だ雨は止まなかった。
「諸君、これより暫くここで敵の偵察・戦力分析・作戦確認を行う。自分達のテントを張って待機するように」
部下たちにそれだけ告げると、私は既に張られているテントへと入っていく。
このキャンプ地は先に偵察部隊が拠点としていた場所であった。私たちはそこに合流した形となるのだが、このテントは偵察部隊のものより大きい。もうひとつの先客のものだった。
「お!来た来た、姫騎士さん。遅かったじゃん!!」
唐突に馴れ馴れしく話しかけてくる若い青年。
「博士。流石にそれは姫騎士様に無礼ですよ」
むっとして咎めるのはいつもの如くロイだ。
「え?ちゃんと『さん』付けたでしょ?ロイ。それよりさ、どうだったの?魔族と戦ってみてさ」
彼は全く気にする様子もなく、自分が気になったことをずけずけと聞いてくる。彼はいつもこの調子なのだ。
彼こそがセバス・ミントバーグ博士。サモネア王国の軍事技術を担う顧問技術者にして、失われた技術の再現に成功したことで一躍時の人となった、若き天才技師である。
その功績を称えて「技術発掘人」という2つ名が検討されている。この作戦が無事に終了したら、正式に国王から称号を授与されることになるだろう。
「今本国に報告をやっているところだが、博士の好きそうな兵器が出てきたよ」
「まさか、ゴーレムかい?」
「ふ、ご名答だ。とんでもない膂力と硬度。私じゃとても敵わなかった。お陰で私たちは退却するしかなかったんだ」
多くの部下たちの犠牲を伴って。私は唇を噛み締めた。
「へえ~!!姫騎士さんが敵わないなんてすごいなあ。どんなゴーレムだったの?」
セバスは無邪気な目を輝かせる。少しむっとしたが、彼に悪意がないことはよく分かる。純粋に研究対象としての興味だろう。
「竜型のゴーレムだった。大きな体を2本の後ろ足だけで支え、巨大な頭と尻尾でバランスを取るように立っていた。その力は我が国のゴーレムとは比べ物にならず、おまけに炎の魔術まで展開していたよ」
「竜型ゴーレム!!すごい、やっぱり魔族ってすごい!!ね、姫騎士さんもそう思うよね?」
「博士!!この作戦で多くの兵士の命が奪われたのです。それを凄いなどと……。いい加減にしてください!!」
ロイが激しく突っかかる。セバスと顔を合わせるようになってまだ1年も経っていないが、この二人の折り合いが悪いのは誰の目にも明らかだった。
「はっはっは……。そうかっかしなさんな、ロイ殿。セバスは何も悪気がある訳じゃない。人間の作ったものより遥かに優れた魔族のゴーレムに興味を持つのは、こいつが技術者として真っ直ぐ生きている証なのじゃ」
テントの奥からしわがれた低い声が響く。雨がテントをぼつぼつと鳴らし、少し聞き取りづらい。
声の主はロドリゲス・ハプル。ブラン王国の研究所にも勤めていたことのあるベテラン技師であり、今はセバスの元、サモネア王国の為に働いている技術者だ。
立場としてはセバスの部下だが、実質経験の浅いセバスを補佐する相談役である。ブラン王国時代の失われた技術を復活させようとするセバスにとって、彼の経験と記憶は貴重な情報源でもある。
「こいつのゴーレムに対する情熱は、必ずや魔族を滅ぼす役に立ちましょう。今は大目に見てくだされ」
「しかし、セバス博士は魔族の殲滅に消極的な意見をお持ちだと伺いましたが?」
「そりゃそうだよ。またすごい技術が失われるってことでしょ?復活させるのどれだけ大変だと……」
「魔族の技術など!!」
セバスの話をロイの大声が遮る。
「そんなものに頼らずとも、人間の文明は必ずそれを越えていきます。奴らの痕跡など、歴史に残すべきじゃない!!」
「必ず越えるって……。実際に技術を発展させるのはぼくたちなんだけど」
「セバス。あまり魔族を擁護するなという話じゃ。この世界には魔族に家族を奪われた者、村を焼かれた者など、彼らに恨みを持つ者がたくさんいる。そんな者たちの気持ちも考えろと……」
「でもロドリゲスと姫騎士さんも、王国を奪ったのは魔族じゃなくて人間だったんでしょ?」
「セバス!!その話はするなと言うたじゃろう。姫騎士様、申し訳ありません。セバスに悪気はございません。どうかお気を悪くなさらないでください」
私は一言「良い」とだけ言う。私の祖国ブラン王国。それを滅ぼしたアリシア盗賊団。忘れたことなど1度もない。
セバス博士は優秀な技術者だが、人の気持ちを考えるのが苦手だった。その彼を顧問技術者に登用した国王は、当初技術者たちから猛反対にあったのだ。
「セバス博士の苦労も聞き及んでいる。今のは聞かなかったことにしよう」
「ははあ、姫騎士様。寛大なご判断に感謝致します。セバス!お前も頭を下げなさい」
「え?どうして……?」
彼の態度が改まることはない。ロイの顔が赤くなってまた怒鳴り出しそうだ。私はふっと息を吐き、早めに本題に入ることにする。
「そんなことより作戦の話をしよう。魔族の村の様子は聞いているか?」
「ああ、うん。聞いたよ。強い魔物をあっさり倒しちゃってたんでしょ?普通に戦ったらまず勝ち目はないんだよね」
「そうだ。ラミアの町の子供たちを助け出すには、私たちだけでは難しい。だからこそ博士を呼んだのだが」
「勝てそうかってことだよね?」
「ああそうだ」
その途端、セバスの口元がにやりと吊り上がる。
「絶対勝てる。安心してよ」
自信満々のその言葉に、ロイの目付きも変わる。
「そこまで自信を持って言えるとなると、相当の根拠があるのでしょうね」
「さっき偵察部隊の人たちと一緒に魔族の戦闘を見ることができたんだけどね。彼らは非常に原始的な方法で狩猟を行っていたんだ。衣服も武器もまるで原始時代。文明レベルのかなり低い村みたいだったよ」
「ふむ。それで勝てると断言できる根拠は?」
「まず奴らの武器。基本的に鉄製の武器を使っていたのには驚いたけど、魔術を付与したり強化したりといったことは為されていなかった。実際に魔物に振るっているところを見ても、威力は大したことなかった。想定の範囲内だったよ」
「なるほど……。確かに魔術付与もない剣など、本来我々の敵ではないでしょう。先日戦った魔族たちも力任せに剣を振るだけでした。身体強化の魔法は掛かっていたようですが、脅威と呼べるものではありません」
「ふむ、他には?」
「鎧。びっくりするよ?資源に乏しいのか何なのか、本当に軽装備しかないんだ。本来ならあの辺りの魔物に太刀打ちできるような防具じゃないんだよ。それで生きていけるのがすごいんだけど、彼らは守りを重視していないみたいだ」
「私もセバスと共に魔族の戦闘を見ておりましたが、どうやら機動力重視の戦士が多いようでしたな。魔物を狩るだけならばあれで十分なのでしょう。小さな村でしたし、大軍同士の戦争というものはそもそも経験がないのかもしれません」
「そうか。そもそも戦争などしたことがない村か。その経験の差は大きく関わってくるかもしれんな。まだあるか?」
「とりあえずはそんなところかな。あと挙げるとしたら、奴らにとっては魔導兵器自体が、初めて見る物だろうってことかな」
セバスは少し伏し目がちになり、胸の前で腕を組み出した。彼は自信のない話をするときそのような姿勢になる。
「昔の大戦争でゴーレムが投入されたでしょ?旧型のやつ。今の魔族が開発している魔導兵器は、それが元になってると言われてるんだ。今も魔族領の各地にゴーレムが眠っていることが分かってる。一部が掘り起こされて解体されたってこともね」
「つまり魔族たちもまた技術の発掘人ということか」
「あ、そういえばそうだね。魔族はぼくより先輩なんだ。でも、あの村の魔族たちはそんなことをしてきたとは思えないな」
「確かにな。初めて見た魔導兵器がいきなり自分達を襲う。私だったら対処できる気がしない。戦争の経験がない以上に、それは大きいかもしれない」
セバスは頷きながら組んだ腕を解く。
「それで博士。あなたが復活させたゴーレムの調子は如何ですか?まさか雨だと動かないなんてことはないでしょうね?」
ロイの問いによくぞ聞いてくれたとばかりに胸を張る。
「ふふふ。ロイ、ぼくのゴーレムはもう絶好調さ。まだ雨の中で動く練習はしていないけどね」
そう言って彼はテントの奥へ進む。よく見ると暗がりに3メートルほどの塊が横たえられ、布を被せられていた。
「これがぼくの研究成果、現代に蘇った旧式の戦争用ゴーレムだよ!」
がばっ。現れたのは真っ白な魔導兵器。
「おお!これが魔族を倒す秘密兵器!!」
「でも……何故こんなにも目立つ色なの?」
博物館などに飾られている旧式ゴーレムは、皆一律で銀色一色だった。
「この色は国王の希望です。長らくブラン王国で正義の象徴として用いられてきた白。白亜の城として名高かったブラン王城の色を、是非用いたいと。兵器としては迷彩色の方が良いと申し上げたのですが、旧式ゴーレムが復活すれば最早敵などいないから関係ないだろうということで」
「確かに一理ある。これが見つかったところで破壊など出来ないからな。寧ろ囮として敵の目を惹き付けることも出来るかもしれない。それにしても……」
その真っ白な姿は、暗がりのテント内にあってなお眩しいほどだった。これが太陽の元に出たら、目も眩むほどにさぞ明るく輝くことだろう。
魔族に捕らわれた子供たちを救い出すのは間違いなく正義だ。だがその正義の皮を被り、かつての戦争が繰り返されようとしている。そんな居心地の悪さがした。
生まれ育ったブランの王城と同じ、一点の曇りもないきらびやかな白亜が、ざわざわと私の胸を騒がせるのを感じていた。
「諸君、これより暫くここで敵の偵察・戦力分析・作戦確認を行う。自分達のテントを張って待機するように」
部下たちにそれだけ告げると、私は既に張られているテントへと入っていく。
このキャンプ地は先に偵察部隊が拠点としていた場所であった。私たちはそこに合流した形となるのだが、このテントは偵察部隊のものより大きい。もうひとつの先客のものだった。
「お!来た来た、姫騎士さん。遅かったじゃん!!」
唐突に馴れ馴れしく話しかけてくる若い青年。
「博士。流石にそれは姫騎士様に無礼ですよ」
むっとして咎めるのはいつもの如くロイだ。
「え?ちゃんと『さん』付けたでしょ?ロイ。それよりさ、どうだったの?魔族と戦ってみてさ」
彼は全く気にする様子もなく、自分が気になったことをずけずけと聞いてくる。彼はいつもこの調子なのだ。
彼こそがセバス・ミントバーグ博士。サモネア王国の軍事技術を担う顧問技術者にして、失われた技術の再現に成功したことで一躍時の人となった、若き天才技師である。
その功績を称えて「技術発掘人」という2つ名が検討されている。この作戦が無事に終了したら、正式に国王から称号を授与されることになるだろう。
「今本国に報告をやっているところだが、博士の好きそうな兵器が出てきたよ」
「まさか、ゴーレムかい?」
「ふ、ご名答だ。とんでもない膂力と硬度。私じゃとても敵わなかった。お陰で私たちは退却するしかなかったんだ」
多くの部下たちの犠牲を伴って。私は唇を噛み締めた。
「へえ~!!姫騎士さんが敵わないなんてすごいなあ。どんなゴーレムだったの?」
セバスは無邪気な目を輝かせる。少しむっとしたが、彼に悪意がないことはよく分かる。純粋に研究対象としての興味だろう。
「竜型のゴーレムだった。大きな体を2本の後ろ足だけで支え、巨大な頭と尻尾でバランスを取るように立っていた。その力は我が国のゴーレムとは比べ物にならず、おまけに炎の魔術まで展開していたよ」
「竜型ゴーレム!!すごい、やっぱり魔族ってすごい!!ね、姫騎士さんもそう思うよね?」
「博士!!この作戦で多くの兵士の命が奪われたのです。それを凄いなどと……。いい加減にしてください!!」
ロイが激しく突っかかる。セバスと顔を合わせるようになってまだ1年も経っていないが、この二人の折り合いが悪いのは誰の目にも明らかだった。
「はっはっは……。そうかっかしなさんな、ロイ殿。セバスは何も悪気がある訳じゃない。人間の作ったものより遥かに優れた魔族のゴーレムに興味を持つのは、こいつが技術者として真っ直ぐ生きている証なのじゃ」
テントの奥からしわがれた低い声が響く。雨がテントをぼつぼつと鳴らし、少し聞き取りづらい。
声の主はロドリゲス・ハプル。ブラン王国の研究所にも勤めていたことのあるベテラン技師であり、今はセバスの元、サモネア王国の為に働いている技術者だ。
立場としてはセバスの部下だが、実質経験の浅いセバスを補佐する相談役である。ブラン王国時代の失われた技術を復活させようとするセバスにとって、彼の経験と記憶は貴重な情報源でもある。
「こいつのゴーレムに対する情熱は、必ずや魔族を滅ぼす役に立ちましょう。今は大目に見てくだされ」
「しかし、セバス博士は魔族の殲滅に消極的な意見をお持ちだと伺いましたが?」
「そりゃそうだよ。またすごい技術が失われるってことでしょ?復活させるのどれだけ大変だと……」
「魔族の技術など!!」
セバスの話をロイの大声が遮る。
「そんなものに頼らずとも、人間の文明は必ずそれを越えていきます。奴らの痕跡など、歴史に残すべきじゃない!!」
「必ず越えるって……。実際に技術を発展させるのはぼくたちなんだけど」
「セバス。あまり魔族を擁護するなという話じゃ。この世界には魔族に家族を奪われた者、村を焼かれた者など、彼らに恨みを持つ者がたくさんいる。そんな者たちの気持ちも考えろと……」
「でもロドリゲスと姫騎士さんも、王国を奪ったのは魔族じゃなくて人間だったんでしょ?」
「セバス!!その話はするなと言うたじゃろう。姫騎士様、申し訳ありません。セバスに悪気はございません。どうかお気を悪くなさらないでください」
私は一言「良い」とだけ言う。私の祖国ブラン王国。それを滅ぼしたアリシア盗賊団。忘れたことなど1度もない。
セバス博士は優秀な技術者だが、人の気持ちを考えるのが苦手だった。その彼を顧問技術者に登用した国王は、当初技術者たちから猛反対にあったのだ。
「セバス博士の苦労も聞き及んでいる。今のは聞かなかったことにしよう」
「ははあ、姫騎士様。寛大なご判断に感謝致します。セバス!お前も頭を下げなさい」
「え?どうして……?」
彼の態度が改まることはない。ロイの顔が赤くなってまた怒鳴り出しそうだ。私はふっと息を吐き、早めに本題に入ることにする。
「そんなことより作戦の話をしよう。魔族の村の様子は聞いているか?」
「ああ、うん。聞いたよ。強い魔物をあっさり倒しちゃってたんでしょ?普通に戦ったらまず勝ち目はないんだよね」
「そうだ。ラミアの町の子供たちを助け出すには、私たちだけでは難しい。だからこそ博士を呼んだのだが」
「勝てそうかってことだよね?」
「ああそうだ」
その途端、セバスの口元がにやりと吊り上がる。
「絶対勝てる。安心してよ」
自信満々のその言葉に、ロイの目付きも変わる。
「そこまで自信を持って言えるとなると、相当の根拠があるのでしょうね」
「さっき偵察部隊の人たちと一緒に魔族の戦闘を見ることができたんだけどね。彼らは非常に原始的な方法で狩猟を行っていたんだ。衣服も武器もまるで原始時代。文明レベルのかなり低い村みたいだったよ」
「ふむ。それで勝てると断言できる根拠は?」
「まず奴らの武器。基本的に鉄製の武器を使っていたのには驚いたけど、魔術を付与したり強化したりといったことは為されていなかった。実際に魔物に振るっているところを見ても、威力は大したことなかった。想定の範囲内だったよ」
「なるほど……。確かに魔術付与もない剣など、本来我々の敵ではないでしょう。先日戦った魔族たちも力任せに剣を振るだけでした。身体強化の魔法は掛かっていたようですが、脅威と呼べるものではありません」
「ふむ、他には?」
「鎧。びっくりするよ?資源に乏しいのか何なのか、本当に軽装備しかないんだ。本来ならあの辺りの魔物に太刀打ちできるような防具じゃないんだよ。それで生きていけるのがすごいんだけど、彼らは守りを重視していないみたいだ」
「私もセバスと共に魔族の戦闘を見ておりましたが、どうやら機動力重視の戦士が多いようでしたな。魔物を狩るだけならばあれで十分なのでしょう。小さな村でしたし、大軍同士の戦争というものはそもそも経験がないのかもしれません」
「そうか。そもそも戦争などしたことがない村か。その経験の差は大きく関わってくるかもしれんな。まだあるか?」
「とりあえずはそんなところかな。あと挙げるとしたら、奴らにとっては魔導兵器自体が、初めて見る物だろうってことかな」
セバスは少し伏し目がちになり、胸の前で腕を組み出した。彼は自信のない話をするときそのような姿勢になる。
「昔の大戦争でゴーレムが投入されたでしょ?旧型のやつ。今の魔族が開発している魔導兵器は、それが元になってると言われてるんだ。今も魔族領の各地にゴーレムが眠っていることが分かってる。一部が掘り起こされて解体されたってこともね」
「つまり魔族たちもまた技術の発掘人ということか」
「あ、そういえばそうだね。魔族はぼくより先輩なんだ。でも、あの村の魔族たちはそんなことをしてきたとは思えないな」
「確かにな。初めて見た魔導兵器がいきなり自分達を襲う。私だったら対処できる気がしない。戦争の経験がない以上に、それは大きいかもしれない」
セバスは頷きながら組んだ腕を解く。
「それで博士。あなたが復活させたゴーレムの調子は如何ですか?まさか雨だと動かないなんてことはないでしょうね?」
ロイの問いによくぞ聞いてくれたとばかりに胸を張る。
「ふふふ。ロイ、ぼくのゴーレムはもう絶好調さ。まだ雨の中で動く練習はしていないけどね」
そう言って彼はテントの奥へ進む。よく見ると暗がりに3メートルほどの塊が横たえられ、布を被せられていた。
「これがぼくの研究成果、現代に蘇った旧式の戦争用ゴーレムだよ!」
がばっ。現れたのは真っ白な魔導兵器。
「おお!これが魔族を倒す秘密兵器!!」
「でも……何故こんなにも目立つ色なの?」
博物館などに飾られている旧式ゴーレムは、皆一律で銀色一色だった。
「この色は国王の希望です。長らくブラン王国で正義の象徴として用いられてきた白。白亜の城として名高かったブラン王城の色を、是非用いたいと。兵器としては迷彩色の方が良いと申し上げたのですが、旧式ゴーレムが復活すれば最早敵などいないから関係ないだろうということで」
「確かに一理ある。これが見つかったところで破壊など出来ないからな。寧ろ囮として敵の目を惹き付けることも出来るかもしれない。それにしても……」
その真っ白な姿は、暗がりのテント内にあってなお眩しいほどだった。これが太陽の元に出たら、目も眩むほどにさぞ明るく輝くことだろう。
魔族に捕らわれた子供たちを救い出すのは間違いなく正義だ。だがその正義の皮を被り、かつての戦争が繰り返されようとしている。そんな居心地の悪さがした。
生まれ育ったブランの王城と同じ、一点の曇りもないきらびやかな白亜が、ざわざわと私の胸を騒がせるのを感じていた。
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