愛玩動物(ペット)な人生では終わりません! ~ネコによるネコのためのネコ生改善計画~

蟻と猿の糸つむぎ

文字の大きさ
18 / 35

17皿目:とろける至福と

しおりを挟む
 あ~~~幸せ。

 不知火は膨れた腹をさすって至福のため息をついた。



 ーー目覚めてから、8日目の朝。

 窓から差し込む刺激的な太陽の光によって目覚めた不知火は、危うく2度寝しようとしたところをアルジに捕獲され、居間へと連行されたのだった。

 朝には弱いが、自分よりはるかに早起きなアルジを後目に、自分だけぐうたらしようとは思っていない。
 ひとまず何をしているのかなと調理台をのぞき込んだ所で、不知火は思いがけず、運命的な出会いを果たした。


 ―――……リンゴだ!


 黄緑色や緑色のいかにも固そうな果物に混じって、艶やかな赤色の果実がキラキラと存在感を放っている。

 まるっとしていてツヤっとしていて、今すぐ齧りつきたいようなフォルム。

 大きさや形は、ほぼリンゴ。
 ツヤのある赤色も、細長くて控えめなヘタも、ちょっとだけ黄緑色が残るキュッとしたお尻の部分も、ほぼリンゴ。

 そこにあるだけで、リンゴの甘い香りが漂ってくるようである。


 ーー食べたい。
 
 ーー今すぐかぶりつき、甘い果肉を思う存分シャクシャクいわせたい……。


 しかし…………と、不知火はすぐにリンゴを手に取ることはせず、真横で食事の準備をしているアルジをちらりと見上げた。


 ーーコイツ……間違えた。
  
 ーーこのお方……ご主人であるアルジさんは、超のつく過保護である。


 釜戸に近寄ればすっ飛んできて捕まえられ、風呂に入ろうとしてもすっ飛んできて怒られ、木箱によじ登れば寝ているうちに撤去されてしまい…………不知火のやることなすこと、何かにつけて面倒くさい妨害を……いや、安全を守ってくださろうとする。


 この世界で初めて出会った、赤くてみずみずしい美味しそうなリンゴ……今回もし、そんな悲劇がまた引き起こされてしまったら、どうしよう。
 
 今後しばらく、この美味しそうなリンゴとは会えなくなってしまうんじゃないか……

「…………」

 …………不知火は、必死で思考を巡らせた。

 この間、約3秒。

 
 そして、何気なさを装い、調理台に並ぶ固そうな果物たちを満遍なく漁って、取っては眺め、取っては眺めするふりをした。


 ーーアルジはちらりと不知火を見たが、特に反応はせず調理を続けている。


 不知火はまた、さりげなさを装って、赤いリンゴを手に取った。


 ……ちらり。

 ――ゴォォゴォ、ガガゴゴォォゴ、グァァァオ


 アルジが何か言っているが、分からないふりをして一歩後ずさる。
 
 そして………………今だ!と、脱兎のごとく走り出した。



 一拍の後、追いかけてくる慌てたような地響き。



 不知火はすばやくテーブルの下に滑り込み、振り向く間もなく即座にリンゴに齧りついた。

 シャクッ……ジュワッ……広がる果実の芳醇な甘み…………
 見た目に反して触感はリンゴよりも桃に似ているが……これはこれで美味い。うんうん、とても美味い。


 不知火は捕まる前に少しでも多く口に入れてしまおうと、アルジの追撃をかわしつつ、必死でリンゴを頬張った。

 ちょっとやりすぎてリスのようになってしまったが、今はそんなことにかまけている余裕はない。
 溢れる果汁に苦戦しつつ、不知火はどうにかこうにか口内のリンゴを飲み込むことに成功したのだった。


 ーー時遅く、アルジが不知火を捕まえる。


「んんッ……ゴキュッ!…………あーっははは!残念!もう食べちゃったもんね!あーーー美味かった~!!」


 してやったり、と作戦が成功してご満悦の不知火。

 対してアルジはどこか困ったような、考えこむような微妙な表情だ。


 不知火は、顎についた汁が勿体ないとばかりに、手のひらで拭ってはペロペロと舐めとった。
 勝利の余韻残る、至福の時である。
 

 そして、そんな不知火をじっと眺めていたアルジ…………


 呆れているのかと思いきや、しばらくするとハッと顔を上げ、立ち上がって台所へとさっさと歩いて行ってしまった。


 そして吊り棚の扉を開き、何かゴソゴソとやっている。


 ーー取り出したのは、アルジの手のひらに軽く収まるサイズの、細長くて黄色い三日月型のもの……


「はっ?……バナナ!?バナナじゃーーん!!!」


 不知火が喜色の声を上げると、アルジは迷いもなく、不知火の手にポン、とバナナを手渡してくれた。


「えっ……いいの!?食べていいってこと?!うわーーーいアルジ!大好きッ!!!」


 あっさりと手のひら返しをして抱き着く不知火。
 アルジはそんな不知火に怒るでもなく、ぐりぐりと頭を撫でくり回し、追加の果物まで出してくれた。



 ーーそう。アルジは、不知火に対して超過保護なだけではなく、超絶甘々でもあるのだった。


 
 こうして不知火は、甘くてみずみずしい果物だらけの朝食をゲットし、思う存分に堪能した。

 そしてタプタプのお腹を抱えて、寝床へと思い切りダイブしたのだった。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

飼われる側って案外良いらしい。

なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。 向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。 「まあ何も変わらない、はず…」 ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。 ほんとに。ほんとうに。 紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22) ブラック企業で働く最下層の男。顔立ちは悪くないが、不摂生で見る影もない。 変化を嫌い、現状維持を好む。 タルア=ミース(347) 職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。 最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…? 2025/09/12 ★1000 Thank_You!!

獣人の子供が現代社会人の俺の部屋に迷い込んできました。

えっしゃー(エミリオ猫)
BL
突然、ひとり暮らしの俺(会社員)の部屋に、獣人の子供が現れた! どっから来た?!異世界転移?!仕方ないので面倒を見る、連休中の俺。 そしたら、なぜか俺の事をママだとっ?! いやいや女じゃないから!え?女って何って、お前、男しか居ない世界の子供なの?! 会社員男性と、異世界獣人のお話。 ※6話で完結します。さくっと読めます。

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

男子高校に入学したらハーレムでした!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 ゆっくり書いていきます。 毎日19時更新です。 よろしくお願い致します。 2022.04.28 お気に入り、栞ありがとうございます。 とても励みになります。 引き続き宜しくお願いします。 2022.05.01 近々番外編SSをあげます。 よければ覗いてみてください。 2022.05.10 お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。 精一杯書いていきます。 2022.05.15 閲覧、お気に入り、ありがとうございます。 読んでいただけてとても嬉しいです。 近々番外編をあげます。 良ければ覗いてみてください。 2022.05.28 今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。 次作も頑張って書きます。 よろしくおねがいします。

【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺

福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。 目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。 でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい… ……あれ…? …やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ… 前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。 1万2000字前後です。 攻めのキャラがブレるし若干変態です。 無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形) おまけ完結済み

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬下諒
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 造語、出産描写あり。前置き長め。第21話に登場人物紹介を載せました。 ★お試し読みは第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました

SEKISUI
BL
 ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた  見た目は勝ち組  中身は社畜  斜めな思考の持ち主  なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う  そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される    

【完】心配性は異世界で番認定された狼獣人に甘やかされる

おはぎ
BL
起きるとそこは見覚えのない場所。死んだ瞬間を思い出して呆然としている優人に、騎士らしき人たちが声を掛けてくる。何で頭に獣耳…?とポカンとしていると、その中の狼獣人のカイラが何故か優しくて、ぴったり身体をくっつけてくる。何でそんなに気遣ってくれるの?と分からない優人は大きな身体に怯えながら何とかこの別世界で生きていこうとする話。 知らない世界に来てあれこれ考えては心配してしまう優人と、優人が可愛くて仕方ないカイラが溺愛しながら支えて甘やかしていきます。

処理中です...