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29皿目:雨は花の父母
しおりを挟む買い物からの帰り道。
腹袋から出てアルジの肩に肩車してもらった不知火は、鼻歌を歌いながら、ご機嫌で村の風景を楽しんでいた。
小さな集落だと思っていたここは、家と家の間隔はポツンポツンとしているものの、どうやら結構な規模がある村のようだった。
農家、大工、布織に陶芸……家によって職業が違うようで、色んな家を回っては肉を物資へと替えてきた。
農家では美味しそうな果物やドライフルーツを沢山買ってもらい、少し大きめの店構えの商店に立ち寄った時には、鉛筆のような筆記具や粗紙を買ってもらい、巻頭衣に近いフワフワの服や、靴下がわりになりそうな細長い筒状の布もいくつか買ってもらった。
アルジの家族の家にはあの後、来客があり……それはとても声が大きく、大地が爆撃を受けているかのような激しい感じの地響き声の主だったが……なんと、とても巨大なウサギや鳥、コモドオオトカゲ(?)のぬいぐるみをもらった。
不知火がちびっこと遊んでいるのを見てそいつがやけに興奮し、「ガアアアアアア!!」と叫んだため、不知火は後ろに転げて危うくチビりそうになった。
――何はともあれ、楽しくも実りある買い物だったと思う。
アルジの後頭部の毛をフワフワと弄りながら、荷台に積んだ荷物の山を振り返る。
……寒さがキツくなるまえに、服が入手出来てよかった。
文字を覚えるのに必要な筆記具に絵本、紙の類。靴はないが、基本化け物達は靴を履かないようなので……まあ、しょうがないだろう。
それから、美味しい果物に美味しい魚、動物好きの不知火を癒す、フワフワでおっきなぬいぐるみたち……うんまあ、嫌いじゃない。
これからどれだけ寒くなるのか、食糧は足りるのか、水は凍るのか……
不知火には、何も分からなかったが、アルジが今日自分を連れ出してくれたおかげで、自分の生存可能性はぐんぐん上がっていっていると思う。
……むしろ、アルジが居ないと、勝たん。
不知火はアルジの頭のてっぺん……初めて見つけた頭頂部の旋毛に顔をうずめ、チュ~~~~ッと長い長いチューをお見舞いしたのだった。
―――――――
帰宅後。
購入したばかりのリンゴとブドウ、アルジの家族の家でもらったパンと焼き魚で遅い夕食をとった不知火とアルジは、荷物を手早く片付け、ランタンの明かりを手にトイレへと向かった。
まずは不知火が用を足し、それを何故か毎回目の前で見守ってくれているアルジと交代する。
その間に不知火は土とおが屑をスコップに掬い、2人分なので少し多めに、穴へと投入するのだ。
トイレの中は薄暗く、風に煽られた小屋の壁がガタガタと音を立てて震えている。
飛ばされてきた何かが壁に当たったのだろう、急な衝撃音に不知火はビクリと背中を震わせた。
「うわっ!……風かぁ……アルジ、もう行こう?夜のトイレは何回来ても慣れないよなぁ…………アルジ?」
自分の機嫌が良いせいで気にしていなかったが、そういえば、いつにも増して口数の少ないアルジである。
トイレの蓋を閉めるために屈んだそのままの恰好で、ボーッと不知火を見つめているアルジを不思議に思い、不知火はフルフルと目の前で手を振った。
「アルジ?アルジ……おーい、アルジ」
生きてはいるようだが反応のないアルジに、不知火は焦れ、ガシリと顔を掴むと耳元で「アルジ!」と大声を上げた。
――……ァァ、グゥア
するとようやく焦点のあった金色の瞳が、パチリと黒瞳と合わさる。
アルジの顔を掴んだそのままの恰好で、アルジもまたガチリと不知火の側頭部を両手で鷲掴み…………至近距離、見つめ合う瞳がどんどん近づいていく。
「えっ?あ……?むぅッ」
気づいた時には口と口が合わさり、アルジの舌が不知火の唇を割って強引に中へと侵入してきていた。ベロベロと無遠慮に口内を蹂躙する舌べらが、グリグリと不知火の舌を絡めとり、アルジの口内へと引き入れられる。
突然で性急な口淫に、不知火が対応できるわけもなく……吐き出した空気まで飲まれ、ジュ、ジュッと音を立てて溢れ出す唾液を必死に飲み下し……飲んでも飲んでもやってこない空気にあわや、窒息しそうになった。
「……んぶッ、う、あう!アル!!んッんんんッ、ううぅ゛!ぶぅッ、ん、ごらあ、アル、ジ!!!」
無理やりこじ開けようとした唇の隙間まで長い舌で密閉され……死ぬ!と思った不知火は、顔を掴んでいた手でベシリとアルジの両目を塞ぎ、ググググと渾身の力を込めて押し返した。
チュパッ……
――ァ、グゥア……
小さな地響きがシュンとしぼんで消える。
ヒィヒィ、ハァハァと肩で息をする不知火を、アルジは慌てた様子で抱きかかえ、よしよしと背中を擦って揺すった。
「はぁ、はぁ、はぁ……ったく、何?どうしたんだ?元気ないと思ったら……急にこんなことして……」
見上げれば、心なしかうなだれ、眼力を半減させたアルジが「ハァ……」と小さなため息を吐く。
ため息つきたいのはこっちなんだが……と、不知火は苦笑してアルジを抱きしめた。
「別にいいけどよ、ここトイレだし……いや、トイレじゃなきゃ良いって訳じゃないけどね?とにかく……なんだよ、やっぱ元気ないのかよ」
ポンポンと後頭部を撫でてやれば、不知火の首元に鼻を擦りつけるアルジ……今日1日、一緒にいたはずなのに、何があったのかさっぱり分からない。
分からないが、とにかくヨシヨシと不知火はアルジを宥めすかし、家に帰ろうと促し、忘れそうになるランタンをグイグイ引っ張って手に持たせ、トイレを後にしたのだった。
ーーまだ、風呂に入っていない。
そのままトボトボと寝室に行きそうになるアルジを押しとどめ、不知火は何とかアルジを風呂場へ誘導することに成功した。
腰布を解いてやり、アルジの尻を押して浴槽まで歩かせる。
これじゃまるでいつもと逆だな、と不知火は苦笑しつつも、自分がアルジの世話をしていると思うと、少しだけ楽しい。
湯舟の温度は……と手をいれようとしたところでアルジが復活し、不知火を引き戻すと自分で湯の温度を測って、隣の浴槽から水を足し、調整してくれた。
アルジが不知火を抱き上げたまま、湯舟へと腰を下ろす。
浴槽から溢れた湯がザブンと音を立てて波を作り、床へと流れだしていった。
「はあー。いい湯だなぁ。今日は楽しかった。……なあアルジ、楽しかったろ?」
振り返った先には、金色の双眸。
じっと見ていると、瞬きをする度に黒くて短い顔の毛から小さな雫がほろほろと零れ落ち、頬の毛を伝って流れ落ちていく。
不知火は両手に水を掬ってアルジの頭頂部へと降り注ぎ、黒くてみっちりとした毛がしっかり水を吸収しきるまで、丹念にゴシゴシと揉みこんでやった。
「ははは。今日は俺がおかんだよ。なあ、その石鹸取って」
――……グゥア
タオルを水に浸して石鹸を泡立て、ふわふわになった泡を頬に押し当てる。
頭、額、鼻面、顎と、泡まみれにしても動かないアルジに、不知火は笑って唇を押し当てた。
「大丈夫大丈夫、アルジ。何だか知らねぇけど、大丈夫だよ」
後頭部と首までゴシゴシワシュワシュと泡立ててやりながら、不知火はギュッとアルジを抱きしめてやった。
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