転生した子供部屋悪役令嬢は、悠々快適溺愛ライフを満喫したい!

木風

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後編第29話「月光のバルコニーで、唇に残る熱と胸に残る鼓動」 後編

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怒涛の婚約披露が終わり……
やっと念願のダラダラタイム!!

の、はずが。
ネグリジェでベッドに寝転がる私の隣には、なぜかちゃっかりエドが横たわっている。

侍女が用意してくれた果物やお菓子を、私のペースに合わせて一つ一つ口元に運ぶエドは、やけに楽しそう。
婚約が国中に告知された今となっては、彼に遠慮も何もなくなったらしく、侍女たちも確認もせず顔パスで部屋まで通す始末。

「……何見てんだよ」
「いや、我が婚約者殿は麗しいなと思って」
「……ぷっ、なにそれ。褒めても何も出ないぞ?」

そんなやり取りにも、気付けば慣れてしまっている自分がいる。
まあ……自分で『望むものは全部用意する』とか言ったのはエドなんだから、今さら文句は言わないけどさ。

ただ私は、本当にただただ『好きにダラダラしたい』だけなんだ。
近く始まるお妃教育のことが頭をよぎるけれど……言われるまでは、この姿勢を全力で貫かせてもらう。

そう考えながらチラリとエドを見ると、どうやらずっとこちらを見ていたらしく、目が合った。
あまりの優しい視線に耐えられず、慌てて背を向けて本に逃げる。

「食べ物は?」
「……もう、お腹いっぱい」

本をめくりながら答えるけれど、落ち着かない。
……遠慮がなくなったのは、言葉や態度だけじゃない。
エドの視線も、触れ方も、あの頃とは違っていて。

ふいに、後ろから抱きすくめられた。
肩越しに柔らかな黒の髪が触れ、ふわりと頬をかすめる。
最初は本を読めていたのに、髪の毛が首筋をかすめるたびにピクリと反応してしまう。

「ぷっ……ちょっと、くすぐったいってば」

笑っていると、今度は髪ではなく、熱を持つ指先が首筋をなぞる。

「っ……!」

くすぐったいのとは違う。
体の奥がぞわぞわするような、じれったい感覚。
動こうにも、腕の中に捕らえられて身動きが取れない。

感触は首筋から耳、肩、背中へと、ゆっくり移動していく。

「ちょ……っ……ま、待って!!たんま!!」

耐えられず正面を向くと、思わず本で顔を隠した。
けれど、すぐにそれを奪われ、取り返そうとした手はそのまま絡め取られる。

唇が触れた瞬間、軽いキスかと思えば……次の瞬間にはベッドに完全に固定されていた。
抗議しようと目線を上げると、熱を帯びた瞳が真っ直ぐに見下ろしてくる。

今まで何度かキスはしてきた。
でも……これは違う。
急に恥ずかしくなって、体が固まる。

頬に添えられた指先にビクッとしたけれど、そこから伝わる体温はいつものエドの温もりで、ホッとしてしまい、思わずすり寄ってしまった。

「……怖がらせてすまない。もう少しだけ」

低く囁かれる声に、胸が跳ねる。
指先が唇をなぞり、ゆっくりと降りてくる。

「ん……っ」

優しいけれど、繰り返される啄むようなキス。
少しずつ深く、長く、甘さを増していく。
息が足りなくなって、思わず肩で呼吸をする。

待って、待って……これって完全に、その先に行く流れじゃ……!?
29年も生きてきて、本当に申し訳ないんだけど、心の準備ゼロなんだけど!?

「……はぁっ……」

ようやく唇が離れ、吐息が重なった。
けれど、それ以上は求められず……熱気だけを残してエドの体が離れる。

あれ……?この雰囲気、最後まで行く流れじゃなかったの……?

あ。
これ……悪役令嬢もののテンプレだ。
『結婚するまでは純潔必須』ってやつ!
婚約破棄はご都合展開で飛ばすくせに、そこだけ妙に律儀に守るやつ!!

……なにそれ。
そのスタイルにそのビジュで、ちょいちょいこなれた感じでキスしてくるから……
てっきりこいつは経験済みだと思ってたのに!?

何?エドも律儀に『結婚まで純潔必須』って守っちゃう感じ?
私にちゃんとバージンロード歩かせちゃう感じ?

……いやいや、規則なんて破るためにあるんだぞ!?
お前もう20歳だろ!?男なら、そこで日和ってんじゃねーよ!!

そんなことを考えていたら、このまま身を委ねてもいい……なんて思ってしまっている自分に気づいて、急に恥ずかしさが込み上げてきた。
誤魔化すように、思わず大きな声が出る。

「~~~!!!断りもなくキスすんなぁぁぁ!!!」

ダメだ!!こいつの近くにいたら、まともじゃいられない!!
距離を取らなきゃ!!と、勢いでベッドから飛び出そうとした瞬間、腕を引かれて……気づけばまた、がっちりとエドの腕の中に閉じ込められていた。

「リエル……愛してる」
「お前は話を聞けよ!!!!」

~~~~っっ!!!
思わず拳で肩をポカポカ叩くけど、全然びくともしない。
そうだった……この男、私を軽々抱き上げるくらい、力があるんだった。

……ずるい。

私はダラダラ自由気ままに生きたいのに。
なのに、この腕に捕まっているのも悪くない。なんて、少しでも思ってしまうのは……

きっと、抱きしめる腕がやたら優しくて、さっきのキスの余韻がまだ唇に残っているせいだ。

「……もう、知らない」

諦めるように小さく呟いて、エドの胸に顔を埋める。
耳に響くのは、やたら速くて熱を帯びた心音。
それを聞いていると、不思議と私の鼓動まで同じリズムで高鳴っていく。

心地よい温もりに包まれながら……
こうして、二人だけの時間は、甘く長い余韻を残したまま静かに過ぎていった。
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