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四章 虚空を統べる者
58話
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「銀の翼。 広域に構成員を持つ冒険者クランで、特筆する成果もなければ逆に悪い噂の一つも上がっていない。 言ってしまえば清廉潔白な組織だ。 いや、だったと言ったほうが良いのかな」
パーシヴァルは手に持っていた資料をテーブルの上に置きながら、小さなため息をついた。
闘いの後、ビャクヤとパーシヴァルが合流し、捕縛したアテネスを憲兵団へと引き渡すことになった。
それからアリアと共に冒険者ギルドの総合窓口へと戻ってきたのだが、俺達の報告を聞いたパーシヴァルの表情は優れない。
自分の管轄にある街でのさばっていた裏組織が、冒険者クランとして堂々と活動してたのだ。ギルドマスターとして思う所があったのだろう。
それだから、という訳ではないだろうがパーシヴァルは食い気味に俺達に質問を繰り返した。
「それで、この銀の翼について、他に情報はあるのかな」
「リーダーの男はハイゼンノードと呼ばれていました。 聞き覚えはありませんか?」
「……その情報は、間違いないんだね?」
「直接会って話しましたから。 魔法の造詣が深い、狂った研究者という風貌でした」
覚えているままの姿を使えると、パーシヴァルは額を抑えた。
そして短くない時間を掛けて、沈黙を破った。
「間違いない。 メイヤード・ハイゼンノード。 私の古くからの友人だよ」
「あの男が友人? ずいぶんと趣味が良いわね」
「まぁ待て、アリア。 パーシヴァルは信頼できる男だ。 我輩が保証しよう」
噛みつくアリア。だがそれほどにパーシヴァルの言葉は衝撃的だった。
あれほどの狂人と、英雄的な冒険者だったパーシヴァル。
その接点が気になるところだが、パーシヴァル本人の様子を見るに深入りするのは難しそうだ。
疑念の視線を送っているアリアを、ビャクヤが宥める。
「気になっていたんだが、そちらのお嬢さんはどなたかな」
「この子はアリア。 偶然、銀の翼に追われていた所を保護したんです」
「なるほど。 それで幽霊を追っていたはずの君たちが、裏組織との抗争を巻き起こしていると」
「すみません。 少し、事情が複雑で」
そんなもっともな意見に、苦笑を浮かべる。
幽霊屋敷の調査を命じたはずが、街の裏組織と抗争を繰り広げているのだ。疑念や怒りのひとつやふたつ、湧いて当然だった。パーシヴァルも何やら事情を察してくれているが、本来なら依頼の中止か失敗の判断を下されてもおかしくはない。
寛容な処置に感謝すると同時に、謝罪もしておく。
ただそんな空気を、アリアは物ともせずに、言い放った。
「その幽霊が私よ。 私が人形を使って、人々を殺めていたの」
空気が重くなるのを、肌で感じた。
見ればパーシヴァルの表情から温厚さが消えていた。
「本当かい? ふたりとも」
「済まぬ、パーシヴァル。 お主からの信頼を裏切るような形になってしまったが、この選択が間違っているとは思えぬのだ」
「いえ、俺が判断したことです。 ビャクヤはアリアを引き渡すよう言っていましたが、俺が強引に事情を聞こうとして、状況をかき回してしまいました」
けっして遊び半分で事に首を突っ込んでいるわけではない。
それが伝わったのか、パーシヴァルは小さく息を吐いて、背もたれに体を預けた。
「過ぎてしまったことは仕方がない。 今は憲兵団も銀の翼の本部強襲作戦に人手を割かれている。 その後にゆっくりと事情を聴いて、事後処理を行おう」
「その必要はないわ。 これ以上、手を煩わせるわけにはいかないもの。 これは私の問題だから。 私が全て話して、終わらせる。 銀の翼の構成員だった私が」
「……なるほど。 ようやく話が繋がってきたね。 詳しく話を聞かせてもらえるかな? 嘘偽りなく、全て正直に」
「もちろんよ」
そして、アリアは全てを話した。孤児院に捨てられたこと。そこをで迫害されたこと。そして、自分を本当の名前で呼ぶ女性や、アリアが銀の翼に入団した経緯。そして、取り返しのつかない復讐と、それに対する罪滅ぼし。人形による殺人の真意と真相。
全てを聞いたパーシヴァルは、一つの質問を問いかけた。
「人形による被害の真相は分かった。 だが聞きたいのは、君が銀の翼として誰かを殺したか、だ。 それによっては、君に課せられる罰は大きく変わってくる」
「私が銀の翼の一員として、最初に命じられたのは一人の女性の殺害。 今は商人街に住んでる、ひとりの女性よ」
「それは?」
「ナナリア・ティレット。 凄い腕のいい人形職人ね」
聞き覚えの無い名前に、パーシヴァルが眉をひそめる。
これがもっと大物、それこそパーシヴァルの様な街に必要不可欠な人間の名前が上がったなら、また話は別だっただろう。だが暗殺の英才教育を施したアリアに与えられたのが人形を作る女性の暗殺となれば、首をひねらざるをえない。
もちろんナナリアなる名前は俺達も初耳だ。パーシヴァルの問い掛けるような視線に首を横に振る。
「待ってくれ。 銀の翼は何の関係もない人間を標的に定めるのか?」
「いいえ、関係ない相手を標的にすることは殆どないわ。 その女性が銀の翼に関りのある人間という訳でもないし、敵対している組織の構成員でもない。 でもその女性を標的にすることで銀の翼に利点があったの」
「それは?」
「ナナリア・ティレットは、ウェブルス家の子孫。 そして、私を捨てた張本人よ」
その衝撃に、言葉を失った。
アリアにその女性を狙われる事の意味。
そして銀の翼の狙いというのは、つまり――
「母親を殺す程の忠誠心があるか、私を試したのよ。 あの狂った研究者は」
パーシヴァルは手に持っていた資料をテーブルの上に置きながら、小さなため息をついた。
闘いの後、ビャクヤとパーシヴァルが合流し、捕縛したアテネスを憲兵団へと引き渡すことになった。
それからアリアと共に冒険者ギルドの総合窓口へと戻ってきたのだが、俺達の報告を聞いたパーシヴァルの表情は優れない。
自分の管轄にある街でのさばっていた裏組織が、冒険者クランとして堂々と活動してたのだ。ギルドマスターとして思う所があったのだろう。
それだから、という訳ではないだろうがパーシヴァルは食い気味に俺達に質問を繰り返した。
「それで、この銀の翼について、他に情報はあるのかな」
「リーダーの男はハイゼンノードと呼ばれていました。 聞き覚えはありませんか?」
「……その情報は、間違いないんだね?」
「直接会って話しましたから。 魔法の造詣が深い、狂った研究者という風貌でした」
覚えているままの姿を使えると、パーシヴァルは額を抑えた。
そして短くない時間を掛けて、沈黙を破った。
「間違いない。 メイヤード・ハイゼンノード。 私の古くからの友人だよ」
「あの男が友人? ずいぶんと趣味が良いわね」
「まぁ待て、アリア。 パーシヴァルは信頼できる男だ。 我輩が保証しよう」
噛みつくアリア。だがそれほどにパーシヴァルの言葉は衝撃的だった。
あれほどの狂人と、英雄的な冒険者だったパーシヴァル。
その接点が気になるところだが、パーシヴァル本人の様子を見るに深入りするのは難しそうだ。
疑念の視線を送っているアリアを、ビャクヤが宥める。
「気になっていたんだが、そちらのお嬢さんはどなたかな」
「この子はアリア。 偶然、銀の翼に追われていた所を保護したんです」
「なるほど。 それで幽霊を追っていたはずの君たちが、裏組織との抗争を巻き起こしていると」
「すみません。 少し、事情が複雑で」
そんなもっともな意見に、苦笑を浮かべる。
幽霊屋敷の調査を命じたはずが、街の裏組織と抗争を繰り広げているのだ。疑念や怒りのひとつやふたつ、湧いて当然だった。パーシヴァルも何やら事情を察してくれているが、本来なら依頼の中止か失敗の判断を下されてもおかしくはない。
寛容な処置に感謝すると同時に、謝罪もしておく。
ただそんな空気を、アリアは物ともせずに、言い放った。
「その幽霊が私よ。 私が人形を使って、人々を殺めていたの」
空気が重くなるのを、肌で感じた。
見ればパーシヴァルの表情から温厚さが消えていた。
「本当かい? ふたりとも」
「済まぬ、パーシヴァル。 お主からの信頼を裏切るような形になってしまったが、この選択が間違っているとは思えぬのだ」
「いえ、俺が判断したことです。 ビャクヤはアリアを引き渡すよう言っていましたが、俺が強引に事情を聞こうとして、状況をかき回してしまいました」
けっして遊び半分で事に首を突っ込んでいるわけではない。
それが伝わったのか、パーシヴァルは小さく息を吐いて、背もたれに体を預けた。
「過ぎてしまったことは仕方がない。 今は憲兵団も銀の翼の本部強襲作戦に人手を割かれている。 その後にゆっくりと事情を聴いて、事後処理を行おう」
「その必要はないわ。 これ以上、手を煩わせるわけにはいかないもの。 これは私の問題だから。 私が全て話して、終わらせる。 銀の翼の構成員だった私が」
「……なるほど。 ようやく話が繋がってきたね。 詳しく話を聞かせてもらえるかな? 嘘偽りなく、全て正直に」
「もちろんよ」
そして、アリアは全てを話した。孤児院に捨てられたこと。そこをで迫害されたこと。そして、自分を本当の名前で呼ぶ女性や、アリアが銀の翼に入団した経緯。そして、取り返しのつかない復讐と、それに対する罪滅ぼし。人形による殺人の真意と真相。
全てを聞いたパーシヴァルは、一つの質問を問いかけた。
「人形による被害の真相は分かった。 だが聞きたいのは、君が銀の翼として誰かを殺したか、だ。 それによっては、君に課せられる罰は大きく変わってくる」
「私が銀の翼の一員として、最初に命じられたのは一人の女性の殺害。 今は商人街に住んでる、ひとりの女性よ」
「それは?」
「ナナリア・ティレット。 凄い腕のいい人形職人ね」
聞き覚えの無い名前に、パーシヴァルが眉をひそめる。
これがもっと大物、それこそパーシヴァルの様な街に必要不可欠な人間の名前が上がったなら、また話は別だっただろう。だが暗殺の英才教育を施したアリアに与えられたのが人形を作る女性の暗殺となれば、首をひねらざるをえない。
もちろんナナリアなる名前は俺達も初耳だ。パーシヴァルの問い掛けるような視線に首を横に振る。
「待ってくれ。 銀の翼は何の関係もない人間を標的に定めるのか?」
「いいえ、関係ない相手を標的にすることは殆どないわ。 その女性が銀の翼に関りのある人間という訳でもないし、敵対している組織の構成員でもない。 でもその女性を標的にすることで銀の翼に利点があったの」
「それは?」
「ナナリア・ティレットは、ウェブルス家の子孫。 そして、私を捨てた張本人よ」
その衝撃に、言葉を失った。
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