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幕間
76話
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すぐに宿へ戻り、荷物を持ち、そのままギルドの馬車に乗り込んだ。
ビャクヤとアリアにも声をかけようかと思ったが、これは個人的な理由で受けた依頼だ。
せっかくの休暇を潰してしまっても忍びないと考え、書置きだけを残して宿を出てきた。
まぁ、ふたりはまだ街を楽しんでいるようで、宿にはいなかったのだが。
だが馬車乗り場で思わぬ人物と鉢合わせることになった。
いや、思わぬと言えばいいのか、想定外と言えばいいのか。
「なんでお前が付いてきてるんだ」
「君の無様な姿を見に来たに決まってるじゃないか!」
「獲物の横取りはタブーだぞ」
「同じ目的地の別の依頼を受けてきたから問題ないさ!」
「いや、なにが問題ないのかわからないんだが」
俺の隣に座るのは、お喋りな銀色の全身鎧。
言うまでもなく聖騎士アルステットである。
「転移魔導士が称号持ちのゴールド級冒険者なんて、ありえない。 どうせほかの強い冒険者の荷物持ちでもして階級を上げたに違いないんだ」
「……お前、本当のジョブは占い師とかじゃないのか?」
「ほら見ろ! 今なら僕が代わりに標的の魔物を討伐してあげなくもない。 どうだい?」
「依頼内容は調査だろ。 討伐は相手を確かめてからだ」
俺が受けたのは未知の魔物の調査依頼だ。
さすがに初見で、しかも情報の無い相手を討伐するのは難易度が高すぎる。
しかし隣の銀色鎧はすでに討伐する気でいるようだ。
揺れる馬車の上で、立ち上がると、俺を見下ろしながら言い放つ。
「ふん、弱気だね。 いや、転移魔導士なら無理もないか。 僕のように選ばれたジョブなら、そんな相手に恐れる事なんてなくなるのに」
「良く言う。 足が震えてるぞ」
「こ、これは強敵を前にして興奮してるだけさ!」
「別に隠さなくても良いだろ。 地竜は恐ろしい相手だし、俺だって怖い」
「そ、そうかな?」
「本来、魔物は恐ろしい相手だからな。 確実に勝てる相手とばかり戦ってると、忘れがちだが。 未知の魔物の調査に名乗りを上げたお前は、十分に勇敢だよ」
シルバー級の、それも聖騎士というジョブなら確実に勝てる魔物の駆除でも十分に食っていける。
それどころか他人より裕福な暮らしもできるだろう。
それでも、こうして自ら危険な魔物の元へと飛び込もうとしているのだ。
性格や格好がどうであれ、その姿勢は十分に評価されるべきものだ。
「そう言えば、なんで聖騎士様はひとりなんだ? 見たところ、駆け出しってわけじゃないんだろ」
「なぜって、それは……。」
今さらなにを言おうと、目的地までは一緒なのだ。
であれば文句を言われ続けるより、少しでも相手の情報を引き出したほうが良い。
聖騎士という希少なジョブの持ち主であれば、戦い方の秘訣や技術を盗めるかもしれない。
そう、思っていたのだが。
「聖騎士と言えば、前衛職の中でも最高峰の守り手だ。 それもひとりでシルバー級の腕前を持ってるなら、引く手あまただろうに。 なんでひとりなんだ?」
「そんなの決まってる! 僕に付いてこられる仲間が見つからないだけさ! 特別な、この僕にね!」
「あぁ、そういう」
そっと口を閉じて、それ以上の追及を止める。
この性格、どこかで見た覚えがあるな。
主に以前のパーティで。
心なしか名前も似ている気がする。
他人の空似だろう。きっと。
◆
馬車で進めるのは山の麓までであり、そこからは険しい道を徒歩で登っていく事になる。
ただレベルが上がっている冒険者にとっては平地とさほど労力は変わらない。
ハイゼンノードが生み出した人工的なゴーレムとの戦いでは殆どレベルが上がらなかったが、それでも現在の俺のレベルは28になっていた。
そしてこの28レベルというのは、俺を追い出した時の勇者達と殆ど変わらないレベルだ。
ワイバーンや魔素に侵された魔物達と戦った結果、驚異的な速度で俺のレベルが上がっている。
このまま戦い続ければいつの日かあの勇者達を追い抜かす日も来るかもしれない。
そんなことを考えながら、山道を駆け上っていく。
ただ驚くことに、隣では同じ速度でアルステットが走っていた。
あれだけ重そうな鎧を着こみながらもその速度だ。
聖騎士というジョブがどれだけ身体能力を上げているのか。
そしてどれだけ努力を積んでレベルを上げたのかが垣間見えた。
「参考までに聞きたいんだが、地竜と戦ったことは?」
「無いよ。 でも知識ならある。 四足歩行で、鱗が硬いが、そのぶん動きも鈍い。 楽勝な相手だよ」
「知識だけで魔物を見くびってると、痛い目を見るぞ」
「聖騎士の僕なら間違いなく余裕さ!」
そう言ってアルステットはくぐもった声で笑い声を上げた。
どうやら別の依頼を受けていても、俺の地竜の調査を手伝ってくれるらしい。
色々と思う所はあるが、根は良い奴なのかもしれない。
「さて、もうすぐその正体不明の魔物の目撃場所だが……。」
たどり着いたのは、目撃例のあった山頂の近く。
周囲から木々や緑がなくなり、周辺には崩れた岩肌が剥き出しになっている場所だ。
ただその崩れ方も自然な物ではない。なにか強引な力によって突き崩されたといった様子だ。
そして、その崩壊は山の向こう側へと続いている。
痕跡を辿って進もうとした、その時だった。
視界が激しく揺れる。
いや、足元の地面が揺れているのだ。
揺れが収まると同時に、地面を突き破って現れたのは、巨大な一本の角。
俺達の数倍はありそうな一本角を振り回し、それは大地を削りながら現れた。
今にも破裂しそうなほどの力と生命力を感じさせる巨躯。
もはや小さな山ほどあるそれは、俺達とは同じ生き物とは思えないほどだ。
その竜の名前は、破砕竜ガンド・ブルム。
目に付く全てを破壊する、もっとも危険視されている地竜だ。
しかしその姿は異質を極めていた。
「なるほど。 新種と呼ばれても、不思議じゃないな」
全身が黒ずみ、片方の瞳は開いていない。
体の節々からは鉱石の様な物質が、体内から皮膚を突き破っている。
確かに、この見た目ならば新種の魔物と間違えても、誰が責められるだろうか。
ただひとつだけ問題点を上げるとすれば、調査ではなく、すでにガンド・ブルムが戦う体制に入っていることだった。
◆
「せ、『セイント・シールド』!」
アルステットが叫ぶのと同時に、凄まじい激突音が周囲に鳴り響いた。
見ればガンド・ブルムの角を、白く輝く障壁が受け止めている。
恐らくは聖騎士の防御系スキルだろう。
「さすがは聖騎士だ! 共鳴転移!」
風切羽を射出して、ガンド・ブルムの側頭部へと叩きつける。
しかし、硬い。岩石を容易に砕く鱗と皮膚によって、刃が途中で止まってしまう。
続けざまに様々な角度からの攻撃を試すが、致命傷を与えられる個所は見つかっていない。
そして何度目かのガンド・ブルムの攻撃を受けた時、嫌な音と共に障壁にひびが走る。
聖騎士と言えども、一人で地竜の攻撃を受けきる事はできないのだろう。
転移魔法で攻撃を避ける準備をしていると、最後の一撃で障壁が砕け散る。
その瞬間、アルステットが急に背中を向けて走り出した。
「や、や、やっぱり、僕には無理だぁぁぁああああ!」
ガンド・ブルムの攻撃範囲外への転移を考えていたのだが、アルステットは凄まじい速度で山を駆け下りていった。
あの調子ならガンド・ブルムに追いつかれる心配はないだろう。
アルステットは別の依頼を受けて俺の様子を見に来ただけだ。
俺の依頼を手伝う義務はないし、俺も彼に協力を頼める立場でもない。
「まぁ、元々は別の依頼を受けていたから、文句は言えないな」
見ればガンド・ブルムは角を振り回して、俺へ威嚇している。
アルステットの様に逃げれば追いかけてくるのは確実だ。転移魔法で逃げてもいいが、この興奮状態のガンド・ブルムを放置しておけば、街へ降りていく可能性も捨てきれない。
当初は調査依頼だったが、ここで討伐しても依頼は失敗にはならないだろう。
「本当ならかえって報告すべきなんだろうが、仕留めるとするか」
両手の剣を転移させて、加速させる。
それにこたえるように、ガンド・ブルムも咆哮を上げるのだった。
◆
その巨体が地面に倒れたのは、短くない時間の後だった。
最終的にはガンド・ブルムの目から飛び込んだ一対の剣が、主要器官を破壊しそのまま命を奪い去った。
討伐した証として何枚かの鱗を手に入れると、山の奥へと足を進める。。
この異質なガンド・ブルムが唐突に現れたとは考えにくい。
縄張り意識が強い地竜がわざわざ移動してきた理由が絶対にあるはずだ。
確信にも似た予感を頼りに進むと、そこには――
「なるほど。 これが山の怒りの正体ってわけか」
全ての謎が、氷解した瞬間だった。
ビャクヤとアリアにも声をかけようかと思ったが、これは個人的な理由で受けた依頼だ。
せっかくの休暇を潰してしまっても忍びないと考え、書置きだけを残して宿を出てきた。
まぁ、ふたりはまだ街を楽しんでいるようで、宿にはいなかったのだが。
だが馬車乗り場で思わぬ人物と鉢合わせることになった。
いや、思わぬと言えばいいのか、想定外と言えばいいのか。
「なんでお前が付いてきてるんだ」
「君の無様な姿を見に来たに決まってるじゃないか!」
「獲物の横取りはタブーだぞ」
「同じ目的地の別の依頼を受けてきたから問題ないさ!」
「いや、なにが問題ないのかわからないんだが」
俺の隣に座るのは、お喋りな銀色の全身鎧。
言うまでもなく聖騎士アルステットである。
「転移魔導士が称号持ちのゴールド級冒険者なんて、ありえない。 どうせほかの強い冒険者の荷物持ちでもして階級を上げたに違いないんだ」
「……お前、本当のジョブは占い師とかじゃないのか?」
「ほら見ろ! 今なら僕が代わりに標的の魔物を討伐してあげなくもない。 どうだい?」
「依頼内容は調査だろ。 討伐は相手を確かめてからだ」
俺が受けたのは未知の魔物の調査依頼だ。
さすがに初見で、しかも情報の無い相手を討伐するのは難易度が高すぎる。
しかし隣の銀色鎧はすでに討伐する気でいるようだ。
揺れる馬車の上で、立ち上がると、俺を見下ろしながら言い放つ。
「ふん、弱気だね。 いや、転移魔導士なら無理もないか。 僕のように選ばれたジョブなら、そんな相手に恐れる事なんてなくなるのに」
「良く言う。 足が震えてるぞ」
「こ、これは強敵を前にして興奮してるだけさ!」
「別に隠さなくても良いだろ。 地竜は恐ろしい相手だし、俺だって怖い」
「そ、そうかな?」
「本来、魔物は恐ろしい相手だからな。 確実に勝てる相手とばかり戦ってると、忘れがちだが。 未知の魔物の調査に名乗りを上げたお前は、十分に勇敢だよ」
シルバー級の、それも聖騎士というジョブなら確実に勝てる魔物の駆除でも十分に食っていける。
それどころか他人より裕福な暮らしもできるだろう。
それでも、こうして自ら危険な魔物の元へと飛び込もうとしているのだ。
性格や格好がどうであれ、その姿勢は十分に評価されるべきものだ。
「そう言えば、なんで聖騎士様はひとりなんだ? 見たところ、駆け出しってわけじゃないんだろ」
「なぜって、それは……。」
今さらなにを言おうと、目的地までは一緒なのだ。
であれば文句を言われ続けるより、少しでも相手の情報を引き出したほうが良い。
聖騎士という希少なジョブの持ち主であれば、戦い方の秘訣や技術を盗めるかもしれない。
そう、思っていたのだが。
「聖騎士と言えば、前衛職の中でも最高峰の守り手だ。 それもひとりでシルバー級の腕前を持ってるなら、引く手あまただろうに。 なんでひとりなんだ?」
「そんなの決まってる! 僕に付いてこられる仲間が見つからないだけさ! 特別な、この僕にね!」
「あぁ、そういう」
そっと口を閉じて、それ以上の追及を止める。
この性格、どこかで見た覚えがあるな。
主に以前のパーティで。
心なしか名前も似ている気がする。
他人の空似だろう。きっと。
◆
馬車で進めるのは山の麓までであり、そこからは険しい道を徒歩で登っていく事になる。
ただレベルが上がっている冒険者にとっては平地とさほど労力は変わらない。
ハイゼンノードが生み出した人工的なゴーレムとの戦いでは殆どレベルが上がらなかったが、それでも現在の俺のレベルは28になっていた。
そしてこの28レベルというのは、俺を追い出した時の勇者達と殆ど変わらないレベルだ。
ワイバーンや魔素に侵された魔物達と戦った結果、驚異的な速度で俺のレベルが上がっている。
このまま戦い続ければいつの日かあの勇者達を追い抜かす日も来るかもしれない。
そんなことを考えながら、山道を駆け上っていく。
ただ驚くことに、隣では同じ速度でアルステットが走っていた。
あれだけ重そうな鎧を着こみながらもその速度だ。
聖騎士というジョブがどれだけ身体能力を上げているのか。
そしてどれだけ努力を積んでレベルを上げたのかが垣間見えた。
「参考までに聞きたいんだが、地竜と戦ったことは?」
「無いよ。 でも知識ならある。 四足歩行で、鱗が硬いが、そのぶん動きも鈍い。 楽勝な相手だよ」
「知識だけで魔物を見くびってると、痛い目を見るぞ」
「聖騎士の僕なら間違いなく余裕さ!」
そう言ってアルステットはくぐもった声で笑い声を上げた。
どうやら別の依頼を受けていても、俺の地竜の調査を手伝ってくれるらしい。
色々と思う所はあるが、根は良い奴なのかもしれない。
「さて、もうすぐその正体不明の魔物の目撃場所だが……。」
たどり着いたのは、目撃例のあった山頂の近く。
周囲から木々や緑がなくなり、周辺には崩れた岩肌が剥き出しになっている場所だ。
ただその崩れ方も自然な物ではない。なにか強引な力によって突き崩されたといった様子だ。
そして、その崩壊は山の向こう側へと続いている。
痕跡を辿って進もうとした、その時だった。
視界が激しく揺れる。
いや、足元の地面が揺れているのだ。
揺れが収まると同時に、地面を突き破って現れたのは、巨大な一本の角。
俺達の数倍はありそうな一本角を振り回し、それは大地を削りながら現れた。
今にも破裂しそうなほどの力と生命力を感じさせる巨躯。
もはや小さな山ほどあるそれは、俺達とは同じ生き物とは思えないほどだ。
その竜の名前は、破砕竜ガンド・ブルム。
目に付く全てを破壊する、もっとも危険視されている地竜だ。
しかしその姿は異質を極めていた。
「なるほど。 新種と呼ばれても、不思議じゃないな」
全身が黒ずみ、片方の瞳は開いていない。
体の節々からは鉱石の様な物質が、体内から皮膚を突き破っている。
確かに、この見た目ならば新種の魔物と間違えても、誰が責められるだろうか。
ただひとつだけ問題点を上げるとすれば、調査ではなく、すでにガンド・ブルムが戦う体制に入っていることだった。
◆
「せ、『セイント・シールド』!」
アルステットが叫ぶのと同時に、凄まじい激突音が周囲に鳴り響いた。
見ればガンド・ブルムの角を、白く輝く障壁が受け止めている。
恐らくは聖騎士の防御系スキルだろう。
「さすがは聖騎士だ! 共鳴転移!」
風切羽を射出して、ガンド・ブルムの側頭部へと叩きつける。
しかし、硬い。岩石を容易に砕く鱗と皮膚によって、刃が途中で止まってしまう。
続けざまに様々な角度からの攻撃を試すが、致命傷を与えられる個所は見つかっていない。
そして何度目かのガンド・ブルムの攻撃を受けた時、嫌な音と共に障壁にひびが走る。
聖騎士と言えども、一人で地竜の攻撃を受けきる事はできないのだろう。
転移魔法で攻撃を避ける準備をしていると、最後の一撃で障壁が砕け散る。
その瞬間、アルステットが急に背中を向けて走り出した。
「や、や、やっぱり、僕には無理だぁぁぁああああ!」
ガンド・ブルムの攻撃範囲外への転移を考えていたのだが、アルステットは凄まじい速度で山を駆け下りていった。
あの調子ならガンド・ブルムに追いつかれる心配はないだろう。
アルステットは別の依頼を受けて俺の様子を見に来ただけだ。
俺の依頼を手伝う義務はないし、俺も彼に協力を頼める立場でもない。
「まぁ、元々は別の依頼を受けていたから、文句は言えないな」
見ればガンド・ブルムは角を振り回して、俺へ威嚇している。
アルステットの様に逃げれば追いかけてくるのは確実だ。転移魔法で逃げてもいいが、この興奮状態のガンド・ブルムを放置しておけば、街へ降りていく可能性も捨てきれない。
当初は調査依頼だったが、ここで討伐しても依頼は失敗にはならないだろう。
「本当ならかえって報告すべきなんだろうが、仕留めるとするか」
両手の剣を転移させて、加速させる。
それにこたえるように、ガンド・ブルムも咆哮を上げるのだった。
◆
その巨体が地面に倒れたのは、短くない時間の後だった。
最終的にはガンド・ブルムの目から飛び込んだ一対の剣が、主要器官を破壊しそのまま命を奪い去った。
討伐した証として何枚かの鱗を手に入れると、山の奥へと足を進める。。
この異質なガンド・ブルムが唐突に現れたとは考えにくい。
縄張り意識が強い地竜がわざわざ移動してきた理由が絶対にあるはずだ。
確信にも似た予感を頼りに進むと、そこには――
「なるほど。 これが山の怒りの正体ってわけか」
全ての謎が、氷解した瞬間だった。
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