異世界に迷い込んだ盾職おっさんは『使えない』といわれ町ぐるみで追放されましたが、現在女の子の保護者になってます。

古嶺こいし

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一章・二人が出会いまして

『登録拒否』

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 ネクルスト街についた。

「わあ!トキ大きい壁だよ!」
「そうだなぁ」

 ネクルストはここら辺で二番目に大きな街だ。ちゃんと門番もいて、たくさんの店が軒を連ねている。
 残念ながらヨップファミリーとはここでさよならだ。彼らはその次の町に行くらしい。

 カルナがターリャに抱き付いて鼻を啜っていた。

「じゃあね、ターリャちゃん。元気でいるんだよ」
「うん。カルナおばちゃんも体に気をつけてね」
「まぁなんて優しい子なの! うううう…離れたくないー…」

 娘が欲しかったらしいカルナがターリャに抱き付いているのを、ドルとトップが苦笑していた。
 気持ちは分からないでもないらしい。

「ほら母さん。トキさんに迷惑になってるよ」
「グスグス…、じゃあね、トキさんもターリャちゃんを大事にね」

 おおう、顔面涙と鼻水でビチャビチャになってる。

「勿論です。それが今の俺の目的ですから」

 とりあえずターリャが安全なところで暮らせるようにするのが俺の使命だからな。

 じゃあまた!とヨップファミリーが手を振りながら馬車で去っていく。
 いい人達だったな。
 この世界で前ギルド長と同じくらい良い人だった。

「さぁ、行くか」
「うん!」





 門番に止められた。

「君、身分証は?なんか持ってる?」
「身分証…。うーん……」

 前は冒険者のタグで証明出来てたからな。
 ターリャが不安げにこっち見てる。早く何とかしないと。
 あ、そうだ。

「ちょっと前のなんですけど大丈夫ですか?」
「モノによるが。見せてみろ」

 服の中からタグを引っ張り出した。
 冒険者タグと一緒に常に首にぶら下げてたものだ。

「どうぞ」
「んん?」

 門番がそれを見て、うわっと声をあげた。

「君、あの戦争に従軍してたのか。うん、本物みたいですし、良いですよ通って」
「ありがとうございます」

 タグをしまう。なんでかこれ見せるとだいたい「うわっ」って言われるんだよな。
 まぁ良いか。通れたし。

「ターリャは?」
「まだ成人してないから普通に通れるよ」
「ふーん」

 カルナがターリャの服を尻尾が目立たないものにしてくれたお陰で人間の子供と思われたようだ。
 額の鱗も前髪をおろせば見えないし。

 門を通ると、ターリャが嬉しそうな声をあげた。

「うわあ!凄いよ!トキ見て!お店がたくさん!」
「ああ、これは凄い」

 祭りなのかと思うほどの賑わいだ。
 凄いな、これならターリャが安全に暮らせる場所もあるかもしれない。

 ぐうう、とお腹の音が聞こえた。
 横目で見るとターリャがお腹を押さえて、明後日の方向を見ていた。

「……」
「先にお昼にしようか」
「そうする!!」

 近場のお店を覗いてみた。
 カフェは、俺は結構好きだけど。

「……ランチ的なのはないか」

 当たり前か。
 カフェだもんな。

「お?ここは良さそう」

 食堂だ。
 看板を見る。……月の…なんだ?
 月の何とかとかいう食堂らしい。

 この世界に来てから言葉は聞き取りはできるけど、文字は苦手なんだよな。
 契約書も多分こんなことを書かれているって予想と、文字の配置の記憶を便りに何とかしていた。
 やっぱり勉強した方がいいかな。
 さすがにいい歳した大人が文字が読めないのは恥ずかしい。

 店の中に入る。
 当たり前だけど冒険者が多い。
 だいたい冒険者たちはタグをぶら下げているからわかる。
 聞いた話によると、元々冒険者ってのは軍崩れから派生した職業らしく、軍の時の習慣が残っているんだとか。

 ウェイトレスさんがやってきた。

「いらっしゃいませ!お二人様ですか?」
「はい」
「こちらへどうぞ」

 案内されている間、冒険者達の視線が追ってくる。
 特に意味はない。
 と思う。
 俺も無意識に人を見ちゃうし。

 席に座り、メニューを開いた。
 なんでかこの世界は元の世界に似たものがちょこちょこある。

 なんでだろうな。

「決まったか?」
「……文字読めない」
「……なるほど。貸してみろ」
「ん」

 といっても俺もそんなに読めるわけではないけど、10年ちょいの経験で食べ物の名前は少し分かる。

「これが野菜とベーコンを混ぜた卵焼き。こっちが炒め野菜。こっちが挽き肉を甘辛く味付けした具を乗せた麺。お、これとか良いんじゃないか?白身魚のパン粉揚げだと。タルタルソースみたいなの付いていればいいけど」
「じゃあそれ」
「飲み物は水でいいか?」
「うん」

 俺は甘辛豆煮で良いか。安いし。

 ウェイトレスを呼んで注文した。

「お酒はいかがですか?今なら蜜酒ミードが美味しいですよ」
「いえ、今は大丈夫です。ありがとうございます」

 お酒か。
 最近飲んでないな。

 まだかなまだかなとソワソワしているターリャを眺めながら待っていると、料理が運ばれてきた。

「お待たせいたしました」
「ふおお…」

 ターリャ、よだれ垂れてる。

「食べていいの?」
「いいぞ。そこのフォーク使え」

 不器用ながらにフォークを使い、魚フライを食べるターリャ。
 相当美味しかったのかターリャがリスみたいに頬っぺたに詰め込みながら食べている。
 残念ながらタルタルソースは無かったけど、その代わり玉ねぎ黒酢のジュレが乗ってた。
 今度俺も頼んでみよう。
 そう思いながら豆を口に運んだ。

「ありがとうございました」

 お金を払って店を出た。

 とても美味しかった。
 この街に滞在している間は通おうかな。

「さてと、ギルド探すか」
「ぎるど?」
「そう。冒険者ギルド。なんだかんだ言っても、俺は冒険者しか能が無いからな…、稼ぐためにもう一度申請しようと思う」
「ターリャもしたい!」
「うーん、ターリャはもう少し大きくなってからだな」
「えー!?」

 一般的なギルドへの登録規則として、満13歳からだ。
 ターリャの実の年齢は知らないが、だいたいパッと見10歳くらい。登録しようとしても断られるだろう。
 ……そもそも獣人が登録できるのか知らないけど。
 できるのかな?

 道行く人に尋ね、冒険者ギルドへと辿り着けた。

「でけぇ…」

 前のギルドの五倍はあるんじゃないか?
 なんだあの彫刻。
 ギルドだよな?心配になってきた。

「ここがぎるど?」
「と思うんだけど」

 出入りする人を見る。
 タグ、武器、土まみれの靴。
 ギルドだ間違いない。

「よし入ろう」

 中に入ると、役場感が凄い。
 広い受け付けに椅子と依頼が貼られるボードがいくつもある。
 前のところは酒場も兼ねてたからな、治安が悪かった。
 それに比べてどうだここは。
 昼間から酒瓶ラッパしているやつなんて一人もいない。

『依頼発注』と書かれている看板を探す。
 あった。ならその近くに『登録・変更』のカウンターがあるはず。

「あった」

 一応手持ちのお金を確認してから受付へと向かった。

「冒険者登録をしたいのですが」

 受付の人はこちらを見て眉を潜めた。
 なんだ?

「登録は初めてですか?」
「いえ、以前にも登録していたのですが消えてしまって」

 消えたというか、消された。

「復旧ですか?大変申し訳ありませんが、消去された施設でないと復旧は不可能となっています」
「大丈夫です。今回は登録をと思いまして」
「失礼ですが、お歳は?」
「ん?」

 なんだ?なんか空気が怪しいぞ。

「…32です」
「はぁ、いるんですよねぇ」

 んん?なんだ?突然受付の態度が急変したぞ。
 いや、何となくなんだこいつみたいな顔をはじめからしていたけど。

「冒険者という荒波からリタイアしたのに、もう一度夢見て復帰しようとする人。ハッキリ申し上げますけど、冒険者ってのは大変ですよ?文字通り命懸けで、半端な覚悟では続けていけない職業なんです」

 ははーん、なるほど。
 この人俺に対して盛大な勘違いしているな。
 言われなくても、ほんの一週間前まで現役冒険者やってて危険度の高い妖魔を退治していたんだ。
 十分に知ってるさ。

「知ってます」

 そう言うと、受付の人は心底めんどくさいという顔をする。
 幻聴なのか、どうせ一月続かないだろう、みたいな言葉が聞こえた。気がした。

「……ふう。あのですね、貴方冒険者なめてますよね。だいたい30過ぎて冒険者始めたって遅すぎるのですよ。登録してもランクが上がるまでは雑用のみです。賃金は少ないし、きっと貴方もすぐ辞めますよ。これは優しさですよ?わかります?」
「大丈夫です」

 どっちにしても初めは荷物持ちスタートの気分だったから。
 足りない分は自分で狩って素材を売るさ。
 何で俺が冒険者の資格に固執しているかというと、無資格だと素材を買ってくれない場合があるからだ。
 勿論低レベルの素材は問題ないけど、それだと生活は苦しいままだ。
 あるのとないのとじゃ雲泥の差だ。

 今持ってる素材も多分無資格だと取引してくれないかもしれない。

(ハズルじゃ資格がないと薬草でも拒否されたから、どうしても欲しい)

 受付の人に盛大にため息を吐かれ、紙を机の上に置かれる。
 そして何かを書き始めた。
 文字を読むのは苦手だから勘弁して欲しい。

「……」

 “身の程知れよオッサン”と書かれていた。
 受付見ると凄い笑顔。
 性格悪いなこいつ。
 セドナの次くらいに性格悪い。

「登録にはこれ程掛かります」
「は?」

 紙に“五万ネル”と書かれる。

「それはおかしい。登録には高くても五千ネルだろ」
「それは10代価格です。貴方は30なのでこちらです」

 とんだボッタクリ。
 まぁ、ハズル町よりはマシだが。
 しかし困った。若干足りない。

「あと、年齢の問題で申請まで結構時間が掛かります」
「どのくらいですか?」
「そうですねぇー、一月ちょい掛かるかと」

 この時点で、『あ、この人本気で俺を登録させたくないんだな』と確信した。
 だって、俺の二つとなりのオッサン、申請通ってるぽいもん。
 なんで?俺なんかしたっけ?

「分かりました。資金を作ってから出直します」
「では、良い日を」

 心底嬉しそうに手を振られた。

「トキ、ダメだったの?」
「お金が少し足りなかった。まず稼いでからだな」
「……うん」

 これは最低賃金も怪しい荷物持ちしか選択肢ないな。
 でもターリャいるからそれも厳しい。

 仕方ない。
 一か八かだ。

「鍋とフライパン買うぞ」



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