異世界に迷い込んだ盾職おっさんは『使えない』といわれ町ぐるみで追放されましたが、現在女の子の保護者になってます。

古嶺こいし

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五章・五ツ星を目指しまして

『スーグ』

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 世間では新年祝いで持ちきりであるが、そんなのは俺達には関係のないことである。
 むしろ今が稼ぎ時。
 こんな浮かれた時期にドラゴン退治しているのなんて俺達(多分+3組)くらいだろうな。




「トキー!そっち行ったよー!!」

 ターリャに追い立てられてドラゴンが俺の方へと飛んでくる。
 今日は雨だから圧倒的にターリャが有利だけど。なんだろうこの光景、ちょっと面白い。
 ドラゴンの意識が後ろのターリャから前方に居る俺に移ると、咆哮を上げながら襲い掛かってきた。

 今回の獲物はイエロードラゴン。
 首と脚の長いまるで鷺のような体躯をしているドラゴンだ。

 得意技は鋭い蹴りと、遥か上空からミサイルのような鋭い攻撃なのだが、本日はご覧の通り雨で高く飛ぶことが出来ず、鋭い蹴りも俺の盾とターリャの水の盾で完全に封じられていた。
 運のないドラゴンだなと、憐れみの目を向けながらも繰り出される攻撃を受け流していく。
 こいつの攻撃は鋭いけど範囲が狭い。
 盾を大きくしなくても十分に対応が出来る。

 そうこうしている内にチャージは満タン。
 盾を大きくして棒を引き抜きつつドラゴンの噛み付く攻撃を避け様に、その長い首に攻撃を叩き込んだ。




「なんだか呆気なかったね」

 光を吸収したターリャがそう言った。

「いいや、今回は雨で俺達には有利な状況だったせいだ。もし晴れてたら苦戦してただろうさ」
「そうかな」
「そうだ。こいつは基本遥か上空から攻撃を仕掛けてくるドラゴンだからな、俺達の防戦一方になってたろう」
「そうかぁ。雨で良かった」

 言いながらターリャは捲れてしまったフードを被り直そうとするが、中に水が溜まっていたようで諦めた。
 こりゃ久しぶりに湯船に使った方が良さそうだな。

「ターリャ」
「んー?」

 無駄だけど暇潰しのつもりで服を絞っていたターリャに俺は言った。

「今夜は久しぶりに湯船に浸かるぞ」
「え!!??やったあああ!!!!」

 文字通りターリャが喜びに飛び上がり、やったやったやった!!と連呼しながらルシー達の回りを駆け回った。
 そんなに好きだったのか。
 これからは水浴びではなく湯船の回数を増やすか。








 宿に戻ると、俺達の部屋の前に謎の獣人が待機していた。

「…………」
「…………」

 背丈は成長する前のターリャ程で、頭の上には白くて丸っぽい耳。そしてズボンからは縞模様の長い尻尾が生えていた。

「むぅー。おかしいなぁ、ここだって聞いたのになぁ。あれぇ??」

 頭を掻く手にも縞模様があり、立派な爪があった。
 俺とターリャは互いに顔を見合わせた。

 多分あれ白虎だよな。
 口に出さなくても互いの心の中の声が聞こえる。
 しかもただの獣人ではない。
 おそらくターリャと同じ四精獣だろう。

 ターリャがすごくめんどくさそうな顔をしていた。
 本人的には『先にお風呂入りたかったなぁ』と言わんばかりの顔だった。
 けれどずっとあそこで突っ立っていられても困るのは変わらないので、俺はターリャに白虎を指差した。

「こんな格好で会いたくなかったなぁ……」

 文句を言いつつターリャが白虎へと向かう間、俺は辺りを見渡した。
 四精獣で当たっているのならきっとパートナーが近くに居るはずだ。

「…………?」

 だけどそれらしい人影はない。
 というか人すらいないし気配もない。
 あれ?一人か??

 ターリャが白虎の後ろにやってくると肩を軽く叩く。

「ねぇ」
「んお?」

 白虎が振り返り、ターリャを視界に入れると顔がみるみる内に笑顔になった。

「おおおおお!!!やっぱりターリャだった!!!久しぶりだな!ターリャ!!」

 ガシッと白虎がターリャの手を取りブンブン上下に振る。

「え、ええと……」
「いやー、チロッと耳にした噂を便りに来てみて正解だったぜぇ!お?そっちの人間が今度のターリャの相棒か??」

 俺に気付くと、白虎はターリャの手を離し、すぐに俺の側にまでやってきた。
 思ったよりも行動が突飛なくて早いな。

 白虎はふーんへぇー?と俺を頭の先から爪先まで舐めるように見てフフンと笑う。
 そして白虎は腰に手を当てて胸を思いきり張った。

「あっちは白虎のスーグってんだ!んでもってぇ!」

 バッと勢い良く白虎のスーグはなにもない空間を指し示した。

「こっちの人間があっちの相棒であるリーン!どーだ!こっちのが可愛いだろう!!」
「……」
「……」

 突っ込み待ちだろうか。

「えー、スーグだっけ?」
「おぅスーグだ!」
「その、紹介してもらってなんなんだけど、本来そこに居るべき人間の姿が見えないんだが…」

 俺の返答にスーグは頭の上にはてなを浮かべた。

「はぁ?何言ってんだ。リーンはさっきからずっとここ居るじゃねー………………」

 ここでスーグが振り返り、リーンという人間が居る予定だった場所に目を向けて固まった。

「……スーグ?」

 ターリャが固まったスーグに思わず声をかけた。
 するとスーグは頬に両手を当ててまるでムンクの叫びのように「うえええええええ!!!??なんでリーンいないのぉおおおお?????」と悲鳴を上げたのだった。





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