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#9 話す
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#9 話す
「さっき先生に、放課後職員室に来てって言われた」
一頻り泣き終えた後に言うと
「私も一緒に行こうか?」
「ありがとう、でも大丈夫」
「深結の大丈夫は大丈夫じゃないでしょ」
紗奈にはばればれだった。二人とも口にはしないけれど職員室で先生に何を言われるのか薄々わかっていた。
「じゃあまた話を聞いてほしいな」
「わかった」
「ありがとう」
深結はやっとお弁当を食べ始めたが食欲がわかずに半分くらい残してしまった。
午後の授業は気持ちが少し晴れたおかげで午前中よりも集中できた。
成瀬君はすぐ後ろにいるのに何もできないことにむず痒さを感じながらノートにシャーペンを走らせる
帰りのホームルームの後に深結は勇気を出して成瀬君に声をかけた
「成瀬君...」
「ん?」
いつも通りの成瀬君にほっとして言った
「下駄箱で待っててくれないかな?」
「わかった!」
嬉しそうに言う成瀬君を見て気持ちが軽くなった。
職員室のドアを開けると
「おっ!来たか、入って入って」
担任の西井先生はフレンドリーで生徒からの信頼も厚い。
「まー、深結もなんとなく分かってるかもしれないけど...」
「この前、私が授業の途中で保健室に行った時のことですよね」
言葉を濁す先生に深結ははっきりと言った。どうやら、私が大声で叫んだ声が他の先生に聞こえてしまったらしい
「まあ、どんなに仲が良くて信用していたとしても言えない事だってたくさんある。だから無理に話せとは言わない、ただこれでも一応お前の担任だからな」
「心配なんですか?」
「心配っていうより、話を訊いて共感してやりたい...かな」
共感...その言葉に顔をあげた
「なんていうか、心配も悪いことじゃないけど、なんか一方通行だろ、それってなんか違うなーって思うんだ」
嬉しかった。自然と笑っていた。
「元気そうで良かったわ」
「じゃあ話しても良いですか?西井先生なら解ってくれる気がするので」
「もちろん、なんでも言え」
「発端は小学6年生の時です、毎日のように両親が喧嘩をするようになったんです。それで私は二人が仲良くなれるように頑張りました。たくさん笑って言うことは全て聞きました。そしたら.....」
思い出すと涙が出てくる、西井先生は深結の言葉全てに頷いてくれた
「..解離性遁走を患いました。中学生になって紗奈と出会って仲良くなって初めて親友と呼べる人ができました、そこから紗奈と精神科の先生と一緒に頑張って治療しました。このことで両親は前よりかは仲良くなってくれました。そして、たくさん私のことを心配してくれました。そしてある日学校が終わって家に帰るとお母さんがリビングで神妙な面持ち座っていました、さらに私は気がついたんですお父さんの靴がない。仕事用のではなく休みの日とかに出かける時用のラフなスニーカーが。慌ててお父さんの部屋に行くとそこはもぬけの殻、次はリビング横にあるキッチン、そこにもあるはずのお父さんの食器がありませんでした。全てを理解しました。その上で話を聞こうと訊こうとお母さんの前に座りました........」
最後の方は言葉に詰まって何回も言い直した、それでも西井先生は上手く言えるまで待ってくれた
「..別居したから。お母さんはそう言いました。どうして?と私が訊くと"深結のため"と言われました。私は何も言えませんでした。自分のことが大嫌いになりました。私が二人の関係を壊した。そんな自分が憎くて手首を切りました」
深結は袖を捲ろうとすると
「無理することない」
先生は軽く深結の手に触れて制止した。
「嫌いなんです、自分のこと。どうでもいいくらいに」
「だから傷つけたのか?」
「私もそう思ってました、でも違ったんです。本当は気づいてほしかったんです」
「自分のことを傷つけて、辛くて悲しいこととか全部」
「そっか、ごめんな。もっと早く気付いてあげなきゃいけなかった」
西井先生は少し俯いて言った
「先生は悪くないです。黙ってたのは私はなので」
「これからは何でも言ってくれ、辛いこととか悲しいこと、それだけじゃなくて楽しかったこととかも聞かせてくれ」
「ありがとうございます....」
深結の顔は笑っていなかった。笑わなかった。笑えばきっと先生は安心する、でもそれは同時に先生に嘘をつくことになる。
「友達を待たせてるので、もう帰って良いですか?」
「そうか、わざわざ来てもらって悪かったな」
「いえ、私も話せて良かったです」
深結は早歩きで下駄箱に向かう
「あっ!深結!」
成瀬君だ
「ごめんね、すごい待たせちゃって」
「大丈夫気にしないで」
深結は呼吸を整えてから、一度大きく深呼吸をして成瀬君をじっと見つめた
心を決めるかのように少し唇を噛んだ
「ごめんなさい」
深く頭を下げる。
成瀬君は困惑しているようだった。
「ちょっ、そんな謝られるようなことされてないよ」
「昨日のこと....突き飛ばしたりとかして」
「そのことなら、気にすんな」
成瀬君がそう言うとほぼ同時に完全下校5分前のチャイムが鳴った
「そろそろ行かないとな」
成瀬は深結の手を握ってゆっくりと歩き出した
顔が熱い。きっと赤くなっている。
深結は黙ってついて行くことしかできなかった。
「なあ深結、自分のこと大切にしろよ」
時間が止まった気がした。どういう意味だ?今の言葉
「嫌いなんだ、自分のこと」
「さっき先生に、放課後職員室に来てって言われた」
一頻り泣き終えた後に言うと
「私も一緒に行こうか?」
「ありがとう、でも大丈夫」
「深結の大丈夫は大丈夫じゃないでしょ」
紗奈にはばればれだった。二人とも口にはしないけれど職員室で先生に何を言われるのか薄々わかっていた。
「じゃあまた話を聞いてほしいな」
「わかった」
「ありがとう」
深結はやっとお弁当を食べ始めたが食欲がわかずに半分くらい残してしまった。
午後の授業は気持ちが少し晴れたおかげで午前中よりも集中できた。
成瀬君はすぐ後ろにいるのに何もできないことにむず痒さを感じながらノートにシャーペンを走らせる
帰りのホームルームの後に深結は勇気を出して成瀬君に声をかけた
「成瀬君...」
「ん?」
いつも通りの成瀬君にほっとして言った
「下駄箱で待っててくれないかな?」
「わかった!」
嬉しそうに言う成瀬君を見て気持ちが軽くなった。
職員室のドアを開けると
「おっ!来たか、入って入って」
担任の西井先生はフレンドリーで生徒からの信頼も厚い。
「まー、深結もなんとなく分かってるかもしれないけど...」
「この前、私が授業の途中で保健室に行った時のことですよね」
言葉を濁す先生に深結ははっきりと言った。どうやら、私が大声で叫んだ声が他の先生に聞こえてしまったらしい
「まあ、どんなに仲が良くて信用していたとしても言えない事だってたくさんある。だから無理に話せとは言わない、ただこれでも一応お前の担任だからな」
「心配なんですか?」
「心配っていうより、話を訊いて共感してやりたい...かな」
共感...その言葉に顔をあげた
「なんていうか、心配も悪いことじゃないけど、なんか一方通行だろ、それってなんか違うなーって思うんだ」
嬉しかった。自然と笑っていた。
「元気そうで良かったわ」
「じゃあ話しても良いですか?西井先生なら解ってくれる気がするので」
「もちろん、なんでも言え」
「発端は小学6年生の時です、毎日のように両親が喧嘩をするようになったんです。それで私は二人が仲良くなれるように頑張りました。たくさん笑って言うことは全て聞きました。そしたら.....」
思い出すと涙が出てくる、西井先生は深結の言葉全てに頷いてくれた
「..解離性遁走を患いました。中学生になって紗奈と出会って仲良くなって初めて親友と呼べる人ができました、そこから紗奈と精神科の先生と一緒に頑張って治療しました。このことで両親は前よりかは仲良くなってくれました。そして、たくさん私のことを心配してくれました。そしてある日学校が終わって家に帰るとお母さんがリビングで神妙な面持ち座っていました、さらに私は気がついたんですお父さんの靴がない。仕事用のではなく休みの日とかに出かける時用のラフなスニーカーが。慌ててお父さんの部屋に行くとそこはもぬけの殻、次はリビング横にあるキッチン、そこにもあるはずのお父さんの食器がありませんでした。全てを理解しました。その上で話を聞こうと訊こうとお母さんの前に座りました........」
最後の方は言葉に詰まって何回も言い直した、それでも西井先生は上手く言えるまで待ってくれた
「..別居したから。お母さんはそう言いました。どうして?と私が訊くと"深結のため"と言われました。私は何も言えませんでした。自分のことが大嫌いになりました。私が二人の関係を壊した。そんな自分が憎くて手首を切りました」
深結は袖を捲ろうとすると
「無理することない」
先生は軽く深結の手に触れて制止した。
「嫌いなんです、自分のこと。どうでもいいくらいに」
「だから傷つけたのか?」
「私もそう思ってました、でも違ったんです。本当は気づいてほしかったんです」
「自分のことを傷つけて、辛くて悲しいこととか全部」
「そっか、ごめんな。もっと早く気付いてあげなきゃいけなかった」
西井先生は少し俯いて言った
「先生は悪くないです。黙ってたのは私はなので」
「これからは何でも言ってくれ、辛いこととか悲しいこと、それだけじゃなくて楽しかったこととかも聞かせてくれ」
「ありがとうございます....」
深結の顔は笑っていなかった。笑わなかった。笑えばきっと先生は安心する、でもそれは同時に先生に嘘をつくことになる。
「友達を待たせてるので、もう帰って良いですか?」
「そうか、わざわざ来てもらって悪かったな」
「いえ、私も話せて良かったです」
深結は早歩きで下駄箱に向かう
「あっ!深結!」
成瀬君だ
「ごめんね、すごい待たせちゃって」
「大丈夫気にしないで」
深結は呼吸を整えてから、一度大きく深呼吸をして成瀬君をじっと見つめた
心を決めるかのように少し唇を噛んだ
「ごめんなさい」
深く頭を下げる。
成瀬君は困惑しているようだった。
「ちょっ、そんな謝られるようなことされてないよ」
「昨日のこと....突き飛ばしたりとかして」
「そのことなら、気にすんな」
成瀬君がそう言うとほぼ同時に完全下校5分前のチャイムが鳴った
「そろそろ行かないとな」
成瀬は深結の手を握ってゆっくりと歩き出した
顔が熱い。きっと赤くなっている。
深結は黙ってついて行くことしかできなかった。
「なあ深結、自分のこと大切にしろよ」
時間が止まった気がした。どういう意味だ?今の言葉
「嫌いなんだ、自分のこと」
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