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#10
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#10
「僕さ和希が来てくれて嬉しいよ、うちのバンドずっと男子は僕一人だけだったから」
やっと涙が止まってきた頃、優斗が言った
「どうだ、落ち着いたか?」
僕は首を縦に振った
「なら良かった、じゃあそろそろ帰るわ、お前もちゃんと家に帰れよ」
「結花!」
「雪奈?!」
駅から家までの道を歩いていた時だった
「どうしたの?家の方向真逆じゃ...」
雪奈に背を向けたまま言った
「だって結花....何か..辛そうだったから」
「そんなことないよ」
結花は振り返って笑顔を見せた
「嘘だよ...だって結花、泣いてるじゃん」
結花の笑顔にははっきりと涙が一雫滴っていた
「違う..違うのこれは」
「もう、我慢しなくて良いんだよ」
その優しく包み込むような言葉と一緒に雪奈は結花を抱きしめた
「やめてよ......」
「こっちこそ、結花が独りで我慢するのを止めるまで離さないんだから...!」
「お願いだから.....」
「絶対止めないんだから!」
「やめろって..言ってんだろ!」
結花は勢い良く雪奈を突き飛ばした
「だいたいお前、何様だよ」
「え?!」
その結花ではないような言葉は間違いなく結花の口から発せられたものだった
「勝手に知った気になって....味方にでもなったつもりか!」
「そんなつもりじゃ....」
「黙れ!私はずっと独りだった今までずっと、これからだってそうだ!だから.......」
荒げた結花の声は次第にその勢いを失っていき、結花はそのまま地面に崩れ落ちるように座り込んだ
「ごめんなさい........」
「謝んないで、結花は悪くないんだから」
「さようなら」
結花は立ち上がって静かにその場から去った。
「ただいまー」
「おかえりー」
お母さんと軽いやり取りをした後そのまま自分の部屋に向かった
"結花、さっきは本当にごめん"
LINEでそう送ってすぐに画面を消した
ピンコン!
LINEの通知音が鳴り画面が明るくなった
"ううん、和希は悪くないよ。悪いのは全部私だから気にしないで"
と、表示されていた。
結花は暗くなった空の下を独りで歩いていた、目的地があるわけでもない。今はただこの場所から離れたかった、誰もいない場所に行きたかった。
「痛いっ」
覚束ない足取りの所為で転んでしまった
「中途半端な痛みなんて要らないのに」
地面に手をついたまま呟いた
脚には擦り傷ができていて血が滲んでいた
歩く気力もなくなって、たまたま近くにあった小さな公園のベンチに座って泣いていた。
しばらくすると雨が降ってきた、次第に強くなっていって土砂降りになった、それでも結花は気にせずに泣き続けた
「君、大丈夫かい?」
通りかかったお巡りさんに声をかけられて顔を上げた
「........」
何も言わなかった。何かを言えば何かをされる、それが嫌でしょうがない
「ちょっと待っててね」
そう言うとお巡りさんは誰かに連絡を取り始めた
「今パトカーで迎えに来てくれるからもう少しだけ待っててね」
「ここにいたい..」
絞り出した声は届かなかった
十数分してパトカーが到着した
「じゃあ行こっか」
誘導されるがままにパトカーに乗り込んだ。
どこに向かっているかすらも訊かなかった、もうどうでも良いと思っていた。
到着した所は交番だった。
案内されて椅子に座ると、中から女性の警察官が出てきて向かい側の椅子に座った
「寒かったと思うからこれ飲んで温まりな」
出されたのは温かいココアだった。両手でカップを掴んでそっと口元に近づけた
「あつっ」
思っていたよりも温かかったことにびっくりして思わず声が出た
「ふふっ」
目の前に座っている女性の警察官が私を見て微笑ましく笑っていた
「どうして笑うんですか?」
私なんかを見てどうして笑うのか結花にはまったく分からなかった
「可愛いなあって思って」
「私がですか?」
「もちろん!」
元気良くそう答えては笑顔を見せる警察官に結花は少しばかり心を開いたのかもしれない
「何があったか教えてくれる?誰にも言わないから」
「本当に誰にも言わないんですか?」
「絶対に誰にも言わないよ」
この人になら話しても良いと思った、話せる気がした
「私...怖かったんです、ずっと怯えて生きてきました」
「何に?」
涙混じりの言葉を優しく受け止めてくれた
「上手く言葉にできないけど...きっと、家族とか友達とか..ですかね」
「どうして?」
「信じられなくて、言いたいことも言えなくて。幼稚園の頃からよく周りからからかわれたりして、小学校中学校とずっといじめられてきたました。そして親からは良い高校に行って良い大学に行って良い会社に入れって言われ続けられて、私は何も出来ないのに、勝手にそうするのが当たり前って言われているような気がして辛かったんです。それでどこにも私の居場所は無くて...いろんな人に迷惑をかけて...もうどうでも良くなって」
話し終わる頃には結花は泣いていて机にはたくさんの水滴が落ちていた。
「ありがとう、話してくれて。もっとたくさんお話ししたいな」
そう言われて嬉しかった、だからその後もたくさんお話をした、他愛もないことから好きなこと、やってみたいこと、好きな人のことまで....。今なら何でも話せる気がした。
「僕さ和希が来てくれて嬉しいよ、うちのバンドずっと男子は僕一人だけだったから」
やっと涙が止まってきた頃、優斗が言った
「どうだ、落ち着いたか?」
僕は首を縦に振った
「なら良かった、じゃあそろそろ帰るわ、お前もちゃんと家に帰れよ」
「結花!」
「雪奈?!」
駅から家までの道を歩いていた時だった
「どうしたの?家の方向真逆じゃ...」
雪奈に背を向けたまま言った
「だって結花....何か..辛そうだったから」
「そんなことないよ」
結花は振り返って笑顔を見せた
「嘘だよ...だって結花、泣いてるじゃん」
結花の笑顔にははっきりと涙が一雫滴っていた
「違う..違うのこれは」
「もう、我慢しなくて良いんだよ」
その優しく包み込むような言葉と一緒に雪奈は結花を抱きしめた
「やめてよ......」
「こっちこそ、結花が独りで我慢するのを止めるまで離さないんだから...!」
「お願いだから.....」
「絶対止めないんだから!」
「やめろって..言ってんだろ!」
結花は勢い良く雪奈を突き飛ばした
「だいたいお前、何様だよ」
「え?!」
その結花ではないような言葉は間違いなく結花の口から発せられたものだった
「勝手に知った気になって....味方にでもなったつもりか!」
「そんなつもりじゃ....」
「黙れ!私はずっと独りだった今までずっと、これからだってそうだ!だから.......」
荒げた結花の声は次第にその勢いを失っていき、結花はそのまま地面に崩れ落ちるように座り込んだ
「ごめんなさい........」
「謝んないで、結花は悪くないんだから」
「さようなら」
結花は立ち上がって静かにその場から去った。
「ただいまー」
「おかえりー」
お母さんと軽いやり取りをした後そのまま自分の部屋に向かった
"結花、さっきは本当にごめん"
LINEでそう送ってすぐに画面を消した
ピンコン!
LINEの通知音が鳴り画面が明るくなった
"ううん、和希は悪くないよ。悪いのは全部私だから気にしないで"
と、表示されていた。
結花は暗くなった空の下を独りで歩いていた、目的地があるわけでもない。今はただこの場所から離れたかった、誰もいない場所に行きたかった。
「痛いっ」
覚束ない足取りの所為で転んでしまった
「中途半端な痛みなんて要らないのに」
地面に手をついたまま呟いた
脚には擦り傷ができていて血が滲んでいた
歩く気力もなくなって、たまたま近くにあった小さな公園のベンチに座って泣いていた。
しばらくすると雨が降ってきた、次第に強くなっていって土砂降りになった、それでも結花は気にせずに泣き続けた
「君、大丈夫かい?」
通りかかったお巡りさんに声をかけられて顔を上げた
「........」
何も言わなかった。何かを言えば何かをされる、それが嫌でしょうがない
「ちょっと待っててね」
そう言うとお巡りさんは誰かに連絡を取り始めた
「今パトカーで迎えに来てくれるからもう少しだけ待っててね」
「ここにいたい..」
絞り出した声は届かなかった
十数分してパトカーが到着した
「じゃあ行こっか」
誘導されるがままにパトカーに乗り込んだ。
どこに向かっているかすらも訊かなかった、もうどうでも良いと思っていた。
到着した所は交番だった。
案内されて椅子に座ると、中から女性の警察官が出てきて向かい側の椅子に座った
「寒かったと思うからこれ飲んで温まりな」
出されたのは温かいココアだった。両手でカップを掴んでそっと口元に近づけた
「あつっ」
思っていたよりも温かかったことにびっくりして思わず声が出た
「ふふっ」
目の前に座っている女性の警察官が私を見て微笑ましく笑っていた
「どうして笑うんですか?」
私なんかを見てどうして笑うのか結花にはまったく分からなかった
「可愛いなあって思って」
「私がですか?」
「もちろん!」
元気良くそう答えては笑顔を見せる警察官に結花は少しばかり心を開いたのかもしれない
「何があったか教えてくれる?誰にも言わないから」
「本当に誰にも言わないんですか?」
「絶対に誰にも言わないよ」
この人になら話しても良いと思った、話せる気がした
「私...怖かったんです、ずっと怯えて生きてきました」
「何に?」
涙混じりの言葉を優しく受け止めてくれた
「上手く言葉にできないけど...きっと、家族とか友達とか..ですかね」
「どうして?」
「信じられなくて、言いたいことも言えなくて。幼稚園の頃からよく周りからからかわれたりして、小学校中学校とずっといじめられてきたました。そして親からは良い高校に行って良い大学に行って良い会社に入れって言われ続けられて、私は何も出来ないのに、勝手にそうするのが当たり前って言われているような気がして辛かったんです。それでどこにも私の居場所は無くて...いろんな人に迷惑をかけて...もうどうでも良くなって」
話し終わる頃には結花は泣いていて机にはたくさんの水滴が落ちていた。
「ありがとう、話してくれて。もっとたくさんお話ししたいな」
そう言われて嬉しかった、だからその後もたくさんお話をした、他愛もないことから好きなこと、やってみたいこと、好きな人のことまで....。今なら何でも話せる気がした。
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