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第1章 成長期編

1ー13 まだまだ不十分らしい

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加護の力は思っていたより、ずっと強力なもののようだ。

明らかに走る速さは速くなっているし、身体が軽い。

調子にのっていつもよりもオーバーペースで走っているが、疲れも少ないようだ。

一応、釘を刺されたことは

«アタシたち風精霊の加護が届きにくいところ・・・具体的には室内なんかね。そういったところでは、加護の力は弱まるんだから注意しなさい。»

ということくらいだった。

あとは言われてはいないが、多分ごく微量の魔力が風精霊に持っていかれてるらしい。

魔力の回復速度がほんの僅かだが遅いようだ。

まぁ、たったあれだけのやり取りでこれだけの効果がある加護が得られているのであれば、デメリットであってデメリットでないようなものだ。

「居たな・・・。」

一応、<遠見>で監視していたニードル・ボアは少しずつ場所を変えながら食事をしていたようで、今も草の芽だろうか、雪と地面を掘っくり返しながら食事に勤しんでいる。

それでも元来ボア系列は警戒心が強いので、風下から近づくことは忘れない。

少しずつ、匍匐前進で近づいていく。

直接見ることはできなくても、<遠見>を持つ俺ならその動向を探ることくらいはできる。

この狩りに慣れてしまうと、普通の狩りの仕方を忘れてしまうな。

罠を仕掛けた方にでも追い込めれば簡単だが、罠を仕掛けたポイントからは大分距離がある。

直接手を下すしかないか。

ボアは警戒心の強さから、近づくことは難しいが、近づいてしまえばあとはボアから基本的には喧嘩を売ってくる。

で、あればだ。

バッグから左手に小石を、右手に片手剣を構えて木の幹から飛び出し、掘り返すことに夢中になっている側頭部に思いっきり石をぶち当てる。

BUMOOOOOOO!

食事を邪魔されたニードル・ボアは激高し、石を当てた邪魔者である俺を見つける。

「食事中に邪魔して悪いが、俺もあまり時間がないものでな。」

どうせ言葉は伝わらないが、ニードル・ボアは針のような毛を逆立てて、突進してくる。

体長2メートル近いニードル・ボア最大の攻撃は突進だ。

結構な速度は出ているが、それでもエルレードやマリアの比じゃないくらいには遅い。

BOOOOOOO!!!

雪煙をあげながら突進してくるボア。

「そらっ」

右に身体を捌き、すれ違っていくボアの喉元を切り裂く。

BOO!BOOO!

まずい、少し浅かったか。

本来だったら気管まで割いてフラついてるところを留めを刺すはずだったのに、まだ元気にしてるところを見ると、首の動脈までいってるかどうかも微妙だ。

そしてニードル・ボアは非常に怒っている。

ただでさえ、逆立っていた毛をより逆立て、またこっちに向かってきた。

が、やはり先ほどまでの動きからすれば精彩に欠けている。

冷静に突進を交わして、その首元に剣を突き立て、絶命させる。

「おおっと・・・」

とは絶命したからといって、ボアの突進の速度がすぐにゼロになるわけじゃない。

「あっぶね。右腕ごと持っていかれるところだった・・・。」

とっさに手を離して、離れたものの、そのまま剣をつかんでいたら脱臼程度はしていたかもしれない。

倒れたボアから剣を抜き、改めて喉を裂く。

あとはバッグに入れておけば、解体するのは家の裏でいい。

「一撃で狩るだけの力はまだないか・・・。」

【身体強化】くらい使えばよかった。

首のあたりに傷があるくらいじゃ買取価格はそこまで下がらなければいいけど。

バッグにボアを放り込んで空を見上げれば、かなり日が傾いていた。

そろそろ帰らないと、夕食抜きになるな。

今度は【身体強化】まで使って、急いで家路についた。
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