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第1章 成長期編

1ー18 やっぱり黙ってやってたらしい

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その後も散々エルレードにもマリアにも非常識だのなんだの言われて疲れてしまったので、食事もそこそこに俺は自室に引き上げてしまった。

もちろんウィンを連れてだ。こいつは小一時間問い詰めなければならない。

なお、ウィンのおかげで俺はマリアに許された。

それは素直にありがたい。

「で、聞きたいことがあるんだが。」

«えぇ、疲れたから帰ろうと思ったのに・・・。»

ぶーぶー言いながらもお土産のクッキーのいくらかをどこかにしまうウィン。

魔道具のバッグみたいなものだろうか。

「ウィン、この指輪を介して俺の魔力食ってるだろう」

わずかに動きが止まる。

«なななななななんのことでしょー。»

だめだこいつ、大根にもほどがある。

「少しだけだけど、指輪もらってから魔力の戻りが鈍いんだよ。まぁ、【身体強化】と重ねがけできるスピードアップはありがたいし、結構な距離を走っても疲れにくくなったからありがたいのはありがたいんだけど・・・。」

そこで言葉を区切って、タメを作る。

「加護までくれた高位の精霊がまさか加護を与えた魔力を集ってるだなんて・・・。」

«うぅ・・・。»

バツの悪そうな、居心地の悪いようなウィン。

«・・・ごめん・・・なさい・・・。»

思ったより早く折れたな。

「おぅ。認めたな。最初から言ってくれればこんなことしなかったんだぞ。
黙って魔力持ってくってのがよくなかったな。」

«だって、言ったらいらないって言われそうだし・・・。»

傷や疲労感はポーションあたりを使えばすぐに回復するものだが、魔力を回復させるポーションは非常に高価だ。

それ故に休んでの時間経過で回復させることがほとんどなので、魔法や俺みたいに【身体強化】で魔力を使う冒険者には、魔力が回復する速度はそのまま継続戦闘能力に関わってくる。

ダンジョンや山林などの魔獣や魔物にいつ襲われるかわからない場所に関して言えば、継続戦闘能力の低下は命に関わる。

ウィンはきっとそれを懸念したのだろう。

「バーカ、自分の魔力がどれくらいで回復するのか把握しないで冒険者が務まるか。回復速度が上振れする分には何も問題ないけど、下振れしたならそれがちょっとだけの差でも織り込んでおかないと、命に関わってくるんだ。」

使えると思った魔力がわずかでも足りないとか、【身体強化】が思ったよりも早く切れたとか、本気でシャレにならない。

「この加護の効果を考えれば、持っていかれてる魔力量は効率が良すぎるくらいだ。それは正直、すごい感謝してる。だけど、俺自身について、俺自身が知っておかないといけないことに何かするんだったら今度からちゃんと言ってくれ。」

«うぅ、ごめんなさい・・・。»

最初に会った時の態度を考えれば、恐ろしいほどのしおらしさだ。

・・・やり過ぎたか・・・?

«エドの魔力貰ってからアタシすっごく調子よくって・・・力が漲ってくるような感じだったんだけど、いっぺんに貰うと多分酔っちゃうと思ったのよ・・・。それに対価ももっと取っていいって言ってたし・・・»

「確かに対価については、そう言ったな。
でも酔うってどういうことだ?」

«それも自覚ないの?  ホントに?信じらんない!»

なんか今日は驚かれたり呆れられてばかりの日だな。

«例えて言うなら、普通アタシたち精霊って自然から魔力を得るのよ。そうやって力をつけて、徐々に高位の存在になっていくの。
もちろん、色々な理由で全ての精霊が高位存在にはなれないけどね。»

基本的には寿命がないはずの精霊だが、高位存在のなれない、ということは何かしらが理由で存在が保てなかったりするんだろうか。

«で、イレギュラーなのは人と契約して魔法を使う対価として魔力を得るケースね。
これはこれで、得られる魔力量そのものは多いんだけど、人によってはイマイチなの。
その人の魔力の癖だったり、使ってる魔法の種類だったりで、魔力そのものが属性だったりがあるから、自分の魔力として取り込む時の効率が悪かったりする。»

「よくわからないが、濁った飲み水みたいなもんか。」

«あ、その例えは悪くないかな。濁った水ってなんか変な味がしたり、臭かったりして美味しくないじゃない。
でもエドの魔力に関してはそういう混じり物がほとんどないから、すっっごい美味しいのよ。でも、最初貰った時も危なかったけど、一度に大量に貰っちゃうとアタシ自身が魔力量をセーブできなくなって、ぐるぐる世界が回っちゃいそうになる。初体験だったわぁ・・・あんな純度のいい魔力なんてホントいい拾い物した感じ。»

魔力に純度があるなんてことは知らなかった。

「つまり、一度に持ってくとウィン自身が危なくなるから、指輪を介して少しずつ抜いていくことにしたってことか。」

«黙ってたのは悪かったわよ。ホントにちょっとずつだからバレないって思ってたことも事実。
これに関してはアタシが全面的に悪いわ。»

「まぁ、今後は気をつけてくれよ。思ってたより魔力が回復しなくって死ぬなんて真っ平御免だからな。」

«わかったわよ、もぅ・・・。»

これでお説教に関しては概ねいいだろう。

「よし、じゃあこの話はこれで終わろう。
ありがとうな、ウィン。急な呼び出しをして悪かった。」

«いいえ、こちらこそありがとう。クッキー、っていうの?お土産もできたし、エルレードもマリアもヒューマンの割にはいい人達だしね。»

どうしても気位が高いのは中位精霊だからなんだろうか。

«じゃ、アタシは帰るわね。ええと、こういう時には『おやすみ』っていうのかしら?»

「そうだよ。おやすみ、ウィン。またよろしく頼む。」

ひらひらと手を振ってウィンは窓から飛び出していった。

明後日にはこの村を出る。

この夜の景色もしばらくは見納めになるんだな。
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