月渚

mtゴリラ

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月渚

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黄色と朱色の混ざり合う夕暮れの日差しが、病室の窓から斜めに差し込んで来る。
 音の無い病室で月渚はベッドに座っていた。
 月渚に向かいゆっくりと日差しが伸びてきた。
 夕日が手元を照らした。
 その小さな手には、青い糸の絡まり合うミサンガが握られている。
 緊張した瞳で手元を見つめ、巧に糸を交差させる。
 ミサンガが少しずつ編みあがって行く。
 青白い月渚の横顔が切なさを感じさせた。

 月渚は高校3年生の夏休みからこの病院に入院していた。
 もう半年になる。
 ミサンガは友達の優へのクリスマスプレゼントだ。
 二人は同じクラスで授業を受けていた。
 優はほぼ毎日授業のノートをコピーして、月渚へ持って来てくれた。
 病室に優が訪れた時、月渚は嬉しそうな笑顔を見せた。
 学校以外でも二人は時間を共有していた。
 二人はよく一緒に笑い合った。
 月渚の優に向ける視線には深い信頼があった。
 それは今も変わっていない。
 
 「明日も優君は来てくれるかな……」月渚は小さくつぶやいた。
 時折、月渚のミサンガを編む手が震えて手が乱れた。
 病魔が月渚の体を蝕んでいる。
 それでも月渚はあきらめなかった。
 月渚は懐かしい思い出や将来の夢や希望に浸りながら、優のためにミサンガを編み続けた。
 だが、体力の限界は近づいていた。

 ミサンガを編む手を一度休め、目を閉じて眉間にシワを寄せた。
 暗闇が月渚を包む。
 愁いを帯びた月渚の表情から緊張が緩んでいくのが分かる。
 深く息を吸い込んだ。
 
 「続きは明日にしよう」
 ゆっくりとベッドへ横になった。
 やがて月渚は疲れて眠りに落ちた。
 その穏やかな寝顔は、病室に静かな安らぎをもたらした。
 しかし、その眠りは永遠のものとなってしまった。

 次の朝、看護師が病室を訪れた時、月渚は二度と目を覚まさなかった。
 静かにその息を引き取った月渚の手には、未完成の青いミサンガが握られていた。

 月渚の亡くなったことを知った優は、病室へ駆けつけた。
 乾いた病室の空気に優のおえつが響いた。
 優は泣き崩れた。
 やがて落ち着きを取り戻した優の手に青い編みかけのミサンガが手渡された。

 月渚の愛情と思い出が込められた編みかけの青いミサンガが、優への最後の贈り物となった。





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