毒舌アイドルは毒の魔物に転生する。

馳 影輝

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第一章 転生

第二話 擬態

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ダンジョンの扉を開いた瞬間、濃密な魔素が肌を刺すように漂っていた。
空気が重い。まるでスープの中を泳いでいるような感覚。
──でも、胸の奥がゾクゾクする。

「これが、外の世界……」

目の前には石で組まれた通路が続いている。天井は低く、壁の岩肌には淡く光る苔のようなものが張りついている。
いかにもRPGのダンジョンって感じ。ワクワクするけど、油断すれば即ゲームオーバー。

「ま、レベル30の私にかかれば、雑魚モンスターなんて一撃だけどね」
リトラの召喚する魔物を倒し捲ってレベルは30まで上がった。
──そう言いつつも、内心はピリついていた。
リトラの警告が耳に残っている。
「ポイズンキラーのレベル30は人間から見れば危険な討伐対象」
つまり、見つかれば終わり。人間にとって私は“魔物の中でも危険な存在”なんだ。

(まずは、出入り口を探す。その次に、安全な場所を見つけて、拠点づくり。最終的には──擬態で人間社会に紛れ込む)

一歩一歩、静かにダンジョンの通路を進む。
その時──

「──ギィィィッ!」

鋭い金属音のような叫び声が響いた。
視界の先、壁から影のような存在がぬるりと現れる。

「っ、来た!」

すぐさま身を低くし、毒霧を展開。
霧の中から飛び出してきたのは、骨のように痩せこけた四足の獣。
目が光ってる。ヤバいやつ。

「スケルトンハウンド!」

霧の毒で体力を少しは削れてるようだけど、かなり速い。
こっちの動きに合わせて、的確に追ってくる。
知性は低くても、本能で戦ってるタイプね。

「だったら──こっちも本気でいくわよ!」

毒牙を引き絞り、一気に突進。
スキル【ポイズンアロー】を連射する。
1発、2発、3発──全部命中。だが、倒れない。

「しぶといッ!」

直後、相手が一気に飛びかかってきた。
その口には毒の泡が。
さっきの毒霧を吸って進化でもしたのか!?

──まずい!

バッと飛び退いて、ギリギリで回避。
背中を地面に打ちつけながら、すぐに【擬態】を発動──壁の岩と同化して気配を消す。

スケルトンハウンドは辺りを探るが、こちらの気配を見失ったようだ。
ここで確実に仕留める。
よく狙って、胸にある赤い石が弱点な気がする。
ジリジリと移動して、スケルトンハウンドが遠くを見るために体制を上向きにした時。
「今だ!」
爪を力いっぱい石にぶつけると砕け散った。
「よし!」
思わず声が出た。
程なくスケルトンハウンドは絶命した。

「──っ、ふぅ……!」

ギリギリだった。

(見つからずに擬態成功、ね。これ、使いこなせば人間の前でも……)

そんな事を考えていたその時。

「……おい、今の、なんだ?」

声が聞こえた。
人間の声だ。

擬態したまま、そっと視線だけ動かす。
通路の向こうから、3人の人影が歩いてきている。
冒険者のような出で立ち。鎧をまとい、剣と杖を携えている。
こんなに早く人間に遭遇するなんて。
(まずい……! ってか人間、近ッ!)

「魔物の気配が強くなってる。警戒しろ。下級モンスターとは違うぞ」

(……スルーして、早く通り過ぎて)

「この辺り、何かがいたな。痕跡がある。──探索魔法、展開」

「えっ、ちょ、まって、魔法って──」

通路全体に青白い光が広がる。擬態の魔力が弾かれるように、ジジッと身体が震えた。

「……反応アリ! 壁だ、そこだッ!」

「ちょ、何でバレて──!」

瞬間、岩から跳び出すスルカ。その目の前に剣を構えた戦士が迫っていた!

「魔物か!?」

ーー見るなバカ!毒霧行くわよッ!!ーー

毒霧を展開、すぐさま視界を遮断。
そのまま通路の天井を蹴って、真上へ跳躍!【跳躍】スキルで一気に上層へ!

「くそ、逃げられたか!」
「……あの魔物、ポイズンキラーか?」

──スルカは霧の中、ダンジョンの天井裏に逃れながら、荒く息を吐いた。

「……はぁ、はぁ……見つかったら、やっぱ戦闘不可避ね」

だが、その目には恐れはなかった。

「いいわ。ゲーム開始って感じじゃない。こっちだって、舐められてたまるかっての」

唇を吊り上げ、不敵に笑う。

こうして、毒舌転生者スルカ・サマリスの“本当のサバイバル”が始まった。
ダンジョンを進むにつれて、敵の質も段違いになっていった。
獣のような低級魔物から、魔力を操る上位種まで──
スルカは、次々と現れる敵を倒し、毒で侵し、時には逃げながら、それでも地上を目指していた。

「っ、はぁ……こいつは強かった……!」

目の前で崩れ落ちるのは、巨大なムカデ型魔物。
硬い外殻を貫通するには【毒針】+【貫通攻撃】の連携が必要だった。

(リトラのとこに居た頃とは、比べ物にならない……)

疲労が溜まっていた。
だが、レベルも着実に上がっている。
今やスルカは、魔物の中でも“異質”な存在となっていた。
毒の力を極めた知性ある存在──それが、彼女だった。

──そして、転機は突然訪れる。

通路の先から、爆発音と叫び声が響いた。
焦げた風が流れ込んでくる。

「また魔物……? いや、あれって──」

そっと近づき、岩陰から覗いた先。

──いた。数時間前に遭遇した、あの冒険者たちだ。

3人のパーティが、巨大なドラゴン型の魔物と交戦していた。
その魔物は、炎を吐き、翼で突風を巻き起こしている。
明らかにこの階層の存在じゃない。何かの“イレギュラー”で出現した様だ。

「……ヤバいって、あれ。私でも単独じゃ勝てるかどうか……」

戦士の男が盾で炎を防ぎ、魔法使いの青年が氷の魔法を放つ。
その後ろに控えるのは──エルフの女性。
長い銀髪に、すらりとした体躯。冷静な目で周囲を見ている。

(あの時もいたな、この人……)

スルカの視線が、そのエルフに注がれる──が、その瞬間。

「────っ!」

ドラゴンの尻尾がうなりを上げた。
戦士が間に合わず、エルフに直撃。

身体が宙を舞い、岩に叩きつけられた。

「ノアっ!!」

魔法使いの叫び。だが、彼女はもう立ち上がらなかった。
血が流れ、目は閉じられたまま。動かない。

(……死んだ?)

あれほど精密に動いていたエルフの体が、今はただの“骸”となって横たわっている。

スルカは、岩陰で拳を握った。

(このまま見てるだけなんて──)

でも、関わればまた“人間”にバレる可能性がある。
なのに、体が前に出そうになるのを止められない。

その時、脳裏に1つの選択肢がよぎった。

──擬態。

あのエルフに擬態できれば、人間の社会に入れる。
戦闘能力、立ち振る舞い、そして見た目も含めて──”人間”になれる可能性がある。

「……やるしかない、か」

ドラゴンの注意が別に向いている隙に、スルカは素早く動いた。
地面に倒れたノアの亡骸へ近づく。

「ごめん……でも、あなたの姿、使わせてもらう」

エルフに喰らいつく。
死体を喰らう事で擬態スキルを発動。
【擬態 Lv.4】がスルカの体を包み込み、紫色の魔物の皮膚が、すっと変わっていく。
毒の匂いを消し、目の色を変え、髪を伸ばし、耳を尖らせ──

──立っていたのは、ノアその人だった。

肌の色も、瞳の色も、傷の位置すら完全に一致している。

(すごい……これが擬態の本気……)

だが、胸の奥には得体の知れない重さがあった。
他人の死を利用して生きる。
それが、今の自分の選んだ道。

(あたし……やっぱり、魔物なんだな)

……だが、それでも生き延びるためには、何だってやる。
毒舌アイドルだった頃から、ずっとそうだった。
“私らしくない”って言われても、今さら引き返す気はない。

(ありがとう、ノア。
暫くの間、あなたの人生をもらうわ。)

スルカは、ノアの遺体をそっと岩陰に隠し、姿を整えた。
そして、ドラゴンと戦う2人の仲間に向かって──

「──援護するわ!」

滑らかに声を出した。
それは、ノアの声。
全てを擬態したスルカだ。

今、彼女は──人間の姿で、戦場に立っている。
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