姫さまを倒せ!

ねね

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4 満腹にな~れ~

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 立派な牛が列をなして城に入って来る。

 地平線まで、とは行かないにしても、かなりの行列だ。牛の前には牛がいて、牛の後にも牛がいる。

 この牛の群れは、姫さまの求婚者である遊牧民の族長の息子さんからの贈り物である。捌いて肉になった牛も、山のように頂いた。

 そりゃそうだよね。

 よく考えてみれば、私たちが何もしなくても、無策で食人鬼に突進する奴などいるはずがなかったのだ。あちらにとっては自分の命が懸かっているのだから。

 ふっふっふ。案外、楽しくなってきたな。

★ ★ ★

「はー。ずばり胃袋を攻めて来た、と。」

「おや?反応が芳しくないねえ。私は感心したのだけれど。」

「だって攻め方が中途半端すぎー。姫さまの胃袋を牛だけで攻められると本気で思ってるの?
 こんなの所詮は前菜じゃん。胃が拡張されるだけな未来が見えるって。」

「あちゃ~、なるほどね……。」

 私と使い魔その2は只今、銀のお皿に赤いお肉をせっせと盛り付け中。

 焼くと風味が落ちるので、姫さまが召し上がるお肉は大抵、生である。

 腹を壊す心配なんか誰もしていない。だいたい食人鬼というモノは、生肉・腐肉・寄生虫・病気もどんと来いな消化器官をお持ちなのだ。

 ちなみに、お皿の上のお肉は5キロほど。そろそろ宮廷料理にあるまじき迫力になってきた。

 肉バラとか肉リボンとか、一応、可愛らしい雰囲気を保つ努力はしているんだよ。姫さまの食欲を保つために。

 食人鬼が牛を食べるのかって?

 これが結構、食べるんだな~。珍味というか、アクセントみたいな扱いで。

 それでも5キロ食べてもらえるかどうかは、まあ、姫さまのお腹具合と私たちの出し方次第ってところ。

「お食事はお部屋にお持ちするのよね?」

「うん。人間の求婚者たちに見せるわけにはいかないし。」

「ははは、ややこしー。こりゃご結婚されたらどうなるか、想像もつかないや。」

 そろそろ盛り付けも佳境。ひときわ大きな深皿を配膳台に据えると、いよいよ姫さまの主菜すなわち人肉の出番である。

 ぶ厚く切り、何度も叩いて出来るだけ柔らかくした肉を敷く。骨付き肉をその上にたっぷり載せ、内臓を飾って血をかける。

 肉、肉、肉。
 姫さまの食卓はいつでも赤いカーニバル。

 ああ。本当は、姫さまに求婚するのなら、人間の死体をかき集めて献上するのがベストなんだろうな。

★ ★ ★

「本日のご夕食は、熟成肉のフルコースでございます。」

「ありがとう。いただきます。」

 姫さまの白い手が皿に伸びる。

 パリパリ、シャクシャク。
 パリパリ、シャクシャク。

 肉を喰い千切り、飲み下す。骨を割り、髄をすする。みるみる現れる空の皿。姫さまは今日もお元気だ。

 テーブルマナーはどうなってるかって?
 ちゃんと守られてますよー。

 食生活が多様な魔物に共通するお食事のマナーは、いたってシンプル。食後の後始末に困らないようにすること、これに尽きる。

 例えば、食人鬼なら食後に半殺しの食材を残すのはお行儀が悪いわけ。

 だってそれ、誰がどう片付けるのさ?

 その点、姫さまのお作法は素晴らしい。骨も血も残さずたいらげられて、食後の食器は輝くようだ。

 これぞ王族の教育成果ってものである。

 もし、姫さまの旦那さまが、ご一緒のお食事を嫌がられたら。私か使い魔その2の食事風景でもお見せしようかな。

 雑食な私たちからすると、肉しか食べない生き物の食は、純粋でどこか儚い。一周回って、姫さまの礼儀正しさやお可愛らしさに気が付けるのではなかろうか。

 そんなことを考えていると、使い魔その1がこっちに目配せしてきた。

 時間だ。最初の求婚者のお迎えに出よう。
 私はひとり、そっとお部屋を離れる。

 扉を閉じる際、密かに姫さまに念を送っておいた。

 ---どうか、今のうちにお腹いっぱい食べておいて下さい。

 姫さまがお夜食無しですみますように。明日の朝、使い魔その1が考えたお悔やみの言葉を使わなくてすみますように。

 満腹にな~れ~。

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