79 / 107
気になるあの花
しおりを挟むヘルメスの観察眼
「コレーが持ち帰った鉢植えの花はどうなりましたか?」
ヘルメスは珍しく正直にデーメテールに、自分が気になった事を話した。
冥界の結界線、コレーの場合は冥界からの出口だったネクロマンディオの洞窟から出てきた際の様子だ。
デーメテールが「えーと?花?鉢植え?」と、思い出そうと怪訝な顔をしている間にも続ける。
「あの時、ただ、一つ気になった事はありました。
向こうでコレーは、覚醒済みになったはずなのに、界渡りの花が必要だったのか?持ち帰った時には萎れていたから、やっぱり界渡りの花の力を使い切った筈なんですが。
てっきり、忘却術で覚醒した事さえも冥界での出来事の一つとして、忘れていると思った。だから覚醒による力の使い方さえも忘れているか、理解していないんだろうなと、考えた。それならば結界を自身では結界超過は無理だろうと。それでその時は納得したんだ。
本当にコレーが嘘をついて黙ってるだけには見えなかったし。
だけど、その後のコレー自身の御力ってやつ、花や木や畑を一瞬で再生する力を見せつけられて、十二分に覚醒の力を使いこなしてると思ったんです。
もしかしたら、覚醒した事や覚醒した際の何か出来事だけが忘却術で綺麗に記憶から消されてるんでしょう。
だって、覚醒には何かきっかけになるイベントが普通あるでしょ?人にもよるけど(神にもよる?)覚醒のきっかけになるイベントって、なかなか忘れなれない出来事だよね?それさえも強烈な忘却術がかけられている。
だけど、あの花が妙に気になったんです。何がだろう?大事そうに持ってたから?
でもコレーは元々、どんな花でも大事にしますよね?そりゃ地上の花の娘で、天界でも花の女神だしね。
あの花が、まるで二人して私を前に沈黙しているような。そう、嘘はついてないけど黙っているだけ、言わないだけってそんな感じです。
なんか言ってる事、はっきりしなくて申し訳ないですが。」
忘れられたイベント。
使用済みの結界超過の花を持ってる。
覚醒後の御力は実は十分使えている。
ヘルメスの白銀の神はサラサラの長髪で後ろに一つに纏めている。その面立ちはどちらかと言うと母譲りなのだろう。
少年さを残ると言うよりも、中世的でもあり、いつもは他人を斜に見る癖も今は出てなくて本気でコレーの事を考えてくれているのがわかった。
横でヘルメスの話しを静かに聞いていたアポロンも、その頤に細くて長い指を当てて何かかんがえている。
「ありがとうございます。教えてくれて。あまりそのまま植木鉢🪴の事は記憶がないのだけど、部屋にあるはずだから見てみます。
とりあえず、帰って植木鉢や花の事を聞いてみるわ。」
デーメテールは考えてる。
あの子が迷い込んでしまった冥界。暗い暗い死者の世界。それに繋がる物が例え鉢植えの花の一本だとしてもまだあの子の傍にあると思うと途端に不安になる。
早く帰って処分したいが、そう言うとあの子は傷つくだろうから。せめて家から遠くに置きたい。なんとか説得して鉢から大地に帰してあげようと、あの子の部屋から見える庭ではなく野原にでも植え替えるようにしよう。
でも、もう力を使って枯れてる筈なんだけど。コレーの力が強大なんだろうか?ギリギリ萎れる程度に力を注ぎ込ん出るのかしら?
実は、あの子はどんな花とも会話ができたり、その花が見てきた映像が見えてしまう事は、言わない方がいいだろう。そう、花が咲いてる所で秘密の会話なんてコレーにかかれば全く無意味になってしまう。そんな事がバレれば、また狙われてしまうかもしれない。
ヘルメスとアポロンに御礼を告げて別れる時に、二人ともコレーの状態が続くようならばまた冥界に使いに行ってもよいと話してくれた。またゼウスに相談して力を貸して貰えるように掛け合う事もできると、何やら弱みを握ってると笑っていた。何か有れば知らせてほしいと迄言ってくれた。
コレーの事、どこかの下手に乱暴な馬鹿に狙われるよりは、幼馴染でコレーとしても気心が知れている相手の二人のどちらかならば求婚相手として考えてやってもいいと母は考え始めた。
まぁ、まだまだ先だけどね。もう少し私の娘のままでいて頂戴ね、コレー。
そうして、デーメテールは地上のコレーと暮らす神殿に帰ってきた。
天界と、地上界でも 流れる時の時間が違う。デーメテールが辿りつくと何やらコレー付きのお世話ニンフのメンテが急いでやってきた。
「お帰りなさいませデーメテール様。お待ちしておりました。」
「何かあったのね?」
「はい、最近この辺りでおかしな噂話があって。皆が怖がっております。それが実は、コレー様に関係してるのでは無いかと思っております。」
「え?コレーが関わってる?おかしな噂ってどんな?」
「それが、まぁ語られる噂の中には随分と誇張されてまるで怪談の様になってるものもありますが…」
「怪談??またコレーとは究極と言うか反対側みたいな話ね」
「全くそうです。しかしここしばらくの夜中のコレー様に至っては。そんな風になってしまうのもわからなくないのです。」
「コレーはまだ夜中に苦しんでるの?泣いてる?」
メンテは妖精の中でもとびきり美女だったが綺麗な儚げな顔を曇らせて頷く。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
異世界の花嫁?お断りします。
momo6
恋愛
三十路を過ぎたOL 椿(つばき)は帰宅後、地震に見舞われる。気付いたら異世界にいた。
そこで出逢った王子に求婚を申し込まれましたけど、
知らない人と結婚なんてお断りです。
貞操の危機を感じ、逃げ出した先に居たのは妖精王ですって?
甘ったるい愛を囁いてもダメです。
異世界に来たなら、この世界を楽しむのが先です!!
恋愛よりも衣食住。これが大事です!
お金が無くては生活出来ません!働いて稼いで、美味しい物を食べるんです(๑>◡<๑)
・・・えっ?全部ある?
働かなくてもいい?
ーーー惑わされません!甘い誘惑には罠が付き物です!
*****
目に止めていただき、ありがとうございます(〃ω〃)
未熟な所もありますが 楽しんで頂けたから幸いです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
婚約破棄したら食べられました(物理)
かぜかおる
恋愛
人族のリサは竜種のアレンに出会った時からいい匂いがするから食べたいと言われ続けている。
婚約者もいるから無理と言い続けるも、アレンもしつこく食べたいと言ってくる。
そんな日々が日常と化していたある日
リサは婚約者から婚約破棄を突きつけられる
グロは無し
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
転生した女性騎士は隣国の王太子に愛される!?
桜
恋愛
仕事帰りの夜道で交通事故で死亡。転生先で家族に愛されながらも武術を極めながら育って行った。ある日突然の出会いから隣国の王太子に見染められ、溺愛されることに……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる