アスカニア大陸戦記 皇子二人(Ⅱ) 北方動乱

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北方動乱

第七十七話 帝国軍、進撃

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 ジーク達の乗る帝国軍総旗艦ニーベルンゲンがアキックス伯爵領の州都キズナに到着する。

 州都キズナで帝国四魔将と会談したジークは、帝国軍の総司令官として四個方面軍全軍百万の集結を待たずに帝国四魔将直参の四個兵団を先にゴズフレズ王国へ派遣する事を決定する。

 これを受け、アキックス伯爵が率いる帝国竜騎兵団、ヒマジン伯爵が率いる帝国機甲兵団、エリシス伯爵が率いる帝国不死兵団、ナナシ伯爵が率いる帝国魔界兵団の四個兵団が州都キズナからゴズフレズ王国へ向けて進軍を開始した。

 帝国軍総旗艦ニーベルンゲンを先頭に、帝国機甲兵団の飛行戦艦が雁行陣で続き、その後ろを飛行空母が同じ雁行陣を組んで続き、帝国竜騎兵団、帝国魔界兵団、帝国不死兵団が後に続く。

 帝国軍が峻険な竜王山脈の上空を越えると、眼下にはゴズフレズの雪景色が広がる。






--帝国軍総旗艦ニーベルンゲン 艦橋

 ジークは、艦橋の窓から眼下に広がる雪景色を眺めながら、ニーベルンゲンの艦長であるアルケットに尋ねる。

「アルケット艦長。ここからリベまでの距離は?」

 艦長席で座ったままアルケットが答える。

「およそ130キロです」

ゴズフレズ王国の南西部に位置する都市リベは、カスパニア王国国境からも、バレンシュテット帝国国境からも、程近い距離であった。

「ふむ・・・。30ノット(時速55.56キロ)で二時間半といったところか」

「左様です」

「今のうちに兵に休息を取らせろ」

「はっ!」





--二時間半後 スベリエ軍 本陣

 スベリエ軍を率いるオクセンシェルナ伯爵は、本陣の陣屋に居た。

 スベリエ軍は、冬になって雪が積もる前に、カスパニア軍をゴズフレズから駆逐するつもりであったが、リベ沖海戦で虎の子のスベリエ王国艦隊がカスパニア無敵艦隊アルマダに苦戦を強いられたため、決定打を与えることが出来ず、互いに陣地を構築して睨み合ったまま散発的な戦闘を行い、ずるずると消耗戦を繰り広げていた。

 オクセンシェルナ伯爵は、ワインを飲みながら傍に居る士官に愚痴をこぼす。

「クソッ! また雪が積もったのか! このままでは、我が軍はカスパニアを蹴散らす前に、雪に埋もれてしまうぞ!!」

 愚痴を聞かされている士官は、力無く答える。

「はぁ・・・左様です」

 本陣の陣屋に伝令の兵士が血相を変えて駆け込んで来る。

「申し上げます! 伯爵、一大事です!!」

 伝令で駆け込んできた兵士にオクセンシェルナ伯爵は訝しんだ顔で尋ねる。

「何事だ?」

「帝国が! バレンシュテット帝国軍が現れました!!」

「何だと!?」

 報告を受けたオクセンシェルナ伯爵は、勢い良く立ち上がると、本陣の士官達を連れて陣屋の外に出る。

 陣屋から出た瞬間、轟音と共に強烈な風がオクセンシェルナ伯爵達を襲う。

「むぅっ!?」

 左腕で風から顔を庇いながら、オクセンシェルナ伯爵は陣屋の外の様子を確認する。

 オクセンシェルナ伯爵達の眼前に、轟音を轟かせながらスベリエ軍陣地の上を超低空で威嚇飛行する帝国軍が現れる。

 オクセンシェルナ伯爵は、自分の頭の上を低空で通過する帝国軍総旗艦ニーベルンゲンの純白で巨大な船体を見上げる。

「帝国の『白い死神』!? 皇帝が来ているのか??」

 総旗艦ニーベルンゲンに続き、飛行戦艦と飛行空母がそれぞれ雁行陣を組み、低空飛行でオクセンシェルナ伯爵達の頭上を通過する。

 傍のスベリエ軍士官達が口々に呟く。

「あれが帝国の飛行戦艦・・・」

「大きい!!」

「一体、何隻居るんだ??」

 帝国機甲兵団の飛行艦隊の後に続いて、帝国竜騎兵団も超低空で威嚇飛行していた。

 帝国竜騎兵団の先頭は、『大陸最強の竜騎士』アキックス伯爵が座乗する『金鱗の竜王』こと古代エンシェント・竜王ドラゴンロードシュタインベルガーであった。

 竜騎士達の乗る翼竜ワイバーンがその後ろに続く。

 小さな城並みの巨大なシュタインベルガーの姿を目の前で見たオクセンシェルナ伯爵が驚愕する。

「あれは!? 『金鱗の竜王』!!」

 シュタインベルガーは、スベリエ軍の陣地上空を通過しながら咆哮する。

 <竜のドラゴンズ咆哮ロアー

 戦域全体に響き渡る古代エンシェントドラゴンの咆哮を聞いた、抵抗力の無い者は、たちまち恐慌状態に陥る。

 「ウワァアアアーー!!」

 帝国竜騎兵団の後に帝国魔界兵団が続く。

 帝国魔界兵団の先頭は、顔には鳥のようなクチバシ、黒い穴のように窪んだ瞳の無い目、両手両足は鳥の足のような形をした、四枚の羽で羽ばたく大きな褐色の魔神であった。

 魔神マイルフィック。

 マイルフィックは、地上で恐慌状態に陥り右往左往するスベリエ軍を見て、不気味な笑い声をあげる。

 マイルフィックには、付き従う多数の青紫色の上位グレーター悪魔デーモン達が後に続き、赤い肌をした下等レッサー・悪魔デーモン達がその後に続く。

 呆然と帝国魔界兵団を見上げるオクセンシェルナ伯爵の顔からみるみる血の気が引いていく。

「まさか!? ・・・アスカニア創世記に記されている『災厄と滅びの魔神』ではないか。 本当に実在するとは・・・」

 ワインによる酔いが一気に冷めたオクセンシェルナ伯爵は、我に帰ると本陣の陣屋に駆け戻る。

(・・・あり得ん! あり得ない!!)

(何なんだ!? あの人外の軍団は!!)

(『帝国は人外を従えている』とは聞いていたが、あんな化物を従えているとは!)

 オクセンシェルナ伯爵は、耳にした『帝国が従えている人外』とは、ゴブリンや食人鬼オーガといった妖魔や、ヘルハウンドといった魔獣程度に考えていた。

 しかし、今、目の当たりにした帝国竜騎兵団の古代エンシェント・竜王ドラゴンロードシュタインベルガーや、帝国魔界兵団の魔神マイルフィックは、それらとは全くランクが違う存在であった。

 この世界の成り立ちを記しているとされる古文書『アスカニア創世記』で『神々と戦ったもの』と記されていた。

 歴戦の勇者であるオクセンシェルナ伯爵は、焦燥に駆り立てられる。

(あれらは、人の、・・・人間の力で、どうこうできる相手では無い!!)

(まさか、神々と戦った化物を従えているとは! とても勝ち目など無い!!)

(急がねば! スベリエは、帝国と戦ってはならん!!)

(我等がスベリエが滅びてしまう!!)

(急いで本国に知らせねば!!)

 オクセンシェルナ伯爵は陣屋に入ると急いで机に戻り、震える手で羊皮紙に報告書を書き綴る。

 報告書を書き終えたオクセンシェルナ伯爵が叫び出す。

「誰ぞある! 本国へ緊急の伝令だ! 急げ!!」
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