アスカニア大陸戦記 英雄の息子たち

StarFox

文字の大きさ
3 / 63
第一章 軍用列車

第三話 幼馴染の目付役

しおりを挟む
--数日後、新学期。

 士官学校の制服を着たアレクは、皇宮警護軍団インペリアルガードの兵士達によって、着替えと身の回りの小物が入った鞄二つを渡されると馬車に乗せられ、帝都都心部近くに位置するハーヴェルベルク駅に連れてこられる。

 アレクは第二皇子だが着の身着のままに近い状態で連れてこられ、貴重品といえばお守り代わりにと渡され首から下げている『帝室の紋章が刻まれたブローチ』であった。

 この駅の一番端となる十五番ホームは『軍事用』として他のホームより格段に長く作られており、滅多に使用されることはなかったが、機関車に数多くの軽便鉄道車両が連結され『軍用列車』となってホームに横付けされていた。

 皇宮警護軍団インペリアルガードを率いる団長のミランダが軍用列車に乗るアレクを見送るため、馬車に同乗し、駅のホームまで同行してきた。 
 
 ミランダは、帝国北西部にある辺境都市の孤児院に居たところをナナイに見出され、帝都で高い水準の教育と訓練を受け、皇宮警護軍団インペリアルガードの一員に選抜されて、現在は団長となっていた。

 アレクは、以前、侍従達がミランダの過去の話をしているのを小耳に挟んだ。彼女はナナイに出会って帝都に来る以前は、地方都市で盗賊団を率いて暴れまわっていたというが、アレクはとても信じることができなかった。

 アレクから見てミランダは、自分の母親であるナナイより少し若い年上女性で、皇妃ナナイに絶対の忠誠と服従を誓う、冗談も融通も利かない生真面目な堅物女であり、アレクはミランダが苦手であった。

 皇宮警護軍団インペリアルガードの制服では流石に目立って人目を引くので、ミランダは私服と思われる白スーツを着ていた。駅のホームでは、それでも十分、目立っていた。

 軍用列車の前で、ミランダがアレクに話し掛ける。

「殿下。あまり皇妃様の御心を煩わせなきよう。御身体に障ります」

 ミランダの言葉にアレクは俯く。 

「……判ってるよ」

 俯くアレクにミランダが微笑み掛ける。

「無事、御努めを果たされ、殿下が皇宮に戻られる日を心待ちにしております」

 初めてミランダが微笑みを見せた事にアレクは驚く。

(……この人、笑うことができたんだ)

 アレクがミランダに答える。

「ああ。行ってくるよ。母上によろしく伝えてくれ」

「畏まりました」

 一礼するミランダを後にアレクは軍用列車に乗り込んだ。

 ホームの喧騒の中、駅員が声を張り上げる。

「軍用列車、まもなく発車します!」







 軍用列車は機関車を先頭に、前の方は貴族用車両となっており、アレクが乗る平民用車両は後ろの方に連結されていた。

 軍用列車の客車は一両に二部屋あり、一部屋はニ人掛けの席が向かい合って配置されていた。

 アレクは、軍用列車の最後尾の客車の一室の席に座り、客車の窓から駅のホームを眺めると、ホームに立ってアレクの見送りを続けていたミランダと目が合う。

 アレクが手を振ると、ミランダも手を振って返す。

 乾いた汽笛の音がした後、軍用列車はゆっくりと動き出した。

 軍用列車は次第に加速していき、駅のホームも見送りのミランダの姿も小さくなっていく。

 やがて駅のホームもミランダの姿も見えなくなった。







 アレクを見送ったミランダは、駅のホームからハーヴェルベルク駅の貴賓用馬車停留所へ歩いていく。

 停留所には、一際、豪華な馬車が止まっており、ミランダはその馬車に乗り込む。

 豪華な馬車には皇妃のナナイが乗っていた。 

 ナナイが尋ねる。

「どうだった?」

 ミランダが答える。

「アレク殿下は無事、軍用列車に乗り込まれました。『母上によろしく』と」

「……そう」

 ミランダの言葉を聞いたナナイは、『手の掛かる息子』が自分の元から旅立ち、どこか寂しげであった。

 ミランダ自身、先の革命戦役で両親を失った戦災孤児であり、アレクを見送るときにミランダが無意識にアレクに微笑み掛けたのも、初めて親元を離れるアレクの『一人になる寂しさ』を痛いほど理解しており、自分自身、身に染みて知っていたからであった。

 ミランダが口を開く。

「皇妃様。大丈夫ですよ。アレク殿下は、立派に御努めを果たされ、皇宮に戻って来られると思います」
 
 二人が乗る馬車は、ゆっくりと皇宮へ戻る道を進み始める。

 ナナイが呟く。

「だと、良いけど……」







 アレクは、荷物を網棚に上げると、車窓に映る自分の顔を眺めつつ考え事をする。

 兄のジークに殴られて切れた唇に右手の親指で触れる。

(兄上の拳は、。二度と同じ手は食わない。次は躱せる)

 父のラインハルトに殴られた頬に右手の人差し指で触れると、痛みが走る。

「痛ッ!」

 ラインハルトに殴られた頬は、青紫に変色して腫れ上がっており、拳の形にミミズ腫れが出来ていた。

(父上の拳は、。……全く勝てる気がしない)

(まぁ、士官学校に行けば、事あるごとに兄上と比較されることも無くなるか)







 アレクが色々と考え事をしていると、ノックする音の後に客室の扉が開けられ、アレクの向かいに士官学校の制服を着た女の子が座る。

「アレク様。お久しぶりです」

 女の子は、アレクに可愛らしい笑顔で挨拶する。

 自分の名前を呼ばれ驚いたアレクは、相席してきた亜麻色髪の女の子の美しい顔を眺める。

「……お前は!?」

 彼女は、ルイーゼ・エスターライヒ。騎士爵家の娘でアレクと同い年の皇宮のメイドであった。

 ルイーゼは、貴族とは名ばかりの貧しい実家の口減らしのため、幼少の頃から皇宮にメイドとして奉公に出されており、アレクの幼馴染の遊び相手であった。皇妃のナナイは二人とも可愛がった。

 驚くアレクにルイーゼが口を開く。

「この度、皇妃様からアレク様の『お目付け役』を仰せつかっております。よろしくお願い致します」

 そう言うと、ルイーゼはアレクに一礼する。

 アレクは、ルイーゼに答える。

「母上がお前を差し向けてきたのか。帝国貴族なのに私と同じ平民組に入れられるとは、気の毒に」

「アレク様。私の実家は『騎士爵家』です。帝国貴族といっても準貴族で、暮らし振りは平民とさほど変わりませんので、お気になさらず」

「……それと、私の事は『アレク』と呼べ。私はメイドに悪戯した罰で、父上からバレンシュテット姓を名乗ることを禁じられている。私は、処罰を解かれるまで、平民の『アレキサンダー・ヘーゲル』だ」

「畏まりました」

 ルイーゼは、少し躊躇いながらアレクに尋ねる。

「……では、アレク。『メイドに悪戯した』と伺いましたが、何をされたのですか?」

 アレクは、ルイーゼ以外のメイドには、スカートをめくる、服や下着を脱がせる、胸やお尻、秘所を触るなど様々な悪戯をしたが、幼馴染のルイーゼに悪戯したことはなかった。

 久しぶりに再会した幼馴染のルイーゼを『異性』として認識したアレクは、ルイーゼに悪戯の内容を尋ねられ、気恥ずかしさから口籠って答え、目が泳ぎ始める。

「いや……ほら……その……メイドを裸にして、足を広げて、彼処あそこを触っただけ」

「そんな事を!?」

 アレクの答えを聞いたルイーゼは驚くと、恥じらいから頬を赤らめる。

「まぁ……ちょっと……女の身体に興味があったから」

 ルイーゼは、頬を赤らめたまま上目遣いにアレクを見る。

「……アレク……いやらしい」

 ルイーゼにそう言われ、アレクは、ますます恥ずかしくなる。

 ルイーゼは、恥ずかしそうにモジモジしながら呟く。

「その……女の体に興味がお有りでしたら、私に言って頂ければ……」

「は?」
 
 ルイーゼの言葉を聞いたアレクが固まる。

 ルイーゼは、固まったアレクの隣に席を移して座ると、アレクの左腕を組むように取り、両手で左手を握ると、自分の太腿の上に置く。

「……それとも……寂しいのですか?」

 ルイーゼの言葉にアレクは答えに詰まる。

 図星であった。

 アレクは車窓の外に目線を移し、流れていく外の景色を眺める。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

『専属メイド全員が重すぎる愛で迫ってくる!~大学生の僕、11人?の美女に24時間甘やかされ尽くす生活~』

まさき
青春
僕は、ちょっと普通じゃない日常を送ることになった――それは、専属メイドが全員僕のことを溺愛してくれる暮らしだ。 朝は髪を整えてくれるリナ、朝食で笑顔を見せてくれるミユ、どの瞬間も全力で僕を甘やかす。掃除、料理、悩み相談まで、僕のためだけに動くメイドたち。 「ご主人様の笑顔が見たいんです」 その一言で、僕の毎日はちょっとドキドキ、ちょっと幸せ。 全員が僕を独占したいと競い合う日常の中、僕はどうやってこの溺愛地獄(?)を生き抜けばいいのか――!? 甘々、至れり尽くせりの日常ラブコメ、開幕。 ​「作品への感想代わりの『いいね❤️』や『エール📣』、心よりお待ちしております。」 ​「【応援のお願い】『いいね❤️』や『エール📣』をいただけると、作者のモチベーションが爆上がりします!」 ​「最後までお読みいただきありがとうございます。温かい『いいね❤️』が更新の支えです。」

貞操逆転世界に転生したのに…男女比一対一って…

美鈴
ファンタジー
俺は隼 豊和(はやぶさ とよかず)。年齢は15歳。今年から高校生になるんだけど、何を隠そう俺には前世の記憶があるんだ。前世の記憶があるということは亡くなって生まれ変わったという事なんだろうけど、生まれ変わった世界はなんと貞操逆転世界だった。これはモテると喜んだのも束の間…その世界の男女比の差は全く無く、男性が優遇される世界ではなかった…寧ろ…。とにかく他にも色々とおかしい、そんな世界で俺にどうしろと!?また誰とも付き合えないのかっ!?そんなお話です…。 ※カクヨム様にも投稿しております。内容は異なります。 ※イラストはAI生成です

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

触手エイリアンの交配実験〜研究者、被験体になる〜

桜井ベアトリクス
恋愛
異星で触手エイリアンを研究する科学者アヴァ。 唯一観察できていなかったのは、彼らの交配儀式。 上司の制止を振り切り、禁断の儀式を覗き見たアヴァは―― 交わる触手に、抑えきれない欲望を覚える。 「私も……私も交配したい」 太く長い触手が、体の奥深くまで侵入してくる。 研究者が、快楽の実験体になる夜。

処理中です...