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第三章 辺境派遣軍

第五十話 追求

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 アレクとルイーゼ、ナナイの三人は、アレク達の部屋へ向かう。

 貴賓室から通路に出たナナイは、直ぐに修道女のローブを羽織り、頭からすっぽりとフードを被る。

 皇妃のドレスを着たナナイは、艦内では目立つためであった。

 三人は、アレクとルイーゼの部屋に入る。

 アレクとルイーゼは、アレクのベッドに腰掛け、ナナイはルイーゼのベッドに腰掛ける。

 ナナイが口を開く。

「二人とも、元気そうね」

 アレクが口を開く。

「はい。母上も息災な様で」

「どう? 士官学校は? それに戦場に出るのは、初めてでしょう?」
 
「色々と勉強することが多いです」

 アレクの答えにナナイは少し驚く。

「ルイーゼは? 艦の暮らしはどう?」

「飛行空母での暮らしは初めてですが、快適です」

「良かった」

 ナナイは、当たり障りのない話から、より踏み込んだ話を始める。

「二人とも、仲良くしてる?」

「「はい」」

 アレクとルイーゼの顔が赤くなり、ルイーゼは俯く。

 ナナイは、真剣な眼差しでアレクに尋ねる。

「アレク」

「はい」

「ルイーゼを抱いたの?」

「え!?」

 母ナナイからの追及に、アレクは固まる。

「どうなの?」

 相手であるルイーゼ本人が直ぐ隣に居ることもあり、アレクは気不味そうに答える。

「その・・・抱きました。なんと言うか・・・キスしたり、肌は合わせましたが、その・・・子供が出来るような事は・・・まだです」

 アレクの答えにナナイは微笑む。

「・・・そう? メイドのには、色々と悪戯していたのに。・・・私は、二人が、お互いに愛し合っているなら、一緒になっても構わないと思っているの」

 ナナイの言葉にルイーゼが思わず顔を上げて口を開く。

「・・・皇妃様」

 ナナイがアレクに話し掛ける。

「・・・アレクは、父上に似て、自分の彼女には奥手なのね」

 ナナイの言葉にアレクは驚く。

「父上も!?」

 ナナイは楽しそうにラインハルトとの想い出を二人に話す。

「そうよ。父上は、同じベッドで隣に裸の私が寝ていても、なかなか手を出してくれなかったのよ。私を傷付けまいという、父上の優しさなのだけれども。・・・女は、好きな人から『傷つけて欲しい』『奪って欲しい』ものなのよ」

 話を聞き入る二人に、ナナイは懐かしそうに遠い目をして続ける。

「・・・あの日。士官学校に向かう軍用列車の中で、初めてあの人に出会った時から。身を挺して列車の揺れから私を抱いて守ってくれた、あの日から。私は、ずっと、あの人に恋しているわ。愛しているわ。・・・結婚して、ジークやアレクを産んだ、今もね」

 そこまで言うとナナイは再びアレクを見詰めて、口を開く。

「アレク。男なら、言葉と行動に責任を持ちなさい。そして、好きなを守れる強さを身に付けなさい」

「判りました」

 アレクが真剣な顔で答えるのを見届けたナナイは、貴賓室に戻ろうとする。

「・・・そろそろ、戻らないと」

 ナナイは立ち上がると、両手でアレクの頬に触れ、額にキスする。

「・・・母上」

 ナナイはアレクに続いて、ルイーゼにも同じようにキスする。

 実の子供と同じ様に自分に接してくれるナナイに、ルイーゼは胸が一杯になる。

「皇妃様・・・」

(母様・・・)

「二人が務めを果たして、無事に皇宮に帰る事を祈っているわ」

 二人にキスしたナナイがアレクの部屋のドアへ向かった時、ドアをノックする音と同時に声がする。

「アレク。ルイーゼ。帰ってる?」

 エルザの声であった。

 声と同時にドアが開けられる。

 ドアの外には、エルザとナディアが居た。

「「え!?」」

 エルザとナディアは、突然目の前に現れたナナイを見て、絶句して固まる。

 明らかに住む世界の違う、上位の貴族であろう気品ある顔立ち。

 神から祝福された造形の美しい容姿。

 大人の女性の色香。

 文字通りの『絶世の美女』がエルザとナディアの目の前に居た。

 ローブを羽織ったナナイの顔を見たエルザとナディアは、気圧され後退る。

 ナナイは部屋から出る際に、エルザとナディアに一礼して告げる。

「アレクの母です」

 絶句して固まる二人を見たアレクが、エルザとナディアをナナイに紹介する。

「母上。同じ小隊のエルザとナディアです」

「アレクがお世話になっております。では、これで」

「ど、どうも・・・」

 エルザは、一言、そう答えるのが精一杯だった。

 アレク、ルイーゼ、エルザ、ナディアの四人は、部屋の前の廊下で貴賓室へ戻るナナイを見送った。




 ナナイの姿が見えなくなると、途端にエルザとナディアの追求が始まる。

 目を見開いてエルザがアレクに尋ねる。

「ちょっと! 今の人、アレクのお母さん!?」

 アレクが答える。

「そうだよ」

 ナディアも興奮気味にアレクに尋ねる。

「凄いなんてものじゃないわ!! 『お金持ち』というより『大富豪』というか、『貴族の中の貴族』って感じだったわよ!? あのオーラは、只者じゃないわ!!」

 気不味そうにアレクが答える。

「・・・そう? まぁ、母上は聖騎士クルセイダーだから」

 エルザとナディアが驚く。

「「聖騎士クルセイダー!?」」

 エルザが続ける。

聖騎士クルセイダーって、上級職じゃない!? 凄いわ!!」

 ナディアも続ける。

「けど、何でアレクのお母さんが此処に!?」

 アレクが答える。

「ちょっと顔を見に来たんじゃないかな・・・」

 エルザが驚く。

「待って! 待って! 待って!! 『ちょっと顔を見に来た』って、此処は飛行空母よ! 空の上よ!? どうやって来たの??」

 アレクが答える。

転移門ゲートだと思う・・・」

 再びエルザとナディアが驚く。

「「転移門ゲート!?」」

 ナディアがツッコミを入れる。

転移門ゲートって、上位の魔法じゃない!? 首席アーク魔導師ウィザードを雇ったとか??」

 首席アーク魔導師ウィザードを雇うには、大金が必要とされていた。

 『帝国四魔将エリシス伯爵の魔法です』とは言えず、気不味そうにアレクが答える。

「・・・たぶん」

 アレクの実家が並のお金持ち超える大富豪だと悟った、エルザとナディアのアレクを見る目が変わる。

 エルザが猫撫で声を出してアレクに迫る。

「・・・ねぇ、アレク。私をアレクの愛人にしてくれる? 正妻はルイーゼで良いから!」

 アレクが驚く。

「え!?」

 ナディアもエルザに続いてアレクに迫る。

「そうよ!  私も正妻はルイーゼで良いわ!! 愛人と言うか、第二夫人よ! 第二夫人! 私を第二夫人にして!! 私を囲ってぇ~!!」

 アレクは苦笑いしながら断る。

「いや、それは・・・ちょっと・・・」

 不幸中の幸いというか、エルザは獣人ビーストマン三世クォーターであり、ナディアはエルフであった。

 エルザもナディアも人間ではなく、バレンシュテット帝国皇帝ラインハルトと皇妃ナナイの顔は知らなかったため、アレクの素性が二人に知られることは無かった。 
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