アスカニア大陸戦記 英雄の息子たち

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第四章 トラキア連邦

第五十七話 宣戦布告

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--夜 バレンシュテット帝国 辺境派遣軍 飛行空母 艦橋。

 ジークとヒマジンが艦橋に現れる。

 ジークは、時計に目を向けるとヒマジンに語り掛ける。

「……頃合いだな。ヒマジン伯爵、全軍をトラキア連邦国境まで、進めてくれ」

「了解しました。帝国東部方面軍、及び帝国機甲兵団は、既に大型輸送飛空艇に分乗を済ませております。……それで、陛下からの通達に対して、トラキア連邦からの回答は、どのように?」

「トラキア連邦からの回答は、未だ無い」

 『回答が無い』と聞いたヒマジンの目付きが鋭く変わる。

「ほう? トラキアごときが、皇帝陛下を……帝国を無視すると?」

 ジークは不敵な笑みを浮かべる。

「そういう事だ」

「随分とナメられたものですな。……これは、身の程を教えてやらねば」

「回答期限の零時になれば、陛下が此処に来られるだろう。まだ兵を起こす必要は無い。寝かせておけ」

「判りました」

 帝国辺境派遣軍は、飛行空母、飛行戦艦、大型輸送飛空艇に分乗して、州都キャスパーシティを出発し、夜の星空をトラキア連邦国境へ移動していく。




 帝国辺境派遣軍がトラキア連邦国境に到着した頃、程なく艦橋の一角に転移門ゲートが現れ、ラインハルトとエリシスが現れる。

 ジークは、父である皇帝ラインハルトに一礼し、ヒマジンは最敬礼をとる。

 ラインハルトはジークに尋ねる。

「ジーク。こちらにトラキア連邦からの回答は来たか?」

「いいえ。来ておりません」

 ラインハルトは、ジークからの答えを聞いて鼻で笑う。

「フッ……良い度胸だ」 

「父上。折り入ってお願いしたい事があるのですが」

「お前から願い事とは珍しいな。なんだ? 言ってみろ」

「トラキア連邦との戦いに勝利した暁には、飛び級で士官学校を卒業させて下さい」

「良いだろう。百回の座学より一回の実践経験のほうが重要だ」

「ありがとうございます」

「ところで、何故、卒業を急ぐのだ?」

「……早く身を固めて、父上の助けになりたいと思いまして」

 ソフィアとアストリッド。二人の妃の為にも、ジークは勝たねばならなかった。

「……そうか」

 ラインハルトは、子供達の中で最も自分に似ていて、父である自分を目標として背伸びをしてでも、懸命に頑張る長男ジークが可愛くてしょうがない。

 ジークの言葉に顔の表情こそほとんど変化は無いが、口元がにやける。

 ラインハルトは、内心ではジークの言葉が嬉しくてしょうがなかった。




--零時。日付が変わる時間になる。

 ラインハルトが口を開く。

「……時間だ。トラキア連邦は、帝国からの通達に対し、愚かにも無視するという選択をした。我がバレンシュテット帝国は、トラキア連邦に宣戦を布告する! トラキア連邦ごと鼠人スケーブンを叩き潰せ!」

 ジークとヒマジンは、宣戦布告を告げたラインハルトに深々と頭を下げる。

「畏まりました」

 ジークが口を開く。

「開戦の勅命は下った。ヒマジン伯爵!」

「ハッ! 飛行戦艦へ伝達、『花火を打ち上げろ』!」

 伝令が答える。

「了解しました」

 ジークとヒマジンは、艦橋の窓際へ歩いて行く。

 やがて、飛行戦艦の主砲が一斉に火を吹き、トラキア連邦領内にある国境を監視している櫓を吹き飛ばす。

 主砲の一斉射撃を受け、爆煙を上げて木っ端微塵に吹き飛ぶ櫓を望遠鏡で眺めながら、ヒマジンが口を開く。

「『花火を確認』……砲手に伝えろ。『良い腕だ。今朝の朝食は、オレの奢りだ』とな!」

「ハッ!」

 ラインハルトとエリシスが、窓際にいるジークとヒマジンの元へ来る。

 ラインハルトがジークに告げる。

「ジーク。後は任せたぞ。吉報を期待する」

「お任せ下さい」

 エリシスがヒマジンに片目を瞑って微笑み掛ける。

「それじゃ、頑張ってね。イケメンさん」

「あいよ」

 ラインハルトとエリシスは、再び転移門ゲートで皇宮へと帰って行った。




 ジークが口を開く。

「ヒマジン伯爵。得意の『神速の電撃戦』を見せて貰おう」

「心得ました。帝国辺境派遣軍は、此れよりトラキア連邦に侵攻! 一気に敵首都ツァンダレイを叩く!」

 伝令が答える。

「了解!」

 帝国辺境派遣軍の飛行艦隊群は、国境を越えてトラキア連邦領内へ侵攻する。

 飛行戦艦と飛行空母は、それぞれ四隻毎の雁行陣を取り、その後を大型輸送飛空艇群が隊列を組んで続く。

 帝国辺境派遣軍二十五万の大軍の前に、トラキア連邦の運命はまさに風前の灯火であった。




--未明 トラキア連邦 首都ツァンダレイ 議長府。

 湯浴みを済ませたフェリシアは、一人、暗い部屋の中で議長席に座り、目を閉じて瞑想していた。

 ドアをノックする音の後、職員がドアを開ける。

「議長! ここでしたか! 一大事です! バレンシュテット帝国が『宣戦布告』してきました!  既に国境の監視櫓は帝国軍の砲撃によって破壊され、連邦領内に侵攻中とのことです!」

 フェリシアは、目を開いて答える。

「遂に……来ましたか」

 フェリシアは、立ち上がると職員の方を向く。

「……議長」

「帝国が攻めて来ました。全軍、全国民に開戦の知らせをお願いします」

「判りました」

 フェリシアは、再び暗い部屋の中で議長席に座り、目を閉じて瞑想する。




 トラキア連邦は滅びるだろう。

 だが、できる限りの事はしよう。



 フェリシアは、悲壮な決意を胸にしていた。 

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