アスカニア大陸戦記 英雄の息子たち

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第四章 トラキア連邦

第五十九話 黒死病の村

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 アレクたちユニコーン小隊は、一時間程で偵察を担当する村の上空に到達する。

 ルイーゼは地図を確認して、アレクに報告する。

「アレク、作戦地域に到達したわ!」

「了解! これより作戦行動に移る! ルイーゼ、僚機に手旗信号で伝達! 『作戦開始』!」

「了解!」

 ルイーゼが手旗信号で偵察任務の開始を各機に伝えると、小隊の各機はアレク達のユニコーン・リーダーに続いて低空飛行に移った。

 アレクが口を開く。

「高度一〇〇、目標高度に到達。これより偵察を開始する!」

「了解!」

 アレクたちは一定間隔で編隊を組み、低空飛行で地上の村の様子を偵察する。







 作戦目標の村は、ヨーイチ男爵領の開拓村とあまり変わらない佇まいであった。

 村には、ほとんど人の姿が見当たらない。

 村の上空を何回か周回して偵察を続けたところで、ルイーゼが口を開く。

「アレク。あれは……?」

 アレクは、ルイーゼが指で指した、村の広場の方を見る。

 驚いたアレクが口を開く。

「まさか! 広場に積まれてあるアレって、全部、人か!?」

「ええっ!?」

 村の広場に積み上げられていたのは、無数の人間の死体であった。

 上空から見たのでは細部までは確認できなかったが、人間の死体であるのは間違いないと思われた。

 アレクたちが村の上空を旋回するのを見た村人たちが、白旗を手に持って家から通りに出てくる。

 ルイーゼが口を開く。

「白旗!? ……どうやら、村の人に交戦する意思は無さそうね」

 アレクが答える。

「だといいけど。……とりあえず降りてみよう」

 アレクたちユニコーン小隊は、村の郊外に飛空艇を着陸させる。




 
 
 アレクたちが飛空艇から降りると、村人たちは白旗を手にアレクたちの元にやって来て、ひれ伏す。

 先頭の村長らしき者が口を開く。

「騎士様。何卒、私たちを御救い下さい」

 アレクは跪いて、ひれ伏す村長に声を掛ける。

「この村で、一体、何があったんだ??」

 村長が顔を上げてアレクに答える。

「……疫病です。死の病です。鼠人スケーブンの襲撃は、連邦軍の助けで退けました。 しかし、その後、この疫病が流行し、多くの村人が死にました」

 アレクが尋ねる。

「連邦軍は?」

「疫病が流行り出すと伝染を恐れて、この村から去っていきました」

 アレクは立ち上がって、自分たちの前にひれ伏している村の人々を見る。

 皆、一様に痩せこけており、苦労していることが見て取れた。

 ルイーゼが尋ねる。

「あの村の広場に積み上げている死体の山は?」

「疫病で死んだ者たちです。村の郊外の墓地に移すと、死体を狙って鼠人スケーブンたちがやって来るので……」

 アレクたちは、村人たちと共に村の中に入り、様子を見る。

 アレクたちが村の通りを歩いて行くと、村の家々やあちこちに疫病による病死体があった。

 疫病による病死体は、体の至る所が壊疽えそによって、真っ黒に変化していた。

 病死体を見たドミトリーは思わず口を開く。

「これは……? 黒死病ペスト!?」

 アレクはドミトリーに尋ねる。

黒死病ペスト?」

 ドミトリーは周囲に語る。

「そうだ。体の至る所が壊疽えそによって、真っ黒になって死ぬという『死の病』だ。この病に罹ると、まず助からない。みんな、絶対にこの村の病死体に触るな。動物の死体にもだ」

 真剣な表情で力説するドミトリーに、いつもはフザけているエルザとナディアも素直に聞き入る。

「……判ったわ」

 ナタリーが尋ねる。

「どうして、この村で黒死病ペストが?」

 ドミトリーが説明する。

「……黒死病ペストは、鼠が多い地域で流行するのだ。恐らく、鼠人スケーブンたちが感染源だろう」

 アルは苦笑いしながら口を開く。

「作物や家畜どころか人間まで食べ尽くした挙句、活動した地域で黒死病ペストを巻き散らすとか。……鼠人スケーブンって、どんだけ迷惑な連中なんだ」

 アレクたちと村長たちが話していると、家の中から奇抜な格好をした者が現れる。

「おや……? そこの僧侶は、私よりも黒死病ペストに詳しいようですね」

 細長い杖を手に持ち、全身をフードが付いた黒い革のロングコートで覆い、顔には仮面を付けていた。

 その仮面は、目の位置に秘密警察のような丸いレンズを二つはめ込み、口の位置には、細長い鳥のくちばしのような形になっていた。

<i515904|31546>

 アレクたちは、家の中から現れた者を警戒して戦闘態勢を取る。

 奇抜な格好をした者は、慌てて自己紹介をする。

「皆さん、落ち着いて下さい! 私は怪しい者ではありません! 私は『黒死病ペスト医』です」

 剣を構えたまま、アレクが口を開く。

「……その格好で『怪しい者ではありません!』と言っても、説得力が無いだろう!」

「少々、お待ち下さい」

 その者は、そう言うと奇抜な仮面を外し、被っていたフードを退け、アレクたちに顔を見せる。

 東洋風の顔立ちの青年であった。

 顔を見せたこともあり、アレクたちは構えていた武器を降ろす。

「申し遅れました。私、黒死病ペスト医のマイロと申します。皆さんは……連邦軍ではありませんね? その帝国騎士ライヒスリッターの装備を見ると……」

 マイロにアレクが答える。

「バレンシュテット帝国 辺境派遣軍だ」 

「やはり。そうでしたか」

 マイロの話しでは、連邦軍と一緒にこの村に来たが、住民を見捨てることができず、連邦軍が去った後もこの村に留まったとの事であった。

 マイロがドミトリーに話し掛ける。

「僧侶の方。バレンシュテットの医学は、トラキアよりも遥かに進んでいるようですね。是非とも御教授願いたい。黒死病ペストによる病死体は、どの様に処理したらよろしいか、ご存じありませんか?」

 ドミトリーはマイロに答える。

「異論はあるだろうが、黒死病ペストの流行を防ぐには、火葬にしたほうが良いだろう。病死者が着ていた衣服も燃やしたほうが良い」

「……なるほど。これ以上の流行を防ぐには、どのようにしたらよろしいでしょうか?」

「患者を隔離し、衛生に注意しろ。糞尿は道路や戸外に巻き散らすのではなく、人家から離れた場所で一か所に集めて肥料にするように。鼠が群がるような環境はダメだ。衣服や頭髪は清潔にして、ノミやシラミが湧かないようにするのだ」

 ドミトリーの話にマイロは深く頭を下げる。

「なるほど。流石、バレンシュテット帝国ですね。御教授、感謝致します」

 ドミトリーの解説を聞いていたエルザとナディアが感心する。

「ドミトリー、凄い!」

「ただのハゲじゃなかったのね!」

 二人の言葉に顔を引き吊らせながら、ドミトリーが答える。

「拙僧も、まだまだ修行中の身。……しかし、我々も早くこの村から立ち去ったほうが良い。……それにしても、黒死病ペストの流行とは!  もはや、戦どころではないぞ!?」

 アレクが指示を出す。

「そうだな。ドミトリーの言うとおりだ。皆、飛行空母に戻ろう」

 アレクがマイロに話す。

「もうすぐ帝国軍が来る。救護班を寄越すように話しておくよ」

 マイロがアレクたちに頭を下げる。

「ありがとうございます。お世話になりました」

 アレクたちは、飛空艇に乗り込む。

 トゥルムがドミトリーに尋ねる。

鼠人スケーブンはバレンシュテット帝国でも暴れていたが、何故、帝国では黒死病ペストが流行しなかったんだ?」

 ドミトリーが答える。

「……『魔法科学』による『公衆衛生』の違いだ。黒死病ペストは、※(注)鼠が運ぶと言われている。帝国には、鼠が蔓延る環境が無いだろう? ……上下水道があり、魔導石によりお湯を沸かして入浴する習慣がある。しかし、他国には上下水道は無く、糞尿や残飯は戸外や路上に撒き散らすうえ、入浴するような習慣は無い。その違いだ」

(※ペスト菌を保有する、ネズミなどのげっ歯類から『ネズミノミ』を介して感染します。)

 ドミトリーの説明にトゥルムは感心する。

「なるほどな……」

 アレクたちユニコーン小隊は、飛空艇で飛行空母へ帰還の途に着いた。

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