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第一章 白黒から虹色に
第八話 それでも君を助けたいから
しおりを挟む薬師。
そうルークは言った。
瓶の中身は魔物用傷薬らしく、子ドラゴンの身体に優しく薬をかけていく。
子ドラゴンの身体にあった擦り傷はあっという間に治っていき、顔にも生気が戻ってきた。
これでひとまずは安心。
それでも早く街に行かないと急変する可能性があったので、2人は子ドラゴンを連れて街に戻る事にした。
霧が何故か晴れていたので行きよりも早く街に着いた。
そしてエレティナの店に向かう。
「エレティナ!エレティナいるか!!」
バーンと扉を勢いよく開けて叫ぶ。
その声は奥の部屋にいたエレティナにちゃんと聞こえた。
「おかえりなさ~い。早かっ」
まだ話している途中にも関わらず、ルークは
「邪魔するぞ!」
と遮って店の奥にズカズカと入っていく。
「ちょ、ちょっと何?!どうしたのよ!」
私もルークがこれから何をするのか分からないので、後をついて行くしかなかった。
「エレティナ!お湯とタオル持ってこい!あと拳サイズの魔石も!早く!」
「な、何だかよく分からないけど。分かったわ!待ってて」
ルークは暖炉に薪を焼べてから座り、エレティナが持ってきてくれたタオルで包んで温めだした。
魔石はお湯に入れて温めてから、タオルの中に入れた。
「ふぅ・・・とりあえずこれで大丈夫だ」
どうやら処置は終わったみたいだ。
「さぁ、何があったか説明してくれるんでしょうね?」
当たり前の反応。
私もルークの行動に少し混乱しているので、その説明もちゃんとして欲しい。
2人に見つめられるルーク。
「・・・わかった」
さっきの谷での出来事をエレティナに説明した。
それとルークの仕事が薬師であることも説明してくれた。
父の代から薬師らしく、あの家で薬を作ってこの街で売っているらしい。
そして、治癒師までとはいかないが、応急処置くらいならルークでも出来るようにお父さんに教わったそうだ。
ようするに、私は薬師の助手になったって事。
物書きもろくに出来ない私が、薬師の助手なんて勤まるのだろうか・・・。
「状況は把握したわ。でも悪いけど、その子ドラゴンは助からないわよ」
・・・え?
助からない?
「何で?!これで処置は終わったんじゃ・・・」
ルークが言いにくそうに話した。
「シロナ・・・ドラゴンという魔物は幼い頃は母親の魔力を吸収して育つんだ。そして、ある程度成長したら自分でマナを集めることが出来る」
「マナって?」
「マナはねシロちゃん、空気中にある魔力の事よ。魔物や精霊はそのマナを体内に吸収して生きているの」
「そう・・・そしてこのドラゴンはまだ幼いから、母親の魔力が必要なんだ。でもまだ希望はある」
「何か策が?」
「あぁ、この子の魔力と相性のいい魔力を探す」
相性の良い?魔力に相性なんてあるのか?
じゃぁもし私の魔力と相性良ければこの子は助かる・・・?
「そんな奇跡みたいな・・・上手くいきっこないわよルーちゃん」
確かにそんなこと奇跡でも起きない限り上手くいかない。
でもこのまま見殺しするのは、絶対に嫌だ・・・絶対に・・・
「エレティナ・・・」
私は呟くように名前を呼んだ。
「お願い・・・力を貸して・・・お願いだ・・・」
願いが届いたのかエレティナはクスっと笑い私を抱きしめた。
「も~、シロちゃんの頼み事なら仕方ないわね。・・・協力するわよ」
「・・・・・・ありがとう」
お礼を聞いたエレティナは、私から離れドラゴンの近くに座った。
「で?何をすればいいの?」
「ここに手を置いて・・・そして魔力を集中させて」
「わかったわ」
ルークはエレティナの手をドラゴンの頭にそっと置いた。
そしてエレティナも魔力を集中する。
すると淡い光が右手に集まりだした。この魔力がドラゴンに吸収されれば相性が合った事になる。
しかし、エレティナの魔力は吸収されることなく分散していく。
結果は失敗だった。
「やっぱり・・・ハーフエルフの私にはドラゴンに合わなかったわね。次ルーちゃんやってみて」
「実は、さっき試してみたんだ・・・まぁ駄目だったが・・・」
「やっぱりね。ドラゴン系統の魔物じゃないと合わないんじゃないかしら」
二人の会話からすると、魔力の相性というのは種族によって変わるらしい。
なら人間は?
「なぁ・・・私もやってみてもいい?」
その言葉にルークはまたしても言い辛そうに返した。
「シロナ・・・魔物同士でさえも難しいんだ。人間のお前には」
「お願い!!!」
突然大声を出した私に二人は驚いていた。
いや、私自身もだ。
何を必死になっているのか、何故こんなに助けたいと思うのか分からない。
頭では答えが出ないけど、心はとてもザワザワした。
・・・ふぅ・・・少し落ち着け私・・・
その思いが届きルークがおいでと呼んでくれた。
ルークの隣に座りドラゴンに右手を添える。
するとルークは首に付けていた狼牙の首飾りをシロナに握らせた。
「俺の魔具だ。代用品だが無いよりマシだ。何かあったら俺が守る」
「うん」
散々失敗した魔力集中。
少しだけでいい。
少しだけ魔力を維持させれれば・・・
ルークの魔具のおかげか、無事にシロナの手に魔力が集まっていく。
お願い。お願い。お願い。お願い。
上手くいって・・・!!
シロナの集めた魔力は、ドラゴンの身体に吸収され始めた。
その様子を間近で見ていたルークは、まさかという表情をしていた。
きっと私も同じ顔をしていたに違いない。
しかし、やはり人間の魔力では完全に相性一致には至らず
子ドラゴンの魔力不足は解決されなかった。
時間はとっくに夜中の2時になっていた。
エレティナはもう遅いから泊ってもいいと言ってくれたので、その言葉に甘えることにした。
ルークはソファーで。
私はドラゴンが心配だったので、一緒に床に丸まって眠った。
その夜夢を見た。
火に包まれ明るいと思ったら、視界が突然暗くなり周りが全く見えなくなって、暖かいものに包まれてとても気持ちがよかったのに、その温もりが徐々に消えていくのだ。
そして最後、それは冷たく硬くなっていった。
私もそのあと気を失ってしまう。
変な夢だった。
目を覚ますと外は既に明るくなっていた。窓から光が差し込んでいる。
結構寝てしまっていたようだ。
そうだ、ドラゴンは無事か?
そう思って一緒に眠っていたドラゴンを見ると、そこにあるのはタオルだけでもぬけの殻だった。
「!!ドラゴンは?!」
あたりを必死に探す、すると扉付近で倒れているのを見つけた。
急いで駆け寄る。
「大丈夫か?!」
眠っているのか目を閉じたままだ。
私は身体を持ち上げた。すると、閉じていた瞳がパッと開き私の顔を認識した途端、私の手をガブッと噛んでドラゴンは部屋中を飛び回り、壁にぶつかったりして暴れた。
「ルーク!ルーク起きて!」
私には手に負えないと判断し、ルークに助けを求める。
ルークは眠い目をこすって寝ぼけていたが、部屋で起きている状況を受け入れると側にあったタオルを広げて、見事ドラゴンを捕まえることが出来た。
「よし!捕まえたぞ!」
しばらくタオルの中で暴れていたが、力尽きたのかまた眠りについてしまった。
「ルークごめん、私が目を離したせいで」
今のでこのドラゴンに何かあったらどうしよう。
その不安がドッと押し寄せてきた。
「大丈夫。目立った傷も無いし、気を失っただけだ。それよりその手大丈夫か?」
そう、さっき私はこのドラゴンに左手を噛まれていた。
少し血が出ているけど、我慢できる痛さだ。
「これくらい大丈夫・・・それよりどうしていきなり」
「仕方ない、昨日人間に襲われたばかりだからな。それより魔力不足の方が深刻だ。今から俺は外に出て適合しそうな奴を探してくるから、お前はここでこの子と待ってろ」
「わかった」
ルークはソファーにかけていた上着を羽織って外に出かけて行った。
私はさっきのルークの言葉を思い出していた。
この子は人間に・・・お母さんを・・・
何だろ・・・この気持ち・・・
この子はきっと私と同じなんだ・・・
大事な人を失って。代わりに私が救われて。でも、それが苦しくて・・・
するとドラゴンは寝言でクゥと鳴いた。
その寝言が私にはお母さんと聞こえた気がした。
そういえば、朝この子は扉の前で倒れていた。
もしかして、母親を探しているんじゃ・・・
ドアがコンコンと鳴る。エレティナが様子を見に来てくれた。
「シロちゃん。どう?よく眠れた?」
「うん。ありがとう・・・ねぇ一つ聞いていい?」
「ん?何?」
この子はきっと母親が生きてると思ってる。
最後に会わせてあげたい。
「この子を母親の所に連れて行ってあげたいんだけどいいかな」
その言葉にエレティナは難色を示した。
「あ~・・・いいケド、でももうきっと今頃マナに分解されてるかも・・・」
「ぶ、分解!?」
「そう、ドラゴンはね亡骸になった後は微精霊によってマナに分解されて、そしてそのマナは違うドラゴンの命になってと循環していくの。で、亡くなったのが昨日だから・・・もう・・・」
そんな・・・それじゃこの子はもうお別れもできないのか。
そんなの嫌だ・・・。
「ありがとう!ちょっと行ってくる!」
「え!ちょっ!シロちゃん!」
私は床にあったローブを羽織りドラゴンを連れて外に出た。
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