灰色ノ魔女

マメ電9

文字の大きさ
47 / 56
第二章 国渡りへ

第四十七話 逢いに行く

しおりを挟む
私達は数日ぶりに魔軍騎士団本部へ来ていた。

本当はこんな所に来たくなかったんだけど‥‥。

ナディアを見送りたかった。
なのに、モノンが強引に魔軍本部へ連れて来たのだ。


「どうしても行きたいんだ!」とごねると、代わりに使いを出すからそれに伝言させると言って、私を説得した。

何だか、モノンもとても困ってる風だったし‥‥これ以上我儘を言うのも悪いかなと思い、仕方なく首を縦に振った。

まぁ‥‥二度と会えないわけじゃないんだし‥‥

私が会いに行けばいいんだ。

ただそれだけの事‥‥。


私が伝言を伝え終わると、背後から「シロナ~!」と呼ぶ声が。
振り返ると、手を振りながらニコニコして歩いてくるジェイトが居た。


「え‥‥ジェイト?何でここに?」

「何でって‥‥モノじぃに来いって呼ばれたんだ。‥‥もしかしてルークとシロナも?」

「先生の無理矢理だがな…。呼ばれた理由も俺達は聞かされてない」

「ふ~ん」



てっきり私達二人だけだと思ってた…。
ジェイトも呼ばれてたなんて‥‥。


この先の出来事を色々想像してみたが、全く先が読めない。
不安は募る一方‥‥。


「皆さ~ん!何ぼーっとしてるんですかー?行きますよぉ」


長い階段を登った先でモノンが叫ぶ。


考えても仕方ないので、とりあえず3人はあとをついて行くことにした。




着いた先は、やはり団長執務室。

モノン先頭にルークが続き、その後をジェイトと私がついて中に入る。


「団長!連れて来ましたよ~」


スカーレットはいつもの椅子に座り、何やら書類を片付けていた。

いつもなら窓を眺めていたりするのに、今日は忙しいらしい‥‥。


やっぱり何かあったのか?


「あぁご苦労。少し待ってくれ」



しばらく棒立ちでスカーレットを待っていると、肩に乗っているコハクが何かに反応し突然周りを警戒し始めた。

あたりをキョロキョロして落ち着きがなく、爪が肩にくい込んで少し痛い‥‥。


「?
どうしたコハ‥──キュッッ?!?」


コハクの頭を撫でようとしたその時!
突然私のお尻を何かが触った!

「ほぅほ~ぅ·····。ナルホドー?胸は寂しいけどコチラは中々の柔らかさ·····!
まるでマシュマロのようだね~!」

聞いた事のある声。

忘れる訳が無い!この声の主は間違いない!
このクソ忌々しいおちゃらけた態度!!


カーッと顔が熱くなるのが分かった。

その様子を部屋にいる全員が見ているのだから余計に恥ずかしくなる。

「こ、こここ、このっ!!!

クソエロフーーーーーーーー!!!!!」


わあーーー!と叫び散らかしながら私は背後のレヴォルに回し蹴りを放つ。

しかし、その攻撃は空振りに終わり、レヴォルはニヤニヤと笑いながら簡単に躱して頭の後ろをポリポリとかいていた。

「いやいや、最近の若者は口が悪いなーもー
オレ、こーわーい~
触り心地が最高だよって褒めただけなのにね」



これがいつもの事なのだろうか‥‥。
スカーレットやモノンは深ーいため息をついているし、ジェイトはクスクス笑い、ルークは何故か硬直している。


私は触られたお尻を両手で隠し、超!警戒態勢をとっていた。

「だ!!だだだ、誰がっ!そんなの喜ぶかっ!!!!バカっ!!!」



《シロナがボサっとしてっからだろ、阿呆》


精神世界でボソッと呟くロギ。


最近私の言葉が荒くなってきているような気はしていた。
クソとか言ってしまうようになってしまっているし‥‥。

それは‥‥完全に!ロギとの口喧嘩のせいだろう。


ロギめ‥‥後で覚えとけよ‥‥!



最後の書類を片付け、棚にしまっているスカーレットが「さて」と言いながら棚の扉を閉めた。

「その辺にしておいてくれ師父。
私はこの後も予定があるんだ·····。時間が惜しい」


「いや~ゴメンって!手が勝手に動いちゃってね~
あ、もしかしてヤキモチ妬いちゃった?
や~も~、オレってば可愛い弟子をもったな~!」


一瞬風が吹いた。


レヴォルの方へ向かってヒュッと風が吹き、髪が流れた。
でも窓など空いていない。

空いていないが‥‥スカーレットが何かを投げた後のポーズをとっている。
バッと振り返りレヴォルの方をむくと、レヴォルの顔スレスレで木の扉に直剣が突き刺さっていた。




シーンと静まり返る空間。

この状況で血の気が引かない人間がどこに居るだろうか‥‥。

‥‥‥‥いや、いたな‥‥二人。

レヴォルは冷や汗一つかかず、笑顔を保ったまま。
そしてその光景を、何故かモノンもニコニコと見つめていた。

この二人‥‥結構似てる‥‥のか???



血の気が引く中、スカーレットは殺気を放ちながら椅子にかけた。

「‥‥では‥話を進めようか。

‥‥精霊術師」


ゴクンと唾を飲み込み、気を引き締める。

一体何が話されるのか‥‥。



────────────────────



その頃ナディアは比較的見た目が人間に近い保母さんに連れられ、村の近くまで来ていた。

保母さんは頭に布を巻き、魔物であることを隠して人間の所まで来たのだが、本来人間慣れしていない魔物がこの様に村の近くまで来ることは無い。

ナディアは例外中の例外なのだ。

それだけ、人間は魔物にとって危険な存在だったから‥‥。

しかし、人間であるナディアに抱かれている兎のぬいぐるみには、可愛らしい花の冠が飾られていた。

施設を出る時、いじめっ子達が花を集めて作ってくれた。
「あの時はごめんよ。僕達の事を忘れないでね」と言葉を添えて‥‥。



怪我が絶えなかった日常。

癒えない心の傷。


それは、ドラゴンを連れた灰色の髪のお姉ちゃんが現れてから全てが変わった。


私を見る目が変わり、虐めてくる子はいなくなって一緒に遊んでくれる友達になってくれた。


嬉しかった‥‥。
ここでずっと暮らしてもいいとも思えた。

でも、私を引き取ってくれる人が居るって言われて‥‥。


それは喜ばしい事‥‥なのに、ここから離れたくない。そういう感情が込み上げてくる。



せっかく仲良くなれたのに。



犬のお兄ちゃんも優しくしてくれたのに。



カッコよくて笑顔の可愛いお姉ちゃんも出来たのに‥‥。




花飾りを貰った時、正直まだ迷ってた。
このままサヨナラしちゃっていいのかなって。

今ならまだ断れるんじゃないかって。


その時、魔軍の使いの人がやって来た。



「闇精霊術師からの伝言だ」と言って‥‥。



そんな長くはなかったけど、その言葉は私の足を動かす決め手となった。

前を向く覚悟をくれた。


勇気をくれた!


お姉ちゃんとお揃いの白いローブを羽織り、空を見上げ‥‥


私は‥‥‥‥足を前に出す。




《住む場所が違ったとしても、住む世界は同じだから。私は会いに行くぞ‥‥この空が繋がっている限り‥‥》



その言葉を胸に‥‥‥‥。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

主婦が役立たず? どう思うかは勝手だけど、こっちも勝手にやらせて貰うから

渡里あずま
ファンタジー
安藤舞は、専業主婦である。ちなみに現在、三十二歳だ。 朝、夫と幼稚園児の子供を見送り、さて掃除と洗濯をしようとしたところで――気づけば、石造りの知らない部屋で座り込んでいた。そして映画で見たような古めかしいコスプレをした、外国人集団に囲まれていた。 「我々が召喚したかったのは、そちらの世界での『学者』や『医者』だ。それを『主婦』だと!? そんなごく潰しが、聖女になどなれるものか! 役立たずなどいらんっ」 「いや、理不尽!」 初対面の見た目だけ美青年に暴言を吐かれ、舞はそのまま無一文で追い出されてしまう。腹を立てながらも、舞は何としても元の世界に戻ることを決意する。 「主婦が役立たず? どう思うかは勝手だけど、こっちも勝手にやらせて貰うから」 ※※※ 専業主婦の舞が、主婦力・大人力を駆使して元の世界に戻ろうとする話です(ざまぁあり) ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

処理中です...