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「7時には出るわよ」
先輩司書の有田が言う。
今夜は飲み会だった。それも事務所と合同で。有田の夫が事務長なので、時々行われるらしい。幹は初めての参加だった。
場所はチェーン店の居酒屋だった。
「みんな飲み物いったかな」
年配者の宍戸館長が音頭を取る。
「では事務所と図書館の発展のために」
乾杯と皆でグラスを掲げた。
発展のためにって、なんだ?思っても黙ってる。一応最年少だし。
幹は隣りの館長にビールを注いだ。向かいに有田夫妻が座っている。有田夫には幹も学生時代世話になっているので、顔は知っていた。
そこへ香がビールのビンを持ってやって来た。
「事務長、これからも宜しくお願いします」
「浅香さんだったわよね」
有田妻がにこにこして香織の手を掴んだ。
「今年入った新人です。宜しくお願いします」
「幹くんの彼女なんでしょ」
ぶっ。
危なく幹は焼酎を吹き出しそうになった。
「んなわけないでしょう」
「違いますね」
幹と香の声が重なった。
「あら、違うの?」
お似合いなのにねと夫の同意を求め、苦笑される。
「それは絶対にありません」
「タイプじゃないから」
また重なる。
「息がぴったり!」
幹は昨夜のパーティーを思い出す。パーティーって言っても腐女子達が言ってただけだけれど。
勝手にふたり、桃果と香は幹に断りもせず、戦利品を持ち込み、酒ツマミも持ち込み、一晩中腐った話で盛り上がった。
女達の声で全く眠れず、挙げ句は幹もツマミにされ、いろんな掛け算された。
「どんな人がタイプなの?」
仲人してあげると浮き浮きしたように、香に聞く。「私、自分の恋愛には興味無いんです。男性同士の恋愛ならすごく興味ありありですけど」
事務長は苦笑い。
職場にはカミングアウトしてるらしい。
それとも溢れ出てるのか、腐女子臭が…。
「幹くんは?」
こっちに来るか、やっぱり。
考えてなかったので正直に答えた。
「今はいいです、そういうの」
「枯れた?」
結構酷いこと言われた気がする。まだ23歳なのに。
だって周りにはこんな女子しかいないから。
「ミキちやん、前みたいに髪伸ばしたらいいのに」
「幹くん髪長かったの?」
香の言葉に周りが反応する。
「シャメありますよ」
「止めろよ」
一応拒否るが、素直に応じられるわけはなく。
「こっちの方がにあうのに」
有田がはしゃぐ。
また伸ばしたら?
「絶対に嫌です」
直ぐに拒否。
「えー、なんで?」
理由ははっきりしている。
腐女子の餌食になりたくないからだ。
今の短め(前より。今は後ろは襟にかかるくらいで、前髪は少し目が隠れる)の方が、まだからかわれない。
ホントは坊主にしようかと思ったが、似合わないと思ったから止めた。
大学に入学した頃は幹の髪は長かった。100均で買ったゴムでひとつに纏めていた。
お洒落でしてたわけではなく、髪を切りに行く時間がなかっただけだ。
大学試験に合格した後はカフェのバイトのシフトを毎日入れてたので、時間がもったいなかった。カフェでは髪型のことはなにも言われなかったし。
しかし、姉の桃果に見られて慌ててカットしに行った。
腐った目でみられ、腐女子用語でなんやかんやと捲し立てられ参ってしまった。プライドやなんやらが崩壊寸前だった。
髪の長い幹は腐女子にとってとても美味しいらしい。
まだあまり話したことのない香にまで写真を撮られた。
もし恋人が出来て、彼女に髪を伸ばしてと頼まれたら、どんなに彼女を好きでも別れてやる。
そう頑なに思っている。
「私はそろそろ失礼するよ」
トイレから帰ってきた館長がが言った。上着を手にして居酒屋を出ていく。
「見送ってきます」
幹は自分も外の空気が吸いたくて、館長を追いかけた。
「館長」
「君はまだいいでしょう?」
「外の空気が吸いたかったから、お見送りを」
「ありがとう。でも直ぐ迎えが来るから」
あぁ、来た。
館長が微笑んだ。いつもの優しい笑顔より、柔らかさが増した気がした。
館長が見ている方を見ると、館長より一回り下位の男性が歩いてきた。
「宍戸がいつもお世話になってます」
男性は幹にお辞儀する。
「お世話になってるのは私の方です」
慌ててお辞儀を返す。
「部下の幹と申します」
「佐藤です。」
「義弟なんだ。一緒に暮らしてる」
「そうなんですか?だから迎えに」
「じゃあね。また来週」
「失礼します」
なにを思ったか、館長は戻ってきて幹に耳打ちした。
「義弟だけど、恋人なんだ」
呆気にとられている幹に、じゃあ、と二人肩を並べて帰って行った。
「どうしたの、ミキちゃん」
ぼうっとして戻ってきた幹に香が声を掛けた。
「有田さん、館長って独身ですか?」
「奥さんいらしたけど、確か大分前に亡くなってるわよ」
「そうなんですか…」
義弟ってことは、奥さんの弟ってことか?
ちょっとだけ考えたけど、まっいいか。
考えてもしょうがないし、と新しくオーダーしたスクリュードライバーを一口呑んだ。
先輩司書の有田が言う。
今夜は飲み会だった。それも事務所と合同で。有田の夫が事務長なので、時々行われるらしい。幹は初めての参加だった。
場所はチェーン店の居酒屋だった。
「みんな飲み物いったかな」
年配者の宍戸館長が音頭を取る。
「では事務所と図書館の発展のために」
乾杯と皆でグラスを掲げた。
発展のためにって、なんだ?思っても黙ってる。一応最年少だし。
幹は隣りの館長にビールを注いだ。向かいに有田夫妻が座っている。有田夫には幹も学生時代世話になっているので、顔は知っていた。
そこへ香がビールのビンを持ってやって来た。
「事務長、これからも宜しくお願いします」
「浅香さんだったわよね」
有田妻がにこにこして香織の手を掴んだ。
「今年入った新人です。宜しくお願いします」
「幹くんの彼女なんでしょ」
ぶっ。
危なく幹は焼酎を吹き出しそうになった。
「んなわけないでしょう」
「違いますね」
幹と香の声が重なった。
「あら、違うの?」
お似合いなのにねと夫の同意を求め、苦笑される。
「それは絶対にありません」
「タイプじゃないから」
また重なる。
「息がぴったり!」
幹は昨夜のパーティーを思い出す。パーティーって言っても腐女子達が言ってただけだけれど。
勝手にふたり、桃果と香は幹に断りもせず、戦利品を持ち込み、酒ツマミも持ち込み、一晩中腐った話で盛り上がった。
女達の声で全く眠れず、挙げ句は幹もツマミにされ、いろんな掛け算された。
「どんな人がタイプなの?」
仲人してあげると浮き浮きしたように、香に聞く。「私、自分の恋愛には興味無いんです。男性同士の恋愛ならすごく興味ありありですけど」
事務長は苦笑い。
職場にはカミングアウトしてるらしい。
それとも溢れ出てるのか、腐女子臭が…。
「幹くんは?」
こっちに来るか、やっぱり。
考えてなかったので正直に答えた。
「今はいいです、そういうの」
「枯れた?」
結構酷いこと言われた気がする。まだ23歳なのに。
だって周りにはこんな女子しかいないから。
「ミキちやん、前みたいに髪伸ばしたらいいのに」
「幹くん髪長かったの?」
香の言葉に周りが反応する。
「シャメありますよ」
「止めろよ」
一応拒否るが、素直に応じられるわけはなく。
「こっちの方がにあうのに」
有田がはしゃぐ。
また伸ばしたら?
「絶対に嫌です」
直ぐに拒否。
「えー、なんで?」
理由ははっきりしている。
腐女子の餌食になりたくないからだ。
今の短め(前より。今は後ろは襟にかかるくらいで、前髪は少し目が隠れる)の方が、まだからかわれない。
ホントは坊主にしようかと思ったが、似合わないと思ったから止めた。
大学に入学した頃は幹の髪は長かった。100均で買ったゴムでひとつに纏めていた。
お洒落でしてたわけではなく、髪を切りに行く時間がなかっただけだ。
大学試験に合格した後はカフェのバイトのシフトを毎日入れてたので、時間がもったいなかった。カフェでは髪型のことはなにも言われなかったし。
しかし、姉の桃果に見られて慌ててカットしに行った。
腐った目でみられ、腐女子用語でなんやかんやと捲し立てられ参ってしまった。プライドやなんやらが崩壊寸前だった。
髪の長い幹は腐女子にとってとても美味しいらしい。
まだあまり話したことのない香にまで写真を撮られた。
もし恋人が出来て、彼女に髪を伸ばしてと頼まれたら、どんなに彼女を好きでも別れてやる。
そう頑なに思っている。
「私はそろそろ失礼するよ」
トイレから帰ってきた館長がが言った。上着を手にして居酒屋を出ていく。
「見送ってきます」
幹は自分も外の空気が吸いたくて、館長を追いかけた。
「館長」
「君はまだいいでしょう?」
「外の空気が吸いたかったから、お見送りを」
「ありがとう。でも直ぐ迎えが来るから」
あぁ、来た。
館長が微笑んだ。いつもの優しい笑顔より、柔らかさが増した気がした。
館長が見ている方を見ると、館長より一回り下位の男性が歩いてきた。
「宍戸がいつもお世話になってます」
男性は幹にお辞儀する。
「お世話になってるのは私の方です」
慌ててお辞儀を返す。
「部下の幹と申します」
「佐藤です。」
「義弟なんだ。一緒に暮らしてる」
「そうなんですか?だから迎えに」
「じゃあね。また来週」
「失礼します」
なにを思ったか、館長は戻ってきて幹に耳打ちした。
「義弟だけど、恋人なんだ」
呆気にとられている幹に、じゃあ、と二人肩を並べて帰って行った。
「どうしたの、ミキちゃん」
ぼうっとして戻ってきた幹に香が声を掛けた。
「有田さん、館長って独身ですか?」
「奥さんいらしたけど、確か大分前に亡くなってるわよ」
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