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領主と幼女2
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「マリアちゃん、今日はお姉さん家に泊まってね」
「やでしゅ」
食後、3秒でフラれたロアは、フラれた事実に対するショックと、それを上回る舌足らずな喋り方の可愛さに複雑な想いを抱いて天を仰いだ。
ロアはリィから『身も心も退行する薬』の詳しい説明を聞き損ねたわけだが、マリアがトイレの場所も分からなかったということは、記憶ごとなくしているということだ。
つまり、今日1日だけとはいえ、幼いマリアとの関係性をいちから築かなくてはいけない、のだが。
「やなの? どうして?」
「しらないひと、だから」
「……!」
『知らない人認定』は、流石のロアにも堪えた。
作り笑いも限界で、こぼれそうになる涙を押さえようと目頭を押さえる。
すると、マリアは少し心配そうな顔でロアを見上げた。
「ないてゆの?」
「ううん! 泣いてないよ!」
ロアは気を取り直してマリアの顔を真剣に覗き込む。
「私はロア。君の将来の雇い主だよ」
「……? やといゆし?」
「えっと、ごしゅじんさまって言ったほうがわかるかな? このお屋敷で、一緒に暮らすんだよ」
「? けっこんすゆの?」
ブハッ
ロアは思わず吹き出してテーブルに突っ伏すように勢いよく顔面をぶつけた。
先刻の言葉は、ロアには破壊力が強すぎた。
「? ? おかお、いたそう……」
「全然痛くないよ!」
ロアは赤くなっている鼻を押さえてガバリと上体を起こす。
それからマリアの頭をよしよしといわんばかりに撫でた。
「そう、だからね、私のことは怪しまないで、ロア様って呼んでね」
「……ろあしゃま?」
「……も、もっかい呼んで!」
「ロアしゃま」
(はあああああああああああ生きててよかったあああああああ)
この時すでに、ロアの脳内から、マリアに一服盛った悪魔への復讐などはすっかり吹き飛んでいた。
しばらくしたころ、椅子に座ったままマリアがうとうとしだしたのを見て、ロアは居間のソファーに彼女を運んだ。
タオルケットを掛けて、寝ていいんだよと伝えたが、マリアは重そうな瞼をなかなか閉じようとしない。
「お昼寝したくないの?」
「おめめ、まっくらになゆの、こわいから、やでしゅ」
まだ昼間だが、瞼を閉じたら真っ暗になるという意味なのだろう。
ロアは思わず微笑んで、ソファーの脇に座った。
「怖くないように、マリアちゃんがおっきするまでここにいてあげる」
「……ほんと?」
「嘘ついたらはりせんぼん飲むよ」
「いたそう……」
「ロア様は痛いの嫌いだから、嘘つかないよ」
「……ん」
マリアはようやく瞼を閉じた。
* * *
遅めの昼食をとった後に、夕方になるまで昼寝をしたせいか、マリアは夕食を食べないと言い張った。
「かぼちゃのスープは?」
「きやいでしゅ」
「オムレツだったら食べる?」
「たべないでしゅ」
「ほんとに何も食べないの?」
「たべないの!」
マリアは不機嫌そうな顔でそっぽを向く。
昼寝を終えてからのマリアは随分ご機嫌ナナメで、ロアは少々困っている。
確かに、マリアが寝ている間、そっと動いて洗濯物を取り込んだり色々したが、マリアが目覚める頃にはちゃんと傍にいたのだが。
「んー、じゃあロア様だけオムレツ作って食べようかなぁ。ほんとにマリアちゃんはなんにもいらないのかなぁ?」
厨房に向かって歩きながら、わざとちらちらとマリアのほうを見ながらロアがそう言っても、マリアはソファーの上で膝を抱えたままじっとしていた。
「どうしてマリアちゃんはご機嫌ナナメなのかなあ?」
「……」
遂に口をきかなくなったマリアに、ロアは頭をかいて、厨房に入る。
マリアは広い居間に、ひとり取り残された。
* * *
こわい夢を見た。
大好きだったママとパパがいなくなって。
みんなから、「おまえなんかいらない」って、言われる夢。
心のどこかで、これは現実なんだと、幼い彼女は分かってしまった。
「マリアが良い子にしていさえすれば、きっと神様が守って下さるわ」
ママはよくそう言っていたけれど、守ってくれるのはいつも神様じゃなくて、■■■だった。
マリアは気味の悪い子。
マリアは悪い子。
さいごはみんなから捨てられる。
ママの言いつけを守れなかったから。
ひっく、ひっくと嗚咽がこみ上げる。
「……っ、……っママー……」
幼いマリアはぽろぽろと涙をこぼして泣きじゃくった。
「マリア!」
泣き声を聞いて、ロアは慌てて厨房から飛び出した。
「どうしたの、寂しかった? ごめんね、ひとりにして」
ロアはマリアを抱きしめて、ぽんぽんと頭を撫でる。
「……っ、マリア、すてないで。いい子にすゆからっ、すてないでっ……」
マリアの小さな手が、ロアのシャツをぎゅっと握って身体にしがみつく。
「捨てたりなんかしないよ、マリアは私の大切な人だもの。ずっと一緒にいるよ」
「…………ほん、と?」
泣いたせいで真っ赤になっているマリアの頬を、ロアはそっと両手で包み、指の腹で涙を拭う。
「ずっと一緒にいるって約束したんだ。未来の君とね」
「……うそじゃない?」
「嘘ついたらはりせんぼんだけど、ロア様は痛いの嫌いだから、嘘つかないよ」
だから信じてくれる? とロアが問うと、
「……はい」
マリアはようやく笑って、しゃくりあげるのをやめた。
それを認めて、ロアはマリアの頭をさらに撫でた。
「ねえマリア、夕食はお腹に入らないけど、おやつなら食べられるかな?」
「おやつ?」
ちょっと待っててね、とロアは厨房から小皿を持ち出し、膝を折ってマリアに見せた。
「じゃーん、くまさんアイスクリーム~」
昨日たまたま手に入れたアイスクリームに、チョコチップクッキーをくまの耳に見立てて二つ差したものだ。
「チョコクッキー!」
「好き?」
「しゅき!」
先ほどの涙はどこへやら、マリアはもろ手を挙げて飛び跳ねた。
「やでしゅ」
食後、3秒でフラれたロアは、フラれた事実に対するショックと、それを上回る舌足らずな喋り方の可愛さに複雑な想いを抱いて天を仰いだ。
ロアはリィから『身も心も退行する薬』の詳しい説明を聞き損ねたわけだが、マリアがトイレの場所も分からなかったということは、記憶ごとなくしているということだ。
つまり、今日1日だけとはいえ、幼いマリアとの関係性をいちから築かなくてはいけない、のだが。
「やなの? どうして?」
「しらないひと、だから」
「……!」
『知らない人認定』は、流石のロアにも堪えた。
作り笑いも限界で、こぼれそうになる涙を押さえようと目頭を押さえる。
すると、マリアは少し心配そうな顔でロアを見上げた。
「ないてゆの?」
「ううん! 泣いてないよ!」
ロアは気を取り直してマリアの顔を真剣に覗き込む。
「私はロア。君の将来の雇い主だよ」
「……? やといゆし?」
「えっと、ごしゅじんさまって言ったほうがわかるかな? このお屋敷で、一緒に暮らすんだよ」
「? けっこんすゆの?」
ブハッ
ロアは思わず吹き出してテーブルに突っ伏すように勢いよく顔面をぶつけた。
先刻の言葉は、ロアには破壊力が強すぎた。
「? ? おかお、いたそう……」
「全然痛くないよ!」
ロアは赤くなっている鼻を押さえてガバリと上体を起こす。
それからマリアの頭をよしよしといわんばかりに撫でた。
「そう、だからね、私のことは怪しまないで、ロア様って呼んでね」
「……ろあしゃま?」
「……も、もっかい呼んで!」
「ロアしゃま」
(はあああああああああああ生きててよかったあああああああ)
この時すでに、ロアの脳内から、マリアに一服盛った悪魔への復讐などはすっかり吹き飛んでいた。
しばらくしたころ、椅子に座ったままマリアがうとうとしだしたのを見て、ロアは居間のソファーに彼女を運んだ。
タオルケットを掛けて、寝ていいんだよと伝えたが、マリアは重そうな瞼をなかなか閉じようとしない。
「お昼寝したくないの?」
「おめめ、まっくらになゆの、こわいから、やでしゅ」
まだ昼間だが、瞼を閉じたら真っ暗になるという意味なのだろう。
ロアは思わず微笑んで、ソファーの脇に座った。
「怖くないように、マリアちゃんがおっきするまでここにいてあげる」
「……ほんと?」
「嘘ついたらはりせんぼん飲むよ」
「いたそう……」
「ロア様は痛いの嫌いだから、嘘つかないよ」
「……ん」
マリアはようやく瞼を閉じた。
* * *
遅めの昼食をとった後に、夕方になるまで昼寝をしたせいか、マリアは夕食を食べないと言い張った。
「かぼちゃのスープは?」
「きやいでしゅ」
「オムレツだったら食べる?」
「たべないでしゅ」
「ほんとに何も食べないの?」
「たべないの!」
マリアは不機嫌そうな顔でそっぽを向く。
昼寝を終えてからのマリアは随分ご機嫌ナナメで、ロアは少々困っている。
確かに、マリアが寝ている間、そっと動いて洗濯物を取り込んだり色々したが、マリアが目覚める頃にはちゃんと傍にいたのだが。
「んー、じゃあロア様だけオムレツ作って食べようかなぁ。ほんとにマリアちゃんはなんにもいらないのかなぁ?」
厨房に向かって歩きながら、わざとちらちらとマリアのほうを見ながらロアがそう言っても、マリアはソファーの上で膝を抱えたままじっとしていた。
「どうしてマリアちゃんはご機嫌ナナメなのかなあ?」
「……」
遂に口をきかなくなったマリアに、ロアは頭をかいて、厨房に入る。
マリアは広い居間に、ひとり取り残された。
* * *
こわい夢を見た。
大好きだったママとパパがいなくなって。
みんなから、「おまえなんかいらない」って、言われる夢。
心のどこかで、これは現実なんだと、幼い彼女は分かってしまった。
「マリアが良い子にしていさえすれば、きっと神様が守って下さるわ」
ママはよくそう言っていたけれど、守ってくれるのはいつも神様じゃなくて、■■■だった。
マリアは気味の悪い子。
マリアは悪い子。
さいごはみんなから捨てられる。
ママの言いつけを守れなかったから。
ひっく、ひっくと嗚咽がこみ上げる。
「……っ、……っママー……」
幼いマリアはぽろぽろと涙をこぼして泣きじゃくった。
「マリア!」
泣き声を聞いて、ロアは慌てて厨房から飛び出した。
「どうしたの、寂しかった? ごめんね、ひとりにして」
ロアはマリアを抱きしめて、ぽんぽんと頭を撫でる。
「……っ、マリア、すてないで。いい子にすゆからっ、すてないでっ……」
マリアの小さな手が、ロアのシャツをぎゅっと握って身体にしがみつく。
「捨てたりなんかしないよ、マリアは私の大切な人だもの。ずっと一緒にいるよ」
「…………ほん、と?」
泣いたせいで真っ赤になっているマリアの頬を、ロアはそっと両手で包み、指の腹で涙を拭う。
「ずっと一緒にいるって約束したんだ。未来の君とね」
「……うそじゃない?」
「嘘ついたらはりせんぼんだけど、ロア様は痛いの嫌いだから、嘘つかないよ」
だから信じてくれる? とロアが問うと、
「……はい」
マリアはようやく笑って、しゃくりあげるのをやめた。
それを認めて、ロアはマリアの頭をさらに撫でた。
「ねえマリア、夕食はお腹に入らないけど、おやつなら食べられるかな?」
「おやつ?」
ちょっと待っててね、とロアは厨房から小皿を持ち出し、膝を折ってマリアに見せた。
「じゃーん、くまさんアイスクリーム~」
昨日たまたま手に入れたアイスクリームに、チョコチップクッキーをくまの耳に見立てて二つ差したものだ。
「チョコクッキー!」
「好き?」
「しゅき!」
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