最悪な恋だった

おうさとじん

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最悪な恋だった

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 あぁ、それは真実最悪な恋だった。

 わたくしに取っても、貴方に取っても。



 イヴリル・ウォルド子爵令嬢と言えば、『最低のアバズレ』『最凶の毒花』『最悪な蕩尽』と噂される娘である。

 事実イヴリルは、処女ではあるが不浄の穴で放蕩三昧に男を食い荒らしていたし、己よりも目立った娘や美しい娘を見付けるや取り巻きの男達をけしかけ嫁げぬ体にしてやり、美しいドレスやきらびやかな宝石で持ってして子爵家の財産を食い潰した娘なのだ。

 食い潰された子爵家は今日、その名を貴族名鑑から削除されることとなった。

 爵位を落としはしたが、元は侯爵から始まった由緒正しき名家の筈であった。

 まぁ元々、犯罪の温床と呼ばれた子爵家である。過去の歴史を見て嘆くものは居ても、救おうと手を差し伸べる者は無かった。



 イヴリルは独り、家財の一切が消えた室内で高笑いを響かせた。

 「やった、ついにやってやった!あのくそ親父は打ち首だ!くそババアとくそジジイも殺してやった!あははっ、ははっ――ひーっ、ひーっひゃひゃひゃ!」

 狂ったように笑い、そして崩れ落ちた。

 「アー……」

 呼ぼうとした名を唇を噛み締めて殺し、ポツリと一滴の涙を落とした。



 アーサー、勇ましく正しきアーサー。

 いつもわたくしを蔑んだ瞳で射ぬいた貴方。

 もう二度と貴方の前に現れないと誓うから、これから行う……この醜いわたくしのたったひとつの願いだけは、許して――許して下さいませ――







 イヴリルは己の醜さを、重々に理解していた。

 顔は美しくとも、心根が卑しい。

 己に跪く男どもを足蹴にしながら愉悦に浸り、美しく穢れなど知らぬという顔で微笑む娘達を妬み、苦しめては嗤い、貪欲に他者の不幸を求め貪った。

 皆、不幸になれ、皆、地獄に堕ちろ、皆、絶望のうちに死んでしまえ!

 心の底から願い、そして堕とせるものは堕としてやった。

 何故イヴリルはここまで恐ろしい娘となったか。

 何故イヴリルは破滅を知りながらここまで恐ろしい娘となったのか。

 それを知る者はもう居ない。







 イヴリルは、拷問ののち監獄島への流刑が決定している。

 様々な悪事を鑑みれば、即刻打ち首とすべき罪状であるが、被害者達がそれを望まなかったのだ。

 息子を貶められて死に追いやられた親が、娘を傷物にされ自殺された親が、皆が願った。



 イヴリルに地獄に堕ちるよりも恐ろしい罰を

 イヴリルに地獄に堕ちるよりもおぞましい罰を



 イヴリルは嘆かない。

 わかっているからだ。自分がどれほどの罪を犯したか、どれほどの怨嗟が我が身に纏い憑いているか。

 イヴリルは願う。地獄の劫火よりも激しい焔で我が魂ごと消え去ってしまえと。輪廻の輪に戻ることすら拒絶して、イヴリルは願う。



 己にむごたらしい死を!



 みじめな死を!



 晒される生首に、唾をかけられ腐り蠅に喰われ打ち捨てられる未来を!







 「ねぇあーさー、ねぇったら」

 「なんだよイービー」

 幼い少女が少年を呼ぶ。

 少年は顔を合わせようとせずぶっきらぼうに少女に応えるが、その瞳はこっそりと少女を捉え、薔薇色の頬をさらに鮮やかに染める。

 「いーびーはね、しょうらいあーさーのおくさまになるんだって。あーさーはしってた?」

 無邪気な声だ。まだ、夫婦がどんなものかも知らず、恋という言葉も知らない、無垢な声だった。

 「それは!お父様達が勝手に言っただけで!お前なんてまだ四歳じゃないか!」

 「そーね、いーびーはこないだよんしゃいになったの!」

 少女は嬉しそうに小さな指を四本立てる。

 「そんなの知ってるよ!お誕生日会行ったし……」

 ぼそぼそと消え入る声は反抗期の表れで、本当は大好きな少女の誕生日だったけれども、同い年の男子達にからかわれたことが尾を引き、素直に祝うことをせず不貞腐れた態度であったことの罪悪感が混じっているのだ。

 「たのしかったねーうれしかったねー」

 少年の複雑な心境はお構いなしに、少女はにこやかに体を揺らす。



 「ねぇアーサー?」

 少女の声に、少年は繰り返していた動作を止めた。

 「なんだい、イービー?」

 優しく微笑みかけたつもりだったのだが、少女は不機嫌な表情だ。

 「それよ!それがいやなの!イービーなんて、子供用の呼び方はやめて!」

 「そんなことを言ったって、実際イービーはまだ子供じゃないか」

 「まぁ酷い!私もう十歳なのよ?」

 「十歳はまだ子供だろう?」

 「まぁ!そんなこと言ったらアーサーだってまだ子供じゃない!」

 「?そうさ。だからアレクサンダーでなくアーサーって呼ばれているんじゃないか」

 「んもう!わかんない人ね!」

 少女の言い草に、少年は必死で笑いを堪えた。先程の少女の言葉は少年の母親が少年の父親に向かってよく投げつける言葉だった。

 「私は!あなたのことをアルって呼びたいの!私も、イヴって呼んで欲しいの!」

 少年は心のなかで嘆息した。

 (だめだよイヴ、それは恋人同士の呼び方じゃないか。そんな呼び方を心の中だけでなく、声に出してしまったら僕はどうなってしまうだろう)

 精通もとうの昔、成人も近い少年にとっては些細な引き金で暴走を起こしかねないのだ。

 「アーサー?アーサーったら!」

 少女の可愛らしいおねだりに、気を取られて固まってしまっていた少年は、誤魔化すように素振りを再開した。

 「……それは、僕たちがもう少し大人になったらね」

 「あら、でしたら大人の定義を教えてくださる?その言い草なら国が定めた十五歳の成人年齢ということではないのでしょう?」

 少年は素振りを続けながら、今度はうんざりとした気持ちを込めて嘆息した。

 最近の少女は成長とともに小賢しくなり、たまに少年が苛つくような言動をする。これがまた少年の母にそっくりで、将来母と妻に同じような言葉で追い詰められる未来を思い浮かべてしまうのだ。



 そう、この時は当たり前のように二人の未来は重なっていた――



 あの美しい情景の直ぐ後だろうか。

 少年――アレクサンダー・ロズウェルはイヴリルに会えなくなった。

 家に招待をしても体調を理由に断られ、ならばとお見舞いを申し出ても受け入れられなくなったのだ。

 それなのに、イヴリルは度々王城に登城している。

 成人の十五の年に、騎士団に入団することが決まっているアレクサンダーにとって、イヴリルと心行くまで共に過ごせる、貴重な二年間のはずだった。

 「父上……イービーは、大丈夫なのでしょうか」

 息子の問いかけに、父親は難しい顔をして首をふった。

 「ともかく今は、勉強と訓練に集中しなさい」

 父親はアレクサンダーがイヴリルに会えない理由を、手紙すらくれなくなった理由を、決して教えてはくれなかった。

 母親は、ただアレクサンダーを抱き締めて一度だけ泣いた。

 何が起きているのか、力の無い少年の精一杯で探ったが、何も掴めなかった。

 そしてイヴリルに会えないまま時は過ぎ、イヴリル成人の年、二人の婚約が破棄された。



 アレクサンダーはそれでもイヴリルを求めていたし、デビュタントで会えることを期待していた。

 あの愛らしかった少女はどの様に成長しただろうか?きっと会場の誰よりも愛らしいに違いない。デビュタントの証である無垢なドレスに身を包み、はにかんだ笑顔で階段を降りる姿を見せてくれるはず。

 会場では一番に話しかけよう。そして、決して離すまい。会えなかった理由はゆっくり聞けたらいい。それよりも、離れていた時を埋めよう。

 そう、期待だけを胸にまだ着られている感の強い騎士服に身を包んで待った。

 そして、アレクサンダーのすべての期待は打ち砕かれた。

 常識破りの深紅のドレスで登場したイヴリルは、会場の誰よりも美しかった。

 いとけなさの欠片もない、成熟した大人の表情をしていた。

 きっと隣に並べば己の方が年下に見られてしまうだろう。そうアレクサンダーが怖じ気付く程だった。

 圧倒されている間にイヴリルは一人の紳士に声を掛けられ、ものなれた様子でダンスに興じた。笑みは蠱惑的で、あの場にいた全ての男性の心を鷲掴みにしたと、アレクサンダーは思った。

 そして、己の想像との余りの乖離に、アレクサンダーは悲しさを覚えた。

 (あぁ、イヴ、イヴ……この五年、君に何があった?なぜ俺は君の側に居なかったんだ……?)

 この後悔は、アレクサンダーのその後の人生にずっと付いて回った。



 (またか……)

 清廉であるべき騎士にあるまじきことを、同僚達が話している。

 ――イヴリルは試したか?――

 誰とでも寝る女イヴリル。不浄の穴でよがるイヴリル。

 ――あれはすごい。手に余る胸の弾力は心地よく、肌は吸い付くようで、一度嵌めれば底無し沼だ――

 ――ケツの穴なんてきったねぇ――

 ――バカ言うな!お前も試してみればわかるさ。あれを知ったら娼婦で満足なんて出来なくなるぞ。あぁ、またお相手してほしいぜ、イーヴィル悪魔のイヴリル――

 聞いてなんていられなかった。耳を塞ぎ、叫び声を上げ、どこかに走り去りたかった。

 心臓からじわじわと湧き上がるこの澱を、心臓ごと握りつぶしたかった。

 誰を恨めばいいのか、何に怒ればいいのか、悩み、嘆き、ある日ぽっかりと穴が空いた。

 宝物を閉まっていたはずの、とてもとても大切な場所に、大きな大きな穴が空いて、その穴に全てが落ちて全てを無くした。

 今では同僚達の話にも、呆れるだけで心が動かされることも無くなった。

 それでも、本人を目の前にすれば言い様のない感情が込み上げた。愛しいのでもなく、恨めしいのでもない、余りにも複雑な心境に顔は自然険しくなった。

 そんなアレクサンダーを、イヴリルは存在しないかのように扱った。その事が余計に胸の内を複雑にした。

 愛したいのかもしれず、恨みたいのかもしれない。

 だが、そのどちらも心が拒絶するのだ。

 そしてその感情の全てを、大きな穴に落としてまた無心となるのだ。会わなければ心が淀むこともない。アレクサンダーが会おうと努力さえしなければそう滅多に会うこともない。

 二人の道は遥か昔に分かたれて、二度と交わることもない。もう、イヴリルと過ごした年数より離れてからの年数の方が長く、家族もみな彼女を忘れたかのように振る舞う。

 婚約も決まった。本来ならば男であれ二十そこそこで結婚するものだ。婚約の打診も山とあった。最初の頃は諦めきれず、イヴリルが変わってしまった原因を知るために奔走した。しかし、途中まで辿れても驚くほどにぷっつりと情報が途絶える。ある時突然誘拐され、これ以上探ることは許さないと脅された。目隠しをしていても聞き覚えのあるその声で、イヴリルに関わることが国の中枢に関係していると知った。





・・・・・・・・・・・・・・・・・・・





 アレクサンダーの婚約が決まってから、イヴリルの悪行は許される範囲を超えた。確かな切っ掛けが自身の婚約にあったのだと、アレクサンダーは血濡れた剣を握りしめ思った。



 アレクサンダーが婚約の打診を受け、それを了承してまもなく、イヴリルはまさにイーヴィル悪魔であることを証明した。

 今までは噂話でしかなかった男爵令息の死、伯爵令嬢の自殺、公爵家当主の病死。その証拠全てが明るみに出ると、数々の証拠が指し示したその先に居たのは当然イヴリルであったし、それをきっかけにしたかのように様々な罪がまるで間欠泉のように憤怒の熱を持って噴き出した。

 アレクサンダーは見ていることしかできなかった。いや違う。しなかったのだと、そう思うことで心の均衡を保った。

 小さな、と言われれば人生を台無しにされた当人は怒り狂うだろうが、この貴族社会においては小さなと片付けられてしまう事件が起こった。

 主導がイヴリルであることが明るみにでるが、イヴリルは罰せられることは無かった。

 小さな、ということは難しい事件が起こった。イヴリルは王宮に呼ばれたがなにも罰は下されなかった。

 他の者であれば極刑になる事件が起こった。侯爵位から伯爵位への降格で終わった。

 アレクサンダーが誘拐されたのはこの頃だった。

 イヴリルは罪を重ね、爵位が子爵まで落ちる頃、イヴリルの母親が子爵と離縁した。長年の付き合いがあった老公爵の元へと去った。

 イヴリルは放蕩の限りを尽くし、贅を尽くし、金だけは豊潤にあったはずの子爵家を蝕み、父は発狂しイヴリルの首に指を回したという。

 しかし、イヴリルを殺めることは叶わず、子爵は警邏に捕まり牢へと入れられた。

 そして、アレクサンダーは同格の貴族家の令嬢と婚約式を迎えた。

 その後すぐ、イヴリルの母は老公爵と共に全裸でベッドにいる所をイヴリル自身に殺されたという。

 しかし、イヴリルは罪に問われなかったという。



 なぜイヴリルは捕まらないのか。

 なぜイヴリルは許されるのか。



 貴族の中でも王宮に近いものしか知らない事実。

 イヴリルをイーヴィル悪魔へと堕ち腐らせたもの。







 静かな夜だった。

 イヴリルが王位継承者を死に至らしめた件は、さすがに彼女を庇う大きな存在すら見放すものであったようで、拷問の後に監獄島への流刑が決まった。

 子爵家は取り潰しが決まり、牢獄の中で狂った父親は本日打首にされた。

 イヴリルは一日だけ家に帰る権利を与えられ、警邏に見張られつつも一人で一夜を過ごすという。

 アレクサンダーは自宅のベランダで月を眺めていた。

 酒に溺れながらイヴリルの顔を思い浮かべようとした。

 美しい月を見れば、あの頃の無垢な、清純な、あのイヴの姿が見えるのではないかと月を見続けた。

 しかし、アレクサンダーの眼前に浮かぶのは真っ赤な唇と冷酷な瞳。

 絶世の美女、絶世の悪女だった。



 イヴリルは明日、拷問にかけられる。

 指先から順に身をすりこぎで削られ、胴と顔だけを残すという。その顔はもちろん目を潰し、歯を抜き、鼻を削ぎ、耳を捥ぐという。

 街中を拷問後の姿を晒されつつ引き回した上で船にて移送され、監獄島では飢えた男どもの檻へと投げ捨てられる手筈になっていた。

 そう、国民に国が掲示を出したのだ。拷問の様子は、金を払えば見学できるように取り計らうというオマケ付きだ。

 そして死しても晒し者にするという。わざわざ監獄島から遺体を持ち帰り、広場に串刺しにして身が朽ちるまで飾るのだそうだ。

 なんて悪趣味だろうか。

 それを打ち出した国にも、それを楽しみに待つ民にも、アレクサンダーは絶望を覚えた。



 ――いーびーはね、しょうらいあーさーのおくさまになるんだって――

 桃色の頬をした小さな小さなレディの姿が見えた

 ――んもう!わかんない人ね!私は!あなたのことをアルって呼びたいの!――

 さくらんぼ色をした唇の小さなレディの姿が見えた



 「イヴ……イヴリル…………イ、ヴ……」

 アレクサンダーは零れる涙とともに捨てた振りをしていた想いをその名に乗せた。



 「なあに、アル?」

 突然の声に、アレクサンダーが驚きとともに振り返ると、白く清楚なネグリジェを着たイヴリルの姿があった。

 「イヴ、リル……なぜ、なぜここにいる」

 「やあね、あなた。妻なんだもの、ここにいておかしなことなんてないわ」

 アレクサンダーは思わず目元に手を当て頭を振った。

 「酔いすぎたか……」

 「そうね。披露宴で飲まされすぎたのよ。今日は二人の……大切な日なのに」

 イヴリルがアレクサンダーの目の前でネグリジェの胸元のリボンを解いた。

 「私、貴方の為にこれだけは、これだけは死守したのよ。他のどんな理不尽な命令にも耐えて、これだけは貴方に捧げたかったから……」

 白い肩が顕になった。

 清純で美しく、無垢で柔らかな笑みをたたえた女が、アレクサンダーをベッドに誘った。

 (そうだ、俺はこの夜を夢見た。夢見続けて、そしてそう……叶わないんだ)

 アレクサンダーはイヴリルにむしゃぶりついた。

 乱暴に、想いの丈の全てをぶつけた。

 破瓜を痛がる姿に喜び、我が手によって色付く肌に歓喜した。

 何よりも、愛おしそうに「アル」と囁き喘ぐ姿に涙を零し続けた。



 (酷い夢だ。なんて酷い夢なんだ)



 アレクサンダーは意識を手放すその時までイヴリルの体を強く強く抱き締めていた。



 ――アル、アレクサンダー……幸せになってね――



 アレクサンダーはその言葉を聞き逃した。







 朝起きたベッドに血の跡を見つけたアレクサンダーは天を仰ぎ、国の大広場に掲げられる無残な遺体を目にしたアレクサンダーは地を睨みつけた。





 ある年、ある月、国王が弑された。

 民を虐げ、国を戦乱へと導き、疲弊させた王が弑された。

 王の首を取ったのは英雄アレクサンダー。

 彼はその爵位の高さと、薄いながらも王家の血を受け継ぐことから、民の信奉もあつく、新王へと望まれた。

 彼はそれを受け、戴冠の日、バルコニーにてどす黒く血塗れた剣と、愚王の生首を持ちこう叫んだ。



 「これはただの私怨だ!こいつに俺のイヴは壊された!こいつさえ、俺のイヴを弄ばなければこんな悲劇は起こらなかった!!」



 叫びとともに城から紙がばらまかれた。

 それに皆が気を取られた瞬間、アレクサンダーは首を掻っ切った。





 end


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 「馬鹿」

 「なんだ、イヴが真実殺したかった奴を殺してやったのに」

 「私は貴方が幸せになってくれたらそれで良かったのよ?だからあのクソムカつく清純お嬢様を生かしておいてあげたのに」

 「彼女は彼女で幸せになるさ」

 「そうね、どっかのお馬鹿さんが婚約破棄なんてしたから、幼馴染と結婚出来るのかもね」

 「それじゃあこっちの幼馴染も結婚するか」

 「ここで?」

 「そう、この地獄で」

 「馬鹿ねぇ……あんなことしなければ、貴方は天国に行けたでしょうに」

 「馬鹿はイヴのほうさ。お前を追いかけるためにはああするしか無かった」

 「ほんと……馬鹿ねぇ……」

 「泣くなよ。地獄一幸せな夫婦になる予定なんだから」

 「おかしいったらないわ!私の愛したアルって、こんな人だったかしら!」

 「嫌いになるか?」

 「いいえ!大好き!!私の旦那様!!」


 ――二人は地獄への階段を手をつなぎ笑いながら駆け下りていく――
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