その執着、愛ですか?~追い詰めたのは俺かお前か~

ちろる

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 またとない千載一遇の好機だと思った。
 これで、南波ななみちゃんと関係を持ってしまえば、真白ましろのことを忘れられるんじゃないか、そう思った。

 南波ちゃんの部屋は全体的にホワイトなファニチャーで揃えられた綺麗な部屋だった。ほわほわしたその空間は彼女のイメージ通りだ。

風間かざま先輩、座ってくださいー」

 南波ちゃんが俺を白の革張りのソファに座らせ、自らも隣に腰かけた。
 腕と腕が張り付きそうなほど距離を詰められ、南波ちゃんはどこまで正気なんだ? 俺がどう行動するか試されてる?と思考を巡らせる。

「南波ちゃん? 大丈夫? 大分酔ってない?」

「私、酔ってませんよ? 酔ってたふりです」

 途端、静穏な口調になる南波ちゃんに目をしばたたかせる。
 やっぱり、試されていたのか、と息を詰める。でも、これは俺にとっても絶好のチャンスなわけで。

「南波ちゃん? どういう意味で言ってる?」

 問いかけると、南波ちゃんが真っ直ぐ視線を絡めてきて。
 身体の向きを変えて、俺の腕を引いて正面に向き合わされる。

「私、風間先輩のことが好きです。わかりません?」

 コクリと首をかしげながら言って、首に腕を回して来た。
 そっと、ソファにもつれ込む。南波ちゃんを押し倒す形になって。

 俺はゆっくり南波ちゃんの頬に触って──。

 口付けよう、と思ったのに。
 思ったのに、南波ちゃんが目を見開いて俺の顔を見つめていて、どうしたんだろうと思う。

 ふと見たら、南波ちゃんの頬に、一滴の粒が落ちていた。
 ああ、俺は泣いているんだ、と、そこで気付く。

 昨日、真白と別れた昨日、真白がしてくれた優しい口付けを思い出してしまって。それで、俺は泣いているんだ、と気付く。

「ごめん」

 俺は南波ちゃんの腕を首から外した。
 南波ちゃんが慌てたように起き上がって俺の顔を覗き込んだ。

「風間先輩? どうしたんですか⁉」

 年下の女の子の前で涙を流すなんて恥ずかしすぎる。
 でも、堪えきれないんだ。頭が、胸が、心がいっぱいなんだ。

 起き上がった南波ちゃんの頬に垂れた、自分の涙を虚ろげに見つめた。

「俺、好きな人がいるんだ……」

 どんなに忘れようとしたって忘れられない、好きな人が。
 こんなに忘れようとしたって忘れられない、好きな人が。

 忘れられない人がいるんだ──。
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