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12歳の少年がサムライになれる学校へ

小さな王 小島友愛

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平穏な日々を壊す悪意の手は突然、やってくる。


「高校の教員が、女子生徒に暴行した上、倉庫に閉じ込め殺害しました。」 朝夕新聞

「一家5人を殺害した男は現在も逃走中、近隣の住民の皆さんはくれぐれもご注意ください。」 読日テレビ

「とにかく、何かを燃やしたかった。13歳の少年がゴミ捨て場に火をつけ一家全焼・・・」 Yazooニュース

「東京駅で笑いながら殺人・・・駅員1名重傷」 Twipper



世間から溢れてくる犯罪ニュースは膨大だ。このように毎日どこかで犯罪は起きている。


日本で、1年間に確認されている刑法犯罪は201万件と言われている。

その中には、国家や大きな組織が絡んだものが、わずかだがあると言われている。

そう、事件の中には、普通の人ならば知らないような国家や組織、世界の闇が隠されているのだ・・・




世界の大きな闇が隠されている事件と言えば、アメリカのこの事件もだ・・・・




それは今から8年前・・・・・ 運命の日 9月13日・・・・・



晴天の青空・・・・何事だろうか?

不安定な運転をする大型旅客機が空を舞っている。

人々は青空を見上げ、その旅客機の様子をジッと観察する。

旅客機はどんどん下に下がってくる。地上に近づいてきてるのだ。

何か嫌な予感がする。そして、やがて事は起きた。

突然、旅客機は恐ろしい轟音を立てて、近くの超高層ビルに追突したのだ。

ビルは大爆発を起こし、たちまち崩壊する。

ビルにいる人々は泣き叫び、内部で燃え盛る業火から逃げようと、窓から飛び降りて命を絶つ。

崩壊するビルの波から逃げようと、真下にいた大勢の群衆が走り出す。

しばらくしてから、消防隊員の救命活動、消火活動が始まる。

その光景はまるでこの世の地獄のような有様だった・・・






そんな恐ろしい夢を少年、小島友愛(こじまゆうあ)は見ていた・・・・

「うわあ!!」


また、あの夢を見ていた・・・・


「あれ・・・今まで僕何してたんだっけ?」


今、彼は真っ暗な汚らしい部屋の中にいる・・・・・

周りにはガラスの破片や、山積みに積まれた毛布類、明らかに誰かが捨てていった思われるコンビニの弁当のゴミ・・・

それらが窓から漏れている月の光であらわになる・・・


そこで小島は、ここがどこか思い出した。


「そ、そうか・・・・僕は友達と、この『新潟ロシア村』に一緒に肝試しに来たんだ・・・にしてもなんで僕は眠っていたんだっけ?それに、みんなは・・・・」


なぜ自分は、この廃墟『新潟ロシア村』で眠っていたのか?

それを思い出すために、小島友愛は過去の記憶にさかのぼってみることにした。



まるで脳内で、過去・現在・未来を旅できる列車に乗るかのように、記憶のレールに辿っていく・・・




そう言えば、あの時も同じように高層ビルが崩壊する夢を見ていたな・・・


中学校生活初日の日・・・

あの日、寝坊をしたんだよな・・・


時計を見るともう7時だ。あたりを見舞わす。朝日がカーテンの閉められた暗い部屋をかすかに照らしている。友愛は飛び起き、急いで学習机の上にある教科書をリュックに投げ入れる。そして小さな身体には少し大きいぶかぶかな制服を着て、階段でキッチンに降りた。

[あら、遅いわね。]

母の紗江が言う。

[起こしてよ!母さん!]

[何度も起こしたわよ。あなたが起きないからいけないのよ。]

いつも通りの母親とのやり取り・・・・だが今日はちょっと違う。なぜなら今日は友愛にとって中学生活最初の日。緊張と楽しみに心を震わせながら、入学式にのぞむのだ。



どんなクラスメイトがいて

どんな先生がいて

どんな教室なのか

どんな部活があるのか


全ては予想外だ。想像を膨らませながら、友愛は朝食のご飯と味噌汁を勢いよく口にかけ込む。

「いってきまーす」

友愛はリュックを背負って家を飛び出す。

家から学校までは2キロとかなりの距離だ。走らなきゃ間に合わないかもしれない。友愛は走って、走って、走りまくる。

インドア派なだけに、こういう時はかなり辛い。

一応事前に家から学校までの道のりを確認しておいたが、やはり始めてなだけにこの街にあるコンビニ、ガソリンスタンドでさえ新鮮な光景だ。

学校の近くの信号まで来ると、同じ制服を着た子供達が何人も歩いている。この道に間違いなかった。

やっとひと安心ができ、友愛は走るのをやめ、歩くことにした。



信号を待っている間、呼吸を落ち着かせ今日の夢について考え始めた。



たまに見るけど、あの夢はなんなのだろう・・・


旅客機がビルに追突し、大爆発する物騒な夢・・・


夢の中では、自分はその現場のどこにいるのかはっきりしておらず、崩壊するビル内部の様子をなぜか鮮明に見れているし、ビル外の様子もなぜかしっかり見れているのだ。


ビルから落ちて亡くなる人 業火に巻き込まれ苦しむ人

崩れゆくビルの崩壊の波から逃げ惑う人


死の恐怖に立たされている人々の顔をはっきりとおぼえているのだ。



昔見た何かの映画の記憶だろうか? いや、そうではない。


友愛にとってこの夢はどうしても現実に起きたことにしか思えないのだ。 


より昔の記憶をたどろうとするが、小さい頃の記憶はあまりないので中々、夢に該当するものが見つからない。


友愛が見る夢は大体、大好きなアニメの登場人物やスパイ、侍などになりきった妄想の世界だ。

見るものは大体、非日常性に富んでいるが、ビル崩壊の夢ははどうしても現実世界と切り離すことができなかった。

あまりにも残酷な夢なので、過去に何度か母に相談しようと思ったが、たまに見るだけだし、気にしないでおこうとも思っているのだが・・・・




「おはよ、同じ新入生だよね?何か落としたよ」


友愛が、歩きに変えてからしばらくして 誰かが話しかけてきた。


セーラー服を着た上品そうな美形の女の子だ。

黄金色の髪、彫刻のような美しい顔立ち

彼女は白人、または白人の血が入っているハーフかもしれない。

おとなしそうだが、堂々としている所もあり、しっかり腕を伸ばして友愛が落としたハンカチを返す。


「あ、ありがとう・・・」


友愛は少し緊張気味にハンカチを受け取り、そのまま背を向けた。

しかし、彼女は友愛をそのまま逃がすことはなく、色々と話しかけてきた。



「ねえ、ねえ どこに住んでるの?趣味は何?」

元来、コミ障な友愛にとって、元気な女の子は、一番苦手とする部類だ。


つい、オドオドしてしまう。



すると、今度は向こうから・・・


「お、スパイオタクの小島が来たぞ。」 

「いつも本ばかり読んで妄想にふけってる小島さんじゃないすか・・・」


小学生の頃からのイジメっ子たちだ。


「へっへへへ スパイに憧れている中二病の小島さんのお通りだ。後、一年経てば本当に中二病認定だな、そんときはパーティー開いてやんよ。黒板に本物の中二病認定おめでとうってな」


「なんなの、あいつら・・・」


女の子は、イジメっ子たちが去るのを睨みながら、そう呟いた。

友愛は恥ずかしかった。

自分が からかわれているのを、早速、新しく会った女の子に見られれたのだ。

彼の小さなプライドが顔を真っ赤にさせる。

女の子は友愛のいたたまれなさそうな顔を見て話題を変えた。



「その制服、東京第二中学?」

「あ、うん・・・」

「私も今日から東京第二の生徒、同じ新入生みたいだね、よろしく」


やはり 彼女の真っ直ぐな目を友愛は、正面から見ることはできなかった。




友愛は、このように昔から誰かにイジメられていた・・・


ストレートヘアが特徴的な髪型に 弱々しそうな顔

細く小さな身体、運動神経も悪く

そして、性格もおとなしい

文系で読書家


これらの見た目や性格などの要素に加えて、どんなにバカにされても どんなに暴力を振るわれても、全く抵抗しない友愛はイジメの良いターゲットだった。


そんな、どこに行っても常にイジメられる人生を送ってきた友愛は、すっかりあらゆる物事に対する自信を無くし卑屈になり、誰かとコミュニケーションを取ることすらも、びくついてしまうようになった。





やがて、友愛と女の子の2人は これから通う 東京第二中学校に着いた。

校舎はだいぶ古い様だ。

白かったであろう外壁はだいぶ黒茶色に汚れており、ヒビも入っている。

当たり前だ、80年の歴史もある公立中学なのだから。

まあ、そうは言っても、生徒と言えばスマホでゲームしたり、動画見たりとごく普通の今時の学生がいるだけだが・・・



ザワザワ ザワザワ・・と生徒たちの話し声が聞こえる。


校内に入ると、すぐに正面玄関から近い体育館に新入生らしき生徒たちが入っていく。



体育館の中央にはホワイトボードがあり

そこに「新入生クラス振り分け」と書かれた紙が張り出されていた。


「あ、あたしA組みたい、あなたは?」

「えっと・・・」

「名前は、何て言うの?」

「こ、小島友愛・・・」

「小島君ね、小島君、小島君・・・」



彼女は友愛の名前を探し始めた。

頼む、お願いだからこの子とは一緒のクラスにしないで、あんな恥ずかしい場面見られて、1年間一緒に過ごすなんて・・・

と友愛は願ったが・・・




「やったね、一緒のクラスだよ。」







友愛はトボトボした足取りで A組の教室へ向かう。


「あ、私、小野田リリカ。リリって呼んでね。」

「うん・・・」


嫌なことは、さらに続く。


あのイジメっ子たちが全員、同じクラスなのだ。


いやいやそんなことあります?

誰かわからないけど、とにかく誰かに思いきり八つ当たりしたい友愛。

イジメっ子たちは 友愛を見るなりニヤニヤし始め、彼の元へ近づいてきた。




・大柄でパワーばかりの大堂に

・長身で 似合わない腰パン姿をしたシャクレ

・そして、頭脳派で言葉で他人を傷つけることが得意な 湯河



ザ・イジメトリオだ。


こいつら、取り立ててカッコいいわけでもない。

むしろ、ブサイクの部類に入りそうなのに、なぜか女子グループのとりまきがいる。

いわゆる陽キャ連中だ。

まあ比較的体格も大きいし、ワルの雰囲気を持ち合わせてるから、権威にすがり群れることしか能がないような奴らが金魚の糞みたくくっついてくるのだろう。

学生というのは、男女問わず多少ワルに憧れるものである。ワルであることが権威となるからだ。


ワルであることが、クラスの雰囲気を支配するブランドなのは学生期あるあるだろう。


それに比べて、友愛は体も小さくガリガリ。もちろんワルの雰囲気などあるわけでもなく、小学校でも常にクラスの端っこで本を読んでいた。いるのか、いないのかさえわからないモブ的存在だった。

いじめトリオたちは、そんなおとなしい友愛をいじめることでクラス内に権威を示すという卑怯なやり方で己らの絶対的独裁支配を確立していた。

運動会、学芸会、学校祭、全ての行事で「俺達の意見に逆らう奴がいたら友愛と同じ風に扱うぞ!」と言わんばかりに、委員長そっちのけで権力を奮っていた。

中学でも、奴らはそんな風にお気に入りのサンドバッグ【友愛】を使って権力を奮うのだろう・・・




トリオは早くも クラス内で権力を見せており、机や椅子を使って 障害物鬼ごっこなんてバカな遊びをしていた。


「あー、入学式ダリー!うぜえー」

「おい、どけろよ、これから俺らがここで遊ぶんだよ。」


周りの男子は 彼らの遊びのために、遠慮して自分たちの机や椅子から離れ、隅っこで怯えている。

どうやらトリオたちの横暴振りは、ここらへんでは有名らしく、違う小学校に通っていた同じ新入生の子達も中学に来る前から知っていたらしい様子だ。

一人じゃ何にもできないくせに、集団で群れた時は強くなる。人間というのは不思議な魔法にかかっているもんだ。


「よう、小島 その子とデート楽しかったか?」


友愛は無視した。こういう時は返答したほうが負けだ。負けっぱなしでも、もう中学生なんだ、小学校の時みたいにいじめられてたまるか


と友愛なりの負けん気を見せたが・・・



相手にされていないことに、ムカついた大堂・・・

奴は体は大きいが器は小さく短気な男だ。太っているせいか制服のボタンは今にもバチンと外れそうだ。



「おい、てめえ、返事しろよ!」 


ただのチンピラじゃねえか、知ってたけど・・・・・


すぐに手が出る大堂、思いきり友愛に平手打ちを食らわせた。



「友愛!」


リリは友愛に駆け寄って、「大丈夫?」と心配そうな目で見つめる。


「あなたたち最低ね、自分の感情もまともに制御できないなんて獣と一緒よ。友愛は何もしてないのに・・・」

リリは軽蔑した目でトリオたちを見る。  


「なんだ、お前は!」 シャクレは甲高い声でリリに近づく。

「へ、生意気な奴だ。俺達の恐ろしさを知らないようだな。おい、少し学ばせて賢くしてやれよ。」



湯河は グフフフと気持ち悪い声で笑う。 友愛は頬の痛みをおさえながら泣くのを我慢する。



嫌な予感を感じる。


奴らは、非常に暴力的で女の子にも容赦はしない。


奴らならリリに何をするか分からない・・・


3人はグヒヒヒと笑い始める。


ヤバい。


3人の大きな影が、友愛とリリに覆い被さる。

助けないと・・・そう心の中で焦る友愛の気持ちとは反対に体が全く動かない。



その時!

イジメトリオの目の前に思い切り椅子が飛んできた。



「ぐあ!」



3人は押し潰されたカエルのように倒れこんだ。


そこに追い討ちをかけるように、身体の小さな謎の男子生徒がが両手で椅子を持って、3人に襲いかかった。


その子は椅子でトリオたちを何度も叩く。「ギャー」と いう 恐怖の断末魔が教室中に何度も響き渡る。


クラスメイトはみんな青い顔でその様子を見ていた。その子のあまりの残忍な行いにみんな恐怖で動くことができずその場に立ちすくんでしまった。



「た、助けて!」 「も、もうやめてくれ!」


3人が泣き始めた頃、ようやく先生が駆け付け、その子は椅子を放り投げ攻撃を止めた。

湯河は頭から血を流しており、シャクレは泣き晴らし、青いアザができていた。大堂は死んだのか?気絶したのか?どっちでもいいや・・・



「な、何、これは一体どういうことなの?」



先生のその言葉を無視し、その謎の子は教室を出ようとする。


教室を出ようとする前に、その子は友愛に近づいてこう言った。


「抑圧されている人間が、自由に胸張れるよう生きる方法はただ1つ、反抗だ。力を持って反抗することこそ 自由になるための唯一の手段だ。

お前はなぜ、闘おうとしない。己と、目の前の相手と・・・

弱き己を変え、目の前の強大で卑劣な悪と戦え。」



何だ、この子めちゃくちゃ中2病くさいこと喋るじゃん。俺より中2病じゃね?

こんな状況なのに思わず友愛は吹き出しそうになる。


「ダメよ、暴力を振るったら 彼らと同じ生き物になるのよ。」


リリはバカみたいにド正論をぶつける。

その謎の男子生徒は、前髪と襟足が少し長い長髪で小さな身体にすごくマッチするような可愛らしい顔をしていた。

しかし、目だけは鋭く、子供には感じられない何か大きな闇を宿していた。



その目でリリを ジロリと睨む。


そして、こう言った。


「じゃあ、お前は今の状況で何ができた? 今じゃなくてもこれからも黙り続ける限り、そいつは またイジめられるだけだ。大人なんて所詮何もしてくれないからな」


彼は、無理矢理出したような低い声でそう言い、教室を出ていった。


彼の言うことにも一理あった。


行動しなきゃ現状は打破できない。


友愛は自分と同じぐらい小さな子が一生懸命暴れているのを見て、自分が情けなく思えてきた。


自分には何もできない



自分の無力さに絶望を感じる友愛だった。



「ちょっと君、こっちへ来なさい。」 


先生がその子に声を掛ける。



「ヤバ・・・」 


そう呟いて彼はスタコラ廊下へ逃げた。


「こら、待ちなさい!」





それから、イジメトリオが友愛のことをイジめることは なくなった。

そしてクラスで 暴れることもなくなった。前なら、先生が注意しても全く聞くことはなかったのに・・・

どうやら、あの子の存在が かなりトラウマになってるらしい。



友愛を助け、イジメトリオをやっつけた小さな子の名前は【冴鶴 廉】


彼と同じ小学校の子たちからの話によると

「東京で最も危険な小学生」 なんて言われていたらしい。

自分が気に食わないと思ったやつには

無言で手を出すため 、誰も彼に近寄らず不良だが、誰ともつるまない元来孤独な一匹狼らしい。

彼を知っているもので、彼の周りに友達と言える存在を見たことがないらしい。

学校でも 全く誰とも話そうとしないため、彼の声を知らない人が大半だ。

ケンカ・・・ならまだしも彼が動くとただの殺し合いになるらしい。

しかも、一方的に 冴鶴が攻撃するだけの・・・もはや殺人だな。




男女問わず、人を傷つけることに ためらいがないよう。それぐらい、ケンカ慣れしてるようだ。



彼が今までの人生で起こした1番の大きな事件は

教師を血祭りに上げたこと・・・

小学五年の時、鉄バットで 教師を後ろから不意打ち・・・

教師は頭と右足、両腕に重傷を負い全治3ヶ月という結果に・・・

これは、さすがに警察沙汰になり、その学校の評判もかなり下がった。

そんなことだから、彼の人生は何度転校を繰り返したか知れない。

両親が亡くなり、グレたなんて噂もある。



しかし、友愛には どうしても冴鶴が悪い人間には見えなかった。



自分が助けてもらったということもあるが、勘とでも言えばいいのか、彼からは本物の悪の匂いが感じられなかった。

もちろん他の子には感じられない闇や殺気はあるが・・・・

イジメトリオは根っからの性悪、魂の腐った匂いがするが、冴鶴からは、その匂いは感じられないのだ。




イジメトリオが友愛の攻撃をやめたのはいいが、今度は新しい悩みが彼を苦しめた。

コミュニケーションが苦手な彼にとって、周りからグイグイ話しかけられるのはストレス以外の何物でもなかった。

クラスにはイジメトリオ以外にもクセの強い連中が多く、特にリリは ひっつき虫のように友愛に話しかけてくるから 疲労が溜まるばかり。その疲労から、友愛は授業中死んだようにいつも眠ってしまっている。


にしても、不思議なのはリリみたいな明るくて可愛い女の子が、なぜ自分のようなイジメられっ子に・・・

友愛にとってそれが一番の不思議だった・・・

もしかして、僕のことが好きなのか?と変な勘違いをして、変な行動をしたら、大きな落とし穴が待ってるだろうから過度な期待をしないのが友愛の信条である。

そういう失敗例は、ネット社会の現代なら先人たちの知恵として多く載っているから、今の子供たちは
あまりそういう面では失敗しないかも・・・



そんなことは、いいとして・・・


友愛「これから1年、いや3年果たしてやっていけるかどうか・・・」


と友愛は、先の思いやられる中学生活に思いきりため息をつきながら、家に帰る。


「友愛、お帰り!どうしたの?その顔の傷?」


友愛は、母の紗江に、イジメトリオたちにつけられた頬の怪我を心配される・・・


「な、なんともないよ・・・・ちょっと転んだだけ・・・」


まさか、仕事で忙しい母さんに、イジメられて殴られたなんて言えない・・・

余計な心配はさせたくない・・・


「そっか・・・・」

母さんはやつれた笑顔でそう言った・・・・





テレビを見ながら、夕食を食べる友愛と紗江・・・・


大体、この時間帯のテレビはニュースばかりだ。


アナウンサーがどうでもいいニュースばかり報道してる。

「続いてのニュースです。自政党の海江田俊介議員が新たなチャレンジを始めました。人気動画サイトYourtubeに自身のチャンネルを作成し、自らの政治活動を公開するそうです。Yourtubeで政治活動を公開するのは、日本では海江田氏が初めてなようです。その名も【かいえだチャンネル】・・・・」





友愛「なんか、ニュースばかりでつまんない。」

紗江「確かに、友愛が好きそうなアニメはこの時間じゃないね。」



こういう時、どこかの母親なら「ニュースを見たほうがいいよ」と「もっと、社会に関心を持ちなさい」
とか言うかもしれない。

でも母さんは、僕がどんなことを言おうと大体肯定してくれるから、いつも安心して話せる。時々、適当なことも言うけど、決して否定しない母さんの懐の深さに凄い尊敬している。



「続いてのニュースです。世界各国で同時多発的に起きているテロについてです。政府はいよいよ三ヶ月後に控えた東京サミットに向けて、東京都の治安を一層強化しようと・・・」

その日、そんなニュースがテレビでやっていた時、母さんは少し厳しい表情でチャンネルを変えた。


「次のニュースです、あのフォートセトリック爆破事故から5年の月日が流れ、ようやく研究所は元の姿を取り戻しつつあります。」

別チャンネルでは、こんなニュースが流れていた。

母さんは、いつもの穏やかな表情から、また一層厳しい顔つきに変わり、ニュースを食い入るように見始めた・・・・我が母ながら不思議な人だ・・・




友愛は食事が終わると、お風呂に入り、ご飯を食べ、歯磨きをする。

歯磨きをしながら、自分の部屋の本棚からスパイ小説の単行本を取り出した。

その足で、天井の屋根裏部屋に入り、屋根に登る。

上で星空が輝く三角屋根に寝転がり、歯磨きをしながらスパイ小説を読むのがいつもの日課であり、友愛にとって至福の時間だ。

友愛の住む住宅街は、東京では珍しく星の見える場所にある。



青黒い夜空に チラホラと輝く星たち・・・

この時間と眠りにつく時だけが、友愛を夢の世界へといざなってくれた。

しかし、友愛がわざわざ屋根を登る理由にはもう1つあった。



亡くなった父、冬樹の言葉を忘れないためである。


父が亡くなる3日前の夜、5歳の友愛は父に連れてこられ、この屋根で一緒に座りながら、星を見ていた。



「友愛、なんでお星さまがあると思う?」


不意の父の問いに友愛は


「ううん、わからない」

と答えた。


父は笑顔で、だが少し儚げな口調でこう話した。



「 【明日太陽が輝くためには、今は夜の星が必要なんだ。】


太陽みたいに大きな存在ではないが、夜に悲しむ人々を支えるため、そういう人を少しでも減らすために 星たちは存在しているんだ。


父さんはね、そういう人になりたいんだ。


友愛が、どういう人になるかはわからないけど、苦しんでいる人を1人でも笑顔にできる、そんな人になってほしいな。」




その言葉を残して、出張に行った父は3日後に事故で亡くなった。


その時の友愛はコクリと頷くだけで、父の言葉に、何もまともに返答できなかった。

何か良い言葉を彼が話しているのはわかったが、まだ、小さかった友愛には到底理解できなかった。


それでも父は伝えたかったようだ。


だからこそ、今でも友愛はあの時のことを覚えていたようだ・・・


父のあの笑っているが儚げな表情・・・


そして、その時は理解できずにいた優しい思いが込められている言葉すら鮮明に覚えていたのだ。




今、思えばあの言葉には、父の全てがつまっていたような気がする。


表情こそ儚げではあったが、まるで自分がこれから死ぬことを予想していたかのように必死に1音1音、魂を込めて述べていた・・・


そんな印象だった・・・




「父さん・・・」



悲しき思い出はあるが、今の友愛を支えているのはベッドで横になりながら読む侍や偉人の伝記、スパイなどの冒険小説、そして亡き父のその言葉である。




友愛は 下に降りて自室のベッドにつく。

部屋を暗くし、ベッドの中でライトをつけ、本を読み始める。



段々眠くなってきた。


いつの間にか寝落ちしていた。


自分が主人公になることができ、空想が何でも可能な、幸せたっぷりの夢の世界へ、友愛は入り込んでいった。





そして、中学に入学して、少しの月日が経った頃だった・・・


一年生最初の行事である新潟での研修遠足で事件は起きたのだ!!











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