上 下
78 / 112
サムライ校での学園生活

決戦の港

しおりを挟む

木村「ほう、このポイズンという人物は相当悪どいな・・・表に出てないだけで、いくつもの殺人を犯している。主に【黒丸】の中では、日本とフィリピンをまたいだ麻薬密売と人身売買を担当するチームに所属し、どうやらそのチームのリーダーのようだね。幹部ではないが、現場の指揮をとり組織の中では重要な人物みたいだ。

リスクのある仕事はアシがつかないよう、なるべくチームのメンバーは使わずに、不良少年をバイトとして雇い、行うことがあるらしい。」


木村は、顔写真と共に記されているポイズンの詳細なプロフィール情報について、2人に教えてくれる。

さらに木村は、続ける。


木村「しかも中国拳法の達人らしい。その中国拳法の技術を利用して多くの人間を殺してきたようだな・・・組織の裏切り者やビジネスの邪魔をする敵対勢力や警察関係者、そして単なる一般人から政治家に至るまで、ものすごい多くの人たちを・・・」


それを聞き、友愛と麗太は、また改めて恐ろしい現実の冷たさを再認識し、背中が凍り付いていくのを感じた。

麗太「僕らは、そんな恐ろしい人物を敵に回そうとしていたのか・・・」

木村「ま、しかし顔写真があるだけで、もう位置の特定に十分な材料は揃った。」

木村は、そう言って、PCの画面上で顔写真をコピーし、次にダークウェブのページから、最強ソフト【human Wisdom】の画面に戻ると、そこから東京都の地図を映し出した。

木村「黒丸のアジトの1つは、東京にあるらしい・・・それを考慮した上で、ポイズンという人物が、東京にいると仮定しよう。そして過去三日分の東京中の防犯カメラと照合してみよう。」

麗太「え、どうやって?」

木村「都内のネットワークカメラや無線カメラのデータを、遠隔操作でいつでも盗み見ることができるように、このhuman Wisdomに設定してあるから、すぐにできちゃうわけさ。」

警察の捜査システム並みのクオリティだ・・・このhuman Wisdomという最強ソフトは・・・

警察もNシステム(自動車ナンバー自動読取装置)や【全国通信指令網システム】など、犯罪者を逃がさないための様々な遠隔探査装置があるが、これらのシステムの役割をhuman Wisdomが1つあるだけで、全てこなせてしまいそうだ・・・


友愛「でも最近の防犯カメラってインターネットからハッカーに乗っ取られないように、どこも小型の警備システムを内臓してるんじゃなかった?もしくはインターネットにつなげず、無線カメラにしておくかどちらかだよね?・・・それでどうやって都内全てのカメラを乗っ取ったの?」

木村「簡単さ。自衛隊や警察が使うような警備システムじゃなきゃ、民間の警備システムなんてどこも同じようなもの・・幾つか複雑なパターンがあるだけさ。それを調べ、システムのパターンの詳細をパソコン上にコピーしておく。後はそのコピーしたパターンをhuman Wisdomに学習させておけばいい。そうすれば一斉に乗っ取りをかける際に、human Wisdomが自動的に学習したパターンに応じて、警備システムを解除してくれるんだ。

無線カメラに関しては、こちらからインターネットに無理やり繋げる方法があるんだが、その説明は君たちには少し難しいだろうからやめておくよ。まあ、簡単に言うと、近くのWi-Fiを・・・」

木村は、やめておくと言っておきながら、小難しい説明を続けようとする。

友愛「ごめん、ありがと・・もうお腹いっぱい。僕ら凡人にはその説明だけで頭がパンクしそう。」

木村「あ、そう・・・・・お!君らのお目当ての人物は、相当用心深い性格か、なるべく防犯カメラに映らないようにしてたらしいけど、何台かには映っちゃってますねえ・・・」

木村は、少しテンションが上がってるのか、楽しそうにそう言った。


フードで顔を隠したポイズンらしき人物が、都内のある場所の無線カメラに映っていた。

ちなみに3日前の映像である。


木村「仮にどんなにフードで顔を隠していても、このhuman Wisdomの骨格測定機能で、カメラ越しでも誰かわかってしまうのさ。」

マジで最近の技術スゲー!つーかこんなソフトを作ってしまう木村とアノニマス先生が単純にスゲー・・・

木村「このポイズンという人物も油断したな・・・自分が大きな組織に守られているから絶対に警察に捕まらない自信があるんだろうけど、このhuman Wisdomは、カメラに映ってしまえば、あらゆる個人情報をあぶり出してしまう恐ろしいソフトなんだぜ。」

麗太「でも、一体ポイズンは何をしているんだろう?」

友愛「てか、そもそも画像の場所が分からないね。」

カメラの画像が少し荒いせいか不鮮明であり、映っているポイズンが何をしているかよくわからない・・・
そして、彼が立っている場所がどこなのかもハッキリとは分からない。

木村「画像解析機能で、もう少し高画質にして、何をしているのかハッキリさせるか・・」


human Wisdomに搭載されている画像解析機能で、ポイズンの鋭い目つきの不気味な顔がハッキリと映し出された・・・

どうやらその時、彼がいた場所は、大型船ばかりが浮かぶ東京湾の港のようだ。

そして、スマホで誰かと話している様子・・・


木村「お、もうここまでヒントがあったら、後は簡単だ。human Wisdomの【読唇機能(口話機能)】で、彼の唇の動きから、何を話してるか解析するぞ!」

human Wisdomに搭載されている機能は、物事の事実を解析にするには、かなり有効なようだ。

口の動きを見て話の内容を理解する【読唇機能(口話機能)】は、ポイズンがスマホで誰かと話している内容も全て明らかにしてしまった。

そして、【体温探知機能】でカメラ越しに、ポイズンの体温が上がっていることも解析できた。

どうやら何かが嬉しくて、体温が上がっているようだ。


【読唇機能(口話機能)】から読み取れた会話の内容が、画面に文字化して映し出される。


ポイズン「ええ、ガキ2人をフィリピンの大金持ちの旦那が買ってくれることになったんですよ。
商談成立っす!全く、これだから人身売買はやめられないんすよね。メスの方はビジュアルがいいせいか
5000万で買ってくれるそうです。オスの方は3000万だそうです。いや~また儲かりましたね。

えっと・・・予定は5日後の昼12時、ええ、ここ東京湾のB倉庫です。安心してください、きっちりやりますから。

商品名は【小野田・クリスティーヌ・リリカ】、【小西武文】、よろしくお願いします。 」


体温が上がっていたのは、人身売買の商談が成立したからだった・・・

スマホで喋っていた相手は、恐らく【黒丸】の幹部であろう・・・








そして、場面は回想から現在に戻る。


友愛 麗太「東京湾のB倉庫!!」


友愛と麗太は、東京湾に到着していた! 


2人は、再びボディーアーマーを装着する・・・そしてポケットから、どこから盗んできたのだろう黒いイヤモニを耳にはめる。恐らく学校の倉庫にあった軍事訓練用のイヤモニかと思われる。
ちなみにイヤモニとは、ボディーガードや兵士が、離れた場所から仲間同士で連絡をとり合ったり、指示を伝えあったりするために、よく耳につける装置だ。

麗太「木村!聞こえる?東京湾に到着したよ。」

木村「はいはい、聞こえてますよー」


そう、友愛と麗太は、イヤモニを通して学校にいる木村から指示を受け、救出作戦を遂行するのだ。

時間は11時20分・・・

ポイズン率いる【黒丸】の人身売買チームと、フィリピンの富豪との間で取引が始まるのは12時・・・
そして、場所は東京湾のB倉庫・・・


木村は、今4時間目の授業をサボって、寮の自分の部屋からパソコンで2人の様子を見ている・・・

木村のパソコンと、友愛のスマホのカメラはあらかじめ繋がっており、木村はパソコンから
友愛たちが見えるようになっている・・・

木村「よ~し、接続が確認された・・・まあ、さっきの授業中考えていたんだが、ハッキリ言って僕も大した作戦を君たちには授けられない。なぜなら、どういうやり方をしても現実的に君らに勝ち目はないからだ。相手はおそらくかなりの人数がいるだろう。しかも君たちよりデカい凶暴な大人たちだ。そして拳銃やナイフという飛び道具もあるだろう。対して君らは2人だけ・・そして、武器と言えば軍棒だけだ。これで、日本最大の犯罪組織に立ち向かえという方が無理がある。ここに来て言うのもなんだが、悪いことは言わない、今なら引き返すこともできるぞ。」

木村は、今更ながら2人に最後の忠告を告げた。

友愛「分かってるさ・・・無謀なのは・・・死ぬこともわかっている・・・」

2人の手は震えていた・・・

麗太「でも、ここで引き下がったら、本当にあいつに負けた気がするんだ・・・いつも口喧嘩ばかりしていた憎い幼馴染に・・・」


麗太は、少し目に水をためていた・・・リリの顔を思い浮かべたんだろう・・・


麗太「友愛・・・本当にごめんな・・・こんなことに巻き込んで・・・」

麗太は、勢いで作戦に誘ってしまった友愛に今更ながら申し訳なさでいっぱいだった・・・

友愛「今更謝らないでよ。僕だって決めたんだ・・・どうせ生命を使うなら、何かこの世界に傷跡を残すようなことをして使い果たすって・・・この世界を守るために死んだ父さんみたいに・・・それに女の子だろうと男の子だろうと、どんな命でも救い出すのがサムライだろ?」


なぜか心が軽い・・・自分には似合わない妙にカッコつけたセリフもスラスラと出てしまう友愛・・・

これから恐ろしい戦場に行くというのに、2人は恐ろしいほど落ち着いていた・・・

そう、覚悟を決めていたからだ・・・死ぬ覚悟を・・・

そうだ・・・サムライとはいつだって覚悟を決めて、戦(いくさ)にのぞんだんだ・・

だから、日本の侍という民族は、世界最強の強さを誇ったんだ!!


少年たちよ!

己の中にあるサムライを目覚めさせよ!

駆逐せよ!

腐った大人たちを!

社会を!

悪を!

君らの中に眠る燃えたぎる熱き魂は、2000年の歴史を持つこの国の守護神【侍】の大和魂のはずだ!!





木村は諦めたように、ため息をつく。

もう何も言うまいと決め、いつも通りのクールな笑みを浮かべた・・・


木村「よし、じゃあ絶望的な数字だが、1番勝算の高いルートを通ってB倉庫に向かおう。まず僕のパソコンから友愛のスマホにゴーグルマップをもとに作成したB倉庫までの地図を送信するね。」

友愛「サンキュー」

送られてきた地図を開く。

友愛と麗太は、イヤモニを通して木村の指示を受けながら、道を進む・・・

木村「前の防犯カメラの映像を何度も見直して、ポイズンという男の行動と性格を割り出したんだ。用心深い男だから、おそらくB倉庫までの道のりの要所要所に見張りをつけているはず・・・」


2人が進んだ先には、人相の怪しい3名ぐらいの男たちがいた・・・

恐らく見張りだ!!・・・慌てて巨大コンテナの影に隠れる友愛と麗太・・・


友愛「君の言う通りだったよ・・・」

木村「だろうね・・・こっちも君のスマホのカメラを通して見れたよ。見張りが3人か・・・当たり前だけど、今見張りと闘って騒ぎを大きくするとマズい・・・闘いをなるべく避けることが、勝利につながるというのは戦(いくさ)の基本・・・見張りは相手にするな、コンテナがたくさん並ぶ左側の通路を通るんだ・・・・」

正面の左側には大量のコンテナが並んでいる・・・

木村「コンテナの迷路を通れば、見張りに見つからず、B倉庫に近づける・・・ポイズンという男は、用心深いが、それでいて肝心な所を見失いがちなのが、【行動パターン解析機能】で調べ出すことができた・・・コンテナ周辺に見張りをつけないなんて、まさに肝心な部分を見落としがちな性格が出てるな・・
きっとコンテナを通る奴なんて、誰もいないと決めつけてるんだろう・・・」

友愛「そして、毎度ながら君の頭脳と最強ソフトの機能の優秀さに驚かされるよ。」

友愛と麗太は、少し駆け足でコンテナの迷路の中を走る。



友愛「ねえ・・木村1つ聞いてもいい?」

木村「うん?」

友愛「なんで、ここまで僕らを助けてくれたの?」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

友愛の問いに木村は少々の間、黙った・・・そして・・・

木村「さあ、何でだろう・・自分でもなんだか目に見えない力に引っ張られているような気もする・・・
ハハ、意味がわからないだろ?でも1つ言えるとするなら、久々に予測不能な出来事に遭遇したからかな?
小島友愛・・・君は僕にとって、かなり予測不能な存在だよ。」

友愛「僕が?どういう意味? 僕は普通だよ・・・ただの出来の悪いチビな劣等生さ。君とは違う。」

友愛はちょっと笑いそうになった・・褒められてるんだが、どうだかわからないけど、なんだか照れ臭かった・・・

だが、木村は真剣に語った・・・

木村「今まで、産まれてこの方、僕に予測できなかったことは何一つ無いんだ・・・大抵のことはデータを集め、照合し、計算することで解決した・・・勉強もスポーツも、人間関係でさえも、全てはデータさえ集めればなんとかなるものなんだ・・・でも君だけはなんとなく何も予測できないんだ・・・」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


木村「ま、人生なんて簡単なゲームさ。僕にとってはこの社会は予測できすぎて、退屈なんだ。
そうなると、なんか暇つぶしがないとつまらないだろ? だからこの無謀な作戦にも協力したんだ。

実は、君という存在が予測不能だから、ハッキリとこの作戦が失敗するとも言い切れない。

それに、僕の今後の退屈しのぎのためにも、君には死なれては困るんだ。

だから99%死が目の前に見えていても、なんとしても勝ってもらうよ、小島友愛・・・」


友愛「なんだよ、それ(笑)」


木村は、かなり自分本位すぎる発言をした・・・


バカにされてるのか・・・褒められてるのか・・・友愛はちょっと複雑な感情だったが、ここまで自分のことを必要としてくれている子がいることも、また事実・・・


絶対に救う!絶対に救い出す!


リリと小西を救って、みんなでサムライ校に帰るんだ!










しおりを挟む

処理中です...